イスラエルの対イラン攻撃、「パレスチナ国家」のガザ、西岸からアラブの他の諸国への移管ー中東の和平は中東諸国で

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イスラエルとイランの戦争の拡大が懸念されているが、これまでの4次にわたる中東戦争(20世紀)や最近のガザ侵攻、ハマス掃討作戦、イランの傘下にあるヒズボラの壊滅やイエメンのフーシー派の弱体化、イスラエルに協力しているトルコの影響下にあったシャーム開放機構(HTS)を利用したシリアの乗っ取りなどからして、イスラエルの軍事力は圧倒的に強い。今回のイスラエルのイラン攻撃はあらかじめイランの軍事大国化を阻止するためだったが、イスラエルとしてもイランの解体は中東の重大な不安定要因になるので、そこまでは臨んでないだろう。最終的にはいわゆる「パレスチナ国家」を事実上のイスラエル領土内のガザ、ヨルダン川西岸から他のアラブ諸国の地域ー「アフリカの角」にある、ソマリアから分離独立したソマリランドが有力視されているようだーに移し、欧米が鑑賞しない中東文明を形成することにあるようだ。中東地域はもはや、欧米の傘下にあることをやめ、イスラエルやサウジアラビア、イラン、トルコなど中東の諸大国が自主的に自治するひとつの文明圏になるだろう。

イスラエルのイラン攻撃の狙いは、「パレスチナ国家構想」の抹消と中東の真の和平

毎日新聞社のサイトが、イスラエルとイランの軍事力を比較している(https://mainichi.jp/articles/20250613/k00/00m/030/369000c)。

中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」によると、陸海空軍の総兵力はイスラエルがおよそ17万人なのに対し、イランは61万人。予備役を含めても、イスラエルの63万人に比べ、イランは96万人と上回る。

米国の軍事情報サイト「グローバル・ファイアパワー」の評価では、イスラエルの軍事力(2025年)は145カ国中15位で、イランは16位と拮抗(きっこう)している。ただし、防衛費(23年)は、イスラエルが275億ドル(約4兆円)で、イランの約2・7倍に上る。 空軍力の差も顕著だ。保有する軍用機はいずれも約340機でほぼ同数だが、イスラエルは米国製ステルス戦闘機F35など、最新鋭の機体を保有している。これに対し、イランはロシア製の旧式の戦闘機が主力で、性能面で劣る。国境を接していない両国が軍事衝突する場合、空軍力の差は致命的になるとみられている。(中略)

(注:イランは高性能なミサイルの開発に力を入れているとされるが)ただ、イスラエルは今回の空爆で、ミサイル関連施設にも打撃を与えたとされる。さらに周辺国では近年、親イラン武装組織に対する攻撃を強めて弱体化させてきた。イスラエルと国境を接するシリアでも、親イランのアサド政権が昨年12月に崩壊しており、イランが活動する余地は狭まっているのが現状だ。イスラエルは米国と同盟関係にあり、大規模な軍事支援を受けている。衝突が拡大すれば、イランは中東に展開する米軍と対峙(たいじ)する必要にも迫られ、苦しい局面に立たされることになりそうだ。

イランによるホルムズ海峡封鎖説も唱えられるが、原油や天然ガスの大動脈を断ち切り、世界の経済に重大な影響を与えることにつながりかねず、その場合はイランの評判が世界的に悪くなる。

これに加えて、イスラエルは最先端の防空システム「アイアンドーム」を実戦配備している。そして、トランプ大統領はイスラエルの右派リクードの党首であるネタニヤフ首相と、国際情勢解説者の田中宇氏の指摘する「隠れ多極派」を形成しており、諜報組織による情報の提供なども含めて、イスラエルを強く支持している。また、イスラエルの協力も得て、「アイアンドーム」の発展型である「ゴールデンドーム」も構築する。

そのトランプ大統領が、「イスラエルとイランは(注:中東世界に唯一神を根幹とする中東文明形成で)合意の時だ」と言っているという(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250616/k10014836241000.html)。また、

アメリカのトランプ大統領は15日、カナダで開かれるG7サミット=主要7か国首脳会議への出発の前にホワイトハウスで記者団に対し、イスラエルとイランの衝突について「合意の時だと思う」と述べ、双方に停戦に応じるよう求めました。また「時には彼らは争わなければならないこともあるが、どうなるか見てみよう。私は合意する可能性は高いと思う」と述べ、合意に期待を示しました。ただ、記者団からイスラエルにイランへの攻撃を停止するよう呼びかけたか問われると「言いたくない」と述べ、明らかにしませんでした。そして、イスラエルの防衛を引き続き支持する姿勢を示しました。

なお、イスラエルはネタニヤフ首相が最高指導者・ハメネイ師の殺害を排除していない(注:モサドによるもので、それだけイスラエルがイランを追い込んでいる証左になる)が、時事通信によると、イランのアラグチ外相は「イスラエルに強い影響力を持つトランプ氏の『電話一本』でイスラエルは戦闘を停止し、『外交に戻る道筋が開ける』と強調。米国の仲介努力を求め」るとともに、「ロイター通信は、イランがカタールやサウジアラビア、オマーンと連絡を取り合い、停戦を模索していると報じた。核開発を巡る米国との協議で譲歩する見返りに、トランプ氏がネタニヤフ氏に停戦圧力をかけるよう求めているという」https://www.jiji.com/jc/article?k=2025061700129&g=int)。ただし、国際情勢解説者の田中宇氏によると、イランはイスラエルを脅かすための核開発を行っているわけではない。イスラエルの目的は、あくまでも、ガザや西岸に建国しようとしている「パレスチナ国家」の他のアラブ諸国への「移転・移設」だ。

NHKによるとイランは表向き、「全面戦争の準備をしている」(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250616/k10014836911000.html)とのことだが、上の段に引用したように、マスウード・ペゼシュキヤーン大統領のイラン政権はイスラエルとの戦争を避けたいのがホンネだ。なお、イランはシーア派イスラム教の総本山であり、大統領のほかにシーア派イスラム教の立場からの最高指導者も存在する。

イランの最高指導者ハメネイ師

Wikipediaによれば、「(シーア派イスラム教徒の総本山であるイランの)最高指導者は、ホメイニ師ーの唱えたヴェラーヤテ・ファギーフ(イスラム法学者による統治論)を具現化したものである。すなわち、イスラム共和制のイランはシーア派教徒の信仰共同体であり、そこではマフディー(救世主)が出現するまでの間、シャリーア(注:イスラム教の経典コーランと預言者ムハンマドの言行=スンナ=を法源とする法律体系)の最高解釈者(イスラム最高法学者)が「神(アッラー)の意思に従う」という形式で国家を指導する責務を負う(パーレビ政権を打倒したホメイニ師による1979年のイラン=イスラム革命)。

イスラム教シーア派信仰共同体の統治権は、アッラー(唯一神)から預言者ムハンマド(注:日本ではマホメット)へ与えられ、ムハンマドから12イマーム(イマームとはイスラム共同体の指導者や、礼拝を先導する人物を指すが、シーア派では、特にアリー=預言者ムハンマドの従弟であり娘婿でもあるが、イスラム教の第4代正統カリフ。シーア派からは初代イマームとみなされている=)とその子孫である12人のイマームを特別な存在として崇拝している)へ、12イマームからイスラム最高法学者へと受け継がれてきたものとされている。イスラム教シーア派の最高法学者であるハメネイ師の殺害は、イランの国体を破壊する行為になる。

こういう状況であるから、イスラエルがミサイルやドローンでイランの原子力施設を破壊し、モサドがイラン国内に潜入して、イランの原子力科学者・技術者を殺害してしまえば当面、イランは軍事超大国になれない。既に述べたように、今回のイスラエルによるイラン攻撃は、イランの軍事超大国化を阻止することが直接の狙いだ。ただし、イランでは理工科系の女子大学生が少なくないほど、全国民挙げて、ITやAIなど科学・技術大国への飛躍を目指している。それは、実現するだろう。イスラエルのネタニヤフ政権も、本当のところはイランの崩壊を臨んでおらず、中東の安定のためには、大国であるイランが相応の責任を果たすべきと認識しているところではないだろうか。

トランプ大統領が陰に陽にイスラエルを支援するのは、最終的には「パレスチナ国家ないしパレスチナ自治区」をアラブ諸国のどこかの地域に移管・移設し、中東の世界はイスラエルやサウジアラビア、イラン、トルコなど中東の超大国で「自治」できる体制を築くことが狙いだろう。外交的にはイスラエルとサウジアラビアが国交を正常化し、中東に和平をもたらす「拡大アブラハム合意」(トランプ大統領が実現した「アブラハム合意」の完成形態)の実現が必要になる。

【注:アブラハムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の共通の祖先で、「信仰の父」とされる】

これに関して、ヒントになるのがハカビー駐イスラエル米国大使の「パレスチナ国家をつくるため、『ムスリム(イスラム教徒)諸国』は土地の一部を提供すべきだ」との観測気球的な発言だ(https://www.bbc.com/japanese/articles/c3d47jgjzmmo)。国際情勢解説者の田中宇氏が15日投稿・公開した「戦争し放題のイスラエル(https://tanakanews.com/250615iran.php、有料記事=https://tanakanews.com/intro.htm=)」によると、国家(自治区)には当然土地が必要であり、その候補としてアフリカの角であるソマリアから独立したソマリランドがあるという。

Wikipediaによると、「アフリカの角と呼ばれる地域のうち、旧イギリス領ソマリランドを領土とする。東部はソマリア、南部はエチオピア、西部はジブチと接し、北はアデン湾に面する。内戦に陥ったソマリアの北西部が1991年5月、同国からの再独立を宣言して成立した」共和制国家である(首都:ハルゲイサ)。トランプ大統領は、ソマリランドと国交を結ぼうとしているようだ。

トランプは最近、「アフリカの角」にある、ソマリアから分離独立したソマリランドとの国交を樹立しようとしている。米軍が、ソマリランドと紛争しているプントランドを「ISIS掃討」の名目で空爆している。ソマリランドは、ガザ市民の強制移住地の候補として名前が上がっていた場所だ。ソマリランド政府は以前、パレスチナ抹消に協力したくなのでガザ市民の受け入れを拒否していたようだが、最近、態度を変えた可能性がある。US Launches Airstrike in Somalia’s Puntland Region

ソマリランドは、米国が国交を樹立してくれて、米軍が紛争地からプントランドの敵勢力を追い出してくれるなら、ガザ市民を受け入れても良いと言っているのかもしれない(注:パレスチナ人の経済支援はサウジアラビア、アラブ首長国連棒など経済的に余裕がある国々が行う)。情報が少ないので、この話は推測でしかない。ガザ市民の多くが餓死する前に移住が実現するのかも怪しい。Somaliland president says recognition of state ‘on the horizon’ following Trump talks)。だが、もしガザ市民がソマリランドに移住してガザ戦争が終わるなら、サウジはパレスチナ国家への拘泥をやめてイスラエルと国交正常化してアブラハム協定が完成し、イランとイスラエルも共存して、中東が多極型の新時代に入る可能性が高まる(注:田中氏によると、リビアのその候補国のひとつだ)。

イスラエルがイランに対して、どこまで攻撃するのか。これについて、田中氏は16日投稿・公開した「イスラエルはパレスチナ抹消を世界が認めるまでイラン攻撃する?(https://tanakanews.com/250616israel.htm、無料記事)」によると、「イスラエルは範囲を拡大しながら毎日イランを攻撃しそうだ。イスラエルは、拡大しつつイランを攻撃し続け、米中露アラブなど世界の仲裁を受ける。交渉の中で、イスラエルは世界に対し『パレスチナ国家の抹消を認めろ。認めるまでイランを攻撃し続ける』と言うのでないか」と見ている。

米露中アラブなど世界はこれまで、イスラエルのパレスチナ抹消を口で非難しつつ実際は容認してきた。イスラエルは「イランを潰されたくなかったら、世界はパレスチナ抹消を黙認しろ。口だけのイスラエル非難すらもやめて黙れ。サウジはイスラエルと国交を結ぶアブラハム協定に署名しろ」と要求しつつ、イランを攻撃し続けるのでないか。イスラエルは、トランプやプーチンと電話会談を繰り返している。このシナリオが事実としたら、イスラエルはすでに米露にこの要求を伝えているはずだ。Putin holds phone conversations with Israeli PM and Iranian president 

米欧はイランを敵視してきた。イランなんて潰れてもいいのでないか??。実はそうでない。米欧がイランを敵視してきたのは、米欧の政界がイスラエルに加圧されてきたからであり、米欧自身の戦略ではない。大国であるイランが潰れると、中東全体が不安定になる。誰もそれを望まない(多分イスラエルも)。イラン自身が、「イスラエルのパレスチナ抹消を容認するから、わが国を潰さないでくれ」と無条件降伏したいだろう。イランは米露とくにプーチンの仲裁で、パレスチナ抹消を黙認する条件でイスラエルからの攻撃を止めてもらいたいと考えられる。イランはすでに、自国の傘下にいたヒズボラやアサド(シリア)がイスラエルに潰されるのを受容している。イスラエルから見ると「あと一歩」だ。Battered Hezbollah Says It Will Stay Out Of Iran-Israel Fight

イスラエルが突如としてイランを攻撃したのは、イスラエルがサウジアラビアと国交を正常化し、中東に真の和平をもたらすための最後の仕上げと見たほうが良い。ただし、ユダヤ教、基督教、イスラム教のそれぞれ一神教の歴史的意義を解明・理解する必要がある。要するに、世界三大宗教の世界史的な意味・意義が分からなければならない。

 

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