ロシアはウクライナ事変後、カスピ海(塩湖)沿岸諸国の一角であり、世界有数の天然ガス埋蔵量を誇るトルクメニスタンに加えアフガニスタン、パキスタン、インドのTAPI(頭文字)諸国との協力関係を加速させ、天然ガスパイプライン(TAPIパイプライン)の完成に協力するとともに、天然ガス消費大国のインドや中国その他諸国にトルクメニスタンと自国の天然ガスを供給する外交政策を展開しているようだ。コモディティ大国が「金融大国」の米側陣営に対してますます優位性を確保している。
Wikipediaによると、トルクメニスタンは世界有数の石油、天然ガスの埋蔵量(天然ガスとして技術的に産出可能な埋蔵量)を誇る国である。世界における天然ガスの埋蔵量ランキングはイランとロシアが一位を争っており、次いでカタール、トルクメニスタン、米国、サウジアラビア、UAEと続く。 全埋蔵量の約40%は中東に集中している。なお、その中東諸国はこのところ米国離れし、ロシアとの強調関係を強化している。
トルクメニスタン(トルクメン語: Türkmenistan)は、中央アジア南西部に位置する共和制国家。首都はアシガバートである。カラクム砂漠が国土の85%を占めており、国民のほとんどは南部の山沿いの都市に住んでいる。豊富な石油や天然ガスを埋蔵する。西側でカスピ海に面し、東南がアフガニスタン、西南にイラン、北東をウズベキスタン、北西はカザフスタンと国境を接する。旧ソビエト連邦の構成国のひとつで1991年に独立した。NIS諸国(注:ソビエト連邦の崩壊で独立を完全に果たした国々で、 バルト三国を除く東ヨーロッパ、中央アジア、南コーカサス(西アジアの一部) の12か国からなる)の一国。永世中立国(とされる)。
今年の6月下旬にトルクメニスタンにロシア、トルクメニスタン、イラン、アゼルバイジャン、カザフスタンのカスピ海沿岸諸国が集い、首脳会議(サミット)を開いたが、ウクライナ事変勃発後ではプーチン大統領の初の外遊先になった(https://news.yahoo.co.jp/articles/8097862ae1026bf2a56af3c94ab12e4ac6b89d37)。トルクメニスタンはアフガニスタン、パキスタンを通ってインドに天然ガスを供給するパイプライン(TAPIパイプライン)の建設を行ってきたが、当初はロシアは協力的ではなかった。しかし、国際情勢解説者の田中宇(さかい)氏によると今回のサミットでトルクメニスタンのベルディムハメドフ大統領らとロシアのプーチン大統領らが会談し、TAPIパイプライン建設完成にロシアが全面的に協力することになったもようだ(https://tanakanews.com/220718TAPI.php、有料記事)。
ウクライナ開戦後、欧米がロシアの石油ガスを輸入しなくなり、ロシアは石油ガスを中国インドなど非米側に売る量を急増した。ロシアは、トルクメニスタンからアフガニスタンとパキスタンを経由してインドにガスを送るTAPIパイプラインを完成させて、ロシアのガスもそれでインド方面に送る計画に積極的に協力するようになった。タリバンもTAPIも、ロシアの敵だったものが、回り回ってロシアの味方になっている。
ロシアがTAPIパイプラインに当初反対していたのは、自国生産の天然ガスを直接、消費大国のインドや中国に供給(売却)することを考えていたためと見られるが、ウクライナ事変以降、トルクメニスタン産出の天然ガスに自国生産の天然ガスを加え、TAPIパイプライン経由でも供給した方が得策と考えるようになったようだ。このため、トルクメニスタンと友好関係を深めるようになったわけだが、加えてアフガニスタンから米軍が撤退して以降、アフガニスタンを支配するタリバンとも関係改善に乗り出した。
ロシアはソ連時代にアフガニスタンに侵攻(1978ー1989年)して見事に失敗、ソ連の崩壊につながったが、米英系の石油資本を通じた米英領国の中東支配に中東諸国側が次第に反発するようになったことを考慮してシリアのアサド政権を助けるなど、次第に中東諸国への影響力を強化している。その延長線上で、中央アジア諸国にも協力・協調外交を展開するようになったわけだ。ロシアと中東諸国との外交関係には極めて複雑なものがあるが、詳細は田中氏の解説記事をお読みいただきたい。アフガニスタンとの関係に限れば次のようである。
昨年8月、米軍など米国勢がアフガニスタンから総撤退し、タリバン政権が復活した。その後のアフガニスタンは、米国から中国の傘下に完全に移ったパキスタンと、非米側の中国、ロシア、イランがタリバンを少しずつ支援していく流れになっている。アフガニスタンは、米国側の国から非米側の国へと転換させられた。さらに今年2月には、米国がウクライナを傀儡化するロシア敵視策によってロシアの反撃を誘発してウクライナ戦争が始まり、欧米がロシアの石油ガスを輸入しなくなり、ロシアは石油ガスを中国インドなど非米側に売る量を急増させる必要に迫られた。プーチンのロシア政府は、ウクライナ開戦後、TAPIパイプラインを完成させてロシアのガスもそれでインド方面に送る計画に積極的に協力するようになった。 (The long and troubled history of TAPI Pipeline: What you need to know about ambitious gas pipeline project) (アフガニスタンを中露側に押しやる米国)
米国のアフガン撤退後、インドもTAPIの建設など、中央アジアの石油ガスをアフガンやイランを経由して自国に送ることに積極的になり、今年1月にはインドと中央アジア諸国の初のサミットが開かれた。インドやパキスタンはロシアにも働きかけ、2月24日のウクライナ開戦時、当時のパキスタンのカーン首相がモスクワを訪問してプーチンらと会談していたが、カーンの訪露目的の一つはロシアにTAPIへの協力を求めることだった。 (Pakistan Gas pipeline projects among PM’s Russia visit agenda)
プーチンのロシアはウクライナ開戦後、TAPI建設に協力するだけでなく、アフガニスタンのタリバン政府への協力も強めている。タリバンはずっとロシアの敵だった。タリバンはもともとパキスタン在住のアフガン難民のイスラム主義者の組織で、彼らの先輩に当たる聖戦士(ムジャヘディン)たちは冷戦末期の1980年代、アフガニスタンに侵攻して占領していたソ連軍と戦うため、CIAなど米諜報界(注:軍産複合体)からパキスタン軍経由で資金や兵器をもらい、訓練も受けていた(無神論のソ連はイスラムの敵だった)。1990年代後半にタリバンがアフガニスタンの政権をとった時も、ロシアやイランはタリバンの敵であるタジク人などの「北部同盟」を支援していた。だが911後のテロ戦争で米国がタリバンやイスラム主義を敵視し、その米国が20年間の占領に大失敗して昨夏にアフガニスタンを出ていく中で、ロシアとタリバンは和解していく流れになった(同時にタリバンは、スンニvsシーアの対立を止揚してイランとも和解している。スンニとシーアの対立は米英の扇動物だった)。 (タリバンの復権)
プーチンは7月19日には、ウクライナ開戦後2度目の外遊として、イランで開かれるシリア内戦解決のための「アスタナプロセス」のサミットに参加し、イランやトルコの大統領と会談する。シリア内戦は、米国が引き起こしたものを、ロシアとイランが解決している。米国は内戦を起こしてシリアで数10万人を死なせたが、露イランはアサドを支援して残りのシリア人の命を救った。米国は極悪で、ロシアやイランが立派だ。露イランが悪者だと歪曲報道し続ける米日のマスコミも極悪だ。ウクライナ戦争で悪いのは米英だし、イラン核問題も米国による濡れ衣だ。中東諸国は米国でなくロシアを信用している。プーチンは、ユーラシアや中東でのロシアの覇権を拡大している。 (Putin To Meet Raisi, Turkey’s Erdogan In Tehran, Kremlin Says)
石油や天然ガスが豊富な中東諸国や中央アジア諸国がロシア側(露中側)につくことは、長く見て800年に及んだ欧米文明の衰退・終焉を加速する。米英ディープ・ステート(DS)が支配する米側陣営は一応、「金融大国」だが、新型コロナによる流通網の寸断と特にロシアに対する経済制裁が裏目に出ている結果、石油や天然ガスなどの資源価格、穀物価格の高騰に見舞われ、有効な手を打ち出せないでいる。
米国の中央銀行システム(FRS)は急激なインフレ抑制のため、多少のQT(Quantitative Tigtening=量的金融引き締め、中央銀行保有証券を売却して市場から資金=通貨=を引き揚げること=)を行っているようだが、そもそもコストプッシュ・インフレに需要抑制政策としての金融引き締め政策は効かない。一方で、株式相場や債券相場の下落につながるとともに、コモディティ価格の上昇という副作用に見舞われる。金融商品が暴落すると市場に悲観論が強くなって金地金を始め、コモディティ価格は上昇する。
そこで、QTはほどほどにして、QE(Quantitative Easying=量的金融緩和、中央銀行が国債を発行して民間金融機関に売却、その後民間金融機関から資金から国債を買い入れることや民間保有の証券を買い入れて市場に資金を供給すること=)を再開するとかの異常な金融緩和を続けたりしている(特に、日本の政府・日銀)が、これもバブルを引き起こしたり、民間の購買力を増強してインフレを加速したりすることになる。
資源や穀物の信用取引(原理的には現物を借りて現物を売却、価格が下がったところで現物を買い戻し、現物の貸し手に返すといった操作を行うことによって資源価格や金地金価格の上昇を抑える取引)でこれらの価格を抑えることもできる(国際決済通貨であるドルの最大の強敵である金価格がその代表、1トロイオンス( 31.1034768グラム)=2000ドル以下に抑えられている)が実需とはかけ離れ、商品相場の正常な形成にはならない。商品相場に大きな歪みが生じ、石油や天然ガス、穀物などコモディティの正常な取引を妨げてしまう。
国際金融界では、「先進諸国」の中央銀行の中央銀行との位置づけがある国際決済銀行(BIS)は各国の中央銀行をどのように指導・監督しているのだろうか。田中氏によると(https://tanakanews.com/220715tighten.php、有料記事)ドルの大敵である金相場は不正に(不当に安く)操作されているようだ。
要するに、新型コロナによるワクチン利権の獲得といった策略やロシアにウクライナを「侵攻」させる大規模なきっかけを作るといった超愚策を止め、米英ディープ・ステート(DS)による陰謀を辞めるしか道は残されていない。米英の隷属国である欧州諸国や日本も、スタグフレーションの深刻化で対米隷属政策を止めるしか道は残されていない。欧米文明はたそがれ期から崩壊期に突入しているが、米側陣営は政府もメディアも真実を伝えたり、報道することはしない。このままで行けば、非米陣営の勝利は日に日に確実なものになってくる。日本は与党も反政府系野党もそのことに気づいて、対米隷属外交を根本的に改めなければならない。