【追記:6月29日午前8時】
イランの権力制の事実上の変化後、中東はアブラハム合意の完成に向けて動き出す
国際情勢解説者の田中宇氏の分析をサイト管理者(筆者)なりに解釈すると、イランの権力の事実上の転換後、中東はアブラハム合意の完成に向けて動き出すようだ。田中氏は6月27日に投稿・公開した「中東が戦争から和平に大転換」と題する分析記事(https://tanakanews.com/250628abrahm.htm、無料記事)のリード文で、中東情勢の今後について、次のように述べている。「トランプ米大統領が、イランとの戦争が一段落したことを利用して、サウジアラビアなどイスラム諸国をイスラエルと和解・国交正常化させる「アブラハム合意」の拡大・本格化を進めようとしている。トランプはイランと和解し、イランもイスラエルと和解させてアブラハム合意に入れようとしている」。
読売新聞オンラインでは、「イランで司令官ら60人の葬儀、ハメネイ師の姿確認できず…2日前のビデオ声明では疲れた表情」と題して、次のように伝えている(https://www.yomiuri.co.jp/world/20250628-OYT1T50115/)。
イスラエルの攻撃で殺害されたイラン軍参謀総長や精鋭軍事組織「革命防衛隊」司令官ら約60人の葬儀が28日、首都テヘランで営まれた。重要な葬儀では祈りをささげる最高指導者アリ・ハメネイ師の姿は国営テレビでは確認できなかった。政府は外国メディアの取材を認めず、国営テレビは同日午後(現地時間)現在、祈りの場面を放送していない。マスード・ペゼシュキアン大統領ら行政、司法、立法の長は確認できたが、後任の軍参謀総長や革命防衛隊司令官の姿もなかった。ハメネイ師は攻撃が始まった13日以降、公に姿を見せていない。停戦後の26日、ビデオ声明を出したが、疲れた表情だった。
トランプ政権とネタニヤフ政権は、モサドなど諜報機関によりハメネイ師の所在地を特定している模様だ。
既に述べてきたように、イランはホメイニ師を頂点とするイスラム教シーア派の高位法学者が傘下の革命防衛隊を使ってイラン国内の利権を維持・拡大する1979年のホメイニ師主導のイスラム革命以降の「イラン・イスラム共和政体」(要するに、神権政治体制)から、ペゼシュキアン大統領らの「改革派」とイラン国軍によるイラン国民(民衆レベル信仰共同体)の利益を重視し、中東の和平を目標とする非親権政治体制へと移行しつつあると思われる。内政的には核弾頭開発・作成の放棄であり、外交的にはイスラエルとの和解による中東諸国の和平の実現である。
なお、イスラム教における二大宗派のスンニ派とシーア派の違いは、預言者ムハンマド(マホメット)の後継者問題によるもので、スンニ派はムハンマドの言行(スンナ、コーランによる教えの厳格な実施)を重視し、シーア派はムハンマドの血筋(アリー=預言者ムハンマドの従兄弟であり、娘婿でもあり、イスラム教の第4代正統カリフ(在位656年 - 661年、ムハンマドのシーア派の初代イマーム(指導者)=とその子孫)を重視する。
また、カリフとは預言者ムハンマドの後継者であり、イスラム信仰共同体の政治的・宗教的な最高指導者のことを言うが、カリフは終末時に救世主=マフディー=を迎える使命がある。マフディーは不正を正し、イスラム教の正義を確立すると信じられているが、古代ユダヤ教の律法学者らが殺害したイエスも再臨して、マフディーに協力するとされている。右派リクードの党首のネタニヤフ首相は、トランプ大統領の支援を受けて「拡大イスラエル(チグリス・ユーフラテス川からエジプトなどアフリカ北部までの範囲)」を目指していると見られる。要するに、和解したイスラエルとアラブ諸国からなる中東世界の覇権国家を目指していると思われるが、最終的には古代イスラエル教の伝統を受け継ぐユダヤ教とユダヤ教から出現したキリスト教、中東世界が救世主を迎えるために天使長のガブエルがムハンマドに掲示して組織化させたイスラム教の教えが、最終的には一致する形でないと受け入れられないだろう。

上図は中東地域に限っているが、その西側にはガザや西岸のパレスチナ人(パレスチナ難民)の移住先の候補とされるエジプト、「アフリカの角」であるソマリアから分離独立したソマリランド(首都はハルゲイサ)が存在する。ソマリランドはエジプトほどガザには近くないが、移住が不可能な地域でもない。イスラエルがハマスらとの戦争を開始した理由は、パレスチナ国家構想の抹消にあると思われるから、移住先がアラブ所国家から容認・黙認されるまで、イスラエルとアラブ諸国(特に、イラン)との紛争(戦争)は完全には集結しないだろう。

田中氏は上記の分析記事で次のように分析している。
イスラエルは、トランプの米国を自由に動かせることを示すため、イスラエルが持っていない大深度兵器バンカーバスターでトランプにイランの原子力施設を攻撃させた。プーチンは米イスラエルを批判したが、イランへの軍事支援はしなかった。その理由は「旧ソ連から移民した露語話者が多いイスラエルは、ほとんどロシア系の国だから」。プーチンは親イスラエルであり、批判は口だけだ。今回、軍事力と政治力を誇示するイスラエルに、本気で歯向かう国はない。(Putin's surprising reason for not providing war aid to Iran: 'Israel is almost a Russian-speaking country')
こうした状況を見て、多極化が進んで米国に頼れなくなる前にイスラエルとの関係性(対立か、譲歩して和解か)を決めておねばならないサウジアラビアは「イスラエルがパレスチナ国家の機能破壊をやめて建国支援に転換しない限り、イスラエルと正式和解しない」と言っていたのを引っ込めつつある。サウジ(権力者MbS皇太子)は譲歩し、イスラエルとハマスが停戦してガザ戦争が終わったら、パレスチナ国家が機能不全なままでも、アブラハム合意に入ってイスラエルと国交正常化することにしたようだ。トランプの中東特使ウィトコフや、ネタニヤフが、そのように示唆している。(イスラエルはパレスチナ抹消を世界が認めるまでイラン攻撃する?)(中略)
もともと今回のイラン戦争は、トランプがイスラエルの協力を得て米上層(諜報界)の敵たち(英国系)をはねのけて政権に返り咲き、非米側を助けて多極化を推進しようとした時、イスラエルが、中東の覇権国(の一つ)の座をもらうだけでなく、英国系から背負わされてきたパレスチナ問題の抹消と、仇敵イランの勢力削減を条件に出してきたのが始まりだ。(Netanyahu decided on Iran war last year, then sought to recruit Trump)
イスラエルが望むイランの勢力削減がどこまでのものなのか不明だが、今回のイランとの停戦で、ネタニヤフは目標達成を宣言しており、トランプが望むアブラハム合意の拡大にも賛成している。いったん和解したら、その後さらにイランを攻撃するのは得策でない(再度の和解が困難だから)。イスラエルは、イランの勢力を十分に削減できたと考えているのでないか(政権転覆までやるつもりでないかと最近の記事に書いたが)。(イランとイスラエル 停戦の意味)
パレスチナの抹消は、まだ西岸もPA(自治政府)も残っている。だが、もしサウジやインドネシアがアブラハム合意に入るなら、それはアラブやイスラムの諸国がパレスチナへの固執を大幅に減らしたことを意味する。イスラエルがパレスチナ抹消を続けても、アラブとイスラム諸国の多くはイスラエルを敵視しなくなる。パレスチナは見捨てられるが、中東は諸大国間の和解が成立して安定していく。そのうち台湾も米国に見捨てられ、韓国と北朝鮮の和解が始まり、日本は対米従属の維持を許されつつ、多極化による世界の安定というトランプ(やロックフェラー)の目標が達成されていく。(中東安定のためにイスラエルがイランを空爆)
大英帝国の三枚舌外交(オスマン・トルコ帝国の分割統治)の「尻拭い」から始まった「パレスチナ国家構想」はそもそも無理があったから、ガザやヨルダン川西岸のパレスチナ人(パレスチナ難民)の移住先(経済支援はアラビア半島の原油生産大国のサウジアラビアを中心にその傘下国が行う)をアラブ諸国に見つけ(現在、エジプトとソマリランドが候補に上がっているが)、パレスチナ人を含むアラブ諸国が「妥当な移住先」として、容認ないし黙認する必要がある。そうして初めて、「アブラハム合意」が完成し、中東地域を中東の主要国家(イスラエル、サウジアラビア、イラン、トルコ)が従来の欧米から取り戻すことが可能になる。

ただし、トランプ政権一期時代に初めてイスラエルとアラブ首長国連邦との間に結ばれたアブラハム合意が完結するには、上記のユダヤ教、キリスト教、イスラム教の教義が完成する形でなければならない。宗教の教義と国際政治情勢を混同していると言われるかも知れないが、マックス・ウェーバーの指摘するように世界情勢の大転換期には、時代の転轍手としての理念=高等宗教の役割が極めて重要である。