以下、1951年9月8日、サンフランシスコ講和条約が華々しいオペラハウスで開かれたのとは対照的に、米国陸軍第六軍の基地のなかの下士官クラブで署名された旧日米安全保障条約を掲載する。

oldanpo02

−−転載開始−−
日本国は、本日連合国との平和条約に署名した。日本国は、武装を解除されているので、平和条約の効力発生の時において固有の自衛権を行使する有効な手段をもたない。無責任な軍国主義がまだ世界から駆逐されていないので、前記の状態にある日本国には危険がある。よつて、日本国は平和条約が日本国とアメリカ合衆国の間に効力を生ずるのと同時に効力を生ずべきアメリカ合衆国との安全保障条約を希望する。

平和条約は、日本国が主権国として集団的安全保障取極を締結する権利を有することを承認し、さらに、国際連合憲章は、すべての国が個別的及び集団的自衛の固有の権利を有することを承認している。これらの権利の行使として、日本国は、その防衛のための暫定措置として、日本国に対する武力攻撃を阻止するため日本国内及びその附近にアメリカ合衆国がその軍隊を維持することを希望する。

アメリカ合衆国は、平和と安全のために、現在、若干の自国軍隊を日本国内及びその附近に維持する意思がある。但し、アメリカ合衆国は、日本国が、攻撃的な脅威となり又は国際連合憲章の目的及び原則に従つて平和と安全を増進すること以外に用いられうべき軍備をもつことを常に避けつつ、直接及び間接の侵略に対する自国の防衛のため漸増的に自ら責任を負うことを期待する。よつて、両国は、次のとおり協定した。

第一条
平和条約及びこの条約の効力発生と同時に、アメリカ合衆国の陸軍、空軍及び海軍を日本国内及びその附近に配備する権利を、日本国は、許与し、アメリカ合衆国は、これを受諾する。この軍隊は、極東における国際の平和と安全の維持に寄与し、並びに、一又は二以上の外部の国による教唆又は干渉によつて引き起された日本国における大規模の内乱及び騒じよう{前3文字強調}を鎮圧するため日本国政府の明示の要請に応じて与えられる援助を含めて、外部からの武力攻撃に対する日本国の安全に寄与するために使用することができる。

第二条
第一条に掲げる権利が行使される間は、日本国は、アメリカ合衆国の事前の同意なくして、基地、基地における若しくは基地に関する権利、権力若しくは権能、駐兵若しくは演習の権利又は陸軍、空軍若しくは海軍の通過の権利を第三国に許与しない。

第三条
アメリカ合衆国の軍隊の日本国内及びその附近における配備を規律する条件は、両政府間の行政協定で決定する。

第四条
この条約は、国際連合又はその他による日本区域における国際の平和と安全の維持のため充分な定をする国際連合の措置又はこれに代る個別的若しくは集団的の安全保障措置が効力を生じたと日本国及びアメリカ合衆国の政府が認めた時はいつでも効力を失うものとする。

第五条
この条約は、日本国及びアメリカ合衆国によつて批准されなければならない。この条約は、批准書が両国によつてワシントンで交換された時に効力を生ずる。

以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名した。

千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で、日本語及び英語により、本書二通を作成した。

日本国のために
吉田茂

アメリカ合衆国のために
ディーン・アチソン
ジョージ・フォスター・ダレス
アレキサンダー・ワイリー
スタイルス・ブリッジス
−−転載終わり−−

この条文「第一条」の「使用することができる」というのは、「使用しなくても良い」ということで、条約上の「防衛義務規定」ではない。また、この条約の米国側のホンネは第三条の「日米行政協定」の締結であり、これは両国の官僚たちが国民の目の届かないところで、在日米軍の治外法権適用を可能にした。また、第四条で、米国の許可がなければこの条約は永久に続く。つまり、米側は昭和天皇とのパイプを駆使することにより、「我々は日本に、我々が望むだけの軍隊を、(本土及び沖縄・小笠原諸島など日本全土の)望む場所に、望むだけ駐留させる権利を獲得」するという目的を果たしたのであ。

(3)新安保条約と岸信介首相

こうした旧安保条約に対して、日本側から不満が高まったのは当然である。また、実際に在日米軍は日本国民の大きな怒りを惹起する数々の事件を起こした。前泊(前掲)によれば、「関東でも、東京から西武線に乗った音大生が米兵に車内で射殺(1958年9月7日)されたり、茨城県で自転車に乗っていた親子が低空飛行した米軍機に接触され、母親のほうが首と胴体をバラバラに切断されて即死する(1957年8月2日)」(172頁)といった意図的な残虐行為が行われたが、治外法権のため日本の司法は裁判を行い、処罰するということができなかった。

こうした事件が数多く起こったため、マッカーサーの甥であり当時、日本の駐日大使であったダグラス・マッカーサーⅡ世が危機意識を感じ、旧安保条約の改定に取り掛かった。これに応えたのが当時の首相であった岸信介である。なお、ダグラス・マッカーサーⅡ世駐日大使は在日米軍の違憲性をめぐって争われた「砂川裁判」で日本の司法制度に介入し、当時の田中耕太郎最高裁長官に一審での違憲判決(伊達判決)を跳躍上告させ、「統治行為論」を用いて司法判断を避けさせた人物である。これ以降、日本の司法制度は崩壊した。

さて、新日米安保条約については、外務省国際情報局長、防衛大学教授を歴任した孫崎享氏のベストセラー「戦後史の正体」が詳しい。岸信介については、毀誉褒貶が定説になっているが孫崎は、サイト管理者の読み方に依ると、①岸信介は米国の支援に乗ったふりをして、米国からの日本国の自立を目指していた②旧日米安保条約だけではなく、日米行政協定の改定まで行おうとしていた③政経分離で日中関係改善を図ろうとしていたーなどと評価している。これからすれば、「晋三は祖父たる信介の心知らず」である。

もっとも、池田勇人(副首相級国務大臣)、河野一郎(自民党総務会長)、三木武夫(経済企画庁長官)などによって日米旧安保条約、同行政協定の「同時大幅協定」という無理難題をふっかけられ、旧条約の改定のみに終わった。また、CIAなど米国の謀略部隊によって1960年安保闘争を起こされ(全学連を資金的に支援したのは米国創設の経済同友会傘下の企業)、結果的に失脚した。以下、新安保条約を掲げる。

anpo01

−−転載開始−−
日本国及びアメリカ合衆国は、両国の間に伝統的に存在する平和及び友好の関係を強化し、並びに民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁護することを希望し、また、両国の間の一層緊密な経済的協力を促進し、並びにそれぞれの国における経済的安定及び福祉の条件を助長することを希望し、国際連合憲章の目的及び原則に対する信念並びにすべての国民及びすべての政府とともに平和のうちに生きようとする願望を再確認し、両国が国際連合憲章に定める個別的又は集団的自衛の固有の権利を有していることを確認し、両国が極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、相互協力及び安全保障条約を締結することを決意し、よつて、次のとおり協定する。

第一条
締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によつて国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。
締約国は、他の平和愛好国と協同して、国際の平和及び安全を維持する国際連合の任務が一層効果的に遂行されるように国際連合を強化することに努力する。
第二条
締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、並びに安定及び福祉の条件を助長することによつて、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する。
第三条
締約国は、個別的に及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。
第四条
締約国はこの条約の実施に関して随時協議し、また、日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約国の要請により協議する。
第五条
各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。
第六条
日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国はその陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。
前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(改正を含む)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。
第七条
この条約は、国際連合憲章に基づく締約国の権利及び義務又は国際の平和及び安全を維持する国際連合の責任に対しては、どのような影響も及ぼすものではなく、また、及ぼすものと解釈してはならない。
第八条
この条約は、日本国及びアメリカ合衆国により各自の憲法上の手続に従つて批准されなければならない。この条約は、両国が東京で批准書を交換した日に効力を生ずる。
第九条
千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約は、この条約の効力発生の時に効力を失う。
第十条
この条約は、日本区域における国際の平和及び安全の維持のため十分な定めをする国際連合の措置が効力を生じたと日本国政府及びアメリカ合衆国政府が認める時まで効力を有する。
もつとも、この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行なわれた後一年で終了する。

以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名した。千九百六十年一月十九日にワシントンで、ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。

日本国のために
 岸信介
 藤山愛一郎
 石井光次郎
 足立正
 朝海浩一郎

アメリカ合衆国のために
 クリスチャン・A・ハーター
 ダグラス・マックアーサー二世
 J・グレイアム・パースンズ
−−転載終わり−−
なお、付帯条項として在日米軍基地等に兵力・武器などに大きな変動がある場合は事前に協議するという「事前協議性」が導入された。

新旧条約の差異をみると、①安保条約と国際連合との関係の明確化②事前協議性の導入③内乱条項の削除④条約期限の設定ーがある。なお、一般的に、米国の日本防衛義務が明確化されたとされているが、第五条の「自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する」はトリックである。どう条項は、米国(米軍)による日本の防衛義務を定めたものではない。1948年に米国上院で可決された「バンデンバーグ決議」では、他国との安全保障条約は「継続的かつ効果的な自助と相互援助にもとづくものではならない」、つまり、集団的自衛権を行使できなければならない、としているからである。

graphic-q1

集団的自衛権の行使は日本国憲法違反であるとともに、集団的自衛権の行使を認めた国連憲章51条に関する最近の研究によって、集団的自衛権そのものも国家が保有する「自然権」ではなく、戦争を無理に引き起こすために挿入された条項であるとの見方が強くなっている。ということで、奇妙な言い回しがなされているわけだ。実際、米国で交戦権は議会にあり、議会が日本を防衛することに賛成しなければ、日本を防衛する必要はない。「日米同盟」というのは、日本が集団的自衛権の行使を前提にしている。しいて、成果を挙げるとすれば、第十条である。

(4)安倍の「戦後レジームからの脱却」の本質は日本の完全な植民地化

このように見ると、安倍の「戦後レジームからの脱却」の本質は日本の完全な植民地化であり、日本国民が築いてきた富と尊い生命を米国に差し出すことである。戦後レジームはマッカーサーの強い国際連合の基本理念を下に創出されようとしていた。しかし、この当初の戦後レジームを変質、堕落させたのは東西冷戦であり、昭和天皇の超法規的政治・外交活動である。

豊下は「昭和天皇と戦後日本」で次のように記している。
−−転載開始−−
「植民地的な日米地位協定を放置したままで『自主憲法』の制定をめざすといった”低い次元”の話ではなく、真の意味で沖縄を『戦後レジーム』から脱却させるという”高い次元”の構想を練り上げるべきであろう。問題の焦点は、東アジアにおける地政学的な理由から『軍事の要石』として指定されてきた沖縄を、その地政学的な位置を逆手に取って、その立ち位置を根本的に考えることによって、東アジアの新たな秩序形成の拠点に吸えるという、そうした大きな構図で『脱却』の方向を描き出すことである」(260頁)

「歴史的にみれば安倍政権の成立は、東京裁判とサンフランシスコ講和条約に基づいて構築されてきた戦後秩序を否定する論理と心情を孕み、しかも相当の大衆的基盤をもった政権が、戦後初めて誕生したことを意味している。もっとも、日米同盟の枠内で『反米ナショナリズム』は抑えられ、ひたすら米国には”諂い(へつらい)”ながら、『騎士と馬』の関係において『立派な馬』になりきることに徹し、経済政策は新自由主義という、かくも”歪なナショナリズム”のはけ口が、中国と韓国に向けられることになる。こうした安倍政権のスタンスは、米国をジレンマに直面させている」(295頁)

「つまり、米国がかねて求めてきた集団的自衛権の行使を積極的に進めようとする政治勢力が、同時に戦後秩序を否定する勢力に他ならない、という根本的なジレンマである」(296頁)
−−転載終わり−−

もっとも、サイト管理者の私見では「戦後秩序を否定する勢力」の根源は、ドワイト・アイゼンハワー大統領が警告した、戦後の国際連合を中軸としたマルチラテラリズムに則った国際安全保障体制(集団安全保障体制)を無視して、戦争を創作する米国を中心とした軍産複合体である。安倍は世界の平和を願う善意の国民の意思を踏みにじり、ひたすら、この戦争勢力の仲間入りをしたいと思っている。なお、豊下の意図には「世界の経済を混乱に貶めてきた新自由主義」に対する批判と「世界経済の発展と平和の礎」としての「東アジア共同体」構築の示唆が見て取れる。

eastcommunity

米国では、2016年度(2015年10月ー2016年9月)予算を組めなくなっている見通しが強まっている財政の現状、安倍は同国の国防予算案が「戦争法案」の成立を前提にしていることを知っており、何としても戦争法案の9月中の成立を果たさなければ、米国の「信頼」、引いては自らの地位を失うと判断したのであろう。しかし、それは「日米心中」に等しい。

日本国としては、①国民が「戦後民主主義」の実態を知り、来夏の参院選で「共生と平和」の理念で、日本国を真に愛し、世界平和実現に寄与する勢力が勝利するとともに、内閣総辞職と解散で、参院選続く衆院選で「対米独立救国政権」を樹立する②同政権が、日米安保条約第10条をちらつかせながら、事実上の日本の憲法になっている「日米地位協定」を抜本改革する③国際連合の改革と強化に率先して寄与するー必要がある。

 

 

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう