もともと中身のない「経済再生」は黒い金と利権に塗れ、自分たちの金儲けの道具だったというお粗末な幕切れ。後任大臣の無能と日銀の禁じ手の刹那が見透かされ、いよいよ、経済無策内閣の自壊が始まると見ているマーケット
さすがに不意を打たれたのか、「マイナス金利」という金融緩和策に市場は大混乱だった。日本銀行が史上初となる「マイナス金利」の導入を発表すると、29日の株式市場は、ジェットコースターのような乱高下を繰り返した。600円も急騰したと思ったら、一時、前日終値を下回るほど急落し、最後は476円高の1万7518円で引けた。安値と高値の差は871円だった。
なぜ、黒田日銀は突然、異例の「マイナス金利」の導入を決めたのか。それもこれも「異次元の金融緩和」が行き詰まったからだ。「年明け以降、株価が3000円も急落し、マーケットは“黒田バズーカ第3弾”を催促していました。でも、すでに限界まで量的緩和を実施している黒田日銀は、バズーカを発射したくても、撃ちようがない。仕方なく導入したのが“マイナス金利”ということなのでしょう。他に対策があれば、本当はマイナス金利など導入したくなかったはず。黒田総裁本人も“副作用”があると認め、導入に対して、政策委員9人のうち、賛成5人、反対4人だったというから、反対が強かったはずです。それでも導入せざるを得なかったのは、なにか手を打たないと株価が底を抜ける恐れがあったからだと思う。マーケットに追い込まれて導入したのが、本当のところでしょう」(経済評論家・斎藤満氏)
■低金利にしても日本経済は動かない

問題は、マイナス金利にどのくらいの効果があるのか、ということだ。マイナス金利の狙いは、金融機関の融資を増やすことだ。現在、金融機関が日銀に預けている資金には、年利0.1%の金利がついている。マイナス0.1%にすれば「預け損」になるので、日銀に預けず、企業への融資を増やすだろうという計算である。

しかし、金融機関が融資したくても、“借り手”がいないのが現状である。どんなに尻を叩いても、借りたい人がいなければ、融資が増えるはずがない。そもそも、いまでも金利は十分に低い。さらに金利を低下させても、効果はたかが知れている。安倍首相と黒田総裁は、「低金利」にすれば、カネとモノが動くと信じ込んでいるようだが、大間違いだ。「日本経済」と「低金利」について、経営コンサルタントの大前研一氏が、「サンデー毎日」(1月3日号)で興味深いことを書いている。
〈アベノミクスがなぜうまくいかないのか。大きな理由の一つは、日本人が金利に反応しないことを安倍首相のブレーンが理解していないことです。多くの国民が、金利が0.1%にも満たない金融機関に長期間、預金していますが、世界でこんな国はないのです。金利が固定で変わらない住宅ローン「フラット35」があっても、日本人はさほど反応しません。海外で、例えば金利1.35%程度のフラットのローンがあれば、大勢が金融機関に押し掛け、暴動騒ぎになるでしょう〉

〈しかし、日本は今や(略)金利やマネーサプライでは人が動かないようになっているのです〉

まったく、その通りだろう。3年前から〈異次元の金融緩和〉を実施している黒田日銀は、「マネーサプライ」を増やし、「低金利」を実現させているが、いつまで待っても日本経済は上向かない。マイナス金利は、手詰まりになった黒田日銀の「最後のカード」らしいが、株価を瞬間的に上昇させるだけの一時しのぎに終わるのは、目に見えている。

これで4回目の「金融緩和策」の異常

もはや、アベノミクスが破綻したのは明らかだ。もし、アベノミクスがうまくいっていたら、この時期に「マイナス金利」などというシロモノを導入する必要もなかったはずである。なにしろ、マイナス金利は、銀行の収益を圧迫するなど、メリットよりも副作用の方が大きい。

アベノミクスの破綻にタイミングを合わせるように、司令塔だった甘利明経済再生相が「政治とカネ」で失脚している。だいたい、劇薬である「異次元の金融緩和」は、短期決戦だったはずである。なのに、黒田総裁が「緩和策」を打つのは、これで4回目である。

2013年4月に「異次元の金融緩和」をスタートさせ、2014年10月に「追加緩和」に踏み切り、昨年12月には「補完策」を打ち出し、とうとう「マイナス金利」まで導入している。筑波大名誉教授の小林弥六氏(経済学)が言う。

「黒田総裁は就任時、『戦力の逐次投入はしない』と胸を張っていたはずです。なのに、何度も対策を重ねている。しかも、どんどん効果が小さくなっています。いい加減、安倍首相も黒田総裁も“我々の政策は間違っていました”と素直に認めるべきです。アベノミクスも末期的だな、と思うのは、“携帯代を下げろ”“設備投資をしろ”“賃金を上げろ”などと、企業経営者を恫喝しはじめていることです。景気が回復しないことに苛立っているのでしょうが、こうなると、もう経済政策じゃないですよ。もともと、アベノミクスは新自由主義だったはずなのに、北朝鮮や中国と同じく政府が介入する統制経済のようになっている。揚げ句の果てが、マイナス金利ですか。アベノミクスは完全に終わったと思います」

足元の景気も急速に悪化している。企業の生産活動を示す鉱工業生産は2カ月連続の悪化。1世帯当たりの消費支出は4カ月連続のマイナスである。

■3月までに株価はまた急落する

黒田日銀の手詰まりがハッキリした日本経済は、この先どうなるのか。アベノミクスの司令塔だった甘利はいなくなり、後任大臣は無能を絵に描いたような石原伸晃である。石原新大臣は、麻生財務相にまで「この分野、あまり得意じゃないかもしれないが」とバカにされるありさまだ。すでに外国人投資家は、日本経済に見切りをつけているという。ただでさえ、年初から一時3000円も下がった日本株は、さらに下落する恐れが強い。

「マーケットには、“夏の参院選前には株価が上昇するはずだ。選挙対策のために安倍政権が力ずくで上げてくる”と期待する声がありますが、あまり期待しない方がいいと思います。“マイナス金利”の導入で分かったことは、もう日本銀行には打つ手がない、ということです。マイナス金利を発表した29日、平均株価は乱高下し、最後は上昇して終わりましたが、マーケットはすぐに『これはバズーカじゃない』『モデルガンだ』と見抜くはず。早ければ、株価は3月までにまた急落するでしょう。アメリカFRBが利上げする可能性があるからです。日本株は“原油安”や“中国経済”“アメリカの利上げ”といった、海外要因で簡単に暴落するほど脆弱になっている。実体経済とかけ離れて上昇してしまったからです。安倍政権が株価を上げようとしても難しいと思う。かりに7月の参院選前に株価を上げたとしても、選挙後に暴落する危険があります」(斎藤満氏=前出)
安倍政権がスタートしてからすでに3年以上。もともと、富裕層だけが潤うアベノミクスだったが、その旗振り役だった甘利は、汚いカネを「はい、はい」と自分の懐に入れていた。有象無象が「口利き」してもらえると、アベノミクスの司令塔である甘利に近づいていたのだろう。アベノミクスの断末魔の叫びが聞こえてくるようだ。

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