平野貞夫著「小沢一郎謀殺事件」読後感―張本人は「金融帝国主義者」ではないのか

諸般の事情で遅きに失したが、参院選前に刊行された日本一新の会代表・平野貞夫著「小沢一郎謀殺事件」を拝読させていただいた。冷戦後の日本の政治の「真相・深層」を白日の下に晒し、そのうえで生活の党の小沢一郎代表が何故、抹殺の対象となり続けてきた理由を説明、そのうえで抹殺しようとしてきた「下手人」を明らかにしている。さらに、小沢代表抹殺計画進行の結果として当然に生じた日本の政界の劣化を警告するとともに、今後の日本の行くべき道を明快に説いている。ベストセラーの乾坤一擲の書である。ただし、サイト管理者は「下手人」の首謀格はやはり、米国の「金融帝国主義者(新自由主義による国際金融資本+軍産複合体)」ではないかと思う。

中東アラブ諸国で唯一、イスラエルと国交を持つエジプトで軍事クーデターが起こり、軍事暫定政権が成立したが、国際政治経済アナリストの植草一秀氏の指摘するように、背後には米国とイスラエル右派が存在する。実体は、冷戦後の世界各国の経済社会を滅茶苦茶にしている「金融帝国主義者(新自由主義よる国際金融資本+軍産複合体)」である。ムスリム同胞団を基盤としたモルシ大統領政権(当時)によるイスラム主義の中東全域への拡大を阻止するのが狙いだ。

しかし、軍事クーデターによる暫定政権のムスリム同胞団を中心とした国民(市民)に対する弾圧、殺戮は激しさを増しており、これに対してイスラム主義者、イスラム原理主義者の激しい怒りはどんどん拡大、内戦状態に添加しつつある。イラク、アフガニスタンからの撤退を余儀なくされている中でのエジプトの政変は、米国・イスラエルの「世界支配力」の劇的な衰退を示すものだ。

なお、バラク・オバマ政権は巨額の財政赤字の中で、エジプト軍を手なづけるため年間13億ドル(1300億円の)軍事支援を行なってきたが、極端に言えば、その原資は米国債を購入した日本政府の資金―つまり、日本国民の税金―である。日本はトリプルAから格が下がった米国債を1兆2千億ドル程度購入しているが、弱肉強食の新自由主義に基づく金融帝国主義者たちの量的緩和政策(QE1/2/3)の失敗は明白で、出口の見えない状態が続いており、金利の上昇が高騰(国債価格の暴落)に暗転する公算も大きい。ドルが高い今のうちに、米国債を売却し、外貨準備のうち金を中心とした貴金属のウェートを高めるべきである。

それが正しい「政府による財テク」の方法だが、米国の従順なポチである安倍晋三政権の下では、米国の金融帝国者着者に一喝され、その実施は不可能だろう。もっとも、米国に日本からの借金を返す意思はない。今行なっているように、せいぜい輪転機を回してドル紙幣を刷り、それで「返済する」というのがオチだろう。日本の野党は財務省による財テクの大失敗を徹底的に追及する必要がある。もともと、外貨準備を1兆2千億ドルも持つ必要はなかった。

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何故、本書の紹介の前にこのような記事を書いたのかというと、本書では小沢代表謀殺の下手人として、①小沢一郎に反感を抱く政治家②小沢一郎に反感を抱く官僚、その元締めとしての検察(捜査権と起訴権を併せ持つ強力な愛国政治家弾圧組織である東京地検特捜部。米国がGHQによる日本統治時代に、旧日本軍等の資産・武器などの隠匿を摘発するために組織した「隠匿退蔵物資事件捜査部」がその前進)③小沢一郎に反感を抱く財界、特に原発関連企業、マネー資本主義④小沢一郎に反感を抱くメディア⑤小沢一郎に反感を抱くジャパンハンドラー(アメリカの対日エージェント)―を挙げている。植草氏の指摘している「悪徳ペンタゴン」である。

しかし、植草氏は悪徳ペンタゴンの頭目として、金融帝国主義者を指摘しているが、本書ではこれに対する明確な指摘がない。次のように述べている(197頁)。
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それでは、この五者がどう連携したのか。⑤のジャパンハンドラーは除くとして、残りの四者がしっかりタッグを組んで「小沢一郎謀殺」に狂奔したのか。そこまでの意図的な共同正犯関係はないだろうというのが私の見立てである。すでに述べたように、「政治家と官僚(検察)」、「政治家と原発資本主義」そして「原発と巨大メディア」の「共謀」がそれぞれありつつ、⑤のこのジャパンハンドラーも加わって、結果として五者の思いが合成され、「小沢一郎謀殺事件」となったのではないだろうか。
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大変、貴重な書ではあるが、この「結果論」には疑問がある。孫崎享氏のこれまたベストセラー「戦後史の正体」では、戦後の政治史を「対米自主独立派」と「対米従属派」の抗争で見事に把握しており、民主党が2009年夏の総選挙の際にマニフェストで、①日米地位協定の改定を求め、米軍再編や在日米軍基地の在り方についても見直しの方向で米国と交渉する②東アジア共同体の構築をめざし、アジア外交を強化する―ことを打ち出したことに注目。これに対して、本書でも登場するジョセフ・ナイ氏やリチャード・アーミテージ氏が激怒したことを紹介、「(普段は温和な)ナイ氏がここまで露骨な恫喝を行わなければならないほど、民主党がかかげたマニフェストは危険な要素をはらんでいたのです」(356頁)と述べている。

実際、告発サイトウィキリークスが暴露したところによると、米国のカート・キャンベル国務次官補が2010年2月3日、韓国ソウルの青瓦台(大統領府)で金星煥(キム・ソンファン)外交安保首席秘書官(現外交通商相)と面会。その内容を米国のオバマ政権に、「両者(キャンベル、金)は、民主党と自民党は『全く異なる』という認識で一致。北朝鮮との交渉で民主党が米韓と協調する重要性も確認した。また、金氏が北朝鮮が『複数のチャンネル』で民主党と接触していることは明らかと説明。キャンベル氏は、岡田克也外相と菅直人財務相と直接、話し合うことの重要性を指摘した」と打電している(東京新聞2011年1月20日付)。

つまり、米国は日本政府との交渉の相手を鳩山首相―小沢幹事長ラインから、菅―岡田ラインに変更。その結果、鳩山政権が倒れた後に、菅直人政権は環太平洋連携協定(TPP)構想、消費税大増税をぶちあげ、マニフェストを国民に黙って放棄し、対米追随路線に「抜本転換」したのである。これより先の2009年2月、小沢民主党代表(当時)氏は在日米軍再編に関連して「第7艦隊がいれば十分だ」と発言した。大要は、次の通り。

「ただ米国の言う通り唯々諾々と従っていくということでなく、私たちもきちんとした世界戦略を持ち、どういう役割を果たしていくか。少なくとも日本に関係する事柄は、もっと日本自身が役割を分担すべきだ。そうすれば米国の役割は減る。この時代に前線に部隊を置いておく意味はあまりない。軍事戦略的に第7艦隊が今いるから、それで米国の極東におけるプレゼンスは十分だ。あとは日本が極東での役割をしっかり担っていくことで話がつくと思っている」(2月24日、奈良県香芝市で記者団に)

この発言の後の同年3月3日に、小沢一郎の公設秘書である大久保隆規氏と西松建設の國澤幹雄社長、1人が政治資金規正法違反で逮捕された。サイト管理者は、この小沢発言が、「(日本に)われわれが望むだけの軍隊を、望む場所に、望む時間だけ駐留させる権利を確保する。それが米国の(対日政策の)目標である」(ジョン・フォスター・ダレス国務長官、「戦後史の正体」を基調を貫く米国の対日政策の根幹)という金融帝国主義者の逆鱗に触れ、「小沢一郎謀殺」の起点になったと推察する。孫崎享氏の著書(「アメリカに潰された政治家たち」小学館刊行)から教わった。

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その意味では、平野貞夫氏に申し訳ないが、「結果として」との認識には同意できない。「謀略論」にならざるを得ないが、小沢氏謀殺の「黒幕」は存在しよう。もっとも、平野氏が力説しているのは、小沢氏が反米ではなく、日米草の根交流をするため「ジョン万次郎の会」を組織するなど、真の意味での「日米協調路線」を構築しようとしていることである。そのことには無論、異論はないが、米国をも再建する「救米路線」を採らなければならない時期に来ていると推察する。

さて、今後であるが、平野氏は最終章の達増拓也岩手県知事との対談で、「時間はかかるかも知れないが、自民党のリベラル派とまともな野党のリベラル派がどう提携していくのかということが、これからのひとつの鍵になるんじゃないか」と語っている。リベラル派の結集には同感である。

しかし、参院選前に刊行されたにもかかわらず、生活の党は議席を死守できなかった。サイト管理者は組織基盤がなかったせいであると思う。党員、サポーターをいたるところに拡大し、組織を強化する必要があると思う。その際、21世紀型公益資本主義(社会大国、共生共栄友愛主義)形成の担い手(脱原発・新エネルギー開発および社会的共通資本形成の担い手)と連携していく必要がある。

【追記】
サイト管理者が民主党政権時代に取材した当時の現職大臣の記者会見などからすると、日本の財務省は米国の財務省の「日本課」、外務省は国務省の「日本課」、東京地検特捜部はCIAの「日本課」のようである。米国の日本支配の構図は、金融帝国主義者➤歴代米国政権➤日本の官僚機構➤日本の政府➤日本の財界、マスコミ、御用学者という「垂直構造」になっているものと思われる。米国はGHQによる名実ともの日本占領期に、官僚機構は温存して間接統治に使い、また、米国よりの財界(経済同友会)育てた。

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