(3)アフガン戦争
2001年9月11日に発生した米国同時多発テロ事件に対して、米国が北大西洋条約機構 (NATO)を使いテロ攻撃に対して「集団的自衛権」を発動した戦争。米国政府によって、これまで数度に渡って同国に対するテロを行ったウサマ・ビンラディンとアルカイダに首謀者の嫌疑がかけられた。

米国政府(ジョージ・ブッシュ=ジュニア・ブッシュ大統領)はアルカイダ主犯説を採っているが、9・11が軍産複合体によって引き起こされたものとする謀略説が跡を断たないし、真相は未だ不明だ。例えば、下記の動画参照。特に、世界貿易センター第7ビルが一瞬のうちに倒壊した原因がまだ究明されていない。

知人のイスラム世界特派員に聞いたところによると、「イスラム諸国では9・11はイスラム諸国を攻撃、支配下に置くための米国の謀略」とみるイスラム教徒が少なくなく、「驚いた」とのことだ。「9・11同時テロ事件」について、もっと本格的な総括が必要だ。いずれにしても、アフガニスタンでは再びタリバン勢力が盛り返し、国境のパキスタン側にも侵入するなど、泥沼の状況に陥っている。

(4)イラク戦争
イラク戦争はサダム・フセイン政権が「大量破壊兵器を保有している」との米国の「情報」をもとに、2003年3月20日から行われた米国中心の有志国連合軍による戦争である。日本も「イラク復興支援」を名目に参加した。しかし、このイラク戦争にはさまざまな問題が提起されている。

第一は、参議院戦争法案審議特別委員会で「生活の党と山本太郎となかまたち」共同代表の山本太郎委員が指摘したように、国際連合監視検証査察委員会(UNMOVIC)によるイラク大量破壊兵器査察中が終了、結論を得てない中、ジュニア・ブッシュ大統領は「国連安全保証理事会は責任を果たさなかった。それゆえに、我々の責任に応じて立ち上がる」として3月20日に対イラク攻撃を開始したことである。

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国連安全保証理事会が責任を果たさなかったというのはWikipediaによれば、「3月7日、UNMOVICは2度目の中間報告を行った。アメリカは査察が不十分であるとして、攻撃に関する決議採択を行おうとしたが、フランスは査察期限の延長を求めた。アメリカ、イギリスに加え、この時点で日本は、態度が不明確な非常任理事国6か国に決議賛成の根回しを行ったが、失敗。このため、フランスが拒否権を行使することなく決議否決となる可能性が高まり、アメリカとイギリスは決議無しでの攻撃に踏み切ることにした」ということである。つまり、国連安保理の決議なしに(国連を無視して)米国と英国がそれぞれ「個別的自衛権」、「集団的自衛権」による自衛のための「先制攻撃」としてイラク攻撃を開始し、しかも、当時の小泉純一郎政権はイラク攻撃に向けて国連安保理内で根回ししていたが、失敗していたのである。これは、戦後の国際連合による秩序維持の根幹を崩すものであり、かつまた、「個別的自衛権」の乱用であることは疑いの余地がない。

第二に、結局のところ、イラクに「大量破壊兵器は存在しなかった」ということである。このため、米国は早くも2004年10月に「イラクに大量破壊兵器は存在しなかった」との調査報告書を明らかにし(イラク占領自体が目的であった可能性が高い)、英国も2009年に独立調査委員会が設置され、膨大な調査報告を行なった。さらに、オランダも同様の調査を行い、2010年に1月には、「イラク開戦は国際法上の根拠を欠いたものであった」と事実上の自己批判を行った。しかし、日本では、自国が国連安保理でイラク攻撃を米国の要請で画策した「下手人」の一人だったが、自公政権はまともな調査を行なっていないし、今回の戦争法案審議特別委員会でする意思もないことを明らかにしている。イラク戦争を支持した前科があるからだ。

第三に、「イラク特措法」に基づき小泉首相によってイラクはサマワに派遣された自衛隊が、同法はもちろん憲法違反の行動に出たのである。「自衛隊の行くところが非戦闘地域である」などと物議をかもした小泉であったが、行ってみるとオランダ軍などが治安維持にあたらなければならない危険な地域であり、実際に駐留した2年半の間に、22発のロケット弾が宿営基地に向けて打ち込まれた。イラク特措法の精神からすれば、自衛隊は撤退すべきであった。「ところが、自衛隊は本来の任務であるはずの人道復興支援活動を”独断”で越えて、2万4000人近い米兵の輸送活動さえ行っていたのである。だからこそ、2008年4月に名古屋高等裁判所は、こうした自衛隊の活動を、イラク特措法違反であるばかりでなく憲法9条1項に違反する、との判決を下したのである」(豊下、古関前掲書22頁)。

これについて、愛知県弁護士会は会長名で次のような声明を出している。

−−転載開始−−

名古屋高等裁判所違憲判決に関する会長声明

昨日,4月17日,名古屋高等裁判所民事第3部(青山邦夫裁判長、坪井宣幸裁判官、上杉英司裁判官)は,自衛隊イラク派兵が憲法違反であることの確認などを求めた訴訟(自衛隊イラク派兵差止訴訟)において,判決理由の中で、「現在,航空自衛隊がイラクにおいてアメリカ兵等武装した兵員の空輸活動を行っていることは,憲法9条1項に違反する」との違憲判断を行った。

高等裁判所において,自衛隊が現に行っている活動について憲法9条1項違反が認められたのは日本国憲法制定後初めてのことであり,歴史的な意義を有する画期的な判決である。判決では,現在のイラクの情勢について「多国籍軍と武装勢力との間のイラク国内における戦闘は,実質的には平成15年3月当初のイラク攻撃の延長であって,外国勢力である多国籍軍対イラク国内の武装勢力の国際的な戦闘である」,特に首都バグダッドは「イラク特措法にいう『戦闘地域』に該当するものと認められる」と判断した。

その上で,航空自衛隊がアメリカからの要請を受け,アメリカ軍等との調整の上で,バグダッド空港への空輸活動を行い,空輸活動において武装した多国籍軍の兵員を輸送していることを認定した。この空輸活動について「それ自体は武力の行使に該当しないものであるとしても,現代戦において輸送等の補給活動もまた戦闘行為の重要な要素であるといえることを考慮すれば,多国籍軍の戦闘行為にとって必要不可欠な軍事上の後方支援を行っているものということができる」とし,「少なくとも多国籍軍の武装兵員を,戦闘地域であるバグダッドへ空輸するものについては,他国による武力行使と一体化した行動であって,自らも武力の行使を行ったとの評価を受けざるを得ない行動であるということができる」と判示した。

そして「現在イラクにおいて行われている航空自衛隊の空輸活動は,政府と同じ憲法解釈に立ち,イラク特措法を合憲とした場合であっても,武力行使を禁止したイラク特措法2条2項,活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し,かつ,憲法9条1項に違反する活動を含んでいることが認められる」と述べて,憲法9条1項に違反することを明確に認めた。

加えて、判決では平和的生存権は「全ての基本的人権の基礎にあってその享有を可能ならしめる基底的権利であるということができ、単に憲法の基本的精神や理念を表明したに留まるものではない」とし、平和的生存権の具体的権利性を正面から認めた点も高く評価できる。

当会は,平成15年(2003年)7月23日,イラク特別措置法の制定は,自衛隊が米国の武力行使と一体化することを容認するものであって憲法に違反するとの会長声明を発し,また,実際にイラクへ自衛隊を派遣する「基本計画」を閣議決定したことに対しても平成15年(2003年)12月10日,「基本計画」が憲法9条違反であるとしてその撤回を求める会長声明を発してきた。さらに,平成16年(2004年)4月15日、日本人民間人3名がイラクにおいて誘拐された際にも,自衛隊のイラク即時撤退を求める会長声明を発してきた。

今回,名古屋高等裁判所が,緻密な事実認定の上に,憲法9条を解釈し,航空自衛隊が現在イラクで行っているアメリカ兵等武装した兵員の空輸活動について,憲法9条1項違反であると判断したことは,日本国憲法下,違憲立法審査権を付与された司法府の責任を全うしたものとして心からの敬意を表する。

そして,行政府及び立法府に対しては,司法府が示した違憲判断を尊重し,直ちに航空自衛隊の空輸活動を中止し,自衛隊をイラクから撤退させるよう,強く求めるものである。また、当会としても、憲法の理念を尊重し、実現するため行動することをここに決意する。

平成20年(2008年)4月18日

愛知県弁護士会 会長 入谷正章

−−転載終わり−−

もっとも、この名古屋高裁での主判決は、「イラクにおいて航空自衛隊が行っている空輸活動は,武力行使を禁止したイラク特措法2条2項,活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し,かつ,憲法9条1項に違反する活動を含むものではあるが,これによる控訴人らの平和的生存権に対する侵害は認められないとして,控訴人らによる自衛隊のイラク派遣に対する違憲確認の訴え及び派遣差止めの訴えを却下し,国家賠償請求を棄却した」。何とも、理解に苦しむ判決である。こうした憲法違反行為が事実上許されるとなれば、少なくとも「平和的生存権」に対する懸念・不安が生じるのは明らかではないか。砂川裁判以降露呈した、司法が行政から独立していない(日本においては三権分立が機能していないこと)、具体的には司法が行政の支配下にあることを改めて示す判決である。

第四に、イラク戦争の被害が甚大なものであったということである。米兵と米国・イラク治安部隊の死者数は3万人余り、民間人の死者数は20万人を超えると推定されている。民間人の死亡の原因は、山本委員が明らかにしたように、主にジュネーブ条約違反である「米軍による民間人の大量虐殺」である。この点について参院戦争法案審議特別委員会で山本委員は「首相」安倍を追及したが、まともな答弁はなかった。 

また、アフガン戦争、イラク戦争の戦費は推定4兆ドルに上ると試算されており、実際に米国連邦政府の累積債務残高は2001年度の約5兆8000億ドルから2011年度には15兆5000億ドルに膨張している。なお、2015年度時点で米国の累積財政赤字(債務残高)は連邦政府、地方政府併せて50兆(6000兆円)ドルに上るとの試算もある。正確な実態は不明である。これに、対外純債務残高(外国政府・民間からの借金が30%以上)あり、米国経済はニッチもサッチも行かなくなっている。このため、欧州諸国は連邦準備制度理事会(FRB)傘下のニューヨーク連銀が保管している金塊の返還を要請、米国政府はしぶしぶながら返している。しかし、日本政府は米国への貸し金を返済してもらう能力はもちろん、意思さえない。言い出した途端に、失脚させられるからである。橋下龍太郎元首相(2001年4月の自民党総裁選で最有力候補だったが、小泉純一郎という変人が選ばれ、対米隷属政策を次々に推進)、中川昭一財務相(記者会見の前に毒薬を飲まされて失脚)らがそれである。

孫崎享「戦後史の正体」が論証しているように、米国からの自立を図る政治家は全て抹殺されている。その代表格が田中角栄首相である。

第五に、米軍はサダム・フセイン政権を打倒したものの、イラク占領は混乱に混乱を極め、フセイン大統領を支えていたスンニ派のイスラム教徒幹部らがイラク北部に逃亡、イラクとシリアにまたがる「イスラム国(ISIL=Isramic State in Iraq and the Levent)」の「樹立」を促し、一向に収まる気配のないシリアの内戦とともに、中東地域を極めて不安定な状況に追い込む原因になった。喜んでいるのは、軍産複合体=「死の商人」たちだけである。

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