イランでは11日、ペゼシュキアン大統領が新政権の発足に向けて閣僚名簿を議会に提出し、外相にはイランが2015年に欧米などとの間で「核合意」を締結した際、実質的な交渉責任者だったアラグチ氏を指名しました。アラグチ氏を外相に起用し、ペゼシュキアン大統領は欧米との関係を改善し核合意の立て直しを図りたい考えがあるとみられます。提出された閣僚名簿は議会で審議され、信任投票が行われます。
ペゼシュキアン大統領は融和的な外交路線への転換を掲げる一方、7月にハマスのハニーヤ前最高幹部がイランを訪問中に殺害されたことをめぐってはイスラエルの攻撃だとして報復する構えを示しています。
民主党の大統領候補に「選出」されたカマラ・ハリス氏は副大統領候補に、直前まで有力視されていたユダヤ人のペンシルベニア州知事であるジョシュ・シャピロ氏ではなく、同党内極左派のミネソタ州知事のティム・ワルツを選び、イスラエルを攻撃するとともに「パレスチナ国家」を樹立する従来の外交政策を採用した。イスラエルのネタニヤフ首相は、ムスリム同胞団にエジプトやヨルダンを支配させる代わりに、シオニズム(完全なユダヤ人国家の建設)を完成させようとしており、その黒幕であるイランとは米欧や露中の力を借りて核戦争を柱とする熱戦ではなく冷戦を続けており、その完成を伺っているところだ。イランもまたイスラエルを激しく非難しながら、裏ではイスラエルの要請に応えようとしている。イスラエルとアラブ諸国との恒久的な和解と安定した外交関係の樹立という大義に逆らうハリス氏は、トランプ陣営だけではなく、米国の政界やメディアに極めて強力なロビー活動を行ってきたイスラエルにも粉砕されるだろう。
イスラエル敵視を強めるカマラ・ハリス氏は惨敗する
イスラエルのネタニヤフ首相は7月24日から26日にかけて訪米し、米議会超党派、民主党バイデン政権、共和党大統領候補トランプ氏という、米国上層のすべての政治勢力からの全面支援を取り付けた。帰国後の27日、シリアから奪っているゴラン高原の入植地が(注:レバノンの)ヒズボラ(ハマスより規模が大きい)によってミサイル攻撃されたとして、レバノンやシリアに展開するヒズボラなどイラン系民兵団との戦闘を激化させた。ただし、ヒズボラはゴラン高原の入植地攻撃を否定しているので、イスラエルの誤爆か自作自演の可能性が高い。
そして、イスラエルは7月31日には、イランで30日に行われたイラン新大統領の宣誓式に出席していたハマス(ムスリム同胞団パレスチナ支部)の最高責任者イスマイル・ハニヤ氏(ガザ戦闘の停戦と人質解放の責任者でもある)をミサイル攻撃で殺害した。イランの最高指導者・ハメネイ氏がイスラエルに対して報復攻撃を行うと宣言したため、第5次中東大戦争または第三次世界大戦勃発かと騒がれた。しかし、イランは建前は崩していないが、今のところイスラエルとイランとの大規模な交戦は起きていない。
どうやら、イランは核兵器保有国イスラエルとの交戦を避けたいようであり、米欧も中露もイスラエルとの交戦を避けるよう説得している模様だ。NHKによると、ヘリコプターの事故による墜落で死亡したエブラヒム・ライシ大統領に代わって総選挙で大統領に就任したマスード・ペゼシュキアン大統領は、改革派とされ、米欧諸国とは強硬路線だけでなく対話路線も模索しているようだ。NHKは次のように伝えている(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240812/k10014546811000.html)。
イラン 外相にアラグチ氏を指名
イランの公式の立場としては、ハニヤ氏殺害に対する報復の立場は崩せないだろう。ただし、イスラエルがハニヤ氏を暗殺したのは、ネタニヤフ首相が米国に行って米議会超党派、民主党バイデン政権、共和党大統領候補トランプ氏という、米国上層のすべての政治勢力からの全面支援を取り付けた直後のことである。米国はイランが本格的な報復を行った場合、イスラエルを軍事支援しなければならない。これは、米国にとって重荷だ。イランの新政権が米欧との融和策を展開する模様だから、米国は同国に自制を求めるだろう。加えて、イスラエルは90発の核弾頭を保有している(https://hiroshimaforpeace.com/nuclearweapon2022/)。イランが本格的にイスラエルを報復攻撃すれば、イスラエルの国柄からして中東で核戦争が勃発するだろう。イランとしてもそれは避けたいところだ。
イランは今年4月、イスラエルが駐シリアのイラン大使館を空爆した報復に、イスラエルの軍事基地などを予告攻撃した。予告攻撃という摩訶不思議な報復(注:本格攻撃はしないというイランの国家意思を示した)だったため、イスラエルが再報復したものの、イランが再々報復をしなかったため、本格戦争には至らず、冷戦の状態が続くことになった。今回のハニヤ氏暗殺の報復攻撃も結局のところ、冷戦という形で継続することになるだろう。
問題は、イスラエルのネタニヤフ首相(注:完全なユダヤ国家の建設を目指すシオニズムを理念とする右派政党・リクードの党首)がなぜ、ハニヤ氏殺害はもちろん、戦争犯罪と言われても仕方がないガザ地域の市民の大量殺害を含むガザ地区の大規模破壊を行っているのか、ということだ。ハマスが大規模テロ行為を行うということは、エジプトなどから情報を得ており、防げたはずだ。ハマスのテロ行為に対する報復というのは、やはり、名目でしかない。これについて、国際情勢解説者の田中宇氏は、「イスラエル5正面戦争の意図」と題する解説記事を投稿、公開し、米国、英国、イスラエルを牛耳る諜報界=ディープ・ステートの現代史から説き起こして、次のように説明している(https://tanakanews.com/240811israel.htm、無料記事)。
イスラエルの目標は、ユダヤ人国家建設の完遂と安定である。イスラエルが自国領と考える西岸とガザにパレスチナ国家の創設を許すと、パレスチナが(イスラム主義への傾注などで)イスラエルを批判・攻撃するようになり、イスラエルの安全が阻害されるようになる。パレスチナは経済的にイスラエルに依存し続けるのに、イスラエルを敵視する。イスラエルの領土も減る。イスラエル国内のアラブ人口も増え、ユダヤ人国家性が毀損される。2国式はイスラエルにとってマイナスが大きい。(イスラエル窮地の裏側)
イスラエルによる米欧牛耳りがマイナス分を穴埋めできるのでオスロ合意(注:後述)がいったん成立したが、その後、イスラム教徒をテロリスト扱いして米欧を中東に没頭させてイスラエル傀儡にするテロ戦争策の方が効率が良いので、ラビン暗殺と911事件でそっちに移行した。それ以来、イスラエルはパレスチナ抹消の動きをしだいに強め、昨秋からのガザ戦争になっている。以前の記事に書いたように、米英ユダヤ界隈(諜報界)には(A)シオニスト(B)大英帝国・米英覇権派(C)国際資本家という、相互に暗闘する3つの系統があり、3つともイスラエルに入り込んでいる。(英ユダヤ3重暗闘としてのパレスチナ)
2国式(パレスチナ問題)は、(B)覇権派が(A)シオニストを弱体化させるために作った構図だ。人権重視の外交体制やジャーナリズムも、覇権派の世界支配の道具だ。イスラエルがシオニズムを完遂しようとしてパレスチナを弾圧すると、欧米の政府やNGOやジャーナリストがイスラエルの人権無視を非難し、イスラエルを2国式の枠内に押し込めてきた。イスラエル内部でも労働党など中道派は、米英覇権派と協調し、2国式を了承してきた。米英の覇権が強い間は、中道派のやり方が合理的だった。(イスラエルのパレスチナ解体計画)
だが米国は、911以来のテロ戦争で覇権を大々的に浪費し、リーマン危機で経済覇権も潰えた(ゾンビ化して見かけ上だけ延命)。米覇権の浪費は、米英ユダヤ界隈の(C)資本家たちが目論み、傘下のネオコン(ユダヤ人中心)などを使ってやらかした。シオニストは、米英覇権に見切りをつけてラビンを殺して2国式から離れ、資本家と組んで米国にイラク侵攻やシリア内戦、リビア潰しなどをやらせて覇権を浪費した。(ネオコンと多極化の本質)(イスラエルが対立構造から解放される日)
ユダヤ人は米国のリベラル左派にもたくさんいるが、彼らも民主党やジャーナリズムを食い物にして、地球温暖化人為説やコロナ超愚策ロックダウン、教育破壊の覚醒運動、露中敵視で世界経済を分断した上で非米側を圧勝させる隠れ多極化策など、米欧の経済や社会を破壊する覇権自滅策を次々と扇動して大成功している。(欧州エリート支配の崩壊)(エスタブ自滅策全体主義の実験場NZ)
ガザ戦争は、こうした流れの集大成だ。イスラエルはガザを完全に破壊し、おそらくすでにガザ市民の大半をエジプトに越境させている(報じられないまま)。ガザを破壊する際に、イスラエルは意図的に、極悪な人道犯罪を大っぴらに犯した。米欧はイスラエルの傀儡であり続けているので、重大な人道犯罪を犯したイスラエルを支援し続けざるを得ない。これは人権重視やジャーナリズムなど、大英帝国以来の米英覇権の支配体制を破壊している。(ガザ市民の行方)
イスラエルは米諜報界を握っており、米欧政界の秘密が筒抜けだ。イスラエルは、気に入らいない政治家を落選させたり、スキャンダルをマスコミに漏洩して無力化できる。イスラエルは、ガザ戦争で極悪な人道犯罪国家になった。だが、政治家がイスラエルを批判してしまうと、落選やスキャンダルで無力化されてしまう。米欧の政界は丸ごと、人権重視の大義を無視して、人道犯罪国家のイスラエルを支持礼賛する。国際社会(非米側)は米欧を信用しなくなり、米覇権崩壊と多極化に拍車がかかる。イスラエルは、これを意図的にやっている。(Israel Lobby Takes Out Second ‘Squad’ Member As Cori Bush Loses Primary)(US Ambassador Boycotts Nagasaki A-Bomb Ceremony Because Israel Is Not Invited)
つまり、イスラエルは一時、「パレスチナ国家」の創設を認める方向になったオスロ合意に乗ったものの、主流派の右派リクードが反対したため、オスロ合意の成立に一役買った労働党首のラビン首相は暗殺された。そして、シオニスト派が世界の多極化を利益と考える資本家層と結託して、英国から譲り受けた米国単独覇権派潰しを続けてきたというのである。田中氏の国際情勢の見方が、サイト管理者には合う。なお、オスロ合意というのは、「パレスチナ国家」の基本的には樹立を認めるもので、次のようなものだ(https://www.y-history.net/appendix/wh1703-036.html)。
ノルウェーの外相の仲介でイスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)との和平に関する交渉がオスロで進められ、1993年9月初めに合意に達した。この合意によって、1948年のイスラエル建国以来、4度にわたる中東戦争(第1次)となり、テロと報復の繰り返しによって多くの犠牲者をだしてきたパレスチナ問題(中東問題)は、解決の方向に動き出した。合意は同年9月13日、アメリカのクリントン大統領が立ち会い、ワシントンでイスラエルのラビン首相、パレスチナのアラファトPLO議長が握手し、パレスチナ暫定自治に関する原則宣言に調印、オスロ合意として確定した。間違えてはいけないことは、これで問題が解決したわけではなく、初めて相手を認めて交渉を開始することに合意したと言うことであり、交渉の期間として5年間の暫定自治が決まったことである。<臼杵陽『世界史の中のパレスチナ問題』2013 講談社現代新書 p.313-324 などにより構成>
ネタニヤフ首相としては、「パレスチナ国家」の代わりに、非常に残酷だが、ガザを壊滅させたうえで、米国傀儡のエジプト、ヨルダンをムスリム同胞団の勢力圏に置いて新たな国家を樹立させ、イスラエルとアラブ諸国の関係改善・安定した外交関係の樹立を実現するという狙いがあるのだろう。ただし、中国の習近平国家主席が7月24日、ハマスとファタハを仲介して統一パレスチナ自治政府を作らせたので、一時的に、ガザ西岸はパレスチナ自治区になる(https://www.bbc.com/japanese/articles/c6p2x3zkz44o)。熱烈なイスラエル支持者として知られる共和党のトランプ候補も、このことについては了解している(https://tanakanews.com/240728soko.php)。
パレスチナ自治区で対立しているイスラム組織ハマスと自治政府主流派のファタハが、中国の仲介で北京で協議した。ガザ地区で続くイスラエルとの戦争の終結後、占領下のヨルダン川西岸とガザ地区に暫定的な「国民和解政府」を樹立することで同意した。中国の王毅外相とハマス当局者が7月23日に発表した。北京で3日間にわたって開かれた会議には、パレスチナの他の12のグループも参加。代表らは、結束に向けた取り組みを約束する宣言に署名した。
(注:ただし)ハマスとファタハはこれまでも何度か和解で合意しているが、長年の対立の解消には至っていない。イスラエルは、ガザ地区での戦闘の終了後、ハマスやファタハがガザを統治することは認められないとしている。
要するに、イスラエルのネタニヤフ政権の狙いは、政治・経済・軍事・社会組織を持つムスリム同胞団をエジプトやヨルダンの主流派政治勢力とし、彼らに中東で新たな国家を樹立させることで、「パレスチナ国家」の代替とし、中東でのイスラエルとアラブ諸国の関係改善、安定的な外交関係の樹立を行うことである。なお、ウイキペディアによると、「ムスリム同胞団は1928年に、西洋からの独立とイスラム文化の復興を掲げてハサン・アル=バンナー(Hassan al-Banna、1906年 – 1949年)によってエジプトで結成された」。
そして、「1940年代後半には、同国最大のイスラム主義運動に成長し、このころよりヨルダン・パレスティナなど周辺諸地域への進出が始まり、現在ではアラブ諸国を中心に広くイスラム圏に広がり、各地に支部や関係組織を展開している。同胞団最大の特徴は、大衆を相手にさまざまな社会活動を展開した点にあり、モスクの建設や運営などの宗教的な活動のみならず、病院経営や貧困家庭の支援など草の根的な社会慈善活動をはば広く実践したこと」である。ただし、ムスリム同胞団もイスラム主義を根本理念とすることには変化はないが、政治・経済・軍事面の現代化には逆らえないだろう。
なお、トルコのエルドアン大統領は与党「公正発展党(AKP)」の党首で、ハマスを支持するムスリム同胞団に属するが、「表向きイスラエル敵視の言葉を放ちつつ、イスラエルとトルコとの経済関係を裏でしっかり維持している。イスラエルを経済制裁したと宣言しても、実はほとんどやってない」(田中氏)。AKPは3月31日の統一地方選挙では手痛い敗北を喫した(https://www.bbc.com/japanese/articles/cyxz7wlgygyo)が、エルドアン大統領が二面作戦を展開しているせいだろう。ムスリム同胞団とイスラエルは今は冷戦状態だが、近い将来は「パレスチナ国家」構想に代わる「ムスリム同胞団国家」の樹立で協力することになるだろう。
このためには、共和党のトランプ候補が次期大統領になって米側陣営を刷新し、非米側陣営とともにイスラエルとアラブ諸国からなる中東を支援する必要がある。さて、こうした事情に全く無理解なのが、民主党の大統領候補に選出されたカマラ・ハリス陣営だ。読売新聞オン・ラインは、「ハリス氏、同盟国重視の外交継承へ…対イスラエルは『厳しい姿勢』との観測も」と題する公開記事で、次のように述べている(https://www.yomiuri.co.jp/world/uspresident/20240808-OYT1T50017/)。
変化の可能性があるのが対イスラエル政策だ。イスラエルとイスラム主義組織ハマスの戦闘が続くパレスチナ自治区ガザ情勢をめぐり、米国の若者はパレスチナに同情的だ。
ハリス氏は7月下旬、訪米したイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の議会演説を欠席し、ネタニヤフ氏と会談後の記者会見でも、パレスチナ人の苦しみについて「沈黙しない」と述べた。大統領に就任すれば、イスラエルに厳しい姿勢をとるとの観測が出る一方、「ユダヤ系の政財界での影響力は強く、本格的な政策変更は不可能だ」(外交筋)との見方も強い。
ハリス氏では、ウクライナ戦争を終わらせることはできないし、欧米文明の没落も防げない。ハリス氏が次期大統領になることはあり得ないし、あってはならない。これに関して田中氏は次のように結論づている。
米民主党の大統領候補に成ったカマラ・ハリスは、副大統領候補に左派(極左)のワルツを選んだ。直前まで、ユダヤ人のペンシルベニア州知事であるジョシュ・シャピロが副大統領候補になるのでないかと言われていた。米政界を支配するイスラエルから支援されるには、シャピロが好都合だった。だが、民主党内で強くなっている左派(注:極左派)は、(注:イスラエルのガザ破壊を批判する米国民から支持を得るため)イスラエル敵視を強めている。シャピロを選んでしまうと、ハリスは左派の信用を失う。ハリスは結局、イスラエルより左派(注:極左派)を重視して、左派(注:極左派)のワルツを選んだ。(Harris picks Walz, a midwesterner with antiwar credentials)
この選択は、党内政治としては良かったかもしれないが、トランプとの戦いで見ると惨敗だ。イスラエルは、民主党を敵視し、トランプを支援する傾向を強める。トランプ当選、ハリス敗北の可能性がさらに強まった。(Harris snubbed VP contender because he’s Jewish – Trump)
シオニストと多極化が利益になると考え、行動してきた資本家による「米国単独覇権体制」の破壊は、米側陣営の没落と非米側陣営の興隆という形で、大成功を収めている。今は、「支持率」報道などでメディアにもてはやされているハリス氏だが、どんでん返しが起きるだろう。