イスラエルがガザに次いでヨルダン川西岸の奪還を開始ーハマスが属するムスリム同胞団にエジプト、ヨルダンを渡し中東和平へ(追記)
イスラエル軍、ヨルダン川西岸地区の難民キャンプを空爆

イスラエルは、国際世論の大反発を押し切って、ガザ地区を事実上破壊し、占拠したが、8月28日未明からヨルダン川西岸の「奪還」を開始した。同国の主流派である右派の政党(ネタニヤフ首相を党首とするリクードら強硬派政党)は1993年に成立したオスロ合意(事実上、イスラエルとパレスチナ国家の共存を認める内容)を無視してきており、「パレスチナ国家構想」を潰したいというのが、ホンネのようだ。代わりに、中東地域でアラブの人民から信頼されているハマスが「パレスチナ支部」であるムスリム同胞団にエジプトやヨルダンを支配させ、中東にイスラエル(ユダヤ人)とアラブ諸国家(アラブ人)と平和共存を実現したい考えのようだ。その背景には、イスラエルの後ろ盾になってきた米側陣営の衰退と中露を盟主とするBRICSを中心とする非米側陣営の興隆があり、同国は時を見計らって非米側陣営に移りたい意向だ。国際情勢解説者の田中宇氏の予測による。ただし、サイト管理者は中東の根本的な平和のためには、同じ唯一神を信じるユダヤ教、キリスト教、イスラム教の和解が必要だと思う。

イスラエル、ヨルダン西岸の奪還を開始。「パレスチナ国家構想」の破壊が目的か

繰り返しになるが、まず始めにイスラエルは10月7日のハマスの大規模攻撃を事前に掴んでいたが、何の対策も取らなかったという。「今回の戦争の数週間前、ハマスはガザにイスラエルの町並みを模した場所を作り、そこで特殊部隊を訓練した。これは今回の攻撃の準備だった。イスラエル当局は、この動きに気づいていたが、何も対応しなかった。エジプト当局も、ハマスの動きに気づき、イスラエルに報告・警告した。だが、イスラエル当局はほとんど反応しなかったという。これらはイスラエル当局の失態として報じられているが、本当に失態だったのか?。私は、意図的に無視したのでないかと勘ぐっている」(「イスラエルとハマス戦争の裏読み」=https://tanakanews.com/231010israel.htm、無理料記事=)」。

つまり、イスラエルはハマスに大規模攻撃を行わさせて、ガザ侵攻の口実を作った。そうして、「ハマスの攻撃の30倍(注:ガザ市民の死亡者数とイスラエル人の死亡者数の比較が根拠)もの非人道的な攻撃を強行する」(外務省国際情報局長、イラン大使を務められた孫崎享氏=https://www.youtube.com/watch?v=dxqBderaUIk&t=3037s0、50分過ぎ=)ようなガザ地区の本格的破壊に乗り出したわけだが、結果としてイスラエルはガザ地区を壊滅した。その後、ヨルダン川西岸の奪還に入ったことは、次の「イスラエル、ヨルダン川西岸で作戦継続 ハマスの現地司令官殺害」(https://jp.reuters.com/world/mideast/EHTVFXM74RJ5VPHFXJJ22KJKP4-2024-08-30/)が示している。

イスラエル軍は30日、ヨルダン川西岸でイスラム組織「ハマス」の現地司令官を殺害したと発表した。殺害されたのはヨルダン川西岸の都市ジェニンでハマスのトップを務めていた司令官。イスラエル軍によると、現地で銃撃や爆弾による攻撃に関与していた。同じ車に乗っていたハマスの戦闘員2人もドローン(無人機)で殺害された。車からは武器、爆発物、多額の現金が見つかったという。ハマスは軍事部門アルカッサム旅団の3人が死亡したことを確認した。
イスラエルの攻撃を受けた西岸のトゥルカラム
イスラエル軍は28日未明からヨルダン川西岸で兵士・警官数百人を投入した大規模な作戦を実施しており、前日までの2日間でパレスチナ人少なくとも17人が死亡している。
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イスラエルによるガザ西岸の攻略が開始されたことについては、国際政治学者の六辻彰二氏も「ガザ“人道的戦闘休止”の影のもう一つの戦争――ヨルダン川西岸で進むイスラエルの“さら地作戦”」という論考で指摘しておられる(https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/fd08acb46de8139fdf1ef938ce55daa735b954b3)。

  • 国連決議でパレスチナ人のものと認められた土地には、イスラエルとハマスの戦闘が続くガザの他、ヨルダン川西岸地区がある。
  • このヨルダン川西岸でイスラエル軍は、パレスチナ人排除の動きを強めており、ブルドーザーなどで民間施設を相次いでさら地にしている。
  • イスラエルの軍事活動は「テロ対策」を大義名分にしているが、実態としてはパレスチナ人を居住地から追い出し、実効支配を強化するものでもある。

中東和平の切り札として1993年9月に締結されたオスロ合意とは次のようなものだ。第一に、イスラエルを国家として、PLO(パレスチナ解放機構)をパレスチナの自治政府として相互に承認する。第二に、イスラエルが占領した地域から暫定的に撤退し、5年にわたって自治政府による自治を認める。その5年の間に今後の詳細を協議する。ウイキペディアによると、対話から合意に至るまでの間、米国のクリントン政権が関与しながら、両者との関係が良好なノルウェー政府がこの成立に尽力した。ノルウェーのホルスト外相ら、政府関係者による交渉は、オスロあるいはその周辺で行われ、1993年8月20日の合意に至るまで内密に行われていた。

イスラエルのラビン首相と米国のクリントン大統領、パレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長

しかしながら、オスロ合意および後の協定で明文化されたイスラエルとアラブ諸国家の関係正常化はまだ実現していない。それどころか、オスロ合意はパレスチナ国家を認めないイスラエルの右派から、猛反対を受けた。その中で、1995年11月4日、オスロ合意を主導したイスラエルのラビン首相は、テルアビブで催された平和集会に出席した際、和平反対派のユダヤ人青年イガール・アミルから至近距離から銃撃されて死亡、世界に衝撃を与えた。

9月1日に「ガザの次は西岸潰し(https://tanakanews.com/240901israel.htm、無料記事)」を投稿・公開した田中氏によると、その背景として、「イスラエルから見ると、パレスチナ問題は、国際社会を率いていた英国が、イスラエルの強国化を防ぐために独立戦争(中東戦争)で得た領土(西岸とガザ)を自国化することを許さず、パレスチナ人に譲渡せよと強要した問題だ。英国系が邪魔しなければ、イスラエルは独立戦争で西岸とガザからも先住のアラブ人(パレスチナ人)をヨルダンやエジプトに追放(ナクバ)して自国領にしていた」ということがある。つまり、イスラエルの保守本流は、「パレスチナ国家構想」自体を否定しているというわけだ。

それはともかく、オスロ合意によって、ガザ地区、ヨルダン川西岸でのパレスチナ暫定自治が実現することになったため、1996年1月にガザ地区とヨルダン川西岸地区、東エルサレム(イスラエルがヨルダンから奪い、西エルサレムと併合)で、議会に相当する立法評議会(定数88議席)と大統領もしくは首相に相当する自治政府議長の選挙(有権者102万8000人)が行われ、前者ではファタハが最多議席の55議席を獲得、後者はアラファトPLO議長が選出された。しかし、パレスチナ自治政府は安定せず、二回目以降の選挙もしばしば延期された。

2006年にやっと選挙が行われたが、2006年1月のパレスチナ立法評議会選挙では、前回選挙をボイコットしたイスラム組織であるムスリム同胞団パレスチナ支部のハマスが参加し、大勝した。ハマスが定数132議席のうち74議席を獲得して第一党となる一方、アッバス大統領率いるファタハは第二党(45議席)に後退した。イスラエルに対して「強硬な姿勢」をみせるハマス主導内閣が誕生したことにより、イスラエルとの関係が悪化し、パレスチナではファタハとハマスの抗争が激化した。情勢の悪化で、米国からの圧力によって、この選挙はなかったことにされてしまい結局、ヨルダン川西岸はファタハ、ガザ地区はハマスが統治することになった。

そのハマスが昨年の2023年10月7日、第四次中東戦争を上回るとも言われる規模でイスラエルを奇襲攻撃、これに猛反発したイスラエルが戦時内閣を結成し、ガザ地区の徹底的な破壊を行うようになり、ガザ地区は今や壊滅状態にある。現在、小児マヒを防ぐためのポリオワクチンの接種で一時的に休戦状態になっているとされているが、接種時にも戦闘が続いているようである。また、子供たちにワクチン接種が行われているようだが、壊滅したガザ地区に居住し、南部のラファ地方に避難した百万人を超えるガザ地区の市民(難民)はどこに行ったのか、全く報道されていない。田中氏によると、ムスリム同胞団の勢力が強いエジプトに逃げ込んでいるという。

イスラエルが「パレスチナ国家構想」自体を根本から否定しているとすると、同国が、ガザに常駐させる「人道担当官」らで「国際社会と協力してガザの民生インフラを再建していく」という約束は、そのまま信じることが出来ない。結局のところは、ガザにパレスチナ市民(難民)が戻ってこないようにするため、様々な手段を講師する計画だということになる。その最大の証拠が、ヨルダン川西岸の奪還策を本格的に展開し始めたことだ。

イスラエルが安定・発展するにはパレスチナ国家に協力する2国式しかないという観点からみると、これは世界からイスラエルへの制裁を招く自滅行為だ。だがイスラエルが実際に昨秋からの抹消・大破壊・人道犯罪をやってみると、イスラエルは誰にも抑止されず、ほとんど制裁も受けず、思い切り人道犯罪をやってガザの抹消をほぼ完了し、次は西岸の大破壊に入ろうとしている。Kamala & Gaza: All words and no deeds make a divided party

米国では選挙戦の真っ最中で、トランプはネタニヤフに好き放題にやらせて全面支援することを確約している。民主党は、左派がイスラエル敵視を強めたが、権力を握るバイデンやハリスの陣営は、停戦仲裁の演技をしつつ、ネタニヤフを軍事的に全面支援している(注:ただし、民主党の主流を占める左派が担いでいるハリス氏は、事実上、イスラエルを非難している。これは大統領選にとって、致命的だ)。来年以降も、イスラエルは好き放題に人道犯罪をやれる。米欧は、エスタブ内のリベラル派(左派)が、人権外交の観点からイスラエルへの非難を強めており、マスコミはガザ戦争での人道犯罪を喧伝している。だが同時に、米欧エスタブの政界や諜報界、軍産複合体はイスラエルに牛耳られて傀儡化しており、親イスラエルな政策を出し続けることを強要されている。Special relationship at risk if UK bans arms sales to Israel, says Trump adviser

この相克・分裂傾向はガザ開戦後に強まった。米欧の上層部は、反イスラエルとイスラエル傀儡がせめぎ合い、決定不能になる傾向を強めつつ、覇権低下が加速している。イスラエルは今の覇権の空白状態に便乗し、懲罰・制裁されないまま、パレスチナ抹消を圧倒的な暴力によって進めている。英国系の人権外交用の断罪機関であるICC(国際刑事裁判所)での有罪も、イスラエルにとって痛手になっていない。No matter who wins, both Biden and Trump can likely agree on one thing: doing less in the Middle East

何故、イスラエルは米国の力を借りようとするのか。それは、欧米文明から生まれた米側陣営が既に重大な衰退期に入っているからだ。

イスラエルとしては当面、米国との関係を維持しつつ、近い将来は資源・エネルギー・人口大国である中露を盟主とするBRICSを中心とする非米側陣営に入り、スンニ派の盟主であるサウジアラビアとはもちろん、シーア派の大国であるイランとも外交関係を正常化し、中東和平の実現と安定化を図りたい、そんな意向があると田中氏は見る。ガザとヨルダン川西岸の奪還の代わりに、アラブ民族の評価の高いムスリム同胞団にパレスチナ市民(難民)を任せ、エジプトとヨルダンを支配させるということだ。

強烈な反中論者であり、中国崩壊論を強力に主張していることを除いて、国際情勢に関する信頼できる情報筋によると、米国とイランは(核を使用した第三次世界大戦が起きるのを防ぐための)ホットラインを敷設することで合意した。このホットライン敷設には、イランの最高指導者・ハメネイ師が了解している。イスラエルの諜報機関であるモサドはその情報を手に入れている。なお、イランが米国との関係改善をする意向があることは、イラン大使を務めた孫崎享氏が明確に語っている(https://www.youtube.com/watch?v=dxqBderaUIk&t=3020s、動画の最後の箇所で大使時代の経験を語っておられる)。そのため、イスラエルが、ヘリコプターの墜落事故で死亡したイランのライシ前大統領のテヘランでの葬儀に参列したハマスのハニヤ最高指導者を襲撃(追記9月6日:これもモサドの諜報能力の優秀さを物語る)、暗殺しても、イラン側は、傘下のレバノンのヒズボラがイスラエルにはあまり被害を与えないミサイル攻撃をしただけで、本格的な報復はしていない。

なお、中国がハマスとファタハの関係改善を仲介した(https://www.bbc.com/japanese/articles/c6p2x3zkz44o)のも、結果としては、パレスチナ市民(難民)の代表としてのハマスの政治力を高めることになったものと見られる。驚くべきことだが、田中氏は「IDF(注:イスラエル軍)や入植者がパレスチナ人を攻撃虐待するほど、怒りを扇動されたパレスチナやアラブ諸国の人々が過激化し、イスラエルや後ろ盾の米欧に対してテロやゲリラをやり、その対策として米国からイスラエルへの軍事支援が増える仕掛けが作られた。イスラエルは、敵であるハマスをこっそり支援してきた」と見ておられる。国際政治・国際情勢とは「魑魅魍魎」の要素も考慮に入れなければならない。

パレスチナ自治区で対立しているイスラム組織ハマスと自治政府主流派のファタハが、中国の仲介で北京で協議した。ガザ地区で続くイスラエルとの戦争の終結後、占領下のヨルダン川西岸とガザ地区に暫定的な「国民和解政府」を樹立することで同意した。中国の王毅外相とハマス当局者が23日に発表した。(中略)

(左から)ファタハ代表のマフムード・アル・アルール氏、中国の王毅外相、ハマス代表のムーサ・アブ・マルズク氏らが宣言に署名した

イスラエルとしては、後ろ盾の国であり、しかも、その国に政界に強力な、支配力とも言える影響力を有している米国が今後、衰退することを見抜いているから、イスラエルを正しく「建国」するには今しかない、と思っているのだろう。ただし、サイト管理者としては、古代ユダヤがローマ帝国に滅ぼされ、ディアスポラのユダヤ人となって欧米を中心に世界に流浪せざるを得なかったのは、イエス=キリストを十字架にかけて殺したせいだと見ている(新約聖書の4福音書。古代ユダヤはローマ帝国に支配されていたが、ピラト総督にイエスを十字架に貼り付けて殺せと嘆願した)。ユダヤ教内部の深い事情があったからだが、旧約聖書の創世記にあるように、「信仰の父」アブラハムから分かれ出たユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教が事実を知って、真実の和解をしなければ、中東世界も真の平和は成立しないと考えている。

次の図は、中・高校生対応の予備校(お茶ゼミ)が紹介しているユダヤ教、キリスト教、イスラム教の中心人物の系列図である(https://ochazemi.co.jp/jkimi/column_054.html)。中等教育でも、上記の内容は公然と教えられている。具体的に言えば、アブラハムの嫡子であり、ユダヤ人の先祖にもなったヤコブの12人の子女のうち、ユダの血統からイエス・キリストを身ごもったマリヤの夫・ヨセフが誕生する。新約聖書の福音書では、マリヤは「処女懐胎」したということになっているが、ルカ伝を注意深く読むと「処女懐胎」の謎を解くカギが記載されている。そして、アブラハムの庶子であるイシュマエル(イシマエルとも呼ばれる)がイスラム教を信じるアラブ民族の先祖になった。同じ唯一神を信じるユダヤ教徒、キリスト教徒、イスラム教徒はそう信じている。

戦後、連合国軍最高司令官のマッカーサー元帥が日本人に対してキリスト教の伝道を試みたと言われるが、失敗したと言ったほうが事実に近いだろう。だから、日本人にはまず理解できないが、こうした宗教内容が現在の国際情勢を理解するうえで、必須の内容であることを理解する必要がある。イスラエルとサウジアラビアの傘下にあるアラブ首長国連邦、バーレーンとの間で2020年8月13日、国交を正常化し、平和共存を維持する協定が結ばれたが、これを「アブラハム合意」という。

その後、スーダンやモロッコがこれに倣って陸続としてイスラエルとの関係正常化に踏み出した。中東アラブ諸国の盟主であるサウジアラビアも2023年8月、BRICSへ新規加盟することを発表した。サウジも中国の仲介でBRICSに加盟したことになっていた。同国もイスラエルと国交正常化を図り、平和共存したいのだろうが、米国の影響で、公式見解は「招待はされているが、正式に加盟しているわけではない」ということになっており、水面下での動きにとどまっている(https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/01/bcd6a40297a4c9d4.html#:~:text=%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%83%93%E3%82%A2%E3%81%AF%E3%80%812023%E5%B9%B48,%E3%81%8C%E5%89%8A%E9%99%A4%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%9F%E3%80%82)。

8月の米雇用統計と波乱含みの金融・資本・為替市場について

米国が雇用統計の悪化から、年内に合計で1%ポイント政策金利を引き下げるとの見方が支配的になっているが、米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は「必ず、政策金利を引き下げる」とは言っていない。今月9月6日の雇用統計次第だ。取り敢えず、ブルームバーグに示される代表的な見方は、https://shikiho.toyokeizai.net/news/0/820863に表れている。また、雇用統計が予想の範囲内であっても、米国経済がスタグフレーションに入っていることから、金融・資本・為替市場に波乱はついて回る。油断は禁物だ。なお、常識的な理解・判断から逸脱するが、米国での政策金利の利下げが、株式相場の暴落のきっかけになるとの見方が、ないわけではない(https://jp.reuters.com/markets/japan/funds/JBO6MJPP7ROTBFRYXEFSYXXDKM-2024-04-23/)。

 

 

 

 

 

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