
米国のトランプ大統領は5月19日、ロシアのプーチン大統領と改めて電話会談を行った。両首脳は公式および非公式の電話会談を着々と進めているようだが、ウクライナ戦争の終結に向けての会談だけではなく、中東情勢の和平と安定、極東情勢など今後の国際情勢・世界秩序についても積極的に議論している。最終的な狙いは、かつての英米単独覇権体制を解体させ、文明の多極化を急ぐことだ。
国際情勢・世界秩序の主導権はトランプ、プーチン両大統領にー中国の習近平国家主席が見守る
ウクライナ戦争の終結について、トランプ大統領の要請もあり、ロシアのプーチン政権は終戦(終戦を目指した停戦含む)について、ウクライナ側に事実上の最後通帳を叩きつけている。主な内容は、「ウクライナ戦争の真の原因」を取り除くことに有り、①ウクライナが無謀な戦争を続ければ、緩衝地帯と述べている占領地域を新たに拡大する②長距離ミサイルの使用について強く警告している③中立化を求める④ウクライナに勢力の強いステパン・バンドラを開祖とするネオ・ナチ勢力を一掃することーだろう。
このうち、「ウクライナ戦争の真の原因」の除去については、その最も根幹がステパン・バンドラを開祖とするネオ・ナチ勢力の一掃になる。これは、ウクライナの国内政治情勢を抜本的に変革することになる。最終的には、ウクライナと欧州北大西洋条約機構(NATO)諸国との連携を断ち切り、ウクライナに新露政権を樹立することになるだろう。トランプ大統領はプーチン大統領に対してさまざまな注文をつけたり、悪しざまにする発言を行っているが、トランプ大統領は海千山千の不動産王出身であり、その真意を見抜かなければならない。
ロシア在住の実業家でロシア・欧州の政治情勢アナリストでもあるニキータ氏のYoutube「ニキータ伝〜ロシアへのいざない」の「ドイツのメルツ首相、タウルスをウクライナに提供⁈」(https://www.youtube.com/watch?v=eg-e3khzScQ)によると、①ウクライナ戦争は米露の両大統領が終戦に向けての主導権を握っている②欧州(NATO)諸国へのウクライナからの農産物に対して関税を撤回したため、欧州諸国の農業が大きな打撃を受けたことやウクライナ戦争の支援でこれらの国々の国民の負担が強まっており、欧州諸国のホンネは、ウクライナへの支援を「経済的な利益が伴わなければ、難しくなる(実際は、すでに難しくなっている)」ーとの見方だ。

なお、トランプ政権とプーチン政権はウクライナ東部のロシアが併合している地域に大量のレアアース(希少金属レアメタルの一種)を保有しているほか、西シベリア地域やアラスカには豊富な天然資源やレアアース(貴重資源)が埋蔵されており近い将来、製造業の復活・発展のために両国が天然資源開発協定(ベーリング海峡プロジェクト)を結ぶ可能性がある(https://ihf.jp/press-relations/related-news02/)。これも、米露が経済面では、「見せかけの金融資本主義」一辺倒になっている従来の米英単独覇権体制を解体する最終狙いがある。
話を元に戻すと、例えば、先の2月末のドイツ総選挙で事実上の敗者連立政権になったCDU/CSU(キリスト教民主同盟とキリスト教社会同盟)とSPD(社会民主党)の連立政権=リベラル左派全体主義政権=のメルツ首相は一時、ロシアに対して長距離ミサイル(射程距離は500Km以上)「タウルス」を供給すると述べていた。しかし、毎日新聞のサイトは「独・メルツ首相、ウクライナに長射程ミサイル供与せず 前向き一転」(https://mainichi.jp/articles/20250529/k00/00m/030/336000c)と題する報道記事で、メルツ首相がタウルスの供給を撤回する発言を行ったと報道している。

ドイツのメルツ首相は28日、ベルリンでウクライナのゼレンスキー大統領と会談した。ドイツ製の長射程巡航ミサイル「タウルス」の供与が発表されるとの観測もあったが、メルツ氏は記者会見で言及せず、供与は見送った。射程約500キロのタウルスは、ウクライナが以前から供与を求めてきたが、ショルツ前首相はロシアを過度に刺激することを懸念し、拒否してきた経緯がある。5月に就任したメルツ氏は、野党時代から供与に前向きな発言をしており、ウクライナ側の期待は高まっていた。
SPDとの連立協議がうまく行かなかったとの見方もあるが、ドイツもウクライナ戦争やロシアからの天然ガスがバイデン前政権が指令し、ウクライナ軍が実働部隊として破壊したことで、天然ガスの安価な供給を受けられなくなり、「緑の政党」などが自然エネルギーを強調しており、原子力発電を撤廃したことなどで、エネルギー価格が上昇したままであり、ドイツ国民へのエネルギー負担が過重になるなっていることや、トランプ政権が欧州諸国に対して鉄鋼やアルミ製品に対して、50%の関税を適用することになった(https://jp.reuters.com/world/security/ZUKLGWEKQFL27AV33Q2GHNQB7U-2025-05-30/)ことなど、経済情勢も悪化していること挙げられる(後述)。
トランプ米大統領は30日、ペンシルベニア州ピッツバーグ郊外の製鉄所で、輸入される鉄鋼とアルミニウムに課す追加関税を2倍の50%に引き上げる計画を表明した。6月4日から実施されるという。「鉄鋼に対する追加関税を25%から50%に引き上げる。これにより米国の鉄鋼産業の安全がさらに強化される」と述べた。

なお、ロシアは攻撃用ドローンを改良しており、ジェットエンジンを搭載した高速ドローンを今後追加、ウクライナの防空システムを効率良く破壊できるようになるという。欧州NATO諸国は在庫一掃セール(古い軍事兵器のウクライナへの供与)と最新兵器(F35など)の新規在庫確保を目指しており、ウクライナにはもう軍事的優勢状況を実現する道は残されてない。
また、欧州EU加盟諸国では、ウクライナ産の農産物に対する関税撤廃措置を来たる6月6日から廃止したが、その他にも、欧州諸国に対するウクライナ難民の支援の撤廃がEU内で本格的な議題に登っており、また、ウクライナを軍事的に支援しているポーランドもトゥスク首相が欧州最大のコンテナ・ターミナルの完成で大規模な利益を得たいと語るなど、ウクライナ支援よりも自国の経済成長が優先順位であることを明確にした。欧州リベラル左派全体主義官僚独裁政権は結局のところ、ウクライナよりも自国が大切なのだ。
これについて、国際情勢解説者の田中宇氏は28日に投稿・公開した「すでにこっそり非米側なトランプ(https://tanakanews.com/250528trump.htm、無料記事)」で、次のように分析している。
トランプ(やロックフェラーなど隠れ多極派)の目標は、既存の米英覇権・英国系による支配体制を終わらせることだ。英国系覇権を崩すと世界は自然に多極型に転換するが、多極型の世界をうまく運営する方が、英国系覇権を延命させるよりも、世界は長期的に(金融バブルでなく)実体経済が発展するし、分割支配のために英国系が誘発していた戦争もなくなる。(‘Era of uncontested US dominance over’ - Vance)
トランプは、返り咲き後の百日で、米国を露中の隠れた仲間にした。米国はこっそり非米(非英)側の国になった。そのうえでトランプは、露中と協力して、英国系覇権の勢力として残っている英欧を、ウクライナ戦争や温暖化対策や移民問題などで自滅させていく。(Toxic Femininity: Foreign-Born Muslim Women In Germany Are Far More Violent Than German Men)
トランプが米国の非英化をこっそり進めている理由は、それによって英欧の崩壊を効率的にやれるからだ。トランプが大っぴらに露中と仲良くしたら、英欧も今までの露中敵視をいったんやめて米国と同一歩調をとりたがる。英欧(とくに英国)は、トランプにすり寄って、米欧(NATO)が協調して中露や非米側と仲良くする体制をいったん作った後、それを壊し、NATOと露中が対立する昔の構図に戻してしまう。(Discreet Exit? EU Officials Fear Trump Will Pull Plug on US Troop Presence)
米国は第二次大戦後、米英仏と露(ソ)中が仲良くする多極型の国連P5体制を、戦後の世界体制(ヤルタ体制)として作ったが、英国に冷戦を起こされ、米英仏と露中が恒久対立する体制にすり替えられた。トランプが大っぴらに露中と仲良くすると、英欧がすり寄ってきて冷戦時と同様の体制破壊をやられてしまう。そうされぬよう、トランプは返り咲き後、英国系に盗聴されないサウジアラビアの王宮を借りていったんロシアと全速力でいろいろ話し合って隠然同盟関係を構築し、その後はプーチンと喧嘩し始めたような目くらましの演技をしている。(Russia Cautions Of 'Emotional Overload' Right Now After Trump Calls Putin 'Absolutely Crazy')
トランプは、米国と露中の関係が良いのか悪いのか見極められない状況にしておくことで、英国系が邪魔しに入れないようにしている。そのうえでトランプは、英欧をけしかけてロシア敵視やウクライナ支援を続けさせ、英欧が米国に頼らず自力でウクライナ戦争に加担して国力や政治力を浪費していくように仕向けている。いずれ英国系覇権を運営してきた英欧のエリート層は人々の支持を失って選挙で負け、ドイツのAfDなど反エリートな極右勢力が政権をとり、覇権を捨てる。この時点で、戦後(もしくはナポレオン戦争以来)ずっと続いてきた英国系の世界覇権は(今度こそ?)完全に消失する。(WWIII Watch: Germany's Merz Greenlights Ukraine To Strike Russia With German Weapons)
要するに、米国はトランプ大統領が就任して以降、かつての国際情勢の英米単独覇権体制を壊滅・解体させ、世界秩序の多極化・文明の多極化をこっそり行おうとしているわけだ。中露を盟主とするBRICS諸国など非米側陣営を一応は悪しざまに言うこともあるが、水面下では英単独覇権派を解体しなければならない。そのための周到な内政・外交政策を行っているわけだ。
なお、国際情勢アナリストの及川幸彦氏は、Youtubeの「The Core」チャンネルで「トランプ・プーチンの間に突然の亀裂」(https://www.youtube.com/watch?v=Lz2OSi7WE2I&t=833s)とする動画を公開・配信しているが、これはプーチン政権側がドローンでウクライナの民間人に対して攻撃していることがある。しかし、最初に決まったロシア・ウクライナへの軍事施設の攻撃は、ウクライナのキエフ政権が行ったものだ。これに対して、ロシア側が反撃たというのが、ことの真相であるようだ。
なお、トランプ大統領はゼレンスキー「大統領」に対して、「黙れ」と怒っているようだ(https://www.onlyoffice.com/ja/)。また、トランプ大統領は中東の拡大アブラハム合意(イスラエルとサウジアラビアの国交正常化を中心とした中東和平の実現)やガザ難民(とヨルダン川西岸のパレスチナ人)のリビアへの移送、イランとの関係改善などプーチン大統領の力を借りなくてはならないことが多い。
ウクライナ特使のキース・ケロッグ氏が「トランプ米大統領は(3月)15日、ウクライナとロシア担当のケロッグ特使の職務をウクライナのみに限定したと明らかにした。ウクライナ停戦協議を巡り、ケロッグ氏がウクライナ寄りだとロシア側から苦情が出ていたとされる」(https://jp.reuters.com/world/ukraine/5B6QIONWEJN4NGIDSPVCUGUAWM-2025-03-16/)との報道もある。トランプ大統領の側近に、好ましからざる人物が存在することを念頭に置いておく必要がある。
及川氏の指摘するように、両大統領の関係が完全に亀裂したとの推測は、少し大げさではないかと思っている。現在の国際情勢は、グローバリズムと反グローバリズムとの戦いというよりも、かつての米英単独覇権派と隠れ多極勢力との戦いであり、かつての米英単独覇権派を完全に解体するまでは、世界的な「(隠れ多極派)」の暗躍で、様々な「芝居」が行われることも考慮に入れておく必要がある。【トランプ氏のプーチン批判についての記事の追加:6月1日午前8時30分】
日本に新露派勢力胎動化ー安倍昭恵夫人のプーチン大統領との面会の意味
安倍晋三元首相を暗殺された昭恵夫人は29日、モスクワのプーチン大統領を訪問、同大統領は「クレムリンを訪れた安倍元総理大臣の妻、昭恵さんに対して花束を渡して歓迎したあと『安倍元総理がロシアと日本の協力関係の発展に果たした貢献を忘れることはない』などと述べました」という(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250531/k10014821761000.html)。これに対して、大統領府のペスコフ報道官は、次のように述べているという(同)。
この面会に関連し、ロシア大統領府のペスコフ報道官は30日、記者団に対し、「日本は、ロシアと対立する道を選んだ」と述べ、経済制裁を科している日本を批判した一方で「日本には今の政権の立場を近視眼的と考え、ロシアとの関係修復や対話の再開を必要だと考えている勢力も残っている」と述べました。プーチン大統領としては、アメリカのトランプ政権との間で外交関係の正常化に向けて協議を始める中、昭恵さんを歓待することで、ウクライナ侵攻で悪化した日本との関係改善にも取り組む用意があると強調するねらいがあったとみられます。
この面会について林官房長官は30日の記者会見で「政府として安倍昭恵夫人とやり取りはしておらず、コメントする立場にはない」と述べました。
ロイター通信も次のように伝えている(https://jp.reuters.com/world/ukraine/ZTN6RWPA2RIVLGG3ZIYWIMFBC4-2025-05-29/)。
ロシアのプーチン大統領は29日、クレムリンで故安倍晋三元首相の妻である昭恵さんと面会し、安倍氏が平和条約締結を夢見ていたことを知っていると述べた。ロシアメディアが伝えた。報道によると、安倍氏の9年近くの首相在任中に計27回会談したプーチン氏は「彼の夢が2国間の平和条約締結だったことを知っている。今は状況が異なる」と話し、ウクライナ紛争がある現在の国際情勢下でその夢の実現は不可能との認識を示した。
岸石政権は基本的に、バイデン前政権よりで解体しかかったかつての「米英単独覇権体制派」(現在は、「英単独覇権派」)の傘下にある。これについて、国際情勢解説者の田中宇氏は「金融崩壊していく日本」(https://tanakanews.com/250530japan.htm、無料記事)で次のように述べている。
ドイツと対照的に、日本では安倍昭恵が亡き夫の安倍晋三の遺志を継ぎ、日露の文化交流を復活するためにロシアを訪問し、5月29日にはプーチンに会い、できる範囲で日本の自滅を防いでいる。安倍晋三は、ウクライナ開戦後も対露和解を模索していた。だから開戦4か月後に英国系に殺された。英傀儡の日本のマスコミ権威筋は、統一教会の話にすり替えて本質を隠した。今も安倍晋三が生きていたら、トランプとプーチン(と習近平)の隠然同盟に入っていただろう。トランプもプーチンも、そう思っているから未亡人の安倍昭恵と会っている。(Meeting with Akie Abe)
日本政府は今年4月、ロシア政府に対し、平和条約締結のための交渉を再開したいという意志を伝えた。露敵視・ウクライナ支援の側が負け組になるとわかっているからだ。だがその一方で日本は、G7としての対露制裁・露敵視策からの離脱ができておらず、ロシアから「日本が制裁や敵視を解除しない限り、和解の交渉はできない」と拒否された。日本は、英国系の傀儡から離脱できない。国内の上層部も英傀儡だらけだ。だから、正面切って対露敵視をやめることができない。(Kremlin comments on Japan's call to finalize peace deal)
安倍元首相が、ウクライナ戦争の「真の原因」ついて承知していたことはほとんど報じられていないが、事実だ。ロシア政府系の日本語サイトは次のように報じている(https://sputniknews.jp/20220529/11385401.html)。
日本の安倍晋三元首相はウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領のNATO加盟に関する姿勢とドンバスでの紛争解決の拒否が、ロシア軍による特殊作戦が始まった原因であると表明した。安倍氏は英誌エコノミストとのインタビューで「ゼレンスキー大統領に対して自国がNATOに加盟せず、ウクライナ東部の2つの地方に自治権を与えると約束させることができた場合、軍事行動は回避できただろう(注:2015年2月11日にベラルーシのミンスクで調印されたミンスク合意Ⅱのことで、ウクライナドンバス地方のドネツク州、ルガンスク州に行動な自治権を与えるという条約。しかし、ミンスク合意Ⅱはドイツのメルケル首相が述懐しているように、ウクライナが英米単独覇権体制の指示で戦争体制を確保するための手段に過ぎなかった)」と述べた。昭恵さんに「(安倍氏は)ロ日関係の発展に多大な貢献をした。われわれは非常に良好な個人的関係を築いていた」と語りかけた。昭恵さんはプーチン氏に、ウクライナ紛争が始まってからも安倍氏はプーチン氏に会いたがっていたと伝えたという。
テロで暗殺された安倍元首相の真意が伝わっておらず、その後継者とされる高市早苗衆院議員も本件に対して全く触れず、「的基地反撃能力」を声高に叫んでいるだけのことはきになるところだ。しかし、田中市の分析にあるように日本は現在、政権勢力内に静かに安倍派支持・ロシア支持・プーチン大統領支持を根幹とする勢力が台頭しているようだ。これらの勢力は、「生贄」にされている世界平和統一連合(旧世界基督教統一神霊協会:統一教会)に対して、犯人とされているが、識者からは「単独犯」とは見られていない山上徹也被告の公判があまりにも遅いことを問題にするとともに、政治的な理由による「宗教弾圧」であることを明確にしていく必要がある。
なお、新日鉄とUSスチールとの「パートナーシップ」について、トランプ大統領は認める考えを示したが、完全子会社になるか資本参加になるか、あるいは、米国政府が所有権に対してカギになる存在になるのか、はっきりしていない。トランプ大統領は、「最も重要なことはUSスチールがアメリカにコントロールされ続けるということだ」(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250531/k10014821721000.html)としているという。最終合意の期限は6月5日の予定だが、いずれにしても、米国の製造業の復活・再生に日本の協力を得たいようだ。その場合、岸石政権が従来の英米単独覇権体制を脱しきれないところが今後、もっとも重要になるだろう。