オランダのハーグで6月25日から今年2025年の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が行われ、①スペインを除くNATO加盟諸国は軍事費を国内総生産(GDP)の少なくとも5%に引き上げる②NATO加盟諸国はウクライナ支援に向けて結束するーなどで合意したが、軍事費の5%の引き上げは現実的に無理なため、期限はトランプ大統領がその座にいない2035年だが、実質的に逃げている感じだ、今回の「唯一の合意」はトランプ大統領に取り入ろうとしたマルク・ルッテ事務総長の苦肉の策でしかない。玉虫色の決定で、文明の多極化を推進するトランプ大統領はいずれ、「欧州のことは欧州に任せる」としてNATOから離脱するだろう。欧州NATO加盟諸国の在るべき外交政策は、ウクライナ戦争の真の原因はバイデン副大統領(当時)が、ウクライナに強い影響力を持っているネオ・ナチ勢力を使って2014年2月のマイダン暴力クーデターで、新露派のヤヌコーヴィッチ政権を打倒し、東部ドンバス地方のロシア系国民(住民)の大弾圧を始めたことが原因だ。だから、欧州の外交政策の在るべき中心は、ウクライナのネオ・ナチ勢力とそれに支えられたキエフ政権の打倒であり、とりわけ、ロシアとの交渉による協調だ。なお、イランで行方不明になっていたハメネイ師が再び国営テレビに録画で登場し、大敗北したイスラエル・イラン戦争について、イランの「大勝利」とするとともに、イランに軍事介入を行ったトランプ政権を強く批判した。このため、トランプ大統領は(恐らく、ネタニヤフ首相率いるイスラエル政権と連絡を取りながら)「(注:イスラエルのモサドの協力も得て)イランの再攻撃も辞さない」と大きな反発をした。今後、ハメネイ師を頂点とするイスラム教シーア派高位指導者たちと、彼らが支配している革命防衛隊による利権構造が解体され、権力構造が転換される可能性が高まった。
欧州諸国の真の生き残り策はロシアとの交渉による協調政策への転換
NATO首脳会議の結果について、オールド・メディア(世界の諸国民に伝えるべきことを伝えないことや報道が変更しているところなどが、その歪んだところ)だが、英国のBBCは「NATO首脳会議、防衛費『5%』目標で合意 トランプ氏「大きな勝利」」次のように報じている(https://www.bbc.com/japanese/articles/cj3rnv212p0o)。
北大西洋条約機構(NATO)首脳会議(サミット)は25日、オランダ・ハーグで2日間の日程を終え、加盟各国が防衛費を国内総生産(GDP)の5%まで引き上げることで合意した。アメリカのドナルド・トランプ大統領からの数カ月にわたる圧力に応じた格好となった。トランプ氏はサミットでの決定を、「ヨーロッパと(中略)西洋文明にとっての大きな勝利」と呼び、サミットについても「大成功」だとした。トランプ氏がNATOサミットに出席したのは2019年以来で初めてだった。
トランプ大統領の説得に努めるNATOのルッテ事務総長 合意では、加盟各国は2035年までに、GDPの少なくとも3.5%を防衛費の中核部分に充て、最大1.5%を安全保障インフラに緩やかに関連する投資に支出する。
日本のNHKも「NATO首脳会議 閉幕 トランプ大統領『歴史的な節目』と称賛」と題する報道で、次のように伝えている(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250626/k10014844751000.html)。
NATO=北大西洋条約機構の首脳会議が25日、閉幕し、加盟国は、国防費などの割合をあわせてGDP=国内総生産の5%に引き上げることで一致しました。アメリカのトランプ大統領にとっては、自身の要求が満たされたとして「歴史的な節目だ」と称賛しました。オランダのハーグで2日間にわたって開かれたNATOの首脳会議は25日、閉幕しました。発表された首脳宣言では、加盟国はGDPに占める割合で国防費は少なくとも3.5%、インフラ整備などの国防関連費用は最大で1.5%のあわせて5%とし、2035年までに引き上げる新たな目標で一致しました。理由として、特にロシアによる長期にわたる脅威があると指摘しています。
しかし、日本の外務省の「北大西洋条約機構(NATO)について」(2021年3月版)によると、NATO加盟諸国で軍事力が圧倒的に多いのは米国であり、欧州NATO加盟諸国はドイツや英国などが比較的多いが、それでもせいぜい2%だ(https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000066708.pdf)。なお、日本の外務省はNATOびいきだから、数字が正確かといえば、疑問の残るところではある。なお、国防を米国におんぶにだっこしてもらっているNATOのパートナー国の韓国と日本は今回、「欧米依存から脱局し、中露に依存せざるを得ない時期を迎えてきた」ことからNATO首脳会議の出席を見合わせた(Youtubeのイエアンドライフ・チャンネル=https://www.youtube.com/watch?v=Fbn5mS-l_Js)。
参考だが、この動画では原油海上輸送の大動脈であるホルムズ海峡のイランによる封鎖(国会議決)は時間の問題としている。Wikipediaによると、ホルムズ海峡とは、ペルシア湾沿岸原油清算諸国(サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、オマーン、イランなど)で産出する石油の重要な搬出路であり、世界各国に向けて毎日1700万バレルの石油をタンカーが運んでいる。日本に来るタンカーの全体の8割、年間3400隻がこの海峡を通過する。ホルムズ海峡が封鎖されれば、世界のエネルギー価格は暴騰する。
このため、イランに対する米国による核施設攻撃を避難した中国も、さすがにホルムズ海峡封鎖には反対するなど、イランに対して世界中の諸国家から猛烈な封鎖解除の圧力がかかり、イランが折れて、イスラエルによるイランおよびイラン傘下の初組織、国家(シリア、イラン)に対する攻撃の真の狙いである「パレスチナ国家構想」の抹消について、世界諸国家が容認・黙認することが早まる公算も大きい。これが実現すれば、イスラエルとイランの完全な停戦も実現する。
イスラエルは、チグリス・ユーフラテス川からナイル川までの二つの川にはさまれた領域を指す「大イスラエル」構想の実現に向けて動いているようだ。ただし、アラブ諸国を傘下に置く大覇権国になる意図はないのではないか(https://tanakanews.com/250328israel.htm)。イスラエルとイスラム教を信奉するアラブ所国家との共存共栄であり、米欧に左右されない中東和平の実現である。上の図は、第一生命研究所による(https://www.dlri.co.jp/report/ld/381734.html)。
欧州NATO加盟諸国の軍事費(国防費)の国内総生産(GDP)比5%への引き上げは、無理だ。欧州諸国は福祉国家型の社会民主主義路線を採用しており、福祉の切り捨て、軍事費の異常な引き上げは、国民の猛反発を招き、「極右」とオールド・マスコミが非難する「右派勢力(実態は、トランプ大統領のMAGA路線と同じ)」への権力移譲を許す。2025年2月の総選挙で実質的に敗退したキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と明確に敗退した社会民主党(SPD)の連立で新政権が組閣された(https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/02/0b76b82b73425381.html)が、首相に就任したフリードリッヒ・メルツ首相率いる新政権は軍事費の大幅増強と新しい志願兵制の創設・徴兵制の導入を公言してはばからない。(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-05-14/SW9BSPT0G1KW00)。
ドイツのメルツ首相は、増大するロシアの脅威に対処できるよう通常戦力として欧州最強の軍隊へと軍を変革することが政府の最優先課題だと語った。メルツ氏は14日、首相就任後初の議会演説を行い、自らが率いる連立政権は「ドイツ軍が必要とする全ての金融資源を提供する」と明言。「欧州で最も人口が多く、経済的に最も強い国として、それが適切だ」と説明した。「友好国やパートナー国もドイツにそれを期待している。実際、それが要求されているに等しい」と続け、兵員数を増加させるため「新しく魅力的な志願兵制度」を創設し、ドイツの安全保障に対する責任を担うよう若者に応募を呼び掛けると述べた。
連邦議会で軍事費の大幅増額と志願兵制の創設を打ち出すメルツ首相
新しい志願兵制でも兵士を確保できなければ、事実上、徴兵制を復活させるという(https://www.sankei.com/article/20250624-ACVXQ2QFHVPIDJG26XKKVFXO5Q/)。
ドイツのメルツ政権は、ウクライナ侵攻を続けるロシアに対する抑止力強化のために連邦軍や予備役を拡充し、志願者が十分に集まらなかった場合には徴兵制を部分的に復活させる法案の検討を始めた。ピストリウス国防相が22日、公共放送ARDの番組で明らかにした。ピストリウス氏は総兵力18万人の連邦軍を25万~26万人に増員する必要があるとし、志願者を増やすため兵士の給与や住環境の改善に努める考えを強調。予備役も約20万人態勢へと倍増させる方針を掲げた。
18歳の若者に書簡を送って志願の意思の有無を確認する見通しだとも述べた。男性には回答を義務付け、女性は任意とする。十分に志願者が集まらなかった場合に備え、2011年に事実上廃止された徴兵制を一部の若年層に対し発動できるようにする規定を法案に盛り込むと語った。
ドイツは日本とともに国連憲章の「旧敵国条約」(第2次世界大戦における枢軸国(旧敵国)に対する措置を規定した第53条と第107条の一部文)で、大戦を引き起こした旧敵国条約で名指しで指定されている。そのドイツが、「経済力の豊かさ」(ただし、エネルギー政策=グリーン・エネルギー政策=の失敗で基幹産業の自動車産業が衰退し、第二次世界大戦後に世界経済を牽引した面影はもはやない)を理由に新しい志願兵制や徴兵制を復活すると、ドイツ国民の強い反発が生じ、オールド・メディアが「極右」としか呼ばない右派国民政党「ドイツ国民の選択肢(AfD)」などが、政権を獲得する大きなきっかけとなるだろう。
それだけでなく、スンニ派だが王政を否定するムスリム同胞団のパレスチナ支部であるハマスやレバノンのヒズボラを壊滅させ、水面下のトルコの支援でシリアを則った今をときめくイスラエルからも強い批判を受けるだろう。ウクライナのネオ・ナチストを徹底的に批判するロシアは、イスラエルとも深い関係を有している。BRICSの一員であり、ロシアとも強い関係を持っているイランを今回、ロシアが支援しなかったのは、トランプ大統領からプーチン政権がイスラエルとイランの仲介役をすることはしなくても良い旨の連絡を受けたこともあるが、ウクライナ戦争で水面下の電話交渉を行っている米国のトランプ大統領はもちろん、イスラエルのネタニヤフ政権との関係を考慮してのことだろう。
また、国際情勢アナリストの及川幸久氏のYoutubeチャンネル「The Core」によると、NATO本部のあるオランダでは、軍の移動を迅速に指せる効果があるとして「公共投資」を軍事費の中に割り当てる苦肉の策を演じているということだ(https://www.youtube.com/watch?v=Su1_RbgPU_c&t=1016s)。ドイツのような極端な政策を導入しても、オランダのような美方策をあちこちで導入しても、軍事費をGDP比で5%に引き上げるというのは、いずれにしても戦後の福祉国家的な社会民主主義政策で国民の支持を得てきた欧州諸国の崩壊につながる。
なお、書いては行けないことだが、欧州は通常兵器しか生産できないのに対して、核大国のロシアは、戦術格ミサイルの増産・量産体制に入ることが出来る。超音速ミサイル・アレーシュニク(オレーシュニク)に核弾頭を搭載すれば、欧州NATO加盟諸国としては仮に、軍事費を5%に増強できたとしても、太刀打ちできない。核兵器は現実に、広島・長崎で使用された。なお今回の「イスラエル・イラン12日間戦争」で、イランが使い、イスラエルの防空システムアイアンドームも防げなかったとするイランの超音速ミサイル「ファタハ2」はイランとの関係も深いロシアからの技術支援を受けて製造したのかも知れない。
なお、イスラエルもイランの超音速ミサイル「ファッターフ2」から自国を防御できるよう、アイアンドームを改良・発展させていくだろう。次の予想図は、フランスの通信社AFPBBが描くトランプ大統領が構築を指示したアイアンドームの発展型のゴールデンドーム。イスラエルも加わり、双方が最先端の「防空システム」の開発に携わると思われる。
海千山千のトランプ大統領も、このことは熟知していると見られる。だから、「GDP比で5%の軍事費の達成」というNATO首脳会議での唯一の決定事項には、重要な「期限」は2035年だが実質的には明記されているとは言い難い。トランプ大統領はこのことを逆手に取って、欧州NATO加盟諸国は約束を達成する努力を真剣に行っていないとし、米国経済の大きな負担になっているNATOへの加盟を止め、NATOから脱退するすつもりなのだろう。そのため欧州の紛争の火種を消しておくため、米露と水面下で話し合いを続け、もはや戦勝国とみなされるロシアの終戦条件に相当近い形で、または、プーチン大統領の終戦条件を受け入れる形で、ウクライナ戦争を終わらせておくだろう(最重要点は、ロシアによるウクライナのノボロシアの併合を容認することとウクライナ政権からのネオ・ナチ勢力の一掃)。
こうしたことからすると、及川氏も主張しているように、欧州NATO加盟諸国が「ロシアの脅威」に対処するためには、欧州NATO加盟諸国の政権が、ウクライナ戦争を引き起こしたのは、オールド・メディアが報じないバイデン政権(当時)とその傘下にあるウクライナのネオ・ナチ勢力(キエフ政権)であることを国民の前に明らかにし、ロシアとの協調路線を復活させる以外にない。ただし、欧州NATO加盟諸国はイタリアやハンガリーなどの一部の諸国を除いて、リベラル左派全体主義官僚独裁政権に堕しているから、それはもはや、不可能だろう。
欧州でオールド・メディアが「極右」と呼ぶ国民のための「ポピュリズム(国民民衆のための政治変革を目指す勢力が、既成の権力構造やエリート層を批判し、人民に訴えてその主張の実現を目指す政治思想)政権」が各国の政権を掌握し、ロシアから安い天然ガスと原油を購入すれば、関連施設の復旧と相まって欧州経済発展の起爆剤になる。また、原油や天然ガスはもちめんITやAIに不可欠なレアメタルなど、西シベリアに埋蔵されている未来産業につながる豊富な天然資源を米国とともに共同開発することも、新たな時代の経済発展の起爆剤になる。
ウクライナ国内で活動を活発化させる反体制派ージョージ・ソロス氏が支援
ロシア在住28年の日本人実業家で反グローバリズム支持の国際情勢アナリスト・ニキータ氏のYoutubeチャンネル「ニキータ伝〜ロシアの手ほどき」の最新公開動画(日本時間6月28日午後16時ころ)によると(https://www.youtube.com/watch?v=Ko2yK2dkiAk)、ウクライナ国内で退役軍人や死亡した軍人の家族(法律上は5000万円程度の死亡補償金が支払われることになっているが、在際状況が極めて脆弱なため、ひとにぎりの死亡軍人の家族にしか支払われない)、反キエフ政権活動家などが、反体制活動をかなりの程度活発化させてきたとのことだ。そして、この反キエフ政権活動を支援しているのは、これまたグローバリストとして名高いジョージ・ソロス氏であるという。
これに対して、大統領の座を失えば、逮捕の運命が待っているゼレンスキー氏は、大統領府のイェルマーク長官を頼りに、反キエフ政権活動の弾圧を強化する一方、バイデン政権の時代まではディープ・ステート(DS)の一角をなしたが現在は「隠れ多極派」に完全に敗北、権力を失っている大英帝国の後継国である英国に頼ることで、現在のキエフ政権の体制護持を図っているとのことである。ただし、スターマー首相率いる英国政権も狡猾であるから、本当にキエフ政権を最後まで支援するかどうかは不明であると言う。
なお、ゼレンスキー氏はオランダのハーグで開かれた大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席したが、親トランプ大統領派のハンガリー・オルバン首相は同氏の出席とウクライナ問題を正式の議題とすることを拒否したと言う(https://x.com/sputnik_jp/status/1937723162206327142)。ウクライナ国内に重大な権力構造の変化が本格的に胎動しつつある。なお、トランプ大統領とゼレンスキー氏は対話を行ったものの、同氏はもちろん、トランプ政権の支持を得ることはできなかったという。下図のトランプ大統領から遠く離れた位置にゼレンスキー氏が置かれていることも、その証左である。
なお、反グローバリズムの立場に立つ及川幸久氏やニキータ氏は、イスラエルの右派リクード党首のネタニヤフ首相をグローバリストとして捉えているようだが、これは異なる。ネタニヤフ首相はトランプ大統領と同じく、ディープ・ステート(DS)を制した「隠れ多極派」に属し、ゼレンスキー氏のような政権基盤の危ない「首脳」ではない。例えば、米誌ニューズウィークでは、「ネタニヤフ首相の国内評価一変か...イラン攻撃「成功」と塗り替わる中東の勢力」と題する記事で、次のように述べている(https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2025/06/557947.php)。
イスラエルのネタニヤフ首相は数カ月にわたる政治的混乱と戦争、支持率の急落などに翻弄されてきたが、今回の対イラン攻撃の成功で国内での評価が塗り替えられる可能性が高いと見られている。
ネタニヤフ氏の命令で実行された12日間にわたる空爆作戦で、イスラエルはイラン国内の深部にある核施設を爆撃。イランの主だった軍司令官や科学者を多数殺害し、複数のミサイル施設を狙い撃ちした。
読売新聞オンラインも次のような観測記事を公開している(https://www.yomiuri.co.jp/world/20250627-OYT1T50008/)。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に対し、国内の評価が高まっている。パレスチナ自治区ガザでの戦闘長期化(注:餓死の効きが迫るガザやヨルダン川西岸のパレスチナ人を受け入れるアラブ諸国が正式には見つからないため)で国民の間に反発が広がっていたが、イランの核施設に対する先制攻撃を行い、懸案だったイランの「脅威」の除去に成功したとみなされているからだ。総選挙に打って出るとの観測も出ている。
「我々はこの勝利で差し迫った脅威を取り除き、イスラエルの永続を確かなものにした」。ネタニヤフ氏は25日の閣議で、イランへの攻撃をこう自賛した。ネタニヤフ氏が各地を視察すると、「ビビ(ネタニヤフ氏の愛称)、イスラエルの王」とのかけ声が上がる。普段はネタニヤフ氏に批判的な主要紙ハアレツも26日付で、ネタニヤフ氏を称賛する著名なコラムニストの記事を載せた。
Youtubeで国際情勢を分析するうえで評判になっている「グローバリズム対反グローバリズム」という図式では、歴史を踏まえた現在の国際情勢を捉えきれない。
米国とイランの関係悪化要因になる最高指導者ハメネイ師
イランの最高指導者であり、高位のイスラム教シーア派のイスラム法学者とともに革命防衛隊を傘下に置いて、イランの国内利権を握るハメネイ師が「イスラエル・イラン12日間戦争」の終了後、初めて録画でイラン国営テレビに登場し、「12日間戦争」の「大勝利」と米国、イランに対する徹底攻撃を宣言したため、トランプ大統領がイランの再攻撃も辞さないと厳しく警告している。
なお、トランプ大統領のイラン攻撃は米国修正憲法と連邦政府の法律に違反するとの民主党側の批判が強い。しかし、ロイター通信によると「米国のシェイ国連臨時代理大使は24日の国連安全保障理事会で、米国によるイランの核施設攻撃は『イランの核兵器製造能力を低下させるという限定的な目的を効果的に完遂した』。さらに『国連憲章にのっとり、国家が本来有する集団的自衛権に基づいた攻撃であり、目的はイスラエルとその地域、より広くは国際の平和と安全に対するイランの脅威軽減だった』と主張した」(https://jp.reuters.com/world/security/6LUCAOJEI5J6HBFQZ374W7JUKY-2025-06-25/)としており、法的正統性には理由もつく。
さて、CNNは現地時間の6月26日、「ハメネイ師、『イランは決して降伏しない』 停戦後初の演説で勝利宣言」と題する次のような報道を行った(https://www.cnn.co.jp/world/35234810.html)。
(CNN) イランの最高指導者ハメネイ師(86)は26日、イスラエルとの12日間にわたる紛争後初めて演説し、「イランは決して降伏しない」とトランプ米大統領に明確なメッセージを送った。演説の映像は非公開の場所であらかじめ録画されたもの。ハメネイ師はイスラエルとの紛争が始まってから一度も公の場に姿を現していない。紛争中、ハメネイ師は標的となっており、イラン内陸部にまで及んだイスラエルによる未曾有の攻撃ではイランの軍幹部の大半や核開発に携わる著名な科学者らが殺害された。
ハメネイ師は演説の中でイスラエルと米国に対する自国の勝利を宣言した。また、トランプ氏の無条件降伏の呼びかけにも触れ、「イラン革命以来、米国はイランとの間に根本的な問題を抱えている」「イランが降伏することは決してない」などと述べた。ハメネイ師による13分の演説の中で、攻撃を受けた核施設の損傷や今後の展望など重要な問題への言及はなかった。また、イランが来週米国との協議に臨むかどうかについても触れなかった。
時事通信によると、トランプ大統領はハメネイ師のこの録画発言に即座に強く反対し、イランが核兵器製造施設・原子力施設に関する米国との対話に真摯に望まなければ、再びイランを攻撃することもあり得ると発言した(https://www.jiji.com/jc/article?k=2025062800174&g=int#goog_rewarded)。
トランプ米大統領は27日、ホワイトハウスで記者会見し、イランがウラン濃縮活動を続け、核兵器保有の懸念が強まったと判断すれば、再び対イラン空爆に踏み切ると表明した。また、国際原子力機関(IAEA)や米国がイラン核施設を査察すべきだと強調した。トランプ氏は、イランの核兵器開発が再び懸念すべき水準まで高まった場合、「疑いなく、絶対に(空爆を行う)」と明言した。同氏は、米軍が22日に実施したイラン中部フォルドゥなど3カ所の核施設空爆で、イランの核開発計画が相当後退したとしている。
また、自身のSNSで、イランの最高指導者ハメネイ師がイスラエルに対し、イランの「勝利」を宣言したことに関し、「うそをつくべきではない」と一蹴。ハメネイ師がイスラエルと交戦中に退避していた場所を正確に把握していたが、殺害を容認しなかったと主張し、「醜く、不名誉な死から私が救った」と述べた。
NHKも、「トランプ大統領 高濃度ウラン製造能力あればイラン再攻撃検討」と題して次のように報道している(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250628/k10014846931000.html)
トランプ大統領は27日、記者会見で記者から「イランが、あなたが懸念する水準にまでウラン濃縮を行うことができると情報機関が結論づけた場合、再び攻撃することを検討するのか」と問われると、「疑問の余地はない。それは間違いない」と述べ、イランが濃度の高いウランを製造する能力を依然として持っていると判断した場合は、さらなる攻撃を検討する考えを示しました。(中略)
トランプ大統領 ハメネイ師を非難 “国際秩序の流れに戻れ”
イランの最高指導者ハメネイ師は26日、イスラエルとの停戦合意のあと、国営テレビで演説し、イスラエルとアメリカに勝利したと強調しました。これについてアメリカのトランプ大統領は27日、SNSに投稿し「彼は自分の発言がうそだと知りながら、なぜ愚かにも勝利したなどと言うのか」と非難しました。その上で、ハメネイ師がいる場所を特定していたものの、イスラエルやアメリカの軍に攻撃を認めず、「私が彼を救った」と主張しました。また、イランへの制裁を解除する可能性を検討していたと明らかにしたうえで「怒りや憎しみのある発言を受けて、制裁緩和に向けたすべての作業をすみやかにやめた」としています。一方で「イランは国際秩序の流れに戻らなければならない。さもなければ、事態は悪化するだけだ。イランの指導者たちには強硬な対応よりも温和な対応の方が多くのものが得られることに気付いてほしい」と強調しました。
ハメネイ師の「勝利演説」は録画であることから、所在地はいまだ不明である。イラン内部でペゼシュキアン大統領派・イラン国軍、ハメネイ師派と革命防衛隊の間で権力闘争が進行している可能性がある。ただし、いずれにしてもイランのイラン・イスラム共和制体に重大な変化が起こる可能性があると思われる。