本当は改善していない米国の経済情勢ー金利上昇を恐れる政策当局者【加筆中】

ジャネット・イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、米国の金融を正常化したいとの意向であることが伝えられているが、同国の景気は真の意味では回復してらず、また、巨額の財政赤字、世界最大の借金大国(対外純債務国)であることから政策当局(財務省サイド)では金利上昇を恐れている。ただし、米国は海外から借金をせねば回らない経済情勢に陥っているため、とりわけ、長期金利の上昇が必要な状態である。その間の矛盾が、今後の世界経済の見通しの軸になる。

イエレン議長が注目しているのは失業率だが、失業率には通常の失業率(U3)と広義だが重要なU6がある。U6とは、一般に使用される失業率(U3失業率)に対してディスカレッジド・ワーカー、縁辺労働者、フルタイム希望なのにやむを得ずパートタイム労働に従事する人などの総数を加算した数値のことを指す。毎月月初に米労働省から発表される雇用統計で、メイン指標として取り上げられる失業率は「U3失業率」のことを指すが、U6は雇用の真実の姿を伝える。

janet-yellen03 jack-lew02

(ジャネット・イエレン連邦準備制度理事会(FRB))とジャック・ルー財務長官

これまでの指標を見てみると、U-1からU-5までのカテゴリーの失業率は改善傾向にあるが、リセッション前の時期、U3失業率は5%、U6失業率では8.8%(U3の1.76倍)だったが、リーマン・ショック以降のリセッション時期に最も悪化した数値はU3失業率で10%、U6失業率では17.2%(U3の1.72倍)。ところが、2014年8月の数値ではU3失業率が6.1%、U6失業率は12.0%(U3の1.97倍)。むしろ、U6をU3で除した数値は増加しており、U3失業率に比べ、U6失業率の回復状況は遅れている。

つまり、米国の勤労者は望まない、不健全な状況での労働を強いられているということだ。経済情勢が好転し、勤労者が環境の良い職場で就業する中、経済の体温が上昇して長短金利が徐々に上昇していくという景気循環の局面にはまだほど遠い。こうした中で、金利が上昇することは危険である。また、巨額の財政赤字を抱えている米国にとって長期金利の上昇は国債の利払い費の激増を招き、死活問題である。

だから、経済情勢、財務省にとって金利は「ゼロ金利(FF金利がゼロ)」が続き、長期金利も上昇しないことが望ましい。しかし、巨額の財政赤字、大幅な経常赤字、世界最大の借金大国であることを考えると、米国は海外からの借金に依存し続けざるを得ない。そのためには、海外の投資家が納得する金利をつける必要がある。日本の財務省は、自ら進んで米国の「財布国家」になり、国民の貴重な金融資産であるゆう貯・かんぽ資金に加えて、公的年金制度で国民から集めた年金積立金をも貢ぐようになっているが、決して同国に対して返してくれとは言わない。

ただし、中露などの新興諸国は異なる。米国の海外借金の返済が困難と見ると、売却に走る。国内経済情勢からはゼロ金利、世界最大の借金国としては高金利をつけざるを得ない米国経済の矛盾が、そろそろ爆発する。これに関連して重要なのは、米国連邦準備制度(FRB)総体の持つ保有資産がリーマンショック以降、量的金融緩和と称する市中債権の膨大な買い上げで急膨張していることだ。

frbca

 

長期国債の買い上げ額や一般にモーゲージと呼ばれる住宅ローンなどの不動産担保融資を裏付け債権として発行された証券であるモーゲッジ証券(MBS=Mortgage Backed Security)の買い上げ額が急膨張している。一般的に、これらの広い意味での証券は優良証券とされるが、米国が世界最大の借金国で経常赤字、財政赤字も年とともに激増しており、縮小の兆しはないことからすれば、長期国債の金利はいつ急上昇してもおかしくないし、民間経済の実態も上記に記述したU6の高止まりに象徴されるように、その基盤はもろい。

植草一秀氏は新著「日本の奈落」で詳述されているように、ジャネット・イエレンFRB議長がもっとも恐れるのは長期金利の意図せざる急上昇であろう。つまり、債券、株式、為替のトリプル暴落である。本サイトでも再三、再四警告していることであるが、ブレトンウッズ体制の受け皿なしにこれが勃発すると世界の経済はひとたまりもない。イエレン議長が量的金融緩和を終了させたのは、これを恐れてのことである。つまり、ソフトランディングに向けた地ならしであるが、「ゼロ金利政策は続ける」と発言していることに示されるように、いわゆる「短期金利(フェデラルファンド=FF=金利)の利上げ」には自信がない。米国が新自由主義政策を採り続ける限り、ハード・クラッシュは避けられまい。長期金利は政策当局による制御が不可能である。米国の長短金利の動向が世界経済の行く末を決める。【この項続く】

 

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう