ロシアとウクライナの停戦交渉は2015年2月に締結されたウクライナ東部ドンバス地域でのロシア系ウクライナ人の安全を保証し、ドネツク州とルガンスク州に高度の自治権を与える「ミンスク合意Ⅱ」を基礎にすべきだ。
米中首脳会談とNATO東方拡大・ミンスク合意
3月18日午後22時(日本時間)から1時間30分に及ぶ米中首脳テレビ会談が行われた。会談の詳細は明らかにされていないが、米国が情報をリークしているとされる英紙フィナンシャル・タイムズを買収した日経新聞は同社のサイトで次のように伝えている(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN180Y90Y2A310C2000000/)。
バイデン米大統領と中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は18日、ロシアによるウクライナ侵攻などをめぐりテレビ会議形式で協議した。習氏は「全方位、無差別の制裁で被害を受けるのは一般庶民だ」と述べ、対ロ制裁に反対した。協議は約1時間50分におよんだ。米中首脳の協議は2021年11月以来で、ロシアによる侵攻後では初めて。
中国国営新華社によると、習氏は「各当事者はロシアとウクライナによる対話を支持するべきだ」と指摘。米国と北大西洋条約機構(NATO)にロシアとの直接協議を促したうえで「ロシア・ウクライナ双方の安全保障上の懸念を解消すべきだ」と述べた。ロシアが批判するNATOの東方拡大などが念頭にあるとみられる。習氏は台湾問題を巡る懸念も伝えた。「台湾問題がうまく処理されなければ、(米中)両国関係に破壊的な影響を及ぼす恐れがある」と異例の強い言葉で警告した。米国による台湾への武器売却や台湾有事に介入する姿勢を示唆していることなどを批判したとみられる。「米国は中国の戦略的意図を誤読し、誤審した」とも語った。(中略)
ロシアは当初狙った短期決戦に失敗し、首都キエフなどへの侵攻が停滞しているとの見方が広がる。ロシアが中国からの軍事支援を受ければ戦局が変わる可能性があり、バイデン氏はロシア支援に回らないよう自ら習氏を説得したとみられる。中国はこれまでロシアへの軍事支援の可能性を一貫して否定している。外務省の趙立堅副報道局長は18日の記者会見で、ブリンケン氏を念頭に「米国の一部の人は絶え間なく虚偽情報を流し、中国を中傷している」と批判した。
もっとも、中国は対ロシア制裁には一貫して反対し、ロシアとの通常の貿易や経済活動は継続する方針を示す。戦況が緊迫すれば食糧や通信機器などでも軍事用ととられかねないだけに米中間の火種が消えることはなさそうだ。
米国のバイデン大統領は中国の習近平主席に対して、ロシアを経済、軍事両面から支援しないように圧力をかけたと見られるが、習主席は米国を盟主とする北大西洋条約機構(NATO)が東西ドイツ統一の際、ブッシュ大統領とベーカー国務長官が「NATOは1インチも東方に拡大しない」旨の約束を破ったことを批判して、ロシアへの経済制裁には反対する意向を崩していない。習主席はNATO(主役は米国)の東方拡大に際して、米国が行ってきた内政干渉について熟知している可能性を否定できない。
【追記:3月19日23時】人民日報は会談の内容について、次のように報じている(http://j.people.com.cn/n3/2022/0319/c94474-9973523.html)。
習氏は、「ウクライナ情勢がエスカレートしてこのような状況に陥ったのは、中国が見たくないことだ。中国は常に平和を主張し、戦争に反対してきた。これは中国の歴史的・文化的伝統だ。私たちはいつも出来事そのものの理非曲直から出発し、独立して自主的に判断を行い、国際法と広く認められた国際関係の基本的準則を守ることを提唱し、国連憲章に基づいて事態を処理することを堅持し、共通した、総合的、協調的で、持続可能な安全保障という考え方を主張してきた。こうした大きな原則は中国がウクライナ危機に対処する時の立脚点だ。中国はすでにウクライナの人道的危機に関して6つの提案を行い、ウクライナと影響を受けるその他の国へ人道主義に基づく支援物資をさらに提供したい考えだ。各方面はロシアとウクライナが対話・交渉を行い、結果を出し、平和に至るよう共同で支援すべきだ。米国と北大西洋条約機構(NATO)の加盟国もロシアと対話を展開し、ウクライナ危機の背後にある根本的な原因を解きほぐし、ロシアとウクライナ双方の安全保障への懸念を解消するべきだ」と指摘した。
習氏は、「現在、世界各国はすでに十分に困難な状況であり、新型コロナウイルス感染症に対処するだけでなく、経済と民生も保証しなければならない。大国のリーダーとして、私たちは世界が注目する問題を適切に解決することを考えなければならず、さらには世界の安定、数十億の人々の生産・生活についてもより考えなければならない。全方位的で無差別的な制裁を実施すれば、苦しむのはやはり一般の人々だ。事態がさらにエスカレートすれば、世界の経済貿易、金融、エネルギー、食糧、産業チェーン・サプライチェーンなどに深刻な危機をもたらし、元々困難に陥っていた世界経済をさらなる困難へ追いやることになり、取り返しの付かない損失をもたらすだろう。情勢が複雑であればあるほど、冷静さと理性を保たなければならない。いかなる状況の中でも政治的な勇気を奮い起こし、平和のために可能性を生み出し、政治的解決の余地を残しておかなければならない。中国には次のような2つのことわざがある。1つは『片方の手だけでは拍手ができない』(一方だけではけんかができない)、もう1つは『トラの首に铃をつけた人こそ、その铃を取りはずすことのできる人だ』(問題を引き起こした人がその問題を解決すべきだ)というものだ。カギとなるのは当事者が政治的な意思を示すこと、目下の情勢を見据え、未来志向で、適切な解決方法を見いだすことだ。当事者以外はそのための環境作りをすることができるし、またそれをすべきだ。目下の急務は対話・交渉の継続、一般市民に死傷者を出さないようにすること、人道的危機の発生を防ぐこと、一日も早く停戦し紛争を終わらせることだ。長期的な道は大国が相互に尊重し合い、冷戦思考を捨て去り、陣営の対抗をあおらず、徐々にバランスの取れた、効果的で、持続可能な世界と地域の安全保障の枠組みを構築することにある。これまでずっと平和のために尽力してきた中国は、これからも引き続き建設的な役割を果たしていく」と強調した。
①ロシアへの制裁には反対の立場を改めて強調する②ウクライナ危機の背後にある根本的な原因を解きほぐすーことを求めるとともに、ロシアのプーチン大統領と、ウクライナの背後に存在してNATOの盟主である米国のバイデン大統領との対話を求めている。これは、バイデン大統領の当事者としての調停能力を問題にしていると見られる。実際のところは、バイデン政権がロシアとウクライナの対立を煽ってきたことを暗に批判したものとも見ることができる。
取り敢えず、ロシアとウクライナの間で「停戦」に向けた交渉が進められているが、ウクライナ(ゼレンスキー大統領)の時間稼ぎの可能性がある。英国や米国の議会で事実上、軍事支援を強く要請しているほか、NATOに加盟した東欧諸国に対してはロシア製の地対空ミサイルS-200の供与を求めるなどしているからだ。また、米国などNATO諸国もウクライナのゼレンスキー政権に高性能ドローンやバズーカ砲、対戦車攻撃用の地対地ミサイルを供与しているようだ。このため、ロシアの不信感から、ロシアとウクライナの停戦交渉は実際のところ、うまく進んでいないようだ(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220319/k10013540601000.html)。
一方、ロシアとウクライナとの停戦交渉が14日からオンライン形式で続けられ、ロシアが求めてきたウクライナの「中立化」をめぐり、NATO=北大西洋条約機構への加盟に代わる、別の安全保障の枠組みについて議論が続いているとみられます。これについて、ロシア代表団のトップ、メジンスキー大統領補佐官は、18日「ウクライナの中立的な地位と、NATOに加盟しないことは、双方の間で最も近づいている問題だ」とする一方、依然として、多くの問題では立場の隔たりがみられるとしています。
一方、ウクライナ代表団のポドリャク大統領府顧問は「私たちの立場は変わらない。停戦と、ロシア軍の撤退、そして具体的で強力な安全保障の枠組みだ」とツイッターに投稿し、ロシア軍に攻撃をやめるよう求めました。
こうした中、プーチン大統領は、ロシアがウクライナ南部のクリミアを一方的に併合して8年となった18日、首都モスクワで行われた記念イベントの会場で演説し「人々をジェノサイドから解放することが軍事作戦の目的だ」と述べて、軍事侵攻の正当性を改めて強調しました。
プーチン大統領が語った「人々をジェノサイドから解放する」という文脈の中での「ジェノサイド」というのは、主として、次のような意味だろう。2014年2月にオバマ第二期政権下のバイデン副大統領とビクトリア・ヌーランド国務次官補がウクライナに根付いていたネオ・ナチ勢力を使い、選挙で正当に選ばれたヴィクトル・ヤヌコーヴィチ政権を暴力革命で打倒したという紛れもない事実がある(https://vimeo.com/687133521)。その暴力革命の後、成立した親米ウクライナ政権が、暴力革命に反旗を翻して決起したウクライナ東部ドンバス地方のルガンスク州、ドネツク州のロシア系ウクライナ人に対して行った政府軍(主力はネオ・チ親衛隊のアゾフ)による弾圧・殺戮のことだと理解される。
参考までに鳩山由紀夫(現在鳩山友紀夫に改名)元首相のコメントを引用しておきます(https://www.chunichi.co.jp/article/426861)。
鳩山由紀夫元首相(75)が1日、1週間ぶりにツイッターを更新。ロシアの軍事侵攻をめぐり、戦争反対を表明しつつもウクライナのゼレンスキー大統領を批判した。鳩山さんはまず「私はあらゆる戦争を非難する。ロシアは一刻も早く停戦すべきだ」と主張し、政治信条である「友愛」の姿勢を示した。しかし「同時にウクライナのゼレンスキー大統領は自国のドネツク、ルガンスクに住む親露派住民を『テロリストだから絶対に会わない』として虐殺までしてきたことを悔い改めるべきだ」とつづり、大統領を批判。「なぜならそれがプーチンのウクライナ侵攻の一つの原因だから」と持論を展開した。
【追記:3月20日午前零時】ウクライナ東部ドンバス地方のルガンスク州、ドネツク州のロシア系ウクライナ人に対して行った政府軍(主力はネオ・チ親衛隊のアゾフ)による弾圧・殺戮の詳細は次のサイト(https://www.kazan-glocal.com/official-blog/2014/11/24/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%81%8C%E9%BB%99%E6%AE%BA%E3%81%99%E3%82%8B%E3%82%A6%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%8A%E6%9D%B1%E9%83%A8%E3%81%AE%E5%A4%A7%E8%99%90/)に詳しい。
ウクライナ東部でジェノサイドー多数の住民遺体発見 ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は(2014年)10月1日の記者会見で、「ウクライナ東部のドネツク市の近くで集団埋葬場所が見つかり、400人以上の遺体が発見された。これは恐るべき戦争犯罪である」と言明した。そして、同外相は、「西側のメディアはこの事件について明らかに沈黙している」と付け加えた。確かに、邦字紙も含め多くの主要な西側の報道機関がこの集団虐殺(ジェノサイド)事件を報じた気配はない。いろいろ調べて見ると、集団埋葬所が最初に発見されたのは、およそ1週間前の9月23日であった。この集団埋葬場所はドネツクから北東に35キロ離れたコンムナル村で3カ所あって、地雷や手榴弾の配線を除去していた親露派兵士によって、うっすらと土が盛られた4体の遺体が偶然、発見されたという。1人は男性、女性が3人で、そのうち1人は妊娠していると見られた。(中略)こうしたウクライナにおける「民族浄化作戦」、つまりロシア系住民根絶(民族浄化)作戦の陰には、ウクライナのオリガルヒ(新興財閥)の一人といわれる人物がいる。アルセニー・ヤツェニク首相に任命されたドニエプロペトロフスク知事イゴール・コロモイスキー氏(注:ウクライナのゼレンスキー大統領の背後で暗躍しているとの情報がある)だ。イスラエルとウクライナ両国の市民権(キプロスのパスポートも所有しているとか)をもち、ジュネーブを生活の拠点にし、推定資産28億ドルで、ウクライナの4番目の富豪といわれている人物である(全体はサイトをご覧ください)。
ロシアのプーチン大統領は、北京オリンピックが終了した翌日の2月21日、それぞれの州が人民共和国として独立したと認定・承認し、両共和国が支援を求めてきたとして今回の「特別の軍事作戦」を展開した(ウクライナ事変の勃発)。ロシア系ウクライナ住民の多いクリミア半島で2014年2月のクーデターに反旗を翻し、「住民投票」の結果、ロシアに併合されたのも、米国の内政干渉による暴力革命に反発してのことである。
【追伸:3月19日午後15時30分】フランスのパリに拠点を置く世界的な通信社AFP(Agence France-Presse)は「ウクライナ生物学研究施設の掌握を懸念 ロシア軍侵攻で米高官」と題する記事で、ウクライナの生物研究所=生物化学兵器研究所=に関して次のように報道している(https://www.afpbb.com/articles/-/3394178)。
米国務省ナンバー3のビクトリア・ヌーランド(Victoria Nuland)次官(政治担当)は8日、ロシア軍が侵攻したウクライナにある生物学研究施設を掌握する可能性について懸念を示すとともに、これを阻止するためにウクライナ軍と連携していると表明した。ヌーランド次官は議会上院外交委員会の公聴会で、ウクライナが生物兵器を保持しているかとの質問に対し、「ウクライナには生物学研究施設があり、ロシア軍が掌握しようと試みるのではないかと深く懸念している」と語った。さらに次官は「これらの研究材料がロシア軍の手に落ちるのをどのように防ぐのかについて、ウクライナ側と連携している」と強調した。
国務次官に昇格する前のヌーランド国務次官補はバイデン副大統領とともに、2014年春のウクライナでの暴力革命を指揮していた人物だ。この報道記事を読む限りでは、生物学研究所=生物化学兵器研究所は米国とウクライナが共同して研究・開発していたようにも受け取れる。もし、そうならプーチン大統領の不退転の決意をさらに固めた可能性は高いと思われる。深層・真相は不明だが、徹底的に究明する必要がある。
さて、清水有高氏の主催するYoutube番組(https://www.youtube.com/watch?v=onJWDIlz1tM&t=872s)で、朝日新聞記者出身でジャーナリストの佐藤章氏がフィナンシャル・タイムズの報道記事をもとに推測している合意案の骨子は、①ウクライナはNATOに加盟せず「中立化」する②ただし、非武装化はしない③ウクライナの安全保障体制として米国、英国、トルコとがウクライナの安全を保障するーなどである。
しかし、この合意案には疑問が残る。第一に、NATOに加盟しないと言っても、スイスやフィンランドなどのようにほとんど未来永劫なのか、それとも、「当面は加入しない」ということなのか判然としないことである。第二に、米国、英国、トルコがウクライナの安全を保障するというのは、米国、英国、トルコとウクライナが集団安全保障条約を結ぶということだ。NATO加盟国であるトルコとロシアが良好な関係を保っているといっても、ウクライナへの軍事兵器の供与とウクライナ内外での軍事訓練などは当然にあり得る。米国がウクライナを取り込んできた過去の経緯から言って、この集団安全保障体制に対してロシアが危惧する可能性は大だ。第三に、2014年冬の米国が指揮した暴力革命の不当性がうやむやにされる。第四に、ゼレンスキー氏が大統領選に臨んだ際に約束したミンスク合意Ⅱの誠実な履行がうたわれていない可能性がある。第五に、クリミア半島併合問題の取り扱いが不明である。
イスラエルとトルコが仲介役となって提案されているとされる「停戦案」は、ミンスクⅡ履行問題も含めてプーチン大統領率いるロシアが飲めるものではないように思われる。サイト管理者(筆者)としてはやはり、ゼレンスキー大統領がミンスク合意Ⅱを誠実に履行することを基礎においた「早期停戦案」でなければならないと思う。これに関連して、プーチン大統領は2015年2月25日に米国のCNNの取材に対して次のように答えている(https://www.cnn.co.jp/world/35060893.html)。
ロシアのプーチン大統領が地元メディアの取材に対し、もしウクライナと戦争になれば「世界滅亡的な」事態になるだろうと語った。ただしそうした事態にはならないとの見方を示している。プーチン大統領は23日、「そのような世界滅亡的な筋書きにはならないと信じる。そこまでの事態に至らないことを願う」と話し、ウクライナ政府と親ロシア派の停戦合意が履行されれば危機は収束すると確信していると語った。当面はこれ以上の行動は不要だとの見方も示し、「(停戦合意=ミンスク合意Ⅱ=の)履行を真に願う。それがウクライナ地域の正常化に向けた正しい道だ」と強調した。
しかしウクライナ東部では停戦発効後も衝突が続き、ウクライナ国家安全保障国防会議は20日の時点で300回もの停戦違反があったと伝えている。プーチン大統領はまた、ロシアが昨年併合したクリミア半島について、「クリミアの人たちが自ら行った選択を尊重しなければならない」と述べ、クリミア半島をウクライナに返還する意図がないことを明確にした。ロシア国内では、ウクライナ危機の責任は米国にあるとの見方が強まっている。最新の世論調査によると、米国に対して否定的な見方をするロシア人の割合は81%に上り、ソ連崩壊以来で最悪になった(以下、略)。
プーチン大統領は2014年2月の米国によるウクライナでの暴力革命の深層・真相を熟知しているから「世界滅亡的な事態」に陥ると述べていると思われる。今回のウクライナ事変の本質はロシアとウクライナの戦闘ではなく、ロシアと米国(ディープステート)との戦いである。ウクライナの一般の市民はその犠牲になっているということを理解する必要がある。「世界滅亡的な事態」が、ロシアまたは米国ディープ・ステートによる生物化学兵器や中性子爆弾、核ミサイルの使用を含む第三次世界大戦を意味している可能性を否定できない。
そうした事態は人類滅亡につながるから、何としても防がなければならない。そのためには、2014年2月の米国によるウクライナでの暴力革命の深層・真相を知る必要がある。しかし、ウクライナの惨状はメディアやSNSで流されているが、2014年2月以来の東部ドンバス地方の状況は寡聞にしてあまり聞かない。ぜリンスキー大統領が、約束したはずのミンスク合意Ⅱの履行問題について触れないのも問題だ。これでは取り敢えずは、米国のディープステート(闇の帝国:軍産複合体と弱肉強食の新自由主義を信奉する米系多国籍企業、米国の政界に対して巨額のロビー活動を展開する)の思うつぼではないか。
となると、このままではプーチン大統領が述べていたように「世界滅亡的な事態」になる可能性がなくはない。やはり、サイト管理者(筆者)としては、ゼレンスキー政権側がNATOに加盟せず永世中立国になることとミンスク合意Ⅱの誠実な履行を約束することが「早期停戦」には欠かせないと思う。併せて、中期的にはNATOを欧州安全保障協力機構(OSCE)を母体に「汎欧州共通の家」を実現することが必要だろう。米国のディープステートによる世界支配を続けさせてはならない。
プーチン大統領、ゼレンスキー大統領との直接交渉に意欲か
NHKがサイトで「プーチン大統領 直接会談に意欲か トルコ大統領との電話会談で」と題して報道した内容によると、プーチン大統領がゼレンスキー大統領との直接交渉に意欲を示しているらしい(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220319/k10013541961000.html)。
ロシアのプーチン大統領が、17日に行ったトルコのエルドアン大統領との電話会談の中で、停戦に向けた条件を改めて挙げたうえで、ウクライナのゼレンスキー大統領との直接会談に意欲を示したと、トルコ大統領府の高官が明らかにしました。このトルコ大統領府の高官は、電話会談のやり取りを聞いたとしていて、イギリスの公共放送BBCの取材に答えました。
それによりますと、プーチン大統領は、停戦に向けた条件として、ウクライナがNATO=北大西洋条約機構に加盟しないことを含めた「中立化」や、ロシアの脅威となる兵器を撤去させる「非軍事化」などを改めて挙げました。また、8年前に一方的に併合した南部クリミアの承認や、親ロシア派の武装勢力が事実上、支配している東部地域の独立承認なども条件になるという考えを示しました。そのうえで、ウクライナのゼレンスキー大統領との直接会談に意欲を示したということです。
一方、トルコ大統領府は、この電話会談の中で、エルドアン大統領がプーチン大統領に対し、ゼレンスキー大統領との会談をトルコの最大都市イスタンブールや首都アンカラで開くことを提案したとしています。
これは、ロシアがウクライナのゼレンスキー大統領政権に向けて示してきた停戦条件(①ウクライナのNATO加盟阻止=中立化=NATOの東方拡大の阻止②ロシアの脅威になる非軍事化の実施=実質的には米国の軍事兵器の供与と軍事訓練の阻止③ミンスク合意Ⅱの誠実な履行④ロシア系ウクライナ人の多いクリミア半島地方のロシア編入阻止)であり、ゼレンスキー大統領がウソをついたミンスク合意Ⅱの誠実な履行を求めることを基礎にしたものだ。ウクライナのゼレンスキー大統領とその背後で同大統領を指示している米国のディープ・ステートにとっては受け入れられない条件だ。しかし、早期停戦に向けての現実的な提案でもある。
プーチン大統領の「最後通牒」とも言えるもので、ゼレンスキー大統領の選択肢としては、①停戦交渉受諾②徹底抗戦ーの二つの道しかない。ゼレンスキー大統領が応じなければロシア側が総攻撃をかける可能性を否定できない。ゼレンスキー大統領としては、真にウクライナの国家・国民のことを考慮するなら、ミンスク合意Ⅱの誠実な履行を条件として停戦交渉に臨むべきだろう。なお今回、プーチン大統領がウクライナのゼレンスキー大統領との直接会談に意欲を示したとの報道が事実とするなら、背景には、米中首脳会談の影響があるかもしれない。
国際金融情勢は世界恐々突入に現実味
世界の経済情勢に目を転じてみる。ロシアのシルアノフ財務相によると、ロシアは総額約6400億ドル(76兆円)の外貨準備を持っているが、その半額の約3000億ドル(約35兆7000億円)規模の資産が凍結されて使えなくされた、と述べている。ロシアは近いうちにデフォルト(債務不履行)に陥ると言われているが、ロシアだけでなく西側諸国の投資家も大きな打撃を被る(https://news.yahoo.co.jp/articles/ac7aade23449131f5ea7e09efd6d6caf29abc1fb)。中国がロシアに対する経済制裁に反対するひとつの理由はここにあるのではないか。
一方、ウクライナ事変によってサプライチェーンが崩壊しつつあることも手伝って、米国はディマンド・プル(旺盛な需要)とコスト・プッシュ(製品価格の引き上げ)の両面から激しいインフレに見舞われている。この激しいインフレを阻止するために、米国連邦準備精度理事会(FRB)は政策金利をゼロ金利から0.25%まで引き上げ、金融引き締め策に転じた。今後、7回にわたって政策金利を上げる予定とされている。
こうなると、実体経済や株式市場に影響を与える金利だが、FRB(中央銀行)ではコントロールできない長期金利(代表格は10年物米国債利回り)はすでに、2.2%まで上昇している。政策金利の引き上げを続けば、長期金利は急激に上昇、株価は急落ないし暴落する。日本はいまだに「黒田バズーカ砲」を虚しく打ち続けており、「有事の円買い」は最早神話で、20年間の長期不況(ゼロ成長、マイナス成長)の中、「有事の円売り」が展開されており、スタグフレーション(大不況下の超物価高)突入が現実のものになりつつある。
ウクライナ事変は世界恐慌の前夜の様相(2024年に世界恐慌に突入すると予測する識者も存在する)をもたらしている。この点からもミンスク合意Ⅱを基礎とした早期停戦合意が緊急に必要不可欠だ。
米国の経常収支赤字の推移とドル建て米国債の保有額を減らしている中国
米中戦争の長期的な展望をみたい。米国の経常収支赤字の推移は次のようになっている(https://ecodb.net/country/US/imf_bca.html)。経常収支の赤字は海外諸国からの米国への資金流入によって賄われる必要がある。現在は海外諸国がドル建て米国債を購入することによって賄われている。その累積米国債購入額が各国の米国債保有残高になる。要するに、世界最大の軍事大国が世界最大の借金大国でもあるという大矛盾が1980年代のレーガン政権のソ連打倒を目的とした「レーガノミクス(軍拡のための財政拡張・高金利ドル高政策)」の時代から続いている。また、ドル安も急激に進行した。なおこのところ、米国債の保有残高は日本が中国を追い抜いて、第一位になっている。
この米国債を売却すれば米国の金利は急騰し、米国経済は大混乱に陥る。中部大学経営情報学部の酒井吉廣教授は米国経済の最大の弱点として次のように述べておられる(https://diamond.jp/articles/-/256823)。
2020年3月末時点で、中国は1兆816億ドルの米国債を保有しています。これは1兆2717億ドルを保有する日本に次いで2番目で、米ドル債全体の約16%を占めています。香港が2453億ドル保有していますので、香港を中国の一部と仮定すれば、中国は実は世界最大の米国債保有国なのです。もし中国がこの米国債を売却すれば、米国債市場は大混乱に陥り、米国は新発債(新規に発行される債券)を出せなくなる可能性があります。日本に中国の売却分をすべて買うほどの余力はありませんし、中東などの親米国を動員しても衝撃を留めることは無理でしょう。つまり中国は米国の最大の弱みを握っているとも言えます。
酒井教授は、米国が米国債の大量売却など経済に悪影響を与える行為を阻止する「国際緊急経済権限法」を成立させていることやデリバティブ取引のテクニカルな問題などから、中国は米国債を売却できない状態にあることを強く主張されている。ただし、金融取引技術の進歩・発展はあるだろう。また、ドル建て債なのでドルを刷れば、返済自体は可能だ。しかし、ドルの為替相場が暴落する恐れがある。最悪の事態に備えて、中国が米国の根本的な弱みを熟慮していることは確かだろう。なお、中国は徐々に米国債の保有残高を減らしている。代わってドル建て米国債の保有額を高めているのが日本だ。