
6月末以降、ロシアがウクライナへの軍事攻撃を激化させている。その一方で、トランプ政権はバイデン政権時代に約束していたウクライナへの防空ミサイル供与などの軍事支援を減らすことにした。プーチン大統領はウクライナ戦争の「停戦」ではなく「終戦」を視野(念頭)に入れており、そのためには、①併合4州や緩衝地帯をキエフ政権には任せられないことを明確にする②ウクライナ軍の中で圧倒的に優遇されているアゾフ連隊(ウクライナ内務省の特別警察連隊として拡大され、国家親衛隊の一部となっている)などのネオ・ナチ勢力を解体すること③ネオ・ナチ勢力の傘下にあるキエフ政権の弱体化とウクライナ国内の政治的分裂の促進④ウクライナで大統領選挙を行い、ネオ・ナチ政権傘下のキエフ政権の権力の座からの転落とウクライナの少なくとも中立化、可能ならば新露派政権の樹立ーが絶対に必要な条件(ウクライナ戦争の根本原因の除去)だ。ウクライナは武器弾薬の枯渇と軍からの脱走や徴兵制が事実上困難なことから、現場での兵士の数が激減していることで、ロシアの軍事攻撃を防ぐことは以前から不可能なことは知られている。トランプ大統領海千山千の不動産王出身だから、ゼレンスキー氏に甘い言葉をかけるとしても、水面下ではプーチン政権に協力していると思われる。
トランプ政権によるウクライナへの軍事・経済支援停止、本格化か
6月の末頃から、ロシアのウクライナに対する軍事攻撃の激化を報道するオールド・メディアが増えている。米CNNは、「ロシア、過去最多のドローンをウクライナに発射 米ロ首脳の電話会談後」と題する報道で、次のように伝えている(https://www.cnn.co.jp/world/35235141.html)。
(CNN) ロシアは3日夜から4日にかけ、ウクライナに対して過去最多の(注:戦闘)ドローン(無人機)を発射し、建物や住宅地を攻撃した。トランプ米大統領はこの数時間前、ロシアのプーチン大統領との電話会談で停戦合意に向けた「進展はなかった」と明らかにしていた。(中略)
ロシアによるキエフなどウクライナ各地への爆撃の様子=ロイター ここ数週間、ロシアは毎晩のように大量のミサイルとドローンを投入して夜間攻撃を実施している。ウクライナのシビハ外相は今週、6月だけでロシアが弾道ミサイル80発近くを含む330発超のミサイル、5000機の戦闘ドローン、5000発の滑空爆弾をウクライナに向けて発射したと明らかにしていた。4日以前に過去最大規模の攻撃となったのはわずか5日前で、ロシアは537のドローンとミサイルをウクライナに向けて発射していた。
また、日本ではまず読売新聞オンラインが、「停戦拒否したロシア、過去最大規模の攻撃…ウクライナ外相『プーチンの米国無視は明白』」と題して、次のように報道している(https://www.yomiuri.co.jp/world/20250704-OYT1T50154/)。
ウクライナ空軍によると、ロシア軍は3日夜~4日未明、無人機539機、ミサイル11発でウクライナ各地を攻撃した。米CNNによると、一度の攻撃としては過去最大規模だという。ロシアは、プーチン大統領がトランプ米大統領との3日の電話会談で停戦を拒否し、攻撃の手も緩めていない。ウクライナ空軍によると、9割近い無人機(注:戦闘用ドローンのこと)476機は撃墜か無力化に成功したが、ミサイルの迎撃は2発にとどまった。ロイター通信によると、首都キーウで1人が死亡し、少なくとも23人が負傷した。
ロシア軍の攻撃で煙が上がるウクライナ・キーウ(4日)=AP ニュースサイト「ウクライナ・プラウダ」によると、3日には中部ポルタワで2人が死亡、59人が負傷した。ウクライナのアンドリー・シビハ外相は「プーチンが戦争終結を求める米国を無視しているのは明白だ」とSNSで攻撃を非難した(注:トランプ大統領は一時的な「停戦」ではなく、「終戦」を確実にする「停戦」のスケジュールである)。
オールド・メディアは「停戦は念中にないプーチン政権の蛮行」だとの非難報道を展開しており、トランプ大統領もロシアのウクライナへの軍事攻撃に失望したと報道している。例えば、NHKは次のように報道している(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250704/k10014834331000.html)。
トランプ大統領 プーチン大統領との電話会談に「失望している」
アメリカのトランプ大統領は4日、ロシアのプーチン大統領と3日に行った電話会談について、記者団に対し「非常に失望している。彼は停戦するつもりはなく大変残念だ」と述べました。トランプ大統領は、4日に、ウクライナのゼレンスキー大統領とも電話会談するということです。一方、トランプ政権がウクライナへの一部の武器の輸送を停止し、防空能力の低下による犠牲者の増加が懸念される中、ウクライナ空軍によりますと3日夜から4日にかけてロシア軍による首都キーウなどへの500機を超える無人機(注:戦闘用ドローン)などによる大規模な攻撃があったということです。
プーチン大統領 トランプ大統領と電話会談
ロシアのプーチン大統領は3日、アメリカのトランプ大統領と電話会談を行い、ウクライナ情勢について「ロシアは深刻な対立をもたらした根本原因の除去という目標を追求する」と述べ、ウクライナの中立化などロシア側が主張する条件が認められない限り、戦闘を続ける考えを示しました。ロシア大統領府のウシャコフ補佐官によりますと、両首脳の電話会談はおよそ1時間にわたって行われ、トランプ大統領が、ウクライナでの早期の停戦を改めて求めたのに対し、プーチン大統領は、交渉による紛争の解決を模索し続けていると述べたということです。
しかし、プーチン大統領は、「ロシアは深刻な対立をもたらした根本原因の除去という目標を追求する。ロシアがこれらの目標をあきらめることはない」と述べたとしています。プーチン大統領はこれまでウクライナへの侵攻は、欧米諸国がロシアの安全保障上の利益を無視し、NATO=北大西洋条約機構の拡大を続けたために行われたと主張し、和平の条件としてウクライナの「中立化」などを求めています。プーチン大統領としては、こうした条件が認められない限り、戦闘を続けるとの考えを示したとみられます。
ロシアが「特別軍事作戦」を展開したのは、バイデン政権(当時)とウクライナのネオ・ナチ勢力が2014年2月のマイダン暴力クーデターで、選挙で合法的に選出された新露派であるヤヌコーヴィッチ政権を打倒し、ネオ・ナチ傘下になったキエフ政権が東部ドンバス地方のロシア系ウクライナ住民(国民)に対する大弾圧を開始したことがある。このため、ロシア系ウクライナ住民を守るために「特別軍事作戦」の展開せざるを得なくなったこと、要するにバイデン政権とキエフ側が「特別軍事作戦」を誘引したことが、直接の原因だ。
いわゆる西側のオールドメディアはこの点に触れたがらない。サイト管理者(筆者)としては、ウクライナ戦争の原因はバイデン政権(当時)と北大西洋条約機構(NATO加盟諸国、特に英仏独の三カ国と欧州連合=EU=)、その傘下にあるキエフ政権側にあると理解している。
従って、プーチン政権としては「ウクライナ戦争」の「停戦」は念頭にはなく、「終戦の実現」のみを根本的な目標にしていると思われる。このため、事実上ウクライナ戦争に勝っているプーチン政権にとっては、①ロシア軍兵士の犠牲で傘下に置いている併合4州や緩衝地帯をウクライナに返還することができないのは、ウクライナ戦争の真の原因がバイデン政権とNATO諸国、ネオ・ナチ傘下のキエフ政権にあるだけに、戦争の常識である②ウクライナ軍の中で圧倒的に優遇されているアゾフ連隊などのネオ・ナチ勢力を解体すること③ネオ・ナチ勢力の傘下にあるキエフ政権の弱体化とウクライナ国内の政治的分裂の誘引④ウクライナで大統領選挙を行い、キエフ政権が権力の座を失うこととウクライナの少なくとも中立化、可能ならば新露派政権の樹立ーが絶対に必要な条件になる。
このプーチン大統領の原則については、トランプ大統領も「アメリカの有力紙、『ウォール・ストリート・ジャーナル』は2日、ウクライナの隣国、ポーランドまで運ばれていた防空システム『パトリオット』のミサイルと携帯型の防空ミサイル『スティンガー』、それぞれ20発以上の輸送も停止したと伝え」た(NHK同)のも、米国の軍事兵器の払底をさけるためだとの情報もあるが、やはり、「戦争継続」の無意味さをキエフ政権に分からせることが真の狙いだろう。
ロシア在住28年間の日本人実業家で、国際情勢アナリストのニキータ氏は、Youtubeチャンネル「ニキータ伝〜ロシアの手ほどき」最新版(7月5日版)の「プーチン•トランプ会談とウクライナ和平交渉」(https://www.youtube.com/watch?v=It8GoSOICc4)で、トランプ大統領は電話会談でプーチン大統領の認識について、特に異論は唱えなかったということだ。
ネオ・ナチ傘下のキエフ政権が事実上、ウクライナ戦争で死亡した遺族への約5千万円の支払いに応じることができないため、ロシア軍兵士とウクライナ軍兵士の遺体交換に事実上反対しているがこうしたことも含め、ウクライナにはゼレンスキー氏に反旗を翻す政治勢力が台頭している。
キエフ政権は、大統領府のイェルマーク長官を頼りに反政府勢力の台頭を弾圧しているが、台頭を阻止するのを弾圧し続けるのはいずれ困難になるだろう。その間、プーチン政権は東南部4州の完全制圧に向けて本格的な攻勢を継続するだろうし、スミ州やドニプロペトロウシク州などに「緩衝地帯」を設置し、新たな事実上の併合地域を設定するつもりだ。

ブルームバーグの「ゼレンスキー氏がトランプ氏と電話会談、防空強化の協力で合意と発表」と題する報道では、次のようなことになっている(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-07-04/SYVOIYDWLU6800)。
ウクライナのゼレンスキー大統領は4日、トランプ米大統領と電話会談し、防空強化の協力で合意したと明らかにした。会談でゼレンスキー氏は、米国側に主要兵器の供与再開を求めたとみられる。会談の数時間前には、2022年の全面侵攻開始後最大級の空襲をロシアがキーウに仕掛けていた。トランプ氏は3日にロシアのプーチン大統領と電話会談を行ったが、結果に失望感を表明していた。関連記事:ロシア、550のドローンとミサイルでキーウなど攻撃-米露会談直後 (1)
会談後にゼレンスキー氏は「われわれは防空の可能性について協議し、ウクライナの防空強化で協力することに合意した」とX(旧ツイッター)に投稿し、両政府の専門チームが会談すると明らかにした。トランプ氏は最近の攻撃について、「十分によく知っていた」と続けた。
これは、ゼレンスキー氏の一方的な宣伝で、メディア対策の一環だ。ニキータ氏の最新動画では、7月にトルコのイスタンブールで行われるはずの露宇会談で、要するに実りある交渉ができなければ米国によるウクライナへの軍事・経済支援は停止されるとのことだ。水面下では、トランプ大統領とプーチン大統領は協力関係にあると見られる。イランがイスラエルに攻撃されたときも、ロシアは、シリアがシャーム開放機構(HST)によって簡単に陥落した時のように、イランに対する軍事支援を控えた。
これに関連して、国際情勢解説者の田中宇氏は7月2日に投稿・公開した「コーカサスをトルコに与える(https://tanakanews.com/250702armenia.htm、無料記事)」で、「アルメニアとアゼルバイジャンはロシアから離れようとしているが、ロシア自身は、それを止めようとしていない。今の展開を前から知っていたかのようだ。イスラエルは、プーチンに話をつけたうえでアルメニアをロシア傘下から引き剥がしてトルコ傘下に入れている感じだ」として、次のように分析している。
シリアやレバノンを狙っていたトルコは、イスラエルに先を越された。イスラエルの選択肢としては、負け組のトルコを放置し、歯向かってきたらイランみたいに潰す、というかエルドアン政権を転覆すれば良いとも言える。だが、もっと巧妙なやり方として、コーカサス(注:黒海とカスピ海の間に東西に延びるカフカス山脈沿いの地帯。18世紀以来ロシアの南下政策が及び、20世紀初めにソ連邦の一部を形成する。1991年のソ連崩壊後、ジョージア、アゼルバイジャン、アルメニアが独立。コーカサス山脈北側のロシア領でもチェチェンが分離独立を求めるなど、民族混在域であるため紛争が多発している=https://www.y-history.net/appendix/wh1301-058.html=)をロシアから引き剥がしてトルコに与え、それを代償としてトルコを満足させる策がある。イスラエルがやったのはそれだった。(米に乗せられたグルジアの惨敗)
「世界史の窓」より。赤色の地名は首都。アゼルバイジャンはバクー油田のある原油生産地であるため、トルコを通してイスラエルに原油を送っている これだとロシアが怒りそうだ。しかし、実際はそれもない。イスラエル(米諜報界のリクード系)は、ウクライナ戦争を誘発し、ロシアを優勢にして、欧州を自滅させた。世界は多極化・非米化し、ロシアの国際地位は大幅に上がった。ロシアが得たものは大きい。その見返りに、イスラエルが自国の影響圏拡大のため、玉突き的に、ロシアの影響圏だったコーカサスの南部をトルコに与えることは全く許容範囲だ。コーカサスでもグルジアは、露敵視策の影響でロシアの傘下から米欧の傘下に移っていたが、ウクライナ戦争の長期化とともにロシアの傘下に戻った。これもリクード系の采配かもしれない。(覇権の暗闘とイスラエル)
ロシアは最近、コーカサスだけでなくシリアも、イスラエルのせいで影響力を喪失した。2011年、米国のオバマが911以来米国に取り憑いているリクード系を追い出そうとしたのに対し、リクード系はアラブの春やシリア内戦を起こして報復した。困ったオバマはロシアに助けを求め、ロシアは空軍をシリアに派遣して制空権をとった。それ以来、昨年末まで、シリアはロシア(とイラン)の影響圏だった。だが昨年、イスラエルが傀儡化したHTS(アルカイダ。注:シャーム開放機構)にシリアを政権転覆させた時、ロシアはシリアの制空権をあっさりイスラエルに明け渡した。(Netanyahu says victory opens path to expand Abraham Accords)
それがなければ、イスラエルはシリアを空爆できず、HTSは政権を取れなかった。プーチンは、コーカサスだけでなくシリアでも、イスラエルの言いなりになって影響圏を手放した。イスラエル(米諜報界リクード系)の黒幕的な国際政治力は、それだけ強いということだ。リクード系は、ウクライナ戦争の構図を作ってロシアを大幅に強化した。その返礼として、プーチンはシリアやコーカサスでイスラエルの戦略に協力している。(‘New Middle East’: This is Netanyahu’s Real Goal in the Region)
ロシアのプーチン政権は、イスラエル、トルコ、イランと友好関係を結んでいることから、中東地域は中東諸国に任せようと多極化外交を推進しているトランプ大統領も、プーチン大統領と水面下で協調している。多極派に破れた大英帝国末裔の英国がキエフ政権を支持している(傘下に置いている)が、トランプ大統領がバイデン前政権のように、本気でキエフ政権に肩入れすることはない。
イスラエルとの戦争に大敗し、権力が弱体化するイランのハメネイ師
イスラエルとの戦争に大敗し、イランの最高指導者ハメネイ師の権力が徐々に低下しているようだ。米国のCNNは「イラン最高指導者が直面する過去最大の難題 残された選択肢とは」と題する報道記事で、次のように述べている(https://www.cnn.co.jp/world/35235073.html)。
(CNN) イランの最高指導者ハメネイ師はこの40年近く、国内の反体制運動や経済危機、戦争を切り抜けてきた。だがイスラエルと米国による前代未聞の対イラン攻撃は、同師に過去最大の難題を突きつけている。ハメネイ師が次にどんな決断を下すかは、イランと中東地域全体にとって極めて大きな意味を持つ。だが攻撃による損失はあまりに大きく、選択肢はほとんどない。86歳を迎えて健康状態がますます悪化し、後継者も決まっていない状況で、同師は過酷な試練にさらされている。(中略)
イランの最高指導者とされるハメネイ師=ロイター ハメネイ師はかつて機敏な指導者として政治的、経済的な駆け引きを駆使し、体制の存続に邁進(まいしん)した。年老いた今、率いているのは衰退しつつある硬直した国家だ。後継者や核開発計画の行方、親イラン組織の勢力などをめぐる不透明感のなかで、同師は重大な選択を迫られている。同じ体制を再建するか、あるいは自身の権力を脅かしかねない開放路線に転じるかという選択だ。
上記の記事は、CNNのモスタファ・セーラム記者による分析記事だが結局のところ、政治・経済・軍事面で大きな混乱に見舞われ、86歳と高齢でもあることから、イラン・イスラム革命の協和政体の協力な維持は不可能だろう。中東世界は、米露支援のもとでイスラエルが主導権を握り、「アブラハム合意(イスラエルとアラブ諸国家の和解・国交正常化)」の完結に向けて、サウジアラビアやトルコが現実の中東の流れを作っている。その動きに合わせるしか、道はないだろう。

ただし、これからの中東情勢を含む国際情勢はユダヤ教、キリスト教、イスラム教(スンニ派、シーア派)の歴史社会学的な意義を踏まえる必要がある。マックス・ウェーバーは「世界宗教の経済倫理」で「古代ユダヤ教」(完成)から説き起こし、原始キリスト教、イスラム教の成立と発展、中世カトリック教会、近代プロテスタンティズム(近代資本主義の創造、「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神=プロ倫=」を当時の政治・社会情勢を踏まえて抜本的に再編する予定だった。

なお、宗教・政治・経済の相互関連性を実証し、ドイツ歴史学派を乗り越えて歴史社会学の分野を切り開いたマックス・ウェーバーは、何度も改訂版を出した「プロ倫」で、ユダヤ人が近代資本主義を生み出したとするウェルナー・ゾンバルト(注:国民経済の歴史性を重視し、後進資本主義の立場から保護貿易主義を説いた最後のドイツ歴史学派の人物)と徹底的に対決したことで知られる。このため、「陰謀論」とされることが多いが、欧米史の裏で暗躍した「宮廷ユダヤ人」について、新たに考察したかも知れなかった。ウェーバーは世界の三大一神教の政治・経済的・歴史社会学的意義を明らかにしようとした矢先の1920年6月、他界した。