
ロシアのソブリン・ウェルス・ファンド(政府系ファンド=直接投資基金RDIF)の責任者で、国際経済投資協力を担当するプーチン大統領の経済担当特使であるキリル・ドミトリエフ特使が現地時間の10月17日(日本時間で18日午前3時)、ベーリング海峡に海底トンネルを建設する米露経済協力案を提示した。トランプ大統領とプーチン大統領の電話会談に合わせたものと考えられるが、AIを基盤とする第三次産業革命に必要な天然資源が豊富に埋蔵されている北極圏を中心とした米露両国間の政府・企業による経済協力は、両国だけでなく世界の経済にとって重要な意義を有し、ベーリング海峡海底トンネルの建設はその重要な要(かなめ)になる。米露経済協力の本格化はハンガリーのブダペストで開かれる第二回米露首脳会談の重要なテーマになっており、ドミトリエフ特使の提案もそのひとつとして米露両国間で協議される可能性が高い。本サイトでもベーリング海峡プロジェクトについて紹介したが、本構想が実現に向けて具体化されていくことを期待したい。
米中露関係の今後について
キリル・ドミトリエフ氏は、ソ連時代のウクライナ共和国で1975年4月12日に生まれ、14歳から27歳まで米国で経済・金融を学んだロシアきっての経済・金融のエキスハート。ロシアに帰国後、金融活動を開始して実業家としての地位を固め、現在は、100億ドル(日本円換算で1兆5000億円)規模のロシアのソブリン・ウエルス・ファンド(政府系ファンド、直接投資基金RDIF)の最高経営責任者(CEO)である。プーチン大統領の経済政策のアドバイザーでもあり、ロシアと米国、中国などと国際経済協力のための経済特使も担当している(https://en.wikipedia.org/wiki/Kirill_Dmitriev)。

ドミトリエフ氏の提案を「米ロ結ぶ『プーチン—トランプ』トンネルをベーリング海峡に、ロシア特使が提案」と題して最初に報道したのは、ロイター通信(https://jp.reuters.com/world/us/5HKQTBZRKFKSPIYELLP75XYGVY-2025-10-17/)である。次のような内容だ。
ロシア政府系ファンドの責任者で国際経済投資協力を担当するキリル・ドミトリエフ特使は、ロシア極東と米アラスカ州を結ぶベーリング海峡横断鉄道トンネルの建設を提案した。トンネルの名称は「プーチン─トランプ」トンネル。米ロの「団結の象徴」になるとし、米起業家のイーロン・マスク氏が設立したトンネル掘削会社の参画を呼びかけた。ドミトリエフ氏は政府系ファンドのロシア直接投資基金(RDIF)の総裁を務め、プーチン大統領が特使に任命。プーチン氏が16日にトランプ米大統領と電話会談を行った後にトンネル建設構想を発表した。ロシアと「国際パートナー」が総額80億ドルを投じ、全長112キロのトンネルを8年未満で建設するとしている。
ロイター通信が入手 ベーリング海峡はロシア極東のチュクチ自治管区と米国のアラスカ州との間にあり、最も狭い地点の幅は82キロ。同海峡を通してロシアと米国を結ぶ構想は少なくとも150年前から存在していた。ドミトリエフ氏は、冷戦時代にベーリング海峡に「ケネディ—フルシチョフ」橋を建設する計画が浮上したことがあるとした上で、当時の想定ルートのスケッチと、今回の「プーチン─トランプ」トンネルの想定ルートが記された図を示し、「ロシアと米国を結ぶときが来た」と表明。実現すれば米国の大手エネルギー企業がロシアの北極圏プロジェクトに参画できると示唆した。また、マスク氏のトンネル掘削会社「ザ・ボーリング・カンパニー(The Boring Company)」が建設に関わることもできるとし、マスク氏宛てにXに「共に未来を築こう」と投稿した。
デンマークの領土であるグリーンランド島とロシア東部、米国のアラスカ州は、原油・天然ガスなどのエネルギー資源はもちろん、最先端産業のIT・AI産業に不可欠な半導体生産などに必要なレアアースを含むレアメタルなどの鉱物資源を含む天然資源の宝庫である。レアアースで世界最大の産出量を誇る中国は、トランプ政権の通商政策に対抗してレアアースの対米輸出規制をかけているが、北極圏に豊富に埋蔵されているレアアースを産出すれば、中長期的に米国に対する中国の経済制裁を回避できる。
さて、米中問題は要するに、半導体企業・産業の争奪戦がその本質だろう。米国で唯一、最先端半導体を製造しているインテルはここ数年、半導体生産の技術に行き詰まって経営が悪化してきている。このため、トランプ政権はインテルに出資し、AI用半導体の生産で世界トップのNVIDIAも恐らくトランプ大統領の要請でインテルに出資した。しかし、グラフィックボードの製造の経験を活かして最先端のAI用半導体の設計を手掛けているNVIDIAの最高経営責任者(CEO)であるジェン・スン・ファン(Jensen Huang)氏は、スタンフォード大学出身の台湾系アメリカ人(つまり、民族としては中華民族)であり、GoogleのAI検索によれば「ワシントンD.C. と北京において AI を推進し、AI が世界中のビジネスと社会にもたらすメリットを強調」たとある。

現在、世界最高性能の最先端半導体を製造しているのは、ファブレス・メーカー(設計アーキテクチャに基づいて設計図を製作、製造は専門会社に依頼する企業のこと。ワークステーションやパソコン用のCPUを設計しているAMDやApple、スマートフォンのSoCを設計しているQualcomなどが代表格。NVIDIAも製造を委託している)が、設計した最先端半導体の製造を依頼する台湾のTSMC(台湾積体電路製造、中華民国最大級の企業でもあり、新竹市の新竹サイエンスパークに本社を置く)である。

NVIDIAのジェン・スン・ファンCEOの主張していることをサイト管理者(筆者)なりに解釈すれば、米国は米中国交正常化の際に、中華人民共和国(中国)が台湾は自国の領土であると主張していることは認めるとの認識を示しているのだから、米国は、TSMCを筆頭に半導体関連のメーカーが集積している台湾は、中国の「台湾省」であることを国際的に認め、中国と半導体生産と通信分野(中国のファーウェイが世界最多の特許を有している)などで協調して行けば良い、ということではないか。ただし、中国は毛沢東の大躍進政策、文化大革命の大失敗で経済が破綻した状態にあったから、国民(人民)の「自由」は抑圧してでも、国民(人民)が生き延びるために、中央の政治統制による改革・開放路線(鄧小平路線)を行っていかなければならなかった事情がある。
この過程で、中国には中央官僚、地方官僚による不正・不法行為(不正蓄積)、汚職がはびこったから、これを一掃するため習近平氏が三期連続、中国共産党総書記、国家主席を担当してきた。しかし、習国家主席も重大な病気を患っており、国家主席は今期(2027年11月)で終了、次世代への移行の準備を進めている。台湾問題の処理が、最終的な国家主席としての仕事になるが、「台湾有事」なるものを起こして、台湾の半導体産業を破壊しては意味がないから、武力侵攻は行わない。つまり、台湾有事などは起こり得ず、平和的に中国のひとつの省(仮称:台湾省)にしようとするだろう。
台湾でもこれに呼応して、中国と強調する国民党の首席に、女性の鄭麗文氏が選出された(https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10014953091000)。
台湾の最大野党・国民党のトップである主席を決める選挙が行われ、中国との関係を重視する姿勢を強調してきた鄭麗文氏が初当選を果たしました。国民党の主席選挙は18日、党員による投票が行われ、6人の候補者のうち、唯一の女性の鄭麗文氏がおよそ50%の票を獲得して初めての当選を果たしました。鄭氏は55歳。かつて民進党に所属していましたが、その後、国民党に入り、国会議員にあたる立法委員や、内閣にあたる行政院の報道官などを務めました。
選挙戦では、中国との関係を重視する姿勢を強調するとともに、野党の勢力を結集して与党・民進党を倒すと訴えました。当選後、鄭氏は「任期中に必ず政権交代を実現し、両岸が平和でともに栄えるという最も重要な使命を果たす」と述べ、政権奪還への意欲を示しました。台湾では、中国と距離を置く民進党が2016年から3期連続で政権を担っていますが、議会の立法院では国民党が最大勢力となっています。

そして、ポスト習近平国家主席後の中国は、習近平派の勢力(集団指導体制)と中国共産主義青年団(共青団)とそのOBからなる前胡錦濤国家主席を中心とした勢力が二大政党として、取り敢えず最低限の条件で民主主義政体に移行するだろうから、従来からの民主主義政体諸国とも協調できるようになると見ている。これらのサイト管理者(筆者)が記した内容は、国内・国際情勢評論家・副島隆彦氏の「中国は戦わずしてアメリカに勝つ」から得たものだ。ただし、分析の優れたところは多々あるが、サイト管理者(筆者)としては、本書のすべてを支持しているというわけではない。中国は基本的人権の中核である「信教の自由」を保証していないため、この点は根本的に改善・改革する必要があると断定する。
世界は多極化が大きく進んでおり、プダペストでの第二回米露首脳会談の開催が決まったことに象徴されるように、米英一極覇権体制派(第英帝国の末裔である英国が、米国をそそのかして実質的な世界覇権国家にした)の崩壊は本格化しているから、中国も仁義礼を重んじる儒教の伝統を取り戻した上で、共産主義思想が歴史的に登場した理由を知り、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の一神教を中国に合わせて消化する必要があるだろう(https://xs986663.xsrv.jp/2020/08/16/historical-sociology-2/)。第三期習近平体制のうちに、中露同盟を結んでいるロシアが米国・トランプ政権と中国・習近平政権の仲介役になり得る。プーチン大統領にはそのことを強く期待したい。
樹立が確実視されている高市早苗政権は、「反共右翼路線」を乗り越え。「世界の多極化」を強力に推進する路線に移行すべきだ。「台湾有事」は起こり得ないから、「日本の有事」も起こり得ないだろう。ただし、スパイ防止法の制定は必要であり、米国の軍産複合体から武器を購入して米国経済の活性化に協力することも一定の意味を持つだろう。また、日本の科学・技術をトランプ大統領が構築を進めている陸・空・海・宇宙からの防空システムである「ゴールデン・ドーム」の構築に役立てる形で、日米同盟を深めるのも良い。
1989年12月に地中海のマルタ会談で行われた米ソ首脳会談で冷戦は形式的に崩壊したが、国際情勢は田中宇氏の指摘しているように諜報界の英米単独覇権派と多国主義派の闘争が熾烈になったようだ。しかし、第二回米露首脳会談がハンガリーのブダペストで予定されているように、多極派が勝利し、今後は世界の多極化と文明の多極化・調和・統一の時代に大転換している。こうしたことを予想して、世界平和統一家庭連合(旧世界基督教統一神霊協会:略称統一教会)の創始者であり、「統一原理」を唱導した文鮮明総裁は「反共右翼主義者」ではなく、キリスト教の基本理念である「One Family under God」の理念と統一原理を哲学的に表現した「統一思想」のもと、「ベーリング海峡プロジェクト」を公表している。

文総裁のベーリング海峡プロジェクトは海底トンネルだけでなく、海峡をまたぐベーリング海峡大橋の建設も含まれている。同総裁が、国際ハイウェー構想を提言しているためだ。ドミトリエフ氏の提案が、第二回米露首脳会談でのウクライナ戦争の終結とともに、重要な検討事項のひとつになることを願ってやまない。
欧州リベラル左派政権・欧州連合(EU)の欧州委員会は共謀してロシアの凍結資産を「窃盗」、ウクライナに
ロシア在住28年間の日本人実業家でロシア・ウクライナを中心とした国際情勢アナリストのニキータ氏が、Youtubeチャンネル「ニキータ伝〜ロシアの手ほどき」の最新投稿動画「巧妙な戦略、米露は揺るがず!資金難の欧州勢、タブーに着手⁉」によると、欧州リベラル全体主義官僚独裁政権と欧州連合(EU)の欧州委員会は、ウクライナに融資する軍事支援・経済支援のため、ベルギーに保管しているロシアの凍結資産(資産の移動や処分を禁止したり制限すること。ただし、資産を没収することは出来ない)に対して「窃盗行為」を行い、2025年の年内にも返済能力のないウクライナに貸し付ける予定だと伝えた(「賠償融資」という表現を使っているとのこと)。

ベルギーの証券決済期間「ユーロクリア」に凍結されているロシアの資産は2100億ユーロ=約37兆円と言われているが、欧州リベラル左派政権・欧州連合(EU)の欧州委員会は共謀してそのうちの1850億ユーロ=約33兆円を差し押さえ、その中から1400億ユーロ=約25兆円を年内に、返済能力が破綻しているキエフ政権に貸し付けるという。欧州ではウクライナに対する軍事・経済支援で国内経済が疲弊しており、ウクライナはもちろん欧州連合(EU)にも返済能力はない。
戦争に対する制裁の意味で資産を凍結する(移動や処分を禁止する)ことはできるが、凍結資産を勝手に使うことはできない。それは「窃盗行為」になり、欧州連合(EU)の信用度を著しく低下させ、欧州諸国の金融破綻につながることになる。このため、ハンガリーやイタリア、スロバキアの右派政権は反対している。事実上、欧州連合(EU)は官僚独裁体制になっているが、その源泉である欧州委員会(フォンデアライエン委員長)の不穏な動きを国民が察知して、チェコの下院選挙でも右派の野党が71議席から80議席に議席数を増やして勝利し、リベル左派の与党連合軍は議席を71議席から52議席に減らした(https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/10/253690d5f93287a6.html)。

リベラル左派の与党が野党に転落する可能性も出てきた。悪手を使わなければならないほど、ウクライナと欧州リベラル左派政権・欧州連合(EU)の欧州委員会は行き詰まっている。多極化を目指すトランプ、プーチン大統領はその最大の障害になる欧州リベラル左派政権の下野と欧州連合(EU)の欧州委員会の改革を(現在、ロシアと敵対するバルト三国のうち、元リトアニアの首相のアンドリウス・クビリウス氏とエストニアの元首相のカヤ・カラス氏が欧州委員会の防衛・外交の重職を務めている)狙っているものと見られる。