習近平一強体制の確立、鄧小平路線との決別ー米側陣営の没落と露中を中心の非米側陣営の台頭で文明は大転換期に

10月16日から22日まで開催された中国共産党大会で、習近平一強体制が確立された。これは、米側陣営がウクライナ戦争で破綻する中、米欧日の協力の下、改革・開放路線で中国を世界の経済・軍事大国にした鄧小平路線がその役割を終え、露中を中心とした非米側陣営の国際新秩序の創造を象徴する出来事である。時代はまさに文明の大転換期に来ているが、新たな文明は欧米文明(西欧文明)の成果(主権への国民の確立や基本的人権の尊重、博愛精神に基づく平和主義)を継承するものでなくてはならない。その意味で、非米側陣営による国際新秩序の創出には懸念が残る。

米側陣営諸国、金融破綻とスタグフレーション深刻化で欧米文明終焉へ

中国共産党大会で習近平一強体制が確立された背景について述べる前に、改めて米側陣営諸国の政治・経済・社会情勢が極めて困難な情勢に陥っていることを述べておく必要がある。英国でリザ・トラス首相(当時)が失敗・失脚したことはその例であるが、クレディスイス銀行の経営不安も米側陣営のシステマチックな金融破綻の序章である公算が大きくなった。

クレディスイスは10月27日に投資銀行部門の切り捨てによる再建策を発表したが、同社の株価は前日19%下落した(https://coinpost.jp/?p=401796)。

スイスのチューリヒにあるクレディスイス・グループの総本山

スイス第二の大手銀行クレディ・スイス・グループは27日、2022年第3四半期(7-9月)決算を発表。4四半期連続の赤字となり、40億3000万フラン(約6,000億円)の純損失を計上した。損失の16%(約979億円)は投資銀行部門によるもの。再建プランに関する不確実性の中で、富裕層顧客が資金を引き揚げ、129億フラン(約1.9兆円)の純流出となっている。同日にクレディ・スイスは事業再建プランを発表しており、証券化事業(SPG)の一部売却など業績不振が続く投資銀行部門を縮小する一方で、主力事業であるウェルスマネジメント部門を中心に収益安定化を図る。(中略)

クレディ・スイスの再建策について、市場からは失望の声が上がっている。有形自己資本利益率(ROTE)の25年の目標値が他の大手銀行より低いこと、再建プランの複雑さ、投資銀行部門の圧縮が不十分であることが指摘されている。(ROTE:自己資本(貸借対照表の純資産)に対する純利益の割合で、株主の投資額に対してどれくらいの利益を生み出しているかを示す指標)

27日の米株式市場でクレディ・スイス株は急落し、19%急落して引けている。1日当たりの下落率として過去最大だった。同社の株価は22年に57%下落。10月28日時点の時価総額は約1兆4,770億円(102億ドル)で、昨年の3兆2,280億円(223億ドル)から半減した。

10月27日のクレディスイスの株価の動きは次のようになっている。

金融界ではクレディスイスの経営不安が経営破綻につながり、リーマン・ショックのような金融・資本市場のシステミック・リスクが起きるとの見方は少ないようだが、クレディスイス・グループの経営再建については、懐疑的な見方も強まっている。米英では、高進するインフレ沈静化のためにQT(Quantitative Tightening=量的金融引締め政策=)を強化することになっているが、現在のインフレがウクライナ戦争による対露経済制裁の返り血を浴びた資源・エネルギー価格や穀物価格の輸入価格の高騰などコストプッシュ型インフレであるため、QTを本格化しても効果はない。むしろ、需要を抑制するから不況を加速し、インフレが併存するスタグフレーションが本格化することになる。

米国とスイスとの通貨スワップ協定によって米国からスイスへ、10月5日には31億ドル、10月12日にはその2倍の63億ドル、10月19日には前週の約2倍の111億ドルもの巨額のドル資金がスイスの中央銀行に注入されているが、これはクレディスイスの破綻を防ぐための苦肉の措置と思われる。しかし、QTの本格化で米側陣営では金利が急上昇(債券価格、株価を含めた証券価格は下落)しているから、クレディスイスの再建は用意ではない。このため、上記の報道記事が伝えているように、再建プランに関する不確実性の中で、今年2022年第三・四半期は富裕層顧客が資金を引き揚げ、129億フラン(約1.9兆円)の純流出となっている。

なお、余談だが日本の円相場はどんどん下がっている。これが、日本での消費者物価指数の上昇(9月前年比3.0%上昇)に悪影響を与えていることは確かで、日本が保有している米国債を売却し、売却で得たドル資金でドル売り・円買い介入をすべきだとの意見もある。しかし、米国債の売却は同国債の価格下落(金利上昇)をもたらし、同国の不況ないしスタグフレーションを深刻化する。その場合、ドル相場の行方ははっきりしない。本来なすべきことは、ウクライナ戦争の深層・真相を理解し、米国とNATO、ゼレンスキー傀儡政権側が自らの非を認めて、ウクライナ戦争を終結させることである。

こうした優良顧客の資金引き揚げが続けば、クレディスイスの経営危機が一段と強まり、最終的にはリーマン・ショックと同程度以上の米側陣営の金融破綻が起きる可能性が高いと見るべきだろう。要するに、米側陣営では今冬から金融破綻危機、スタグフレーションが本格化するだろう。なお、10月25日にドイツでウクライナ復興支援会議が開かれたが、ウクライナ側は7月の会議で復興に7500億ドル、日本円で110兆円余りが必要だと示していて、ドイツのショルツ首相は第2次世界大戦後のヨーロッパの復興計画「マーシャルプラン」に匹敵する大規模な事業になるとして、各国に協力を呼びかけたという(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221026/k10013870391000.html?utm_int=nsearch_contents_search-items_015)。スタグフレーションに本格突入する米側陣営諸国にそんな余力はないだろう。

非米側陣営による新文明創出を意味する中国共産党大会

話を本稿の主要話題に転じると、今回の中国共産党大会では、党のトップである総書記に習近平氏が再選され、その内閣といえる政治局常務委員も習近平派で固められた。中国は周知のように一党独裁国家であるから、来年3月の全国人民代表大会(全人代)でその習近平党総書記が国家主席を続投することになる。

こうした中で、今回の大会では、習近平総書記の隣に座っていた胡錦濤前党総書記・国家主席が大会から追放されるシーンが全世界に流された。国際情勢解説者の田中宇(さかい)氏が10月27日に公開した「習近平独裁強化の背景」(https://tanakanews.com/221027china.htm、無料記事)によると、この出来事は鄧小平が発案し、江沢民、胡錦濤国家主席(当時)が継承・発展させてきた「改革・開放路線」(「赤い資本主義」)がその使命を達成し、むしろ貧富の大格差社会をもたらすなどの弊害を引き起こしていることから、習総書記がその幕引きを図ったものだという。

中国は毛沢東時主席代に「文化大革命」と「自力更生」路線を大々的に行い、大失敗した。これを見越して、米国のディープ・ステート(DS、軍産複合体)が、ソ連帝国との冷戦に勝つためニクソン大統領・キッシンジャー大統領補佐官の「忍者外交」を行わさせ、中国を米側陣営に組み込んだ。もっとも、その成果を横取りしたのは日本である。1970年代に米国がウォーター・ゲート事件でニクソン大統領が弾劾されるという大混乱の中、田中角栄首相(当時)が1972年9月に訪中して「日中共同声明」を発表し、①中華人民共和国が中国の唯一の合法的で正統な政府である②台湾は中国(中華人民共和国)の領土の不可分の一部であるーことを承認し(recognize)、多数の日本企業が直接投資で技術移転と中国人民の雇用を行い、改革・開放路線の成功に大きな貢献をした。

米国が中国に対する「関与政策」を開始したのは「米中共同声明」を発表した1979年12月以降だ。ただし、「台湾が中国(中華人民共和国)の領土の不可分の一部である」という中国の主張については、「acknowledge(認知する)」にとどめていて曖昧にしている。そして同じ時に「台湾関係法」を結んで、高性能軍事兵器を売却するなど「台湾独立」運動も支援できる余地も残している。現在では、トランプ大統領時代(当時)の末期にポンペオ国務長官が「関与政策」の放棄を宣言し、米国バイデン大統領にも引き継がれている。最近では、バイデン政権側が「台湾がウクライナのようになる」と的はずれな圧力ないし脅しもかけているようで、中国習政権側が強く反発している。

しかし、時は既に遅く、中国では改革・開放路線が成功し、毛沢東時代とは異なって非米側陣営の盟主として科学技術・経済の自力発展が可能になった。現在では、購買力平価で世界第一の経済大国である。しかも、「一人っ子政策」を廃止し、「二人」までは子女をもうけることができるようにしたから、内需の厚みは増していくだろう。こうなると、軍事大国化も必然のことになる。こうした毛沢東時代との経済的基盤が全く異なったことから、習近平総書記は米国と近い江沢民、胡錦濤国家主席や李克強首相らを廃して、習近平一強体制を築き上げたわけだ。田中氏の論考の一部を引用させていただきたい(トウ小平は鄧小平に改めさせていただいた)。

米覇権や欧米中心体制の永続を前提にしてきたトウ小平路線と対照的に、習近平の路線は、米覇権が縮小し、米覇権の外部にある非米諸国が相対的に台頭して多極型の世界になることを前提にしている。習近平は、ユーラシアの内陸や西アジア、アフリカ、ロシアなどの非米諸国をつなぐ「一帯一路」の経済圏など、非米諸国との経済関係を強化して中国を発展させていこうとしている。鄧小平から胡錦涛までの時代、中国人の世界観は欧米中心だった。鄧小平路線の人々の多くは今も、米覇権の不可逆的な衰退を見据えていない。習近平が、米覇権の衰退を前提に、欧米と距離を置き、非米諸国との経済関係を主軸にしたがっていることに、鄧小平路線の人々は猛反対してきた。鄧小平路線は40年近く続いてきたので、中国のエリートの多くはそこにどっぷりひたっており、その路線下で蓄財してきたので転向したがらない。習近平が自分の路線を人々に学習させても本質的な理解者は少数で、集団指導体制だと中共中央は守旧派(市場主義派)が大半になり、鄧小平路線から離脱できない。それで習近平は独裁強化に踏み切った。 (中国の権力構造

今後は、中国とロシア、インド、サウジアラビアなどが非米側陣営の中心になり、政治・経済・軍事面で新たな国際新秩序を形成していくだろう。これに関してNHKが中露両国の外務大臣が両国の関係強化を確認する記事を報道している(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221028/k10013861141000.html)。

中国共産党大会が終わり、3期目の習近平指導部が発足してから初めてとなる中国の王毅外相とロシアのラブロフ外相の電話会談が27日行われました。中国外務省によりますと、王外相は会談で、今月開かれた共産党大会で習近平国家主席が党のトップに選ばれたことを報告するとともに、プーチン大統領が習主席に祝電を送ったことに謝意を示しました。そのうえで「中国は激動の世界にさらなる安定をもたらすため、両国の関係と各分野の協力をより高い水準に推進することを望んでいる」と述べ、友好関係を確認したということです。

一方、ロシア外務省は声明で「双方は地政学的にも不安定で混乱した中でも関係が引き続き発展している」としています。またラブロフ外相は「ウクライナ周辺の情勢についてロシアの立場を支持する中国に感謝する」と述べたとしていてウクライナ情勢をめぐりロシアが欧米と対立を深める中、中国がロシアを支持していると主張しました。

最後の引用は、ロシア側の勝手な主張のような書き方をしているが、ロシアは中国やインドに対して天然ガスや原油を割安で輸出している。その見返りに、中国やインドがIoT(Internet of Things:製品のインターネット化、インターネットで制御できる製品)を輸出したとしても不思議ではない。「基軸通貨」とされるドルに代わる新たな国際決済システムを構築中と見た方が自然である。なお、日経グループの調査によると、世界諸国民の人口では64%が暗にロシアを支持している。

文明の転換期における世界平和統一家庭連合の本来の役割

事実上、文明の歴史的転換を明確にしたということが、今回の中国共産党大会の本質である。つまり、欧米文明(厳密に言えば西欧文明)の終焉を宣言する新たな文明件創出の時代に入ったことを宣言したのである。ただし、マックス・ウェーバー=大塚史学によると、新しい文明は旧時代の普遍的な価値観を継承したものでなければならない。旧時代の普遍的な価値観とは基本的人権の尊重や主権に国民が関わりを持つこと、博愛精神に基づく平和主義などである。

権威主義国家(独裁国家)とされる中国やロシアでは、これらの点に問題があることは否めないだろう。また、マックス・ウェーバー=大塚史学によると時代の転換点には新たな宗教ないし理念が創造されるという。宗教用語では、「神からの啓示」ということになる。サイト管理者(筆者)はこの使命を、頭翼思想(統一思想)を唱導した文鮮明師によって創立された世界平和統一家庭連合(旧世界基督教統一神霊教会:略称統一教会)が担っていると思っている。文師に反共思想があったのは間違いないが、それは一面的でしかなく、冷戦終了後に北朝鮮やソ連に行って、自ら頭翼思想(統一思想)の必要性を強調している。

これに対して、キリスト教国家である米国はディープ・ステート(DS=軍産複合体、好戦的なネオ・コンサーバティズム(ネオ・コン)=)に支配され、①北大西洋条約(NATO)加盟諸国の東方拡大によるロシアの破滅を画策している②国民(の財産)を食い物にする新自由主義を広め、怪しげな金融技術を開発して国民の間の貧富の拡大を極大化したーなど、キリスト教国家としての使命を忘却している。英米両国は「プロテスタンティズムの倫理」を土台として近代資本主義を創造したが今や、マックス・ウェーバーの言う「人類の歴史とともに古い賤民資本主義(金儲け主義)」に堕してしまったと言わざるを得ない。

世界平和統一家庭連合は今や、宗教法人法に基づいて解散命令発出の手続きを進められているが、文鮮明師の教えに立ち返って現状を社会科学的に分析し直し、新たな運動論を提示して、実践すべきだろう。朝鮮半島の平和的統一に大きな貢献をするぐらいの器量がなければ、日本国民からは積極的に信頼されない。


この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう