原油・天然ガスは人民元、ルーブルで決済へー新年は米側陣営と非米側陣営の対立がさらに深化・拡大(追記:植草一秀氏の見通し)

中国の習近平国家主席が昨年12月上旬にサウジアラビアを訪問した際、ムハンマド・ビン・サルマーン王太子(皇太子)兼首相兼経済開発評議会議長に対して原油を人民元建てで購入することを打診し、ムハンマド皇太子が快諾したようだ。ウクライナ戦争を受けて、ロシア産の天然ガスはルーブル建てが原則になっており、「化石燃料から出る温室効果ガスによる地球温暖化説」の怪しさを踏まえると、原油・天然ガスの大半はドル建てから人民元・ルーブル建てに移行する。新年は米側陣営と非米側陣営の対立がさらに深化・拡大する年になろう。

新年2023年は米側陣営と非米側陣営の覇権争いが深刻化ー新文明と世界宗教

新年令和5年(西暦2023年)、明けましておめでとうございます。新年も米側陣営と非米側陣営の覇権争いを中心に本サイトに寄稿してまいります。新年もよろしくお願い致します。

さて、中国の習近平国家主席が昨年12月上旬にサウジアラビアを訪問したことは既に伝えたがその際、同主席はサウジの最高実力者ムハンマド王太子(皇太子)兼首相兼経済開発評議会議長に対して原油を人民元建てで購入することを打診し、ムハンマド皇太子(王族サウード家の一員で、第7代国王サルマーン・ビン・アブドゥルアズィーズの子、初代国王アブドゥルアズィーズ・イブン・サウードの孫)は快諾したようだ。

これについて、日本経済新聞は編集委員の岐部秀光氏が次のように報道・論評している(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB095XA0Z01C22A2000000/)。

ロシアによるウクライナ侵攻や脱炭素で世界のエネルギー秩序は再編の時代を迎えた。化石燃料の生産、取引のネットワークは中国、ロシアなど権威主義国グループと、米欧の民主主義陣営の綱引きの主要な舞台となりつつある。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席によるサウジアラビア訪問は、分断時代を象徴する。(中略)

サウジアラビアを訪問した習近平国家主席と出迎えたサウジ最高実力者のムハンマド皇太子

「我々は一段と結束したパートナーとなるべきだ」。(注:2022年12月)9日、アラブの主要産油国で構成する湾岸協力会議(GCC)との首脳会議に初めて参加した習氏は「石油や天然ガス貿易の人民元決済」を提起した。

中東産油国のカタールと中国は昨年11月、27年間の長期に渡る異例の契約で人民元建てによる液化天然ガス(LNG)取引契約を結んだ。中東産油国の盟主であるサウジが人民元建てによるサウジ産原油の取引に応じたとしても不思議はない。サウジなど中東産油国は長い間、米英アングロサクソン国家に支配されてきたが、このところ急速に米英両国の支配から脱却する動きを強めている。

これについて、国際情勢解説者の田中宇(さかい)氏は昨年12月30日に公開した最新の論考「中国が非米諸国を代表して人民元でアラブの石油を買い占める」(https://tanakanews.com/221230china.htm、無料記事)で解説を行っている。まず、解説記事全体のリード文は次の内容だ。

世界の石油利権の大半は非米側にある。先進諸国も、OPEC+から石油を輸入しようと思ったら、ドルでなく人民元を用意せねばならなくなる。世界の石油は、中国側に買い占められていく。米欧が、この流れを阻止するためにサウジと中国を経済制裁すると、米欧が買える石油がなくなってしまう。ウクライナ戦争の対露制裁でロシアからの石油ガス(注:天然ガス)輸入を止めたので、欧米とくに欧州が買える石油ガスが足りなくなっているが、それと同じことがもっと大きな規模でこれから起きる。

解説記事本文の重要箇所を引用させていただきたい。

前回の記事で、中国の習近平が12月初めにサウジアラビアを訪問して、アラブ諸国の全体との関係を強化した話を書いた。その後わかったのだが、習近平とサウジのMbS皇太子は、世界経済を根底からひっくり返すような内容の取り決めを結んでいた。それは、サウジがこれまで輸出原油のすべてを米ドル建てで売っていたのをやめて、輸出原油の多くを人民元建てで、中国とその傘下の諸国に売る新体制に移行する話だった。 (Inflation, Recession, & Declining US Hegemony

習近平のサウジ訪問に合わせてアラブなど30カ国の首脳陣がサウジに結集し、習近平と会っている。サウジだけでなく、UAEやクウェートなどペルシャ湾岸のアラブ産油国の全体が、ドル建てで米国側(米欧など)に売る石油を減らし、人民元建てで中国やその他の非米諸国に売る石油を増やすことを決めたと考えられる。ドルの基軸性は多方面で低下しているので、この転換は不可逆的なものだが、転換に要する期間は数年とか10年がかりとかになりそうだ。

新型コロナウイルスやウクライナ戦争についての米側陣営のメディアによる報道は全く真実を伝えていないが、「化石燃料から出る温室効果ガスによる地球温暖化説」も怪しいものだ。化石燃料、つまり、原油や天然ガスに対する需要は現在、現実的になお旺盛だ。

原油の供給国はOPEC(石油輸出寄稿)諸国(イラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラ、カタール、リビア、・アラブ首長国連邦(UAE)、アルジェリア、ナイジェリア、エクアドル、アンゴラの12カ国)にロシアを加えたOPEC+だが、もちろん全ての国が非米陣営に属する。米国がベトナム戦争などによる財政収支の悪化や第二次世界大戦の敗戦国である日独が貿易で国際競争力を付けてきたことからドルの威信が低下し、1971年8月、ドルと金を交換できるドル金本位制が破綻した(ニクソン・ショック)。

この威信が低下したドルの信用を回復するため、1974年に米サウジ協定が結ばれた。この米サウジ協定は、失墜したドルの威信を取り戻すためのもので、サウジが原油をドル建てのみで売ることによって、ドルは石油の貴重さと結びついた通貨(ペトロダラー)の地位を確保し、見返りに米国はサウジを軍事的に守る安全保障を確立した(田中氏)ものだ。しかし、実際のところ、米国はサウジアラビアを同盟国とするよりも自国の属国扱いに処した。

だが米国は、2001年の911テロ事件以降、事実上サウジにテロ支援国家の濡れ衣を着せるなど、サウジを困らせることを連続してやり続けた。米国は、2003年にイラクを侵攻・占領して失敗し、イラクをスンニ派支配の国からシーア派(イラン)支配の国に転換してしまったり、2011年からはシリア内戦を起こして失敗し、この地域でのサウジの影響力を低下させた。同じ2011年には、米国がエジプトなどで「アラブの春」を誘発し、エジプトをサウジ傘下のムバラク政権からサウジの敵であるムスリム同胞団の政権に転換してしまった。2015年にはイエメン戦争を起こしてサウジを泥沼のイエメン占領に陥れた。やがてイスラム主義の国になるエジプト

911テロ事件はサウジ人らの仕業でなく、米諜報界の自作自演の可能性が高い。侵攻される前のイラクのサダム・フセイン政権は、米国から制裁されていなかったら同じスンニ派としてサウジともっと仲良くできた。イエメン戦争は、イエメンに駐留していた米軍が突然撤退することで引き起こし、サウジはイエメンで泥沼の内戦介入に追い込まれた) (米国に相談せずイエメンを空爆したサウジ

米国はイランに核兵器開発の濡れ衣を着せて敵視し続けたので、対米従属のサウジもイランを敵視せざるを得ず、米国の中東覇権が低下するほどイランが台頭し、サウジは不利になって馬鹿をみている。これらの米国による中東政策の失敗の連続は、サウジに対する「意図的な嫌がらせ」とも感じられる。サウジ王政は、911直後には米国に着せられた濡れ衣を黙認していたが、2015年に若いMbS皇太子(注:ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子)が独裁的な実権を握った後、米国から離反する傾向を強めた。中東の覇権は、自滅的に失敗し続けた米国から、イランやシリアなどに味方して優勢になった中露に移っていき、サウジも米国から離れた分、中露との戦略関係を強化した。サウジアラビアの自滅

File source: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:September_11_Photo_Montage.jpg

2001年9月11日に起こった「アメリカ同時多発テロ事件」は未だに米国の自作自演説が収まらないが、米英領国がアラブ諸国を属国扱いにしてきたことは確かだ。こうなると、中東産油国=アラブ諸国が米国離れを志向するのはやむを得ない。その指導的地位に就いたのが、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子だ。2018年10月にムハンマド皇太子の急進的な改革路線に批判的だったジャーナリストのジャマル・カショギ氏が在イスタンブールのサウジアラビア領事館内で殺害されるという事件が発生したが、その黒幕とされ、米国などから批判を浴びたことがある。

既に、イランは昨年、中国を盟主とする上海協力機構に加盟した。中東産油国の盟主であるサウジが米英両国離れを推し進めてもおかしくはない。経済的には、ペトロダラー体制が崩壊、ペトロユアン体制(人民元の価値を原油で裏付けする体制)が成立して、米側陣営諸国は深刻な資源エネルギー不足、この面からも通貨・金融危機に陥ることになる。米側陣営で禍を福に転じることができるのはトランプ前大統領と思われるが、ます・メディアを通してディープ・ステート(DS)の猛攻を受けている有様だ。

米国の中東覇権が低下しても、ペトロダラー体制は現在まで維持されてきた。サウジは、すでに中国に対して原油を人民元建てで売っているふしがあるが、公式な話になっていないのでペトロダラー体制は崩れていない。だが、今年初めにウクライナ戦争が起こり、欧米がロシアから石油ガスなど資源類を買わない対露制裁を開始し、中国など非米諸国がロシア側について、世界の資源類の利権の大半が中露・非米側に行き、G7諸国など米国側が持っているのは金融バブルだけという状況になるとともに、MbSのサウジは勝ち組になるため、非米側に入る傾向を一気に強めた。 (産油国の非米化

そして今回の習近平のサウジ訪問で、サウジは石油輸出の中心的な通貨をドルから人民元に切り替えていくことを決めた。50年に及ぶペトロダラーの歴史が終わり、ペトロユアン体制に転換していく流れが始まった。Suddenly Everyone Is Hunting for Alternatives to the US Dollar

先に引用させていただいた日経の岐部氏も、世界の石油需要は日量約1億バレルで、約15%を中国が占める。売り手優位とされる市場でも、これだけの購買力があれば大きな影響力を振るえる。中国は原油決済で「ペトロユアン(石油人民元)」実現を目指し、米国の通貨覇権にも挑むと解説せざるを得ない。ただし、米側陣営と非米側陣営との覇権争いについては今や、米側陣営が圧倒的に不利で、世界人口の少なくとも66%を占める非米側陣営諸国が相当に優勢に立っている。今後は、欧米文明の没落と東アジアを中心とした新たな文明の勃興が今後、加速して行くだろう。

世界はウクライナ戦争開始後、米国傀儡のG7など先進諸国と、米国の言うことを聞かない傾向を強める非米諸国との分裂が一気に強まった。世界のトップ20の産油国のうち、米国側は米加ノルウェー英の4か国しかない。4か国の合計で産油量はトップ20全体の28%、埋蔵量では15%を占めるに過ぎない。残りは非米側だ。米国は、産油量で世界の20%近くを占めてダントツの世界一だが、国内消費が多いので他の先進諸国に輸出できる分は大したことない。米国側の主な原油輸出国として加米英蘭豪があるが、この5か国の合計で、世界の原油輸出総量のうち18%を輸出しているに過ぎない。産油量、埋蔵量、輸出量とも、非米側が世界の70-85%を占めている。米国側と非米側の分裂が明確化・長期化するほど、米国以外の米国側諸国はエネルギー不足が深刻化する。これがウクライナ戦争の最大の意味である。 (資源の非米側が金融の米国側に勝つ

中国がサウジ(などOPEC)を誘って人民元建てで石油を輸入するペトロユアン体制を具現化し始めたら、日韓ASEANなどアジアの(なんちゃって)米国側諸国は、非公式にペトロユアン体制に入り、中国から許しを受けてサウジから元建てで石油を輸出し続けるだろう。「なんちゃって諸国」はすでに米国側の対露制裁を隠然と無視してロシアから石油ガスを輸入し続けている。中国やサウジは「元建て」にこだわっているのでなく「失策と圧政だらけの米国の世界支配をやめさせるためにドル建てをやめること」にこだわっている。だから中国が了承すれば、日本は円建てでサウジやOPECから石油を輸入できるようになるし、韓国はウォン建てで、インドはルピー建てで輸入できる。サウジは外貨準備を多様化したいので歓迎だ。この体制下で、中国とインドの対立も解消されていく。なんちゃっての隠然非米化・非ドル化がどんどん広がる。The Era Of Cheap Oil Has Come To An End

ただし、イスラム教を中心とする中東諸国と儒教を基礎とする中華文明、ヒンズー教・仏教を根底に置くインド・東南アジア諸国(ASEAN諸国)とは容易に地球規模の統一文明圏を形成できない。また、欧米文明には歴史的使命が果たせていないが、キリスト教によって確立された普遍的価値観がある。これらの世界宗教を統合できる新たな宗教理念の登場が必要になる。

日本の岸田文雄自公連立政権は現在が文明の転換期に遭遇していることを認識して、文化・政治・経済・外交政策を抜本的に転換しなければ、これから押し寄せてくる国難を乗り切ることは出来ないだろう。建前としてしか存在していない欧米文明の価値観に立脚しているが、日経の岐部秀光編集委員も、日本はエネルギー調達を中東に大きく依存し、極東ロシアでの石油・天然ガス開発事業『サハリン2』継続(注:サハリン1にも出資する)も黙認されている。色分けが進むエネルギー市場で、やがては米欧と資源国の双方から「踏み絵」を迫られるかもしれない。その備えはあるのだろうかと懸念している。

植草一秀氏のウクライナ戦争終結の条件と今後の見通しー田中宇と接近

国内外の政治・経済情勢分析について日本の数少ない論客の一人である植草一秀氏は、ウクライナ戦争終結の条件と今後の見通しについて、令和5年元旦に発行されたメールマガジン第3394号「世界平和を確立する要件」の中で次のように展望しておられる。

「癸」と「卯」が重なる「癸卯」(みずのとう)という年(注:新年2023年のこと)は、「万事筋道を立てて処理してゆけば、繁栄に導かれるが、筋道を誤るとこんがらがっていばらやかやのようにあがきのつかぬことになる。果ては混乱・動乱、ご破算に至る」(安岡正篤『干支の活学』)と解釈されています。

ウクライナ問題にしても、これまでの歴史的経緯(注:ウクライナの民族構成の特性として西北部はウクライナ人、カソリック、ウクライナ語を基本属性とし、南東部はロシア人、ロシア正教、ロシア語を基本属性とする。民族構成の多様性を踏まえなければ内戦が起こるし、実際に2014年2月のマイダン暴力革命後にそういう状況に陥った)を踏まえて、筋道を立てて、問題を処理することが肝要です。問題の根源にある2015年に制定された「ミンスク合意(Ⅱ)」の原点に立ち帰ることが重要でしょう。クリミアのロシア帰属を明確にし、東部もしくは東南部の高度の自治権を確立し、ウクライナの中立化・非武装化を実現して和解を図ることが求められます。歴史的な経緯を無視して、ロシア=悪、ウクライナ=正義、の図式を押し通そうとすることは問題解決には逆効果であるでしょう。

世界は米国を中心とする西側の意思だけで仕切れるものではありません。G20でロシア経済制裁に参加しているのは10ヵ国(EUを1ヵ国として)。経済制裁に参加していない国が10ヵ国です。人口比では経済制裁に参加している国が19%(EUを人口最多国スペインで計算)、経済制裁に参加していない国が81%です。米国は米国の価値観を唯一絶対の正義とし、米国の価値観を他国に植え付けることを強要するスタンスを鮮明にしています。米国の姿勢は米国の価値観を他国に埋め込むために、必要があれば軍事力の行使をも辞さないというものです。これこそ、「力による現状変更路線」と呼ぶべきものです。

これを私は「21世紀型・新帝国主義」と表現していますが、この米国の専横な姿勢に対する反発が強まっています。ユーラシア大陸の大国である中国、インド、ロシア、イランなどが連携して(注:非米側陣営)米国を軸とする欧米諸国(注:米側陣営)に対抗することも考えられます。

植草氏と田中氏の見解は、米国ディープ・ステート(DS)の「隠れ多極主義勢力」についての認識の相違(ないし有無)を別にすれば、かなり一致してきていると思われる。


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