
イスラエルのネタニヤフ右派政権は9日、ムスリム同胞団(サウジアラビアのような王政を認めないスンニ派イスラム教に基づく宗教・政治・経済組織)のパレスチナ支部であるハマスが、カタールの首都であるドーハに設置している在外代表部を攻撃した。与党が同じくムスリム代表団であるトルコがカタールのハマスにイスラエルの攻撃を知らせたため、ハマスの被害は最小限に食い止められた。しかし、ネタニヤフ政権はドーハに潜伏していたハマスの幹部数名は殺害したが、目的は完全に達成できていないとして、再攻撃を示唆している。イスラエルはガザのパレスチナ難民を政治・経済・社会的に支援しているハマスがイスラエルに侵入して奪い去った人質の解放を要求、ハマスと交渉しているが、交渉はなかなか進まない。これは、イスラエルがガザやヨルダン川西岸のパレスチナ人(パレスチナ難民)をイスラエルの地から完全に追い出して「パレスチナ国家構想」を抹殺しようとしているためだ。イスラエルは同時に、レバノンに存在したヒズボラやシリアのアサド政権を打倒し、旧約聖書に記されている「約束の地」を確保しようとしており、中東の覇権国家になる「大イスラエル構想」の実現を果たそうとしている。その背後にあるのは、旧約聖書には「約束の地」(創世記の第12章から13章には、神が アブラハムに対して父である偶像商人テラのもとから離れ、アブラハムとその子孫であるイスラエルの民に与えると約束したカナンの土地を与えるという内容が記されている)という言葉があるが、同時に古代ユダヤ教には「メシア思想」が存在する。右派ネタニヤフ政権には、これらの宗教的根拠をもとに、「大イスラエル構想」の実現に向かって奔走しているのだが、キリスト教の立場からすると、古代ユダヤ人には「メシア」として来臨された「イエス・キリスト」を十字架で殺害したという大問題がある。イスラエルとしては、この問題(宗教用語では、歴史的な連滞罪)を完全に生産しないと、「大イスラエル構想」は実現できないだろう。
イスラエルの右派ネタニヤフ政権は「約束の地(大イスラエル)」獲得に向け奔走
通常は「カナンの地」と言えば、地中海とヨルダン川、死海(イスラエルとヨルダンの国境に位置する地表で最も低い場所にある塩湖)に挟まれた土地を指す。

しかし、Wikipediaには次のようにも記されている(https://x.gd/1GVRl)。
約束の地(英語: Promised Land)とは、ヘブライ語聖書(注:旧約聖書)に記された、神がイスラエルの民に与えると約束した土地(注:カナンと言われる)。この約束は、(信仰の父と言われる)アブラハムに最初に与えられ(創世記15:18-21)、次いでその息子イサクに、さらにイサクの息子でアブラハムの孫であるヤコブ(注:イエス・キリストに至る家系)にも与えられた(創世記28:13)。約束の地は、「エジプトの川(注:ナイル川)」から(チグリス・)ユーフラテス川までの領域とされ(創世記15:18-21、出エジプト記23:31)、出エジプトの後、約束された者の子孫に与えられるとされた(申命記1:8)(注:出エジプトの目的は「乳と蜜の流れるカナンの地に到達、定住すること」で、この地で古代イスラエルはサウル・ダビデ・ソロモンの古代王朝の栄華を築いた)。
【注:】創世記、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記の五書を「モーセ五書と呼ぶ」。
なお、イスラエルの民がカナンの地に至った後における「イスラエルの地 (Land of Israel)」(サムエル記上13:19 に初出)とは(重なり合うものの)別の概念である。ユダヤ教の一部の宗派では、信者に与えられる約束の地の場所を明らかにするメシアがやがて到来すると信じている。
ここでは、「約束の地」とは、約束の地としてアブラハムが出立したチグリス・ユーフラテス川からエジプトのナイル川に至る広範な地域になる。国際情勢解説者の田中宇も、「イスラエルの拡大(2)=https://tanakanews.com/250328israel.htm、無料記事=」で、イスラエルの右派ネタニヤフ政権は、Wikipediaと同じような解釈をしていると指摘している。
英国は第一次大戦でオスマントルコを倒す戦いにユダヤ人の協力を得るため、戦争後半の1917年、オスマン帝国の一部だったパレスチナに(ディアスポラ=離散の)ユダヤ人が国家(イスラエル)を作ることを支持したバルフォア宣言(注:バルフォア協定ともいう。バルフォア協定は、第一次世界大戦中の1917年にイギリスのアーサー・バルフォア外務大臣が、イギリスのユダヤ人リーダーであるウォルター・ロスチャイルドに宛てて送った書簡で、イギリス政府がパレスチナでの「(離散)ユダヤ人民族の郷土(ナショナル・ホーム)」の建設を支持することを表明したもの)を発表した。この宣言でイスラエルの建国が正当化されたが、パレスチナがどこからどこまでを指すのか、その後の紛糾の種になった。シオニスト(ユダヤ建国運動家)の中の右派・過激派(今のリクードや西岸入植者)は、パレスチナを、旧約聖書に出てくる「約束の地」と同等の「ユーフラテス川からナイル川まで(2つの川にはさまれた土地)」と拡大解釈した。(西岸を併合するイスラエル)
この解釈だと、今のイスラエルや西岸ガザだけでなく、シリア、レバノン、ヨルダン、エジプトまでが「パレスチナ」に含まれる。英国はバルフォア宣言の1前半年(1916年)にフランスを誘い、オスマン帝国の地中海岸を英領パレスチナと仏領シリアに分割する「サイクス・ピコ協定」を結び、ユダヤ人に渡すはずの土地の北半分をフランスに与え、建国されるイスラエルの国土を半減させた。これは不当だと右派は言う。
右派ネタニヤフ政権は今、このバルフォア協定を自己の勢力拡大に利用して、第一に、アラブ諸国とは初めてとなるエジプトと国交を結び、「エジプト・アラブ共和国及びイスラエル国との間の平和条約」を成立させた。キャンプ・デービッド合意に基づいたもので、1979年3月26日、アメリカ合衆国・ワシントンD.C.で署名された。署名は、ロシア領ブリスク(現ベラルーシ領ブレスト)に生まれ、リクード設立者でもあるイスラエルのベギン首相、エジプトのサダト大統領との間で結ばれ、米国のカーター大統領が見守った。

第二に、レバノンに対してはレバノンを実質的に支配している政治・軍事・社会組織であるイラン系ヒズボラを打倒した。第三に、ロシアが制空権を掌握し、守っていたシリアのアサド大統領は、表向き反イスラエルのトルコが匿っていたシャーム解放機構(HTS)が南下し、ほとんど抵抗を受けることなく、アサド政権を打倒、アサド大統領はロシアに亡命した。田中氏によるとこれには、イスラエルとトルコの水面下の動きがある(「シリア新政権はイスラエルの傀儡」、https://tanakanews.com/241217israel.php、有料記事=https://tanakanews.com/intro.htm=」)
アサド政権を倒したHTSはアルカイダ系で、もともとイスラエル敵視だった。自分たちのものになるはずの軍備を、イスラエルに破壊された。領土も奪われ、HTSは激怒しているはずだ・・・。だが2024年12月12日、イスラエルの空爆について英国のテレビ局(Channel 4)からコメントを求められたHTSの政府広報官(Obeida Arnaout)は「われわれの今の優先任務は、治安と行政機能の回復、食料供給や電力水道など生活インフラの再建、残っている諸都市の解放(まだHTSが行っておらず旧政府が握ったままになっている諸都市に行って行政権を引き継ぐ作業)など、内政の諸問題だ」と答えた。(Syria 'prioritising internal stability' amid Israeli offensive)(Syrian jihadist group refuses to condemn Israeli strikes)
内政が優先なので、外交軍事関係であるイスラエルへの対応はしなくて良いという趣旨の返答だった。英国の記者は驚いて、内政重視はわかったが、イスラエルに攻撃されても本当に何のコメ ントもないのかと畳みかけた。HTS広報官は「あらゆる勢力に、シリアの国家主権を尊重してほしいのは確かだ」と返答した。イスラエルの空爆はシリアの国家主権を侵害しており、できればやめてほしいが、事情があって明言できないんだよね、という趣旨を、イスラエルという国名も出さず曖昧に示唆したと解釈できる答えだった。(HTS spokesman Obeida Arnaout is asked by Channel 4 News about Israel’s strikes on over 300 sites in Syria ...)
私は先日の記事で「HTSは、イスラエルの空爆に何の反応もせず黙認している。HTSはイスラエルの傀儡勢力になったのでないか」と書いた。それは、私が推測(自虐するなら妄想、自慢するなら洞察)した「見立て」だった。その後報じられたHTS広報官の受け答えからは、HTSがイスラエルの傀儡(少なくとも親イスラエル勢力)であることが、根拠となる事実を伴って、より強く感じ取れる。(We Are Not Looking For A Fight With Israel: HTS Leader Jolani)
HTSとイスラエルの動きからみて、両者はHTSが今回の進軍を開始する前から同盟関係になっている。HTSはシリアを、イスラエルが満足するような国にすると、イスラエルに約束しているはずだ。その見返りとして、イスラエルはHTSに兵器や諜報の軍事支援をして、アサド転覆が実現した。イスラエルはHTSを信用しきれない部分があるのでシリアに侵攻し、自国との間に緩衝地帯を作って軍を駐留して監視し、HTSがイスラエルにとって良い傀儡であるよう仕向けている。(Israel Katz: New Syrian leaders 'pretending' to be moderate, pose danger to Israel)(Netanyahu says illegal occupation of Syrian land is ‘forever’)(中略)
イスラエルとトルコは隠然同盟の関係だ(注:トルコはイスラエルの支援で中央アジアで勢力を拡大したし、ロシア、トルコから原油を輸入している=https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-09-04/S0FMMST0G1KW01、https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009585/1009925.html#:~:text=%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%81%AF%E5%9B%B37%E3%81%AE,%E8%BC%B8%E5%85%A5%E3%82%92%E8%A1%8C%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82=)。トルコのエルドアンはイスラエルをボロクソに言い続けているが、これは目くらまし策だ。イスラエル傀儡のトランプは、シリア転覆はイスラエルでなくトルコの仕業だと言い返している。これも目くらましだ。('Unfriendly takeover': Trump says Turkey is behind collapse of Assad government in Syria)(Israel wants to ‘expand borders’ through Golan occupation – Türkiye)(下図は注)
Wikipediaによる シリアの制空権は、ロシアからイスラエルに移管されている。両国は協調し続けている。ロシアは、アサドを説得してモスクワに亡命させ、今回のシリアの政権転覆を具現化した。アサドを支援してきたロシアは「負け組」に見えるが、よく見るとそうでない。ロシアは、シリアをイラン傘下からイスラエル傘下に移転させた影の立役者であり、イスラエルはロシアに感謝している。

このように、イスラエルはトルコ、ロシアと水面下で協力し合っている。第三に、イスラエルはヨルダン川西岸へのイスラエル人の入植を加速させており、ロイター通信は「ネタニヤフ氏、ヨルダン川西岸入植計画に署名 「パレスチナ国家実現せず」」と題する配信記事で次のように伝えている(https://jp.reuters.com/world/security/YLZTSWQFDRNVDB3KMOVQVF6FNE-2025-09-11/)。
イスラエルのネタニヤフ首相は11日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸の大規模な入植地建設計画を推進する合意に署名した。ネタニヤフ氏はこの日、数千戸の住宅を建設する予定のヨルダン川西岸を視察。「パレスチナ国家が誕生することは決してない。われわれの土地と安全を守る」と述べた。イスラエルは「E1」と呼ばれる地区に入植地を建設する予定。E1はイスラエルが占領する東エルサレムとパレスチナ自治区ヨルダン川西岸を分断するため、パレスチナ国家樹立構想が妨げられる可能性がある。イスラエルの極右派スモトリッチ財務相は先月20日、E1計画が承認されたと発表していた。
イスラエルは次第にヨルダン王国を蚕食していく計画だろう。そして、今度はカタールの首都・ドバイへの攻撃である(https://www.jiji.com/jc/article?k=2025091200661&g=int)。
イスラエルが9日にカタールの首都ドーハでイスラム組織ハマス幹部を狙った攻撃を行ったことについて、ハマスのバルフーム幹部は11日、「ネタニヤフ(イスラエル首相)とその取り巻きの犯罪ギャングたちが、(パレスチナ自治区ガザでの)停戦合意を拒否していることを明白に示している」と批判した。ロイター通信が報じた。
このイスラエルのドバイへのミサイル攻撃について、国連安保理は非難の声明を発表した(https://www.jiji.com/jc/article?k=2025091200279&g=int)。ただし、米国のトランプ大統領とイスラエルのネタニヤフ首相は諜報界の同じ多極派で協力し合っているから、非難決議もイスラエルを直接は名指ししていないため、実質的な効果はない。なお、米国を訪問しているカタールのムハンマド首相は「イスラエル軍による攻撃への対応を協議するためトランプ大統領と会談すると報じられました。カタールでは近くアラブやイスラム諸国の首脳が集まる緊急の会議が開かれることになっていて、地域全体としてどのような対応が取られるかが注目されます」(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250912/k10014921321000.html)。こうして、イスラエルは「パレスチナ国家構想」の抹消と大イスラエル構想の実現に奔走している。
この右派ネタニヤフ政権がほとんど世界のあらゆる諸国を敵に回して、大イスラエル構想の実現に奔走している背景には、歴史的に連綿と続くユダヤ教独自とも言える「メシア思想」がある。ユダヤ教のメシア思想とは、「未来に神から選ばれた救世主(メシア=聖油を注がれた者)が現れてユダヤ民族を救い、地上に神の国を実現するという思想。このメシアはダビデ王の末裔とされ、正義を再建し、悪を駆逐して、イスラエルの地が再建されると待望されている」(GoogleのAI検索)。ただし、ユダヤ教ではメシアの到来は未来のことで、救世主の到来を待ち焦がれるという意味で、政治色が強い。一方、ユダヤ教から発展したキリスト教では、イエスをメシアと信じる(メシアのギリシア語での表現がキリストである)が、「救い主」として信じるという側面が強い。
これは、ローマ帝国に支配された古代イスラエル社会では、ローマから派遣されたピラト提督が、古代イスラエル民族の叫びで、イエスの十字架上での殺害を余儀なくされたことが原因だ。このため、キリスト教ではイエス・キリストの救世主としての側面を希薄化する傾向にある。アタナシウス派の政党キリスト教では、イエス・キリストは原罪を有する人類のために、十字架で処刑されるために来臨されたと解釈する。しかし、旧約聖書には両面の預言がある。
例えば、イザヤ書53章は全体がイエス・キリストが十字架の苦難を受けることが預言されている。例えば、第5節には「しかし彼かれはわれわれのとがのために傷きずつけられ、われわれの不義ふぎのために砕くだかれたのだ。彼かれはみずから懲こらしめをうけて、われわれに平安を与あたえ、その打うたれた傷によって、われわれはいやされたのだ」と記録されている。しかし、同じくイザヤ書9章6節には「ひとりのみどりごがわれわれのために生まれた、ひとりの男の子がわれわれに与えられた。まつりごとはその肩にあり、その名は、『霊妙なる議士、大能の神、とこしえの父、平和の君』ととなえられる」とあり、続く7節には「そのまつりごとと平和とは、増し加わって限かぎりなく、ダビデの位に座して、その国を治め、今より後のち、とこしえに公平と正義とをもってこれを立て、これを保たれる。万軍の主の熱心がこれをなされるのである」(口語訳)。
つまり、旧約聖書にはイエス・キリストが「十字架の贖罪(イエス・キリストが十字架にかけられ犠牲の死を遂げることで、人類が犯した罪を償い、神との和解と救いを実現したという信仰)」を切り開かれた「救い主」という側面とともに、邪悪な世の中を正して、「公正と正義」が実現された世の中を実現される「救世主」としての側面がある。まとめると、メシア=キリストには「救い主」と「救世主」との両側面があるのは事実で、「救世主」としての側面は実現されなかったため、新約聖書にはイエス・キリストの再臨思想(新約聖書マタイ伝16章27節「人の子こは父の栄光のうちに、御使たちを従えて来るが、その時には、実際の行いに応じて、それぞれに報いるであろう」)があると思われる。
その意味では、未来に救世主が出現するというユダヤ教と再臨思想を有するキリスト教の双方には相通じるところがある(注:以上の聖書解釈は、世界平和統一家庭連合の聖書解明書である「原理講論」の第四章「メシヤの後輪と再臨の目的」に記載されている)。これらのことを踏まえると、古代イスラエル人は「救い主」かつ「救世主」として来臨されたとされるイエス・キリストを十字架上で殺害したため、ディアスポラ(離散)ユダヤ人になり、欧米文明社会の下ではナチス・ドイツによる「ホロ・コースト」を始め、大きな迫害を受けてきたと見られる。
サイト管理者=筆者=としては、ユダヤ教とキリスト教のメシア思想が一致して、ディアスポラのユダヤ人たちが、この「歴史的な連帯罪」を清算しない限り、ネタニヤフ政権が大イスラエル構想の実現に奔走していたとしても、ユダヤ民族が建国したイスラエルは、本来の国家として国際社会に広く承認されることは難しいのではないかと想定する。なお、高等宗教では、罪の概念は個人に限定されない。仏教では「前世の因縁(注:前世で行った行為が現世での生活を左右する)」という概念がある。これら全てのことを総合すると、現在の複雑多難な国際情勢の解決には、高等宗教の世界的な現代版宗教革命が必要な時期に来ていると思われる。宗教・政治・経済・軍事はそれぞれ独立した事象ではなく、相互に連関していると思われる(マックス・ウェーバーの歴史社会学)。

田中氏は9月11日、「世界を敵に回すイスラエルの策(https://tanakanews.com/250911doha.htm、無料記事)」と題する解説記事を投稿・公開された。この解説記事は「米金融バブルが崩壊して米国債の利回りが上昇し、米政府が財政赤字を増やせなくなって軍事費が減ると、良い諜報がとれなくなってイスラエルの強さも急減する。だからイスラエルは、手段を選ばず、米国の金融バブルを維持し、トランプやその後の政権に軍事費増加を維持させる」をリード文とする解説記事である。この解説記事の中で、田中氏は次のように指摘している。
9月9日、パレスチナのハマスの在外代表部があるカタールの首都ドーハで、会議中のハマス幹部たちを狙って、イスラエルが10発の精密誘導ミサイルを撃ち込んだ。近隣のトルコ(与党=公正発展党AKP=が事実上のムスリム同胞団で、同じ同胞団のハマスと親しい)の軍部はイスラエルの動きを監視しており、攻撃開始を察知してカタールのハマスに伝えた。ハマスの幹部たちは着弾の直前、標的にされたビルから逃げ、多くが無事だった。(Hamas leaders survived the attack in Doha thanks to Turkish intelligence)(中略)
トランプは1期目から、イスラエルが西岸とガザでパレスチナ国家せ正常に機能させたら、サウジなどアラブ諸国がイスラエルと正式に国交正常化するという「アブラハム合意」を提案して仲裁してきた。しかし今、イスラエルはガザを抹消し、次は西岸を併合してパレスチナ抹消を完遂しようとしている。イスラエルは同時にトランプの米国を牛耳り、米国の傀儡色が強いアラブ諸国はイスラエルに楯突けなくなっている。アブラハム合意は、イスラエルとアラブが対等さが前提だ。今のようにイスラエルが米国より強くなると、イスラエルは米国さえ牛耳っておけばアラブ諸国を服従させられるので、アブラハム合意が必要なくなる。
米国は、債券金融システムの巨大なバブルが崩壊すると国際的な政治力や軍事力も失われる。戦争省の巨額の予算も、米金融がバブル崩壊すると維持できなくなる。トランプは以前、世界に対する米国の軍事支配を減らし、米政府の軍事費を削減すると言っていた。だが、実際に大統領に返り咲いたら全く逆で、前政権から受け継いだ軍事費の急増傾向をそのまま続けている。なぜ翻身したのか。
これも、トランプを擁立したイスラエルが米諜報界を牛耳って強くなったことと関連している。米国の軍事費の多くは、兵器開発のふりをした諜報費用として使われている。カネをかけるほど良い諜報がとれる。イスラエルは、トランプに軍事費増加の傾向を続けさせ、イスラエルにとって役に立つ諜報をどんどん集め、敵性諸国を軍事的あるいは指導者のスキャンダル掘り起こしなど政治的なやり方で無力化していく。米国の金融バブルが崩壊して米国債の利回りが上昇し、米政府が財政赤字を増やせなくなって軍事費が減ると、良い諜報がとれなくなってイスラエルの強さも急減する。だからイスラエルは、手段を選ばず、米国の金融バブルを維持し、トランプやその後の政権に軍事費増加を維持させる。以前は、世界の覇権多極化が進むほど米金融やドルがバブル崩壊すると予測されたが、イスラエルの横入りによってシナリオが書き換えられている観がある。(Israeli Military Orders Full Evacuation of Gaza City)
イスラエルは最近、今回のドーハ空爆の他に、ガザ市街のビル群の破壊とか、ディモナの核施設で追加の核弾頭をどんどん作っていることが衛星写真でわかるようにするなど、世界から嫌われることを意図的に複数の方面で拡大している。イスラエルは、すでに述べたようなリベラル諸国(英国系)との敵対を誘発して潰す策を加速している。(Satellite Images Show Major Construction At Israel's Nuclear Site)これは、9月下旬の国連総会でイスラエル非難決議を出させ、国連対イスラエルの世界対立を作ろうとしている策にも見える。
しかし、米国の金融バブル(債券相場や株式相場などの有価証券価格の上昇)を維持して、「ドル基軸通貨体制」を維持し続けることが本当に可能なのだろうか。国際政治学者の藤井厳喜氏が予測しているように、ゴールデン・ドームの構築により、米国で第三次産業革命が本格的に起こり、米国の製造業が復活したとしても、ドル基軸通貨体制の維持は難しく、上海協力機構やBRICS諸国が進めている新たな国際決済通貨システムの構築は避けられないだろうというのが、サイト管理者=筆者=の予想である。つまり、米国のトランプ政権がロシアのプーチン政権と協調して、上海協力機構やBRICS諸国が進めている新たな国際決済通貨システムの構築で協力する可能性はある。

なお、イスラエルとロシアとの関係は歴史的に深いものがある。「ON LIEN ジャーニー」というジャーナリズム・サイトによる(https://www.japanjournals.com/culture/gudaguda/19457-gudaguda-244.html)と、「ロシア革命。教科書が書かない話を書く。レーニンは母方の祖母がユダヤ人。つまりクォーターのユダヤ人だ。その他、革命を主導したボリシェビキはレーニンやトロツキーをはじめ約8割がユダヤ人。ソビエト連邦社会主義共和国とはユダヤ人が中心となって作った国」ということだが、これはかなり常識化している。かつてりロシア革命、ソ連建国以来、イスラエルとロシア人の関係には深いものがある。
このため、イスラエルにおけるロシア系移民の数は少なくなく、イスラエルの文化・政治・科学技術を含む経済に大きな影響を与えているようだ。次のキャプチャ図は、GoogleのAI検索によるものである。ロシア系イスラエル人は、イスラエルとロシアを仲介しつつ、基本的に三大キリスト教(カトリック、プロテスタント、ギリシア正教=ロシア正教=)のうち、ロシア正教の信仰を有していると考えられる。ルターの宗教革命以上の世界的なキリスト教の革命(大リバイバル運動)の影響を受けて、ロシア系イスラエル人が、イスラエルの事実上の国境であるユダヤ教に影響を与える可能性も否定できない。

これに加えて、トランプ大統領はプロテスタントである復員派のキリスト教徒であり、上記の世界的なキリスト教の刷新運動にもかかわってくる可能性が高いと見られる。トランプ大統領が、右派ネタニヤフ政権の宗教的バックボーンであるユダヤ教とメシア思想を一致させ、中東情勢をイスラエル一極単独派遣体制とするのではなく、中東情勢もユダヤ教、キリスト教、イスラム教の存在意義を認めつつ、多極化文明として調和・統一の方向に向かっていく可能性が残されているのではないか。

韓国・李在明(イ・ジェミョン)政権のキリスト教系宗教弾圧に世界が注目
要するに、イスラエルの右派ネタニヤフ政権の大イスラエル構想実現を目指した奔走は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の深層で起きると思われる世界的な宗教革命によって、その最終型が左右されることになる。その意味で、キリスト教、仏教、儒教の世界宗教が集積し、歴史的な宗教革命が勃興する可能性のある韓国での左派・李在明(イ・ジェミョン)政権によるキリスト教系宗教の弾圧は非常に問題であり、トランプ大統領も警告しているとされている(https://news.yahoo.co.jp/articles/6188a5fb3e1129b92f65296589c8249eaee392ed、https://www.worldtimes.co.jp/global/korean-peninsula/20250823-198911/)。

最初の米韓首脳会談では、李在明大統領の対米経済協力姿勢が持ち上げられたが、このところ米韓関係はギクシャクし始めた。BBCは、「李大統領、韓国企業は対米投資を「ためらう」と発言 強制捜査めぐり」と題する記事で、次のように伝えている(https://www.bbc.com/japanese/articles/c1kwmg7pzzko)。
韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領は11日、米ジョージア州にある韓国の現代自動車の系列工場で米移民税関捜査局(ICE)の強制捜査が実施されたことを受け、韓国企業は今後、アメリカへの投資を「非常にためらう」だろうと述べた。4日にあった強制捜査では、韓国人300人以上が拘束された。12日に韓国に帰国の予定。当局は、「アメリカ側の事情で」出発が遅れたとしている。李氏は11日、大統領就任100日の記者会見で、「この状況に非常に困惑している」と発言。韓国企業にとっては、外国工場の設立で労働者を派遣するのは一般的だと説明した。そのうえで、「それが許されないのであれば、アメリカに製造拠点を設立するのは難しくなるばかりだ。(中略)それをやる価値があるのか、企業は疑問に思うだろう」と述べた。

トランプ大統領・政権は不法移民、不法就労(就労ビザなし米国在住)を徹底的に取り締まっており、不法就労労働者300人の強制送還は当然のことだ。これに、李在明大統領は強く反発しており、米国に対する経済協力も反故になる可能性を否定できない。また、「信仰の自由」を真の人権外交に掲げる右派・保守系のトランプ大統領と、キリスト教系宗教弾圧を行う左派・李在明大統領との関係も悪化する可能性を否定できない。韓国では南東部の慶州(高句麗、百済、新羅の三国を統一した統一新羅の王朝の首都があった歴史的な都市、かつての徐羅伐=ソラポル=)で、10月31日と11月1日の2日間にわたってアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議があり、米中首脳会談、米韓首脳会談、米日首脳会談が注目されている。