トランプ大統領が23日(米国東部時間、日本との時差は13時間)午後6時すぎ、「トゥルース・ソーシャル」に「イスラエルとイランが完全かつ全面的に停戦することで合意した」と投稿した後、イスラエルのネタニヤフ首相も24日(日本との時差は7時間)、政権首脳として初めて声明を出し「トランプ大統領から提案されたイランとの停戦に同意した」ことを明らかにした。ただし、トランプ政権のルビオ国務長官ら政権首脳が交渉したのは、イラン第二の指導者であるペゼシュキアン大統領の政権幹部であるアラグチ外相らであると推察され、イラン第一指導者のハメネイ師が停戦案に同意し、停戦を承認しているかどうかは不明である。また、トランプ大統領の提示した「停戦案」の内容も詳細は不明だ。「停戦案」に「密約」が含まれているか否かや、イラン政権内部に対立が生じている可能性も含めて、今後のイラン情勢の動向も見極める必要がある。
イランはイスラエルとの戦争に実質的敗北、イラン国内に権力構造変化の兆し
ロイター通信は、イスラエルのネタニヤフ首相がトランプ大統領の示した「停戦案」に同意したとする声明を発表したことを伝えた(https://jp.reuters.com/economy/GFZONJ73NNPQXLKDLKA7N24N7A-2025-06-24/)。
[エルサレム 24日 ロイター] - イスラエルのネタニヤフ首相は24日(日本との時差は7時間)の声明で、トランプ米大統領から提案されたイランとの停戦に同意したと明らかにし、イランの核・弾道ミサイルの脅威を取り除く目標を達成したとの見方を示した。イスラエル首相府は声明で「トランプ大統領と米国が防衛を支援し、イランの核の脅威の排除に関与してくれたことを感謝する」と表明。「作戦の目標達成を踏まえ、トランプ大統領との全面的な調整の下、イスラエルは相互停戦に関する大統領の提案に同意した」と述べた。(中略)(注:ただし、)ネタニヤフ氏は、いかなる停戦違反に対してもイスラエルは強力に対応するとも述べた。同氏は24日中に声明を発表する予定。
ただし、NHKによると、イスラエルのアラグチ外相が「イスラエルが停戦に踏み切るなら、イランも停戦を受け入れる」と伝えた後、イランはイスラエルに対してミサイル攻撃を行っている(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250624/k10014842841000.html)。
イランのアラグチ外相はSNSへの投稿で「イスラエルがテヘラン時間の午前4時までにイラン国民に対する違法な侵略を停止すれば、それ以降イランとしては対応を継続するつもりはない」として、イスラエルが日本時間の24日午前9時半までに攻撃を停止すればイランとしても停戦に応じる考えを示しました。そして「イランの軍事行動の停止に関する最終決定はこのあと行われる」としています。イスラエル側から公式な発表はありませんが、ロイター通信は、ホワイトハウス高官の話として、イスラエル側は、イランが新たな攻撃を行わないかぎり停戦に合意すると伝えています。
一方、イスラエル軍は日本時間の午前11時すぎ、イランからイスラエルに向けてミサイルの発射が確認され迎撃にあたっていると発表しました。
このイランによる期限後のイランのイスラエルへのミサイル攻撃について、ロイター通信は次のように伝えている(https://jp.reuters.com/world/us/ZAMTRWWUMNIAFLW2SEASNNBFD4-2025-06-24/)。
[ワシントン/ドーハ/イスタンブール 24日 ロイター] - イスラエル軍は24日早朝、イランから複数回のミサイル攻撃があったと明らかにした。トランプ米大統領は前日、両国が紛争終結に向けて「完全かつ全面的な停戦」に同意したと発表したが、停戦の発効に向けなお不安定な状況が続いている。目撃者によると、中部テルアビブと南部ベエルシェバで爆発音があった。イスラエルメディアは、ベエルシェバへのミサイル攻撃で建物が爆撃され、3人が死亡したと報じた。イスラエル側が発表した、停戦受諾後にイランから飛来したとされるミサイル=ロイター イスラエル軍は、トランプ氏による停戦合意発表後で6回目となるイランからのミサイル攻撃警報を出した。一方、イランメディアは、「第4波」の攻撃をもって停戦に入ると伝えた。
イランが4回に及ぶイスラエルへのミサイル攻撃で、イスラエルに対するミサイル攻撃を終了させるというのなら、6回に及ぶイスラエルへのミサイル攻撃(が真実だとして)、そのうちの2回のミサイル攻撃はどういった性格のものか、という疑問が出てくる。このため、NHKによるとネタニヤフ首相の指示によるものと思われるが、イスラエル国防省がイランの「停戦違反」に対して、テヘラン攻撃を指示したという。
イスラエル国防省は日本時間の24日午後5時前(現地時間24日午前10時前)、声明を発表し、アメリカのトランプ大統領が宣言した停戦にイランが完全に違反したとしたうえで、カッツ国防相が、イランの首都テヘラン中心部にある政権の拠点を標的にした強力な攻撃で対応するようイスラエル軍に指示したと明らかにしました。
【追記:6月25日午後2時】これについて、NHKは米国の定期購読料1万ドルのニュースサイト・アクシオスからの情報として、トランプ大統領がネタニヤフ首相に対して電話で会談したことを伝えている(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250624/k10014842841000.html)。そして、イスラエルの攻撃目標はテヘランにあるイランのレーダー網(防空システムの主要部分)であり、このレーダー網を大規模に破壊することを狙っていたが、トランプ大統領の強い要請でイスラエルは攻撃規模を極めて限定的な規模にとどめたことを匂わせている。このため、イスラエルとイランとの大規模な軍事衝突は免れたようだ。トランプ大統領が提案した停戦時間を踏まえて、イスラエルはネタニヤフ首相が、イランはペゼシュキアン大統領がそれぞれ事実上の「勝利宣言」を行ったが、イスラエルがトランプ大統領の制止で、テヘランのレーダー網への大規模攻撃を最低限の規模に抑制したことなどで、シーア派だが王政を否定するムスリム同胞団のパレスチナ支部であるイラン傘下のハマスとの闘争以降のイスラエルとイランの戦いは、今回もイスラエルの勝利とイラン側の敗北に終わったことは否めない【追記:終わり】
こうしたことがあり、イスラエルとイランは、トランプ大統領が表明した通り、取り敢えず、日本時間の午後1時(米東部時間25日午前零時)に停戦した模様だ。ただし、イランの最高指導者で、イラン国軍とは別に存在し、1979年のホメイニ師によるイラン・イスラム革命を防衛するるために組織化された軍事組織である革命防衛隊の総司令官の任命権を持つハメネイ師は、その声明はもちろんのこと存在さえ、明らかになっていない。このことは、イスラエルとイランの「停戦合意」の真偽(真贋)を見極めるためにも、気がかりであり、重要である。
ただし、イスラエルの諜報組織・モサドは強力である。少なくとも、ハメネイ師の居場所は突き止めているだろう。ネタニヤフ首相はそれを踏まえて、トランプ大統領が提示した「停戦合意」に同意し、賛同すると表明したと推察される。また、合意内容の詳細な中身も明らかにならなければならない。停戦の段取りを決めたに過ぎないものなのか、それとも、イスラエルが受け入れることができるような「密約」が存在するのか。ガザ地区のハマス攻撃やイラン傘下のヒズボラの解体、イランが支援するフーシー派の弱体化、トルコの応援を得て傘下に置いた「シャーム開放機構(HST)」によるシリアの制圧などが、単に、イランが短期間で開発可能とされる核兵器の顕現の阻止のみが目的であったとは考えにくい。
なお、CNNが米国の慈善家・アンドリュー・カーネギーによって設立された国際政治関連のシンクタンク「カーネギー国際平和基金」の国際情勢専門家であるカリム・サジャドプアー氏にインタビューしたところによると、ハメネイ師は「統治史上『最も悲惨な状況』に直面」しているという(https://news.yahoo.co.jp/articles/1b3f2fd309ece163ce486e0c4afad47f160d39ce)。
サジャドプアー氏は「ハメネイ師は地下壕(ごう)に身を潜めている。86歳だ。身体的にも認知能力的にも限界がある。軍の主要な司令官の多くが暗殺され、自国の領空を掌握していない。イスラエルが支配している」と指摘。「この戦争から抜け出す道はなく、軍事的にも、財政的にも、技術的にも劣勢だ」。ハメネイ師は、米軍がイランの主要核施設を攻撃して以降、公の場で声明を出していない。先週の演説では「イランは決して屈しない」と強調し、米軍のさらなる介入は「取り返しのつかない損害」を招くと警告していた。
イランの最高指導者ハメネイ師とペゼシュキアン大統領 ハメネイ師は、米軍がイランの主要核施設を攻撃して以降、公の場で声明を出していない。先週の演説では「イランは決して屈しない」と強調し、米軍のさらなる介入は「取り返しのつかない損害」を招くと警告していた。イスラエルが提案したハメネイ師暗殺計画を拒否したとの報道の後、トランプ米大統領はハメネイ師について「簡単な標的」と発言していた。イランへの軍事介入がレジームチェンジ(体制転換)を招き、イラン国内の分裂や中東地域全体に衝撃が及ぶのか注目されている。ハメネイ師は、1979年のイスラム革命で米国が後ろ盾となった王政が倒されてから10年後に最高指導者の座に就いた。以降35年以上、権力の頂点に立ち続けてきた。サジャドプアー氏は、ハメネイ師について「生き延びる本能と同時に反発する本能もある。その二つをどう折り合いをつけるかに苦しんでいる」との見方を示した。
今回のイスラエルのイランに対する突然のミサイル攻撃、モサドによるイラン政権高菅および原子力科学者多数の殺害の全貌について、世界の諸国民は知る権利がある。
【追記:6月25日16時】イランの現職のペゼシュキアン大統領は昨年7月に行われた大統領選挙で勝利し、欧米諸国との対話を求める「改革派」とされ、保守強行路線のハメネイ師(1979年のパーレビ体制を打倒してイラン・イスラム共和制を築いたホメイニ師の弟子)と実質的には、対立している。NHKは「最高指導者のハメネイ師は保守強硬派のライシ政権の路線継続を求めていて、融和的な外交政策への転換を実現できるかどうかが焦点となります」と報道している(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240707/k10014503721000.html)。
イラン大統領声明
イランのペゼシュキアン大統領は24日夜、声明を出し、国民に団結するよう呼びかけました。声明は国民に向けて「イスラエルに仕掛けられた12日間の戦争はあなた方の勇敢な抵抗により停戦と終結にこぎ着けた」と述べたうえで「侵略者は重い罰を受け、停戦を受け入れた」としてイランは勝利したと主張しました。そして「私たちはきょうから よりよいあす、より明るい未来をともに手をたずさえ、築いていく」として、団結を呼びかけました。さらに「きょうからすべての政府機関などは復興と被害を受けた人々への支援に全力を尽くす。また今回の試練を通じて得た強みと弱みを洗い出し、警戒と備えを行い、国全体の正常化に向けて尽力する」として、復興や補償に取り組む決意を強調しました
(CNN) イランのペゼシュキアン大統領は25日までに、米国と「問題解決」に向けた用意があると語った。国営イラン放送(IRIB)が報じた。(注:カタール・ドーハでは湾岸協力会議=GCC、サウジの傘下にあるバーレーン、クウェート、オマーン、カタール、アラブ首長国連邦が参加=)の緊急会合が行われており、)サウジアラビアのムハンマド皇太子との電話会談で、ペゼシュキアン氏は、友好国からの「あらゆる支援」を歓迎すると語った。(中略)
「勝利宣言」を行うペゼシュキアン大統領=ロイター サウジ外務省によると、会合はイランが23日にカタールにある米軍基地を攻撃した「侵略行為」とその「安全保障上の影響」を協議し、地域の安全と安定を回復することを目的としている。