米国防省最高機密文書漏洩・流出問題ー米国ディープ・ステート(DS)の「多極化」推進に向けての画策か

4月に入って、米国国防総省が作成したウクライナ戦争に関する機密情報や対米従属の米側陣営諸国の機密情報を含む大量の最高機密文書が漏洩・流出したことが大きな問題になっている。犯人としてマサチューセッツ州の空軍州兵ジャック・テシェイラ容疑者(21)らの名前が上がっているが、一介の極めて若い空軍兵士が最高機密文書にアクセスする権限があることは考えられない。国際情勢解説者の田中宇氏は、米国諜報界(注:ディープ・ステート(DS))の「隠れ多極派」が対米従属に安住している米側陣営諸国を自滅させ、多極化を一段と推進する目的で意図的にリーク、SNSで拡散したと見ている。

米国防省最高機密文書漏洩・流出問題については今月の4月10日前後ころから米側陣営のメディアで報道された。例えば、英国BBCの日本語版サイトは次のように報道している(https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-65229216)。

ロシアによるウクライナ侵攻に関わる、米国防総省の機密文書がインターネット上に出回っている。その数は地図や図表、写真など約100点に上る。この事態を、どう捉えれば良いのだろうか。行動計画や、数十もの難解な軍事略語を含むこれらの文書の一部は、「最高機密」と記され、ウクライナでの戦争の詳細な実態が描かれている。(中略)

今回の流出文書は、ウクライナ軍の状態について多くを語っているばかりでなく、アメリカの他の同盟国についても語っている。イスラエルや韓国といった国々が、ウクライナなどの繊細な問題について内部でどんな議論をしているのか、明らかにしている。文書には極秘扱いのものや、アメリカの最も親密な同盟国とだけ共有するとされているものもある。

日本のNHKも続報で次のように報じている(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230413/k10014037391000.html)。

アメリカの複数のメディアは、SNS上に流出したとされる文書は、およそ100に上るとした上で、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関する複数の文書も含まれていると報じています。(中略)

同盟国や友好国にも諜報活動か

アメリカのメディアは、文書の中にアメリカが同盟国や友好国に対しても諜報活動を行っていることをうかがわせる内容が含まれていると報じています。このうち有力紙ニューヨーク・タイムズはウクライナへの軍事支援をめぐり、アメリカが韓国政府内の通信を傍受した情報に基づく文書の存在を伝えました。文書では政府高官のやりとりから、韓国側がバイデン大統領からウクライナへの砲弾の提供を支援するよう直接要請されるのを懸念していたことを把握していたとしています。これについて韓国大統領府は米韓の国防相による電話会談の結果として「該当する文書のかなりの数が偽造されたものだという見解でアメリカと一致した」と説明しています。

最高機密情報の漏洩・流出の容疑者として、NHKとBBCはそれぞれ次のように伝えている(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230413/k10014037391000.htmlhttps://www.bbc.com/japanese/65282949)。

ワシントン・ポストは12日、「ディスコード」というオンライン・サービス上につくられた招待制のおよそ20人から成るチャット・グループのメンバーの話を伝えました。

それによりますと、「OG」と呼ばれるメンバーの1人が去年からアメリカ政府の機密文書の情報を投稿するようになったということです。「OG」と呼ばれる人物は、アメリカ軍の基地に勤務する熱狂的な銃の愛好家の20代の男性で、みずからは「携帯電話やほかの電子機器の使用が禁止されている施設内で働いている」と主張していたということです。

米国防総省の機密文書が多数流出した問題で14日、連邦捜査局(FBI)に逮捕されたマサチューセッツ州の空軍州兵ジャック・テシェイラ容疑者(21)は同州ボストンの連邦地方裁判所に初出廷し、スパイ法違反で起訴された。罪状認否は行わなかった。

スパイ法に違反し、機密文書を権限なく持ち出し、保管した罪で起訴されたテシェイラ被告は、機密文書持ち出しについて最高10年、機密文書の保管について最高5年、禁錮刑を言い渡される可能性がある。





しかし、常識的に考えて一介の極めて若い空軍兵士が最高機密文書にアクセスする権限があるとは考えられない。これについて、国際情勢解説者の田中宇氏は4月13日に公開した「単独覇権とともに崩れゆく米諜報界」と題する解説家事で次のように指摘している(https://tanakanews.com/230413intel.php、有料記事=https://tanakanews.com/intro.htm=)。まず、田中氏は「諜報界」の定義について改めて次のように指摘している。

米諜報界は、CIAや国防総省、国務省、それらの傘下の下請け会社、シンクタンクや外交専門家やマスコミ、軍事やエネルギーの産業界などで構成する複合体だ。軍産複合体や深奥国家(注:でのディープ・ステート(DS))と同じものであり、米国の覇権運営を担っている。米大統領は表向き諜報界より上位だが、諜報界は大統領府を盗聴したりして動きを把握した上で歪曲情報を注入することで、事実上大統領を支配している。大統領が諜報界と戦おうと思ったら、情報も部下も信用できない中で孤独の戦いを強いられ、だいたい失敗している。ケネディからオバマ、トランプまで皆そういう目にあった。China is ‘ghosting’ the US because normal diplomacy has proven useless) (David Stockman On Imperial Washington – The New Global Menace

要するに、「諜報界」とは本サイトでも問題にしてきた「ディープ・ステート(DS)」のことだ。米国の諜報界は戦後、軍産複合体を中心として民主党政権・共和党政権を問わず、米国の政権を傘下に起き、米(正確には米英)単独覇権体制を敷いてきた。しかし、田中氏は(注:米国の経済力の衰退から)従来の一国単独支配体制を維持することは困難であり、(G20=ただし、現在のところは中露の力が強くなっているため、何も決まらない=や第二次世界大戦後に創設された国際連合などを中心に)世界は多極化したほうが良く、G7諸国を中心とした対米従属国は従属に安堵するのではなく自立するべきであるとし、そのために対米従属諸国を自滅させるための自滅工作を意図的に推進している「隠れ多極主義」勢力と、従来の単独支配体制を維持するべきだする覇権主義勢力が暗闘していると見ている。田中氏は現在のところ、諜報界の主力は「隠れ多極主義」勢力が支配していると見ている。その結果、次のような事態が進行しているという。

欧日など米同盟諸国はこれまで米諜報界の多極主義的な傾向に見てみぬふりをしてきた。米覇権の崩壊が加速しているのに、同盟諸国はいまだに見てみぬふりだ。フランスのマクロン大統領が訪中して非米側に転向する感じを見せたが、これも米国側のマスコミではきちんと報道されず重要性が無視されている(フランスのいつもの裏切り、みたいな歪曲話になっている)。米諜報界の多極派は、見てみぬふりの同盟諸国を困らせてやろうと最近、米国が同盟諸国をスパイしていることを示す国防総省の機密文書の束を意図的に漏洩させ、騒動を作り出している。 (White House Says Don’t Report on Pentagon Leaks) (Pentagon Leaks: 5 Key Revelations

機密文書の束によると、米政府は韓国政府から武器弾薬を買ってウクライナに送ったが、これは韓国にとって違法なことで、米国は韓国に無断でこれをやり、韓国政府を苛立たせた。また、イスラエルでは諜報機関モサドの長官らが、配下の諜報部員や国民を扇動してネタニヤフ政権に対する反対運動を起こさせている。トルコやエジプトは、米同盟国なのに、こっそりロシア側に兵器を売ろうとしている。などなど、米当局は同盟諸国の政府が釈明に困るような内容をスパイして報告書にしていたが、その文書が漏洩した。 (Here are the biggest Middle East disclosures in the leaked intel docs

同盟諸国の政府はいずれも「そんな事実はない」と強く否定し、漏洩したとされる機密文書自体が偽物であると言ったりしている。米大統領府自身が、漏洩文書は本物だと認めてしまったが、同盟諸国はそれを無視している。同盟諸国は、米単独覇権体制のもとで長く安住してきたので、まだまだそこから出たくない。米覇権はこれまで何度か崩壊しかけた(ベトナム戦後など)が、その後蘇生しており、今回もまた延命するかも知れない、と同盟諸国は期待している。だが今回は違う。中露がどんどん多極型の新覇権体制を作り、米覇権は押しのけられて領域が狭まっている。今回の多極化は不可逆だろう。だからマクロンは訪中し、対米自立して中国と組むことにした。しかし、日本を含む多くの同盟国では、まだこの事態が理解されていない。 South Korea warns of ‘fabrications’ in Pentagon leaks

今回の国防総省からの最高機密文書の漏洩・流出事件は米国ディープ・ステート(DS)の「隠れ多極主義勢力」が引き起こしたものだということである。田中氏の指摘のほうが、一介の極めて若い空軍兵士が最高機密文書をSNSに流したとする説よりもよほど説得力がある。ウクライナ戦争の勃発(「特別軍事作戦」の開始)以降は、多極化が急速に進んでいる。その流れを止めることは最早、不可能だろう。ただし、米側陣営を主導してきた欧米文明には基本的人権の尊重や博愛主義、市場経済原理、複式簿記、近現代科学・技術といったマックス・ウェーバーの意味での普遍的価値観、文明制度が存在する。

多極化においても、欧米文明のこうした文明的遺産は相続しなければならないというのが、サイト管理者(筆者)の基本的な考え方だ。そのためには、欧米文明の基盤になったキリスト教の改革が不可欠である。なお、田中氏は上述の論考で、2001年の「9・11」米国同時多発テロ事件は、米国のディープ・ステート(DS)が真犯人であると断定している。

2001年の911テロ事件は、米諜報界のCIAが、当時とても親しかったサウジアラビア諜報機関の力も借りて、サウジ人らのエージェントたちに計画実行させていた可能性が高いことが、最近の米国の機密公文書の開示で明らかになった。これらのことは以前から指摘されていたが、今回はグアンタナモ監獄にとらわれている人々の裁判記録の機密解除というかたちで示された。この記録では、実行犯のうちの主犯格だった2人のサウジ人(Nawaf al-Hazmi と Khalid al-Mihdhar)が1年半かけてテロを計画して実行犯メンバーを募集する過程について、CIAがずっと行動を監視していたことが明らかになった。 (‘Special’ service: Declassified Guantanamo court filing suggests some 9/11 hijackers were CIA agents

詳細は本論考をご覧いただきたい。


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