フランス下院の議会選挙で第一回目の6月30日の投票の結果、「極右」とされる民衆政党の「国民連合」が大勝したが、左翼の新人民戦線とマクロン大統領の「中道政党(注:実際のところはバイデン左翼民主党政権に従属した左翼政党)」が国民連合の絶対多数(注:不思議な言葉だが、過半数のこと。以後、過半数とします)制覇を阻止するため選挙協力を行い、敗退が濃厚な候補が、明日7月7日の第二回選挙への立候補を辞退したため、選挙の結果としては、国民連合とその支持政党が過半数を獲得することができないとの見方が主流になっている。そうなると、結局は対米従属路線を採っているマクロン大統領次期政権が実質的に、議会に提出する重要法案はことごとく、過半数を獲得できず、否決される。フランスの内政は機能不全に陥ってしまうが、同様のことが欧州全域に広まってしまう。暫く大混乱状況が続いたあと、バイデン候補ないしその代替の民主党大統領候補が秋の大統領選挙で敗退、共和党(トランプ党)のトランプ候補が勝利し、トランプ大統領が誕生する。その後、欧州各国ではイタリアのように草の根政党が勢いを増し、「極右」とされる民衆政権の樹立が広がる。欧州は対米自立の方向へ向かうだろう。
国民戦線、過半数獲得に至らなければフランスの政治は麻痺
ブルームバーグは事実上、「国民連合」を率いるマリーヌ・ルペン氏が強気の姿勢を崩していないことを報道しているが、世論調査では国民連合とのその支持政党が過半数を獲得できないとの調査結果を示している(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-07-05/SG54GRT0G1KW00)。
フランスの極右政党「国民連合(RN)」を事実上率いるマリーヌ・ルペン氏は、同党がフランス下院選挙で絶対多数(注:過半数)を大きく下回るという予測を否定し、同党が政権を担う資格を得られなければフランスの政治は「泥沼化」すると警告した。RNとその同盟勢力は、3日から5日にかけて発表された5つの世論調査で、国民議会の577議席のうち190-250議席を獲得すると予測されている。法案を容易に通過させアジェンダを推進することができる絶対多数の289議席を大幅に下回ることになる。
ルペン氏はフランスのテレビ局Cニュースの取材に対し、RNが「絶対多数を獲得する可能性は十分にある」と述べ、「誰も絶対多数を得られなければ、法案は成立しない。泥沼化するというのはそういうことだ」と語った。RNが絶対多数を得なければ、マクロン大統領が再び合法的に議会を解散できるようになるまで「フランスは行き詰まる」と警告した。
最新の5つの世論調査によれば、左派の新人民戦線は140-200議席、マクロン氏のグループは95-162議席を獲得する見込み。
国民連合とその支持政党が過半数を獲得できなければ、マクロン大統領の「中道左派政党」、左翼の新人民戦線が野合してマクロン政権のウクライナ支持からくるインフレなどの生活苦やイスラム過激派による社会混乱からの脱出などを国民連合に託しているフランス国民の怒りが爆発する恐れがある。このため、日本の外務省はフランス大使館を通して、フランス在住の日本国民に対して、次のような警告文を発している(https://www.fr.emb-japan.go.jp/itpr_ja/10214.html)。
● フランスでは、7月7日(日)に国民議会(下院)選挙の第2回投票(決選投票)が行われる予定です。
● 報道等により最新情報の入手に努めるとともに、選挙結果の大勢が判明する夕刻以降は、デモ・集会等が行われている場合には、外出を控える、または、それらの地域を回避するなどの安全対策を講じてください。
1 フランスでは、6月30日(日)に行われた国民議会(下院)選挙第1回投票に続き、7月7日(日)に、第1回の投票で当選者のいなかった選挙区で第2回投票(決選投票)が行われる予定です。
2 マクロン大統領による国民議会解散の後、フランス各地において、極右政党への反対集会等が散発している他、第1回投票後も、労働組合や人権団体などの呼びかけによる大規模な集会等が開催されています。
3 報道等によると、第2回投票が行われる7月7日(日)には、フランス全土において相当数の警察や憲兵隊が増派されるとともに、公共の秩序を維持するための措置がとられる模様です。他方、投票の結果によっては、自然発生的なデモ・集会等が発生する可能性も排除されません。ついては、報道等により最新情報の入手に努めるとともに、7月7日(日)、特に、選挙結果の大勢が判明する夕刻以降、デモ・集会等が行われている場合には、外出を控える、または、それらの地域を回避するなどの安全対策を講じてください。
4 一般に、デモや集会の周辺では各種規制が実施されるほか、近年においても、当局が実施を禁止しているにも関わらずデモが強行され、デモ隊と、鎮圧を試みる警察との間で衝突が生じ、負傷者や逮捕者が発生するケースも生じています。思わぬ騒動に巻き込まれることのないよう、もし群集等を見かけた場合には、その場を離れるなど、身の安全の確保に努めてください。
フランス下院議会選挙の最終的な結果について、国際情勢解説者の田中宇氏は、「欧州エリート支配の崩壊」と題する解説記事を公開している(https://tanakanews.com/240704europ.htm、無料記事)。
欧州は、支配するエリート層(中道派、左派)が失敗の連続で信用を失墜している。エリート層は、対米従属でやったウクライナ戦争に失敗し、対露制裁でロシアからの安価な石油ガス輸入を止めたので経済が自滅。無根拠な地球温暖化人為説に基づいて進めた石油ガス制限でも経済が自滅。左翼リベラル思想に基づいて進めた中東からの移民の積極受け入れ策も社会混乱(注:イスラム過激派のテロや暴動)しか招かず失敗した。エリート層は多方面で失敗したのに政策を転換せず、対米従属もやめていない(安保面で牛耳られているので対米自立できない)。欧州の人々は、エリート層に愛想を尽かし、各国の選挙で次々とエリート層が敗北し、代わりに草の根から出てきた右派が台頭している。(同盟諸国を自滅させる米国)(中略)
フランスの議会選挙は、選挙区ごとに、1回目に投票総数の過半数を得る候補者がいなかった場合、2回目の投票を行って最多数得票者を当選とする。2回目の投票は7月7日に行われるが、その準備として、左派と中道が結託して右派の当選を減らす策が展開されている。今回の議会選挙の結果がどうなっても大統領のマクロンは辞めない(次の大統領選挙は2027年)。だが、右派が下院の過半数を取ると、マクロンの政策が通らなくなる(注:第一党になる国民連合はジョルダン・バルデラ党首が首相になることを辞退しており、多数派工作を行って首相を決めても、少数与党になる可能性が高い)。それを防ぐため、マクロンは左派に接近した。2回戦を前に、多くの選挙区で、中道と左派のうち強い候補が残り、弱い候補が出馬を取り下げ、弱い候補の得票が強い候補に移るようにして、右派候補を打ち破る策がとられている。577の全選挙区のうち218の選挙区で中道と左派が候補を統一した。(218 candidates withdraw ahead of second round of France’s snap parliamentary elections)(Macron’s implicit endorsement of ‘antisemitic,’ ‘pro-Hamas’ far left shocks French Jews)
今回フランスで右派が政権をとることは回避されそうだが、中道と左派はすでに、ロシア敵視(対米従属)、移民政策、温暖化対策、コロナ対策など多くの面で大失敗し、大半の人々に支持されていない。中道と左派は失敗を認めず、むしろ失策に固執しているので挽回も不可能だ。フランスはいずれ右派が政権をとる。これは確定的だ。ドイツや北欧でも同様の状態だ。イタリアは、すでに右派が政権にいる。ハンガリーの右派首相オルバン(注:今月7月から輪番制の欧州理事会=欧州連合全加盟国の首相・大統領で構成=の議長に就任。任期は6カ月)。ウクライナのゼレンスキー大統領とロシアのプーチン大統領を訪問して、停戦案を探っている)は、オーストリアやチェコの右派与党と連動し、欧州議会などで全欧的な右派連合を強化していく動きを開始した。オルバンは、米国のトランプのMAGA(注:Make America Greate Again)とも連携している。欧米のリベラルからの敵視に反論しているロシアのプーチンとも連携している。これは(注:この動きは)拡大していくだろう(オルバンが殺されない限り。いやむしろ殺されても)。(Hungary’s Orbán Announces New ‘Patriots For Europe’ Alliance With Austrian & Czech Nationalists)
欧州は全体としてみると、いまだにエリート支配で、すでに大失敗が確定している超愚策を強硬に推し進めている。EUの大統領(欧州委員長)として再任されるフォンデアライエンは、ロシア敵視や温暖化人為説やコロナワクチン強要など、EUやエリート層の超愚策に反対する人々を、危険な偽情報の発信者として取り締まって有罪にすることが「民主主義の防衛」のために必要だと主張し、全体主義的な言論統制の法体制を強化しようとしている。(Von der Leyen proposes ‘vaccines’ for minds and a ‘shield’ for democracy)(言論統制強まる欧米)
なお、欧州連合の各組織については、JEIC学術評議会の次のサイトを参照して下さい(https://www.jeic-emf.jp/academic/international/eu/#:~:text=EU%E7%90%86%E4%BA%8B%E4%BC%9A%E3%81%8CEU,%E5%BD%B9%E5%89%B2%E3%82%92%E6%8B%85%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82)。EU理事会が法案の提出権限を有しており、EU理事会が提出した法案に対して今回の選挙で右翼勢力が躍進した欧州議会が審議し、両者が欧州連合としての法律を決定する。議長が輪番制の欧州理事会が最終的に欧州連合(EU)としての意思を決定する。サイト管理者の見るところ、欧州連合(EU)の最高意思決定機関は、欧州諸国のエスタブリッシュメントで構成される欧州委員会が握っているから、欧州諸国の国民の声が反映される仕組みにはなっていないようだ。
【追記】フランス議会選挙の結果−国民連合は3位にとどまる
7月7日日曜日の第二回投票の結果、左派の連合の新人民戦線が、過半数には届かなかったものの、180議席を獲得して最大勢力になり、マクロン大統領率いる中道左派の与党連合は、選挙前に比べて議席を100議席近く減らして158議席にとどまり、「極右政党」とマスコミが差別する民衆政党の国民連合は、連携する勢力と合わせて143議席を獲得した模様だ(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240708/k10014504651000.html)。前評判では国民連合が第一党になると見られていたが、マクロン大統領のなりふり構わない多数派工作の前に、国民連合が屈した形になった。
ただ、2022年6月の89議席からはほぼ倍増の議席を得ており、フランス国民の間に定着したと言える。ただし、どの政党も過半数を獲得できておらず、法案ごとに連立する政党を探す極めて不安定な政治情勢になった。ロイター通信は、「ユーロと仏国債先物が下落、下院選受け議会空転に懸念」と題する記事を配信、その中で次のように述べている。
7日投開票されたフランス国民議会(下院、577議席)総選挙の決選投票で、予想に反して左派連合が極右を抑えて最大勢力になる見通しとなったことを受けてユーロと仏国債先物が下落した。ハングパーラメント(宙づり議会)に陥る可能性で不透明感が強まったことが背景。8日アジア時間のユーロは約0.2%安の1.0819ドル。仏長期債先物は20ティック安で、インプライドイールドは3.13%。極右政党『国民連合(RN)』が第3勢力にとどまるとの見通しは市場関係者に安心感を与えるかもしれないが、左派の公約はマクロン大統領の(注:新自由主義に基づく)市場寄りの改革の多くを後退させる可能性がある。また、政治的な行き詰まりが2023年に国内総生産(GDP)の110.6%に達した公的債務抑制の取り組みに水を差す恐れもある」と述べている。
結局のところ、田中氏が予測するように、対米従属政策を推進して、インフレや新自由主義的な政策で国民が苦しんでいる欧州では、民衆右翼政党が台頭する流れは変わらず、「今回フランスで右派が政権をとることは回避されそうだが、中道と左派はすでに、ロシア敵視(対米従属)、移民政策、温暖化対策、コロナ対策など多くの面で大失敗し、大半の人々に支持されていない。中道と左派は失敗を認めず、むしろ失策に固執しているので挽回も不可能だ。フランスはいずれ右派が政権をとる」公算が大きい。
国民連合が今回の議会選挙では第3党にとどまったことから、EUの欧州理事会に代表されるエスタブリッシュメント・エリート勢力は、取り敢えずは、社会生活の安定と経済再建を求める欧州国民の声に耳を傾けず、バイデン民主党政権の対米従属政策に沿った政策を変更しそうにない。そして、民衆の声を潰すために、欧州諸国を自由な言論を圧殺する独裁国家に転換しようとするだろう。
ただし、英国の総選挙では英国民のインフレなどによる生活苦の解消を公約に掲げた労働党が圧勝し、民衆の生活苦を改善しようとする(一般的に、草の根)政党が次第に国民の支持を得ている(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240705/k10014501861000.html)。
4日に行われたイギリスの総選挙は開票作業がほぼ終わり、公共放送BBCによりますと日本時間の5日午後6時半の時点で議会下院の650議席のうち、最大野党・労働党が412議席と、選挙前に比べて議席数を2倍近く増やし、単独で過半数を獲得しました。(中略)一方、スナク首相率いる与党・保守党は121議席にとどまり、選挙前に比べ、議席数を200以上減らしました。(中略)
落選が決まったシャップス国防相は「今回は労働党が勝ったというより、保守党が敗れたのだ」と述べました。その上で「新しい政府が国防にGDP=国内総生産の2.5%を費やすことを早急に約束しないかぎり、イギリスの軍だけでなくウクライナの友人たちも打撃を受けることをとても懸念している」と述べ、政権交代がウクライナへの支援に影響しないよう求めました(注:要するに、英国民の生活よりもウクライナの軍事支援を優先すべきだとの主張)。
また、米国ではバイデン大統領の認知性が明らかになり、民主党のバイデン候補(現職大統領)おろしが日増しに強まっている(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-07-05/SG624KDWLU6800、)。
米マサチューセッツ州のヒーリー知事は5日、バイデン大統領に再選を目指す選挙戦を続けるかどうか検討するよう促した。ホワイトハウスは数日前(注:7月3日にホワイトハウスで開かれたバイデン氏と民主党の知事との会合と思われる)に、ヒーリー氏など民主党州知事の支持を求めていた。
「今回はわれわれの生涯で最も重要な選挙だという意見にバイデン氏は賛同している」とヒーリー知事は発言。「今後数日間にわたって、米国民の声に耳を傾け、ドナルド・トランプを打ち負かす最善の希望であり続けるかどうか慎重に判断するようバイデン氏に促す」と述べた。
共同通信も、米紙ワシントン・ポストが、米民主党上院議員からもバイデン氏の撤退を求める動きが出始めたことを伝えている(https://news.yahoo.co.jp/articles/3ce13f69169d52eeb32f072c6947381ec7b3b8f2)。
米紙ワシントン・ポスト電子版は5日、与党民主党の有力上院議員が、バイデン大統領(81)に大統領選出馬をやめるよう求める議員団を結成する意向だと報じた。下院議員からも撤退を求める声が上がっており、11月5日の投票が4カ月後に迫る中、圧力が高まった。バイデン氏は中西部ウィスコンシン州で演説し「選挙戦を続け、勝利する」と訴えた。(中略)
民主党では複数の下院議員が公然と撤退を要求している。ワシントン・ポストによると、上院情報特別委員長を務めるウォーナー議員も、このままではトランプ氏に勝てないと懸念し「バイデン氏は、もはや選挙に残ることはできない」との考えを党の上院議員たちに伝えている。
また、民主党への大口献金者もバイデン氏に対して、大統領選挙候補の辞退を求めている(https://www.bbc.com/japanese/articles/cw5ye9295reo)。
バイデン氏は6月27日に行われたドナルド・トランプ前大統領(共和党)とのテレビ討論会で、声がかすれ、時に口ごもり、返答に窮しているようにみえる場面もあった。そのため、同氏の大統領としての適性や、大統領選で勝利する能力について、身内の民主党員からも懸念の声が上がった。
さらに、民主党への献金者らも、候補者をバイデン氏から別の人に替えなければ資金提供を保留すると公然と警告している。こうした献金者には、ディズニー家の財産相続人アビゲイル・ディズニー氏や、ハリウッドのプロデューサー、デイモン・リンデロフ氏、ハリウッドのエージェントであるアリ・エマニュエル氏、慈善家で起業家のギデオン・スタイン氏らが含まれる。
サイト管理者としてはいまさら、バイデン氏に代わる候補を見つけて民主党公認候補することは難しいと思うが、共和党のトランプ候補はバイデン候補との支持率の差を拡大しており、金融市場も「もしトラ」が実現する可能性が高いと認識し始めている。
秋の米大統領線でトランプ大統領が再び誕生すれば、欧州諸国の安保タダ乗り論を展開して、北大西洋条約機構(NATO)から脱退する可能性も指摘されている。その場合は、欧州のエスタブリッシュメント・エリートは完全に支持を失うだろうし、トランプ氏が欧州の自立を促す公算も小さくはない。ウクライナへの新型兵器の供与は、結局のところ、米連邦準備銀行がドルを刷って、軍産複合体に払っているが、これはヘリコプターマネーであり、ドルの過剰流動性をもたらして、ドルに対する信認の失墜をもたらすから、トランプ氏は非米側陣営と共同して、ウクライナに敗戦を意味する停戦を求めるだろう。
なお、実質的に国民連合を指導するマリーヌ・ルペン氏はロシアのプーチン大統領と親交がある。ロシアに対する強力な経済制裁が、資源・エネルギー価格の高騰をもたらし、フランスなど欧州諸国に根強いインフレ圧力をもたらしていることを熟知しているのだと思われる。
いずれにしても、トランプ氏が再び大統領になることで、欧州には劇的な転換の時期がおとずれるようになり、メディア(ほとんどのメディアは左派)からは「極右」と呼ばれる民衆政権が誕生することになる。ただし、田中氏は「ゼレンスキーが和解に傾いているのを(注:トランプ氏が米諜報界=ディープステート=の暗躍を封じ込めることができず、再び同諜報界が)阻止して、戦争を長期化するため、米国がウクライナ軍を動かしてベラルーシ国境沿いに結集させている。ウクライナ戦争がベラルーシに拡大し、停戦の話が潰れるかもしれない」可能性を指摘している。
プーチン大統領の停戦条件は、ロシア系住民の多い東南部4州からウクライナ軍が撤退すること=ノボ・ロシア構想の実現=だ。ウクライナ戦争が東部ロシア系住民を大弾圧したことから始まったことを考慮すると、ゼレンスキー大統領としてもウクライナ国民の窮状を考慮すれば、この条件を飲むしかないと思われる。ゼレンスキー大統領は早期に決断し、退陣して、ウクライナに新たに救国政権を樹立させるべきだ。ウクライナはカトリック、ロシア正教と異なった宗教を信奉する他民族国家であり、キッシンジャー氏が生前述べていたように、双方(ともに、アタナシウス派系のキリスト教だが、儀式や聖像崇拝などで大きな対立がある)の宗教の対立を乗り越えない限り、分割統治しなければ政治がうまく回らない。
ゼレンスキー大統領、プーチン大統領の停戦案受け入れか
ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアのプーチン大統領の停戦案を受け入れるようだ。国際情勢解説者の田中宇氏が「対露和解を望み始めたゼレンスキー」と題する解説記事を公開し、その中で明らかにした(https://tanakanews.com/240706ukrain.htm、無料記事)。それによるとウクライナのセレンスキー大統領は、、東南部4州からウクライナ軍が撤退し、中露BRICSの非米側陣営に入って自国の再建を図る考えの模様だ。輪番制で欧州連合(EU)の最高意思決定機関である欧州理事会の議長国になったハンガリー・オルバン首相がゼレンスキー大統領とプーチン大統領に合ったのは、ゼレンスキー大統領の要請によるものだったという。
最近までロシア敵視一辺倒で、(注:6月にスイスで開かれた平和サミットなるもので、非現実的な逆提案を出して)和解による停戦を拒否し続けてきたウクライナのゼレンスキー大統領が、急転直下、ロシアとの和解停戦を模索する動きを始めている。ゼレンスキーは、親露なハンガリーのオルバン首相にロシアとの仲裁を頼んだ。オルバンは7月2日にウクライナを訪問してゼレンスキーに会った後、7月5日にロシアを訪問してプーチン大統領と会った。(Hungary’s Orban Visits Ukraine, Suggests Zelensky Consider a Ceasefire)(Viktor Orban Urges Zelensky For ‘Quick Ceasefire’ In First Visit Since War’s Start)
米国側のマスコミは、オルバンのウクライナ、ロシア訪問を報じているが、それがゼレンスキーの依頼によるという話は出していない。オルバンの勝手な動きにEU上層部が怒っているという(浅薄な)話だけだ。しかしロシアのメディアなどは、6月末から、ゼレンスキーが対露和解したい姿勢を見せていると指摘してきた。(Zelensky preparing ‘plan to end war’)(中略)
ウクライナ軍は露軍に負け続けて崩壊寸前だ。ウクライナ軍は、自分から撤退しなくても、(露軍が本気を出せば)数か月以内に4地域から敗退していく。ならば今、停戦和平と交換に4地域から撤退しても同じだ。プーチンは以前、米国側が対露制裁を解除することや、米国側がウクライナの恒久中立化(NATO不加盟)を認めることも、ウクライナ停戦の条件だと言ったことがあったが、今回はそれらも条件から外した。米国は露敵視一辺倒なので、対露制裁解除や、ウクライナのNATO不加盟を決して認めない。今回のプーチン提案は、ウクライナにとって受諾しやすく、米国に何も求めないので、実現できる可能性が高いものになっている。(Putin Makes Public Peace Offer to Ukraine)
ゼレンスキーは米国の傀儡なはずなのに、勝手にロシアと和解して大丈夫なのか。暗殺されたり、妨害されたりしないのか(注:そして米側陣営がその濡れ衣をロシアのプーチン大統領に着せたりしないのか)。どうだろう。そのあたりは今後わかる。ウクライナ軍は、米軍の顧問団に動かされており、米国はゼレンスキーを迂回してウクライナ軍を動かせる。ウクライナ軍は最近ベラルーシ国境近くに展開しており、米国がゼレンスキーの対露和平を潰すため、新たにベラルーシを戦争に巻き込む可能性がある。(Belarus not going to get involved into any hostilities – Lukashenko)
米国があまり妨害せず黙認すれば、近いうちにロシアとウクライナが停戦する。停戦しても、米国側のロシア敵視や対露制裁は続く。ウクライナは対露和解するが、米国(米欧日)はそれを無視してロシア敵視を続ける。ロシア敵視は「ゾンビ化」して続く。米国としては、ウクライナ軍が完全に壊滅して露軍がウクライナ南部を占領し、ウクライナ西部がポーランド領になる傾向が強まってウクライナが消滅して戦争が終わり、ロシア敵視の構造自体が消えるよりも、ウクライナ国家が残ってロシア敵視をゾンビ化して続けることを望んでいる。
(Why the Russia-US conflict will outlast the Ukraine crisis)(中略)プーチンは、ウクライナと一時的に停戦するのでなく、これを機に恒久和平の体制を作りたい、と言っている。それを、どうやって実現する気なのだろう。(Putin Tells Orban Moscow Ready For ‘Complete & Final End’ To Ukraine War)。私の推測は「スイス和平サミットの向こうを張る北京和平サミットを習近平に開いてもらい、BRICSなど非米諸国が全員集合する中で、ロシアとウクライナと周辺地域。ユーラシアの恒久和平や安定を話し合って決める」というシナリオだ。中国政府は最近、ウクライナ和平会議を主催することを提案している。6月13日にはゼレンスキーと習近平が電話会談した。(Beijing-Hosted Ukraine Peace Conference? Why Not)
(ゼレンスキー大統領はウクライナを消滅させないために)中露BRICSは、ウクライナ戦争を米国側からひったくって停戦和平して終わらせ、戦後のウクライナを非米側に取り込んで復興していくつもりでないか。ゼレンスキーも、そうしたいのだろう。トランプが米大統領に返り咲いてウクライナ和平を仲裁する前に、中露BRICSに取られてしまう。これが実現したら、それは世界の非米化や多極化を象徴するものになる。オルバンのモスクワ訪問が決まった直後とおぼしき7月4日、プーチンは「多極型世界が現実のものになった」と宣言している。(Multipolar world becomes reality, Putin says)(Moscow Pact: Will Russia unite the disunited world?)
世界的な通信社を含む一般のマス・メディア(例えば、NHKのhttps://www3.nhk.or.jp/news/html/20240706/k10014503571000.html、産経のhttps://www.sankei.com/article/20240706-OMG2V54IGZMP5NFSIWNMNQLAAY/)とは全く異なる解説だ。しかし、米国に従属しないウクライナの正しい将来を考慮すると、サイト管理者の目から見ても納得の行く解説だ。産経の報道が示唆するように、北大西洋条約機構(NATO)がウクライナをNATOに強制加入させることになれば、重大な局面に突入すいることを覚悟しておく必要がある。