英国、スタグフレーション入り本格化かー米側陣営、対露経済制裁で自縄自縛に(追記:始まった陣営の金融破綻劇)
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英国でトラス首相が大型「財政出動政策」(約450億ポンド、7兆6000億円)で失敗して辞任を発表後、保守党の党首選が最終段階を迎えている。しかし、英国の保守党が経済悪化の主因であるロシア敵視政策を辞める可能性はまずないから、誰が保守党党首に選出されても英国を皮切りに米側陣営では不況とインフレが併存するスタグフレーション入りが本格化しそうだ。

英国のエスタブリッシュメントに対して「国民の生活が第一」のナショナリスト派が台頭

グリニッジ標準時刻の10月24日に締め切られる今回の英国保守党の党首選では、立候補には同党所属の英議会下院議員(357人、下院の定数は650人)の100人以上の推薦を得る必要があるが、日本時間10月23日午前8時の段階では、ジョンソン政権(当時)で財務相を務めたスーナク氏が120人余りの推薦人を確保しているという。続いて、ジョンソン前首相には非公式では100人余り、公式では50人余り、国防大臣、女性・平等担当大臣、国際開発大臣などを歴任したモーダント氏(女性)には20人余りの議員が支持を明らかにしているとのことだ(https://www.bbc.com/japanese/63355158)。

モーダント氏に加え、スーナク氏もジョンソン前首相との会談後、出馬を表明した模様だ(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221023/k10013867991000.html)。ジョンソン氏は党首選の出馬を取り止めるという(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221024/k10013868251000.html)。

イギリスでリズ・トラス首相の辞意表明を受けて、与党・保守党の党首選び、つまり次期首相選びが本格化している。リシ・スーナク元財務相はすでに、党首選出馬に必要な保守党議員100人以上の推薦を集めた様子。今年夏の党首選で決選投票までトラス氏と争ったスーナク氏について、スーナク氏の選対関係者によると、今回の党首選の候補になるために必要な下院議員100人の推薦が集まっているという。BBCの集計では、スーナク氏はすでに114人の支持を得ている。

BBCのクリス・メイソン政治編集長によると、ジョンソン氏も22日午後の時点で出馬に必要な100人の推薦を集めたと、ジョンソン氏の選対担当は話している。他方、BBCの集計では、公にジョンソン氏支持を表明している保守党の下院議員は50人。カリブ海のドミニカ共和国で家族と休暇中だったジョンソン氏は、急きょ帰国し、22日午前にロンドンに到着した。

夏の党首選で3位になったペニー・モーダント下院院内総務は21日、先頭を切って出馬の意向を正式表明した。これまでに保守党議員22人の支持を得ている。

トラス首相は首相就任直後に法人税最高税率・所得税最高税率引き上げ凍結を含む450億ポンド(7兆6000億円)の「大型減税」を発表、また、ガソリン価格の急騰に対処するため10月01日から2023年03月31日まで総額600億ポンドの支援金を国民に支給し始めた。財源は不明確で当座は新規国債の発行で調達するということだったが、金融市場の不安を招き、最終的には中央銀行のイングランド銀行が国債などの債券を「市場価格」で無制限に買い上げるということになった。

しかし、国債を含む債券価格は既に相当下がっており(金利は上昇している)、債券価格の先行きもQE(Quantitative Easing=量的金融緩和政策、イングランド銀行が金融市場から債券を無制限に購入する「金融政策」=)に戻るのか、QT(Quantitative Tightening=量的金融引締め政策=、イングランド銀行が購入既発債券を市場に売却して資金を引き揚げる「金融政策」)を強化するのか不透明なため、金融・資本市場には債券価格の見通しが立たなかった。このため、国債を含む債券は売れず金利は上昇(10年物国債は一時、危険水域の4.3%に達したことがある)して株安・債券安・ポンド安のトリプル安が起こり、市場は混乱した。

トラス首相は責任を腹心のクワーテング財務相になすりつけたが、「大型減税政策」の完全撤回で求心力が急速に低下し、英国政治史上最も短命の首相(在任期間45日程度)になることが確実になった(韓流ドラマ「7日の王妃」のタイトル=題名=がサイト管理者(筆者)の頭をよぎった)。ここで重要なことはトラス首相が大型減税政策を唱導したことと、ガソリン価格の急騰のため総額600億ポンドもの支援金を出したことだ。

これは、英国経済が不況に見舞われていることを示すとともに、インフレにも苛まれていることを如実に示すものだ。特に、インフレ率は最悪の状況になっている。BBCの日本語版は「英インフレ率、過去40年で最高を記録 家計を圧迫」と題する記事で、次のように報道している(https://www.bbc.com/japanese/62585859#:~:text=%E8%8B%B1%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E7%B5%B1%E8%A8%88%E5%B1%80%EF%BC%88ONS,%E3%82%92%E5%9C%A7%E8%BF%AB%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82)。

英国家統計局(ONS)は17日、7月のインフレ率が前年同月比10.1%と、1982年以来の高水準となったと発表した。食品価格の高騰を受け、前月の9.4%を上回った。イギリスでは現在、物価上昇率が賃金上昇率を上回っており、生活費の高騰が家計を圧迫している。中央銀行のイングランド銀行は、インフレ率は年内に13%を超える可能性があると指摘している。

ロシアのウクライナ侵攻を受けた世界的な食品価格の上昇が、スーパーマーケットでの買い物でかかる費用を押し上げている。ロシアとウクライナは共にヒマワリ油や小麦の主要輸出国だが、戦争によって供給が止まってしまっている。一部の食品、特に穀物や食用油の供給は大幅に改善されたものの、スーパーでの価格に反映されるには約6カ月のギャップがあるという。

ガソリン価格の急騰もロシアに対する史上空前の経済制裁の跳ね返りによるものだ。「大型減税」の提示に象徴される不況とエネルギー価格・食品価格の上昇に示されるインフレの併存、つまり、米側陣営のスタグフレーションは英国を皮切りにいよいよ本格化しつつある。実は、トラス首相誕生の原因になったのは、マスメディアが騒いだようなジョンソン首相(当時)のスキャンダルによるものではない。英国がスタグフレーションに陥っていることへの対処のためだ。この点、国際情勢解説者の田中宇(さかい)氏は次のように指摘している(https://tanakanews.com/220708boris.htm、無料記事)。

7月7日、英国のジョンソン首相が辞意を表明した。彼が率いてきた与党の保守党が新しい党首・首相を決めるまでは暫定的に留任する。保守党内では、5月ごろからジョンソンを支持しない議員が増え、6月初めには議会に不信任案が提出されたが僅差で否決された。その後も保守党内のジョンソン不支持は拡大し、閣僚の辞任が相次いだため、ジョンソン自身が辞任を決めた。保守党の議員団がジョンソンを支持しなくなった理由は、周辺の性的スキャンダルや宴会騒動など倫理的な不祥事の連続だとされている。だが私が見るところ、真の理由はそうでない。保守党がジョンソンを辞任させねばならなかった真の最大の理由は、ジョンソンが米国と結託し、G7を率いてロシアや中国を敵視している戦略の大失敗が確定し、このままだとロシアなど非米諸国から米国側への経済的な報復によって、英国を含む米国側の全体が、エネルギー穀物など資源類の高騰と不足によって経済破綻しかねないからだ。 (BoJo Urges Allies to ‘Steel’ Themselves For ‘Long’ Ukraine Conflict, Offers Plan to ‘Recruit Time’) (‘The clown is leaving’ – top Putin ally on PM Johnson

ジョンソンの英国は、米諜報界のネオコン勢力と結託し、ウクライナの反露な極右政権をテコ入れし、露中を敵視し、NATOやG7の諸国を引きつれて新冷戦の世界体制を作ろうと画策してきた。これは、英国の最上層部に当たる諜報界の世界戦略だ。ジョンソンは、それを遂行するために首相をしていた。米諜報界が英諜報界を乗っ取って、ジョンソンに露中敵視策をやらせていたと言っても良い。英国の自滅策となったEU離脱も、米諜報界が英国を乗っ取ってやらせたことだ。ジョンソンは、EU離脱を強硬に進めてきた政治家でもある。英保守党には、英国が米諜報界に乗っ取られて自滅させられていくことを阻止したいナショナリストがけっこういて、彼らは以前からジョンソンを敵視していた。 (‘Her Majesty’s Russia Unit’: How British spies have launched a full-scale propaganda war to demonize Moscow) (新型コロナでリベラル資本主義の世界体制を壊す

EU離脱、新型コロナ対策、露中敵視と、米諜報界が英国を自滅させようとする動きが重なっていき、保守党内のナショナリストとジョンソンの対立も激化し、最終的に最近のロシア敵視の失敗の確定を受け、保守党内でナショナリストの力が強まり、ジョンソンを辞任に追い込んだ。諜報界の戦略は非公式なものなので、その失敗を理由に首相に辞任を迫ることはできない。だから代わりに宴会ゲートなど倫理的な不祥事をあげつらってジョンソンを辞めさせようとしてきた。 (UK’s Boris Johnson Urges Ukraine Not to Negotiate With Russia) (英国のEU離脱という国家自滅

保守党内のナショナリストと米諜報界(注:軍産複合体・ネオコンを中心とするアングロサクソンによる世界支配勢力)の支配下にあるジョンソン政権との対立抗争の妥協の産物としてトラス新政権が誕生したが結局のところ、ジョンソン氏よりのトラス首相が誕生した。しかし、米諜報界がマスメディアを使って、インフレの原因が対露経済制裁の跳ね返りである資源・エネルギー、貴金属、穀物価格の国際的な上昇というコストプッシュ型インフレであることを世界の諸国民の前に明確にさせず、需要抑制政策に過ぎないQT(Quantitative Tightening=量的金融引締め政策=)を強化しようとしている(注:要するに、国民の所得がなくなる不況政策で対応しようとしている)ため、その支配下にある米側陣営諸国はインフレを克服できず、不況も持続するスタグフレーションに陥るほかはない。

トラス政権はその象徴的な例で、生煮えの経済政策しか打ち出せなかったため、金融市場から退出を命ぜられた形で終わってしまった。一時的には、大型減税や国民に対するエネルギー支援金の財源として国債を発行し、金融機関を迂回してイングランド銀行が引き受ける(実質的な国債の中央銀行引き受け。形式的には中央銀行による国債の直接的引き受けは禁じられている)ということをすれば、金融市場から退出を迫られることはなかっただろうが、田中氏の指摘する米諜報界の意向には逆らえなかったということだろう。

ただし、現在の物価情勢では、金融機関を迂回した中央銀行の事実上の国債の直接引き受けはインフレをますます加速する。特に、日本では敵地反撃能力(敵地攻撃能力)と称して、新発国債を増発して高性能軍事兵器を米国の軍産複合体から購入すれば、軍事兵器はインフラ設備や消費財を破壊する消費財に過ぎないため、猛烈なインフレーションを引き起こす。消費税は社会福祉向上のためというのが建前(実際は法人税、所得税の引き下げのための財源でしかなかった)であるから、消費税増税による軍事力の大幅増強は論理的に困難だ。

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明日10月24日(英国時間、グリニッジ標準時間)に締め切られる保守党党首選はやはり、米諜報界派と英国ナショナリスト派の戦いになると思われるが、田中氏の分析によると英国は既に米諜報界に牛耳られているので、ジョンソン首相時代に財務相を務めたスーナク氏ら米諜報界派が勝つことになるだろう。ただし、英国民の目をインフレに向けさせてQTを強化するだろうから、スタグフレーションが本格化することは避けられない。

米側陣営がスタグフレーションを克服するためには、ロシアと和解する(実質的には謝罪して、終戦に持ち込む)以外にない。というのも、米諜報界とその傀儡政権であるウクライナには、次のような問題があるからだ。第一に、東西ドイツ統一時期にブッシュ(父)大統領とベーカー国務長官はソ連のゴルバチョフ大統領とシェワルナゼ外相に対して、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大はしないと約束したが、この約束を完全に破った。なお、米側陣営は冷戦終結後、NATOの東方拡大や中東産油国への軍事攻撃を展開する傍ら、弱肉強食の新自由主義の考えを世界各国に輸出し、世界諸国を非米側陣営に追いやるという致命的な誤りを展開した。冷戦の戦後処理に完全に失敗したと言える。

第二に、NATOの東方拡大の最終目的はウクライナだったが、オバマ大統領時代のバイデン副大統領がビクトリア・ヌーランド国務次官補らに命じて、ステパン・バンデラを開祖とするネオ・ナチ勢力を利用してウクライナに傀儡政権を作らせた。その最終段階が、平和で合法的なデモ活動に発泡して引き起こした2014年02月の非合法マイダン暴力革命だ。第三に、ウクライナの米国(諜報界)傀儡政権は東部ドンバス地方のロシア系住民を大量虐殺したため、2015年02月にミンスク合意Ⅱが成立したが、ウクライナの傀儡政権はミンスク合意Ⅱを守らなかった。第四に、現在のゼレンスキー政権はバイデン政権発足後、ロシア系ウクライナ住民に対する弾圧を一段と強化した。

こうした米諜報界の悪徳行為のために、ロシアはウクライナのロシア系ウクライナ住民を守るため「特殊軍事作戦」を展開せざるを得なかったと見られる。

なお、田中氏の持論は、米諜報界(軍産複合体とネオコン勢力など)はQT(Quantitative Tightening=量的金融引締め政策=)など過激な政策を米側陣営に強要し、米側陣営諸国を自滅させているという。これには、資本の論理が絡む(「アフリカのクーデター頻発の意味」https://tanakanews.com/221019africa.htm、無料記事)が、サイト管理者(筆者)の理解では、米国は英国から譲り受けた一極単独世界支配体制を維持する能力も意思もなくなっており、文明の大転換期に遭遇しているということだと思っている。

英国では「国民生活が第一」派のナショナリスト派が次第に勢力を伸ばしているようだ。なお、マス・メディアでは「国民生活が第一」のナショナリスト派に対して、移民排斥の右翼ポピュリスト派と軽蔑した名前を付けている。また、欧州大陸諸国ではフランス(国民議会選挙)やドイツ(AfD=ドイツのための選択肢=、連邦議会=衆議院に相当=の野党ではキリスト教民主同盟に次ぐ議席数を持つ)、スウェーデン、イタリアで既に国民生活が第一」のナショナリスト派が政権を握りつつあるか、または、掌握している。イタリアでは国民生活が第一」派のナショナリスト派政権が誕生した。NHKでは10月22日20時21分、「イタリア 右派政党メローニ党首 初の女性首相に就任」とする報道記事を公開している。

先月のイタリア議会選挙で第1党となった右派政党「イタリアの同胞」のメローニ党首が新たに首相に就任しました。連立政権内の各党のロシアに対する姿勢の違いを調整してEU=ヨーロッパ連合との関係をどう構築していくかが焦点となります。

先月のイタリア議会選挙で第1党となった「イタリアの同胞」のメローニ党首は22日、首都ローマの大統領府での宣誓式を経て、イタリア初の女性首相として就任しました。新たに発足したメローニ政権は、サルビーニ元内相が率いる「同盟」とベルルスコーニ元首相の「フォルツァ・イタリア」との連立政権です。サルビーニ氏はウクライナ侵攻をめぐるEUのロシアへの制裁を批判しているほか、ベルルスコーニ氏はロシアのプーチン大統領と個人的に親しい関係で知られています。

NHKなどでは、ロシアのプーチン大統領と対話ができる国の政治家に対しては、「ロシアのプーチン大統領と個人的に親しい関係」という言葉をいつもつけるが、プーチン大統領と対話が出来る政治家は、「国民生活が第一」のナショナリスト派によって支持されていることを意図的に伝えない。大陸欧州諸国ではスタグフレーションが本格化し、ウクライナに対する軍事的・経済的支援は困難になるだろう。

また、米側陣営のマス・メディアは冬季に入ってのロシアの火力発電所など、重要な社会インフラへの攻撃を一方的に非難する。しかし、これはクリミア半島とロシアを結ぶ交通の大動脈であるケルチ大橋(クリミア大橋)がウクライナ傀儡政権のテロ行為によって爆破されたことへの報復であることに対する言及がない(ロシア側がミサイル攻撃のためにケルチ大橋=クリミア大橋=を自ら爆破した可能性はほとんどないだろう)。ゼレンスキー政権は、ロシア側へのテロ攻撃がロシア側の報復をもたらすということを考慮しなかったのか。米側陣営のマス・メディアでさえ、同政権の焦りを伝えている。

なお、米国を盟主とするNATO諸国のウクライナへの軍事支援は、ウクライナのゼレンスキー政権の傀儡化をほとんど完成させている。「タダより高いものはない」のである。ウクライナは国家としての独立性を完全に失うことになる。サイト管理者(筆者)としては、ウクライナのゼレンスキー政権は強力な独裁政権化しており、戦争の非常事態という隠れ蓑はあるが、もともと民主主義とは縁もゆかりもない政権と思っている。4400万人のウクライナ国民のうち、少なくとも3割程度の1200万人が海外への脱出生活を余儀なくされ、戦闘に参加可能な男性はウクライナに閉じ込められている。「国民が一人になってもロシアと戦う」というゼレンスキー大統領の言葉は、国家(主権、国民、国土からなる)というものの意味を忘却した暴言だろう。

南部ヘルソン州のロシア側州知事らがロシア軍と連携を取って同州の住民を退避させるのも、ウクライナ東部、南部にはロシア系ウクライナ住民が圧倒的に多いため、ゼレンスキー傀儡政権の攻撃からこれらの住民を守る意味があるものと思われる。ウクライナは建国からの期間が短く、しかも、ロシア系ウクライナ国民が6割から7割を占めることに注意が必要だ。なお、米側陣営のマス・メディアはゼレンスキー傀儡政権の許可の下でしか取材活動をしていない。結局のところ米側陣営のマス・メディアは、米国とゼレンスキー政権の広報機関になり下がってしまっている。

なお、対露経済制裁によってロシアの軍事産業は高性能軍事兵器に必要な半導体の不足などで大打撃を被っているとの喧伝もなされるが、非米側の中国やインドはIoT(Internet of Things=インターネットによる制御が可能な製品=)の大国だ。ロシアは天然ガスや原油をインドや中国に売却しているから、これらの国との貿易によってIoTを確保できる。小回りの効く国家としては、ベトナムが存在する。イランが正式に加盟した上海協力機構(SCO)も非米側陣営に属する。中東産油国の盟主・サウジアラビアやBRICsのブラジルもそうだ。

世界は今や、米側陣営と非米側陣営の対立・抗争が激しくなっており、①軍事②情報③経済ーにわたる「複合戦争」の様相を呈している。しかも、米側陣営の大陸欧州諸国でも「国民生活が第一」のナショナリスト派が台頭し、国政に重大な影響を与えてきている。米国では、かつての米諜報界には与しないトランプ前大統領に対する締め付けが強化されているが、かえってトランプ共和党支持者の反発を被るだけだろう。今後の世界情勢に取って11月08日の米中間選挙が当面の最大の焦点になる。

米側陣営で始まった金融破綻劇ーNATO・ウクライナ傀儡政権、複合戦争で敗北か

国際情勢解説者の田中宇(さかい)氏が10月23日に公開した最新の論考「巨大な金融危機になる」(https://tanakanews.com/221023tbill.php、有料記事)によると、水面下でささやかれているスイス最大手銀行で国際的にも「大きすぎて潰せない銀行」のひとつであるクレディスイス救済のため、米国の中央銀行がスイスの中央銀行に対し、「通貨スワップ協定」に基づいて10月5日に31億ドル、10月12日にはその2倍の63億ドルをドル資金を注入したが、10月19日には、前週の約2倍の111億ドルをスイス中銀に注入したという。クレディスイス救済のためだ。

スイスのチューリヒのクレディスイス本店

10月19日のスイス中銀に対する111億ドルの資金注入というのは異例の(異常な)事態だ。米英が進めているQT(Quantitative Tightening=量的金融引締め政策=)で米側陣営では金利が上昇している(債券などの金融商品は価格が下がる)が、金利が大幅に上昇すれば金融機関は取引の同行との解消や金融商品売却に対処できなくなる。ただし、米英が急騰する物価(激しくなりつつあるインフレ)に対処するために進めているQT(Quantitative Tightening=量的金融引締め政策=)を強化しても、急騰するインフレには対処できない。現在の米側陣営のインフレはコストプッシュ型のインフレであり、需要を抑制する(不況を加速する)金融引締め政策では対応できないからだ。

田中氏は最新論考に関して、リード文は次のように記されている。

今のところ、米連銀がスイス中銀を経由して用意したドル資金によって、クレディスイスとの取引を解消したい人、金融商品を売りたい人は、無事に引き出し・売却をして現金を手にしている。だが今後もし、用意した資金を上回る引き出し・売却があった場合、対応しきれず債務不履行・破綻になる。米欧の金融市場は全般に、米英などの中銀群が進めている(効かない)インフレ対策としての利上げとQTにより、以前のゼロ金利QE時代のカネ余り状態から、一転して資金不足・リスクプレミアムの上昇・流動性の危機に直面している。インフレは悪化し続けているので米連銀は今後も利上げを続け、資金不足はさらにひどくなる。

本文から一部を引用させていただきたい。

今のところ、米連銀がスイス中銀を経由して用意したドル資金によって、クレディスイスとの取引を解消したい人、金融商品を売りたい人は、無事に引き出し・売却をして現金を手にしている。だが今後もし、用意した資金を上回る引き出し・売却があった場合、対応しきれず債務不履行・破綻になる。米欧の金融市場は全般に、米英などの中銀群が進めている(効かない)インフレ対策としての利上げとQTにより、以前のゼロ金利QE時代のカネ余り状態から、一転して資金不足・資金コストやリスクプレミアムの上昇・流動性の危機に直面している。インフレは悪化し続けているので米連銀は今後も利上げを続け、資金不足はさらにひどくなる。 (Investors should brace: shocks are on the way) (How An Illiquid Dollar Ruins The World

クレディスイスのように中銀群からの資金供給がないと資金不足で破綻する金融機関がこれから増える。中銀群はいずれ対応しきれなくなり、大規模な金融危機になる(というか、今すでに起きている金融危機が激的に悪化する)。リーマン危機以上の債券市場の崩壊・凍結になる。このような展開になる懸念があると、イエレン米財務長官も認めている。英国はすでに国債危機で、金利上昇は今後も続くのだから、トラス首相が辞めても危機は去らない。道化師トラスは英国にとって「(EU離脱よりは小さな)国家破綻への引き金の一つ」にすぎなかった。英国の国債危機が米国の債券危機に発展するのは時間の問題だと、バンカメなど大手銀行の分析者が言っている。 (Hedge Fund CIO: “I’m Growing Extremely Concerned About The Market. We’re Close To A Broad Liquidation Point For Markets”) (After U.K. Market Blowout, American Officials Ask: Could It Happen Here?

バイデン政権下のイエレン財務長官(米国の米国連邦準備精度理事会=FRB=議長を歴任)の発言としては、「イエレン財務長官、米国債市場の「十分な流動性」の喪失を懸念」と題するブルームバーグ(日本語版)の次のような報道がある(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-10-12/RJNU7YDWX2PS01)。

イエレン米財務長官は12日、米国債取引が機能不全に陥る懸念に言及した。財務省は米国債市場のてこ入れに向けた取り組みを主導している。イエレン長官はワシントンで行った講演後の質疑応答で、「米国債市場で十分な流動性が失われることをわれわれは懸念している」と指摘。米国債の供給全体は増えているが、マーケットメーキング(値付け)に携わるブローカーディーラーのバランスシート能力はさほど拡大していないとの認識を示した。

なお、同財務長官はQTを強化すべきであると語っている。ただし、その影響については注意が必要であるとも語っている(https://news.yahoo.co.jp/articles/6b290939a319bee0719599f1eb0d63695ea989ef)。

(ブルームバーグ): イエレン米財務長官は6日、主要国・地域の中央銀行に対し、インフレ抑制のための闘いを継続するよう呼び掛けた上で、世界的に影響が波及する可能性があることも認めた。イエレン長官はワシントンのシンクタンク、センター・フォー・グローバル・デベロップメント(CGD)で講演。事前に準備した講演原稿によれば「主要国の政策当局者は高インフレ抑制の政策を継続する必要がある一方で、世界への影響にも引き続き留意しなければならない」と述べた。

FRB議長を務めたイエレン財務長官とあれば、現在の米側陣営の激しくなりつつあるインフレがウクライナ戦争に対する強力な対露経済政策の跳ね返りが原因のコストプッシュ型インフレであることを理解していないはずがない。重要抑制政策(不況政策)としての金融引締め政策=QTを強化すれば、米側陣営に金融破綻とともに不況とインフレが併存するスタグフレーションが襲来することも承知しているはずだ。

こうなると、米国を盟主とするNATO諸国もウクライナに軍事・経済支援を続けるわけには行かない。急騰している物価(激しくなりつつあるインフレ)に対処する唯一の道は既に述べたように、バイデン政権がロシアに謝罪してウクライナ戦争を早期に終わらせる以外にないが、バイデン政権にはそれができない。民主党が過半数を失うとの見方が少なくない11月08日の米中間選挙が大きな節目になる。イエレン財務長官自身は否定しているが、中間選挙後に財務長官を辞任するとの報道も増えている。

米側陣営の金融・経済崩壊と宗教法人・世界平和統一連合の改革の方向について

なお、世界平和統一家庭連合(旧世界基督教統一神霊協会:略称統一教会)の勅使河原秀行改革本部長は同宗教法人の内部改革について記者会見を行った(https://www.youtube.com/watch?v=vZDdVt4TTZo)。けれども、同連合は宗教法人としての法人内改革だけでなく、ウクライナ事変(現在、ウクライナ戦争に移行)の本質を理解し、同連合の創設者である文鮮明師が語ったとされる「キリスト教国家である米国が神からの使命を果たさなければ、神の祝福は(注:旧)共産圏に移る」との預言の正しい理解に努める必要がある。

戦後世界を主導してきた米英両国は明らかに、冷戦終結後の処理を誤ったどころか世界平和の実現とは真逆の道を突き進んでいる。このため、事実上の「滅共運動」である「反共運動」を見直すことで、文鮮明師の唱導した「統一思想・頭翼思想」を社会科学のレベルからも評価できるように再編・整備したうえで、新たな運動論の基盤にして根本的に改めて朝鮮半島の平和統一と世界平和に貢献できる道筋を明らかにする必要がある(https://www.it-ishin.com/2020/08/16/historical-sociology-2/)。世界平和統一家庭連合に対する日本国民の正しい理解はここから始まる。


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