菅政権、「緊急事態宣言」解除基準を「重症者」に変更もー解散・総選挙断行が狙いか(追記:二階幹事長に安倍氏屈服)

一部のメディアによると菅義偉首相(菅内閣)は18日夜、コロナ感染拡大を抑えるための「緊急事態宣言」の解除基準を事実上、従来のステージⅣ未満から「重症者数」や「ワクチン接種者数」に絞るという。しかし、「重症者」や「ワクチン接種者数」に絞ることは感染拡大阻止には役に立たないばかりか、「自宅療養」を原則にしたことと同じように、デルタ株など変異株によるコロナ感染拡大を加速することになる。実際の狙いは、自らにとって不利な自民党総裁選の前に臨時国会を招集、解散・総選挙を断行することにあると思われる。今回の解除基準の変更は、「権力維持」のための暴挙だ。

8月19日木曜日コロナ感染状況

複数のメディアによると、東京都が19日木曜日発表した新型コロナウイルスの新規感染者は過去2番目に多く、木曜日としては過去最多の5534人、東京都の基準では現在入院している重症患者は前日から1人減って274人(厚生労働省基準では約8倍はあり、2000人を超えていると見られる)だった。7日移動平均での新規感染者は過去最多を更新しており、前週比でも反転上昇している。緊急事態宣言の解除基準を主として「重症者」にするなら、厚労省と東京都の基準を合わせる必要がある。東京都の基準(集中治療室=ICU=で治療を受けているコロナ感染患者は重症者としない)に合わせれば、「重症者」はぐっと少なくなる。

全国では午後19時30分23時59分の時点で新規感染者が過去最多の2万5156人、死亡者は26人、重症者は前日より49人多い1765人になっている。

東京都のコロナ感染者数の推移
東京都のコロナ感染者数の推移

菅政権、緊急事態宣言解除基準を「重症者数」と「ワクチン接種者数」に変更

例えば、時事通信社は次のように報道している(https://www.jiji.com/jc/article?k=2021081800930&g=pol)。また、FNNプライムオンラインも19日昼のテレビで報じた(https://www.fnn.jp/articles/-/226426)。

政府は18日、新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言の拡大・延長を受け、宣言の解除基準について見直す検討に入った。ワクチンの接種状況や重症者数などをより重視する見通し。新たな宣言期限となる9月12日までの解除を見据えたもので、政府のコロナ対策分科会の議論を踏まえ、月内にも最終判断する方向だ。(中略)

加藤官房長官記者会見
加藤官房長官記者会見

政府は、宣言発令を判断する際、「新規感染者数」や「医療の逼迫(ひっぱく)具合」などの指標を用いて、「ステージ4」相当を(緊急事態)宣言(発出)の目安としている。

FNNプライムオンラインでは従来の解除基準(ステージ3以下)では、いつまでたっても「緊急事態宣言」を解除することが出来ないという(菅政権高官の)談話を挿入していた。

毎日新聞社のWebサイトは次のように伝えている(https://mainichi.jp/articles/20210818/k00/00m/010/289000c)。

政府は、新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言の解除基準を見直す方針だ。ワクチン接種が進み、感染者の重症化率が下がったことを受け、最重視する指標を新規感染者数から、病床使用率など医療体制の確保状況に切り替えることなどを検討する。専門家による議論を踏まえ、東京など13都府県に対する宣言が期限を迎える9月12日までに結論を出したい考えだ。(以下略)

朝日新聞は20日付一面トップ記事で次のように伝えている(https://digital.asahi.com/articles/DA3S15015677.html?iref=pc_ss_date_article)。

政府は、緊急事態宣言の適用の目安となる指標を見直す検討を始めた。ワクチン接種で重症化を防げるとして、新規感染者数よりも病床使用率など医療提供体制の確保を重視する方向で、宣言の常態化を避ける狙いがある。9月12日を期限とする今の宣言への反映もめざすが、拙速な基準見直しは「世論の理解が得られない」などと慎重な議論を求める声もある。(中略)

朝日デジタルによる緊急事態宣言解除基準の変更
朝日デジタルによる緊急事態宣言解除基準の変更

ただ、政府内には「インフルエンザのように多くの治療薬が出て、感染者数を心配しなくてもよい状況にならないと、大きな見直しは難しい」(官邸幹部)との見方もある。見直しの背景として、9月12日の期限で宣言を解除し、その後、衆院解散・総選挙に持ち込みたいという首相の思惑を指摘する声もある。「宣言中に解除しやすく指標を変えると批判を招く」(コロナ対応にあたる官僚)といった懸念もあり、先行きが不透明な部分もある。

コロナ感染症(Covid-19)患者は無症状、軽症者であっても容態が急変し、重症者に陥りやすいことが特徴だ。また、コロナ感染者は基本的に自宅療養であり、デルタ株の場合は飛沫より微小なエアロゾルで感染(空気感染)するから家族全員が感染してしまう。実際に、そのような例が続出している。医療供給体制の整備・強化が全くなされていないから、入院待ち感染患者も極めて多数に上っている。東京都では双方併せて3万4500人を超えている(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)。これは、国民皆保険制度を否定するものであり、事実上の医療崩壊の状態だ。さらに、mRNAワクチンを接種しても、新型コロナの感染そのものを防ぐ効果は弱いとされている。本人は重症化しなくても、他の人にウイルスを拡散し、重症化させてしまうということだ。また、mRNAワクチンでは集団免疫を獲得できないということが、今や世界の感染症学会の定説(常識)になりつつある。

だから、「緊急事態宣言」の解除基準を「重症者数」や「ワクチン接種状況」に限定しても、現在の「コロナ感染爆発」を抑え込むことには役に立たない。菅首相は何度も「二度と緊急事態宣言を発出しません」と語っていたのに、「緊急事態宣言を解除できないから、解除基準を変更する」というのだから、当たり前だろう。

むしろ、重症者になる可能性のある新規感染者数を事実上、無視することで、コロナ感染患者を原則、「自宅療養」としたことと同じように、新規感染者増加と「医療体制の崩壊」を加速するだけだ。政府=菅政権、特に菅首相の頭の中にはコロナ感染症から国民の生命と健康、暮らし(生業)を守るということは存在せず、あるのは「権力維持」だけだ。

政府=菅政権は18日、緊急事態宣言の地域とまん延防止等特別措置の適用地域の拡大を余儀なくされたが、期間は9月12日までとした。自民党の総裁選挙の段取りは最終的に二階俊博幹事長が決定するが、大方の予測シナリオでは、自民党総裁線は9月17日告示ー9月29日投開票という日程が有力だ。菅首相が解散・総選挙に打って出ることのできる日は、基本的に9月13日から16日までの4日間だ。

「コロナ重症患者数」の具体的数値目標は不明だが、かなり困難ではあるものの、(追加:万一の場合)9月13日から16日までの4日間に「緊急事態宣言」を解除できるような数字を出してくる可能性も考慮に入れておく必要がある(下記の「二階幹事長、「公金横領疑惑」で安倍前首相を屈服」の項を参照願います)。なお、季節敵要因から8月末から9月上旬にかけて、新規感染者の増加数が抑制されてくる可能性もある。

今後の政治日程(Youtube番組「一月万冊」から)
今後の政治日程(Youtube番組「一月万冊」から)

 

自民党内では安倍晋三前首相と麻生太郎副総理兼財務相が考えている総裁選を行ってから新総裁のもとで解散・総選挙を行うというシナリオが頓挫する可能性もあることから、清和会細田派、志公会(しこうかい)・麻生派の二大派閥を中心に、菅首相の新方針に強い反発・抵抗が出てくることが予想されるが、方針を撤回させられるかどうか不明だ。二階俊博幹事長は安倍前首相の「取り敢えず半分疑惑(公金横領疑惑)」の弱みを握っており、菅首相とともに選挙地盤の「和歌山3区」を失うという自身の最大の危機に立たされていることを考慮すれば、二階俊博幹事長が新方針を容認する可能性はある。その場合は政権与党といえども、菅首相(菅政権)の方針を撤回させることはかなり難しいだろう。

【追記】これに関連して、菅首相としては「衆院議員任期満了解散」をも模索しているようだ。「任期満了解散」というのは公職選挙法(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC1000000100)第31条の「衆議院議員の任期満了に因る総選挙は、議員の任期が終る日の前三十日以内に行う」規定による総選挙だ。現在の衆院議員の任期満了日は10月21日。だから、9月22日以降ならいつでも総選挙が可能で最短時期としては9月26日日曜日が投開票日になる。その場合は自民党総裁選挙は凍結になる。多少は菅首相に有利に働くだろう。

二階幹事長、「公金横領疑惑」で安倍前首相を屈服

朝日新聞出身のフリー・ジャーナリストの佐藤章氏によると、2019年夏の参院選広島選挙区での大型買収事案での安倍晋三善首相の「取り敢えず半分疑惑(公金横領疑惑)」で二階幹事長が安倍晋三前首相を追い詰め、勝利した模様だ(https://www.youtube.com/watch?v=ymVeWdiRP6k)。その証拠は次の毎日新聞の記事(https://mainichi.jp/articles/20210818/k00/00m/010/296000c)と続報記事(https://mainichi.jp/articles/20210819/ddn/001/010/017000c)。

菅義偉首相は自身の自民党総裁任期満了(9月30日)に伴う総裁選前の衆院解散を見送る方針を固めた。首相は総裁選で再選し、その後に解散に踏み切るか、衆院任期満了に伴う衆院選を目指す方針。複数の関係者が明らかにした。(以下略)

「一月万冊」より
「一月万冊」より

 

これらの記事は、菅首相が安倍前首相の属する清和会・細田派(実質的領袖は安倍前首相)の支持を取り付けたことを意味するが、その背景には二階幹事長が安倍前首相を「取り敢えず半分疑惑(公金横領疑惑)」で追い詰めたことを意味する。

現時点では、安倍・麻生太郎副総理兼財務相・甘利明党税制調査会の3Aが菅首相・二階幹事長に敗北した形だ。なお、麻生財務相が地元福岡県の財界から菅首相の突き上げを受け、安倍前首相に本格的な「自民党総裁選」の実施を求めたが、麻生財務相の動向については不明だ。ただし、麻生財務相(麻生派)も菅首相・二階幹事長に屈した可能性はある。

横浜市長選挙で小此木八郎候補が大敗しない限り、自民党総裁線は9月29日に行われ、菅総裁が再選される公算が大きい。コロナ感染状況によるが、総裁再選直後に臨時国会を招集して冒頭解散・総選挙に踏み切るか、または衆院議員任期満了総選挙のいずれかを行うことになると思われる。また、これに対して、連合に支配される枝野幸男代表率いる立憲民主党は枝野氏が代表を務める限りは、確かな野党共闘体制を確立することが出来ず、このため投票率は上昇しないで、菅氏を首班とする自公連立政権(これに維新が加わることもあり得る)が続くことになるものと見られる。こうなると、「コロナ対策無為無策」のために、冬場に現在の第5波を上回る第6波が襲来することになるだろう。併せて、「国民無視の菅政治」が続くことになる。日本の未来は非常に暗い。

真正野党の対応について

いずれにしても菅首相が、自身の敗北が決定的な自民党総裁選を回避し、臨時国会を招集して冒頭解散するか任期満了解散を行うのは、立憲民主党の枝野幸男代表が御用組合である日本労働組合総連合会(連合)に支配され、真正野党による野党共闘体制の確立が不可能と見ており、総選挙の結果、自民、公明両党に加えて日本維新の会の新たな国会総選挙での当選衆院議員を加えれば、野党議員も合わせた全衆院議員の過半数を制することができると見ているからだろう。

ただし、コロナ感染爆発、医療崩壊のもとでの解散・総選挙には国民の反発も強いと見られる。だから、解散・総選挙の結果、自公と維新で過半数を確保できるかは定かで断言できないが、自民党を支持してきた保守層が維新支持に回れば、過半数を確保することは十分有り得る。ただし、菅氏が再び首相に選出されても、「徹底的な検査と隔離・保護・治療」とそのための「医療体制の再編」が感染症対策の基本の基本であり、この基本を無視しては今後とも未曾有の危機状態にある「コロナ禍」を克服することはできない。

日本の最大の「コロナ禍対策」は「政権交代」しかない。立民の枝野代表が連合の支配から脱することが出来ない場合は、実現性は極めて薄いが、立民内の改革・良識派が代表(執行部)を変えたうえで、真正野党側は早急に党首会談を開いて骨太の理念・政策・政権構想を決定し、解散・総選挙の前にできるだけ早急に国民の前に明らかにする必要がある。真正野党が政権交代を果たすことができなければ、2022年の参院選で勝利して「衆参ねじれ」現象を引き起こすしかない。


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