2015年10月31日に乗員乗客224人を乗せたエジプト東部シナイ半島でロシアのコガリムアビア社の旅客機が墜落、全員が死亡。また、11月13日にはフランスで大規模同時テロ多発事件が勃発、少なくとも128人が死亡し、400人近くの負傷者が出るという大惨事が起きた。犠牲者には衷心よりご冥福、お見舞い申し上げたい。犯行はISIL(イスラム共和国=Isramic State in Iraq and the Levant=)の仕業と断定して良い状況だ。ただ、米国を中心とする有志国連合軍がISに対する空爆を強化したとしても、解決(暫定的に、ISの撲滅)にはつながらないことはこれまでの空爆の結果が示すとおりだ。
ISについては、不思議な点が少なくとも二つある。その第一は、スンニ派勢力とされるISが歴史的に対立してきたシーア派よりもイスラム全体の敵のはずであり、民間人の無差別殺戮を繰り返しているネタニヤフ政権下のイスラエルに対してはテロを含む一切の攻撃をしていないことだ。第二は、ISの武器調達源・資金源が不明なことだ。これに関して言えばISに対して、スンニ派国家(経済的には原油利権国家)の盟主であり、米国の「同盟国」であるサウジアラビアが資金、武器を提供している模様だ。当然、迂回援助もある。サイト管理者には、今回の一連の事件で誰が最も(短期的に)得するかを考慮すると、多国籍企業の盟主である世界的な軍産複合体、石油メジャーであることから、ISの背後にはこれらの存在があると推察している。
IS成立(発足)の発端は、米国によるイラク侵攻(侵略)にある。当時のサダム・フセイン政権はスンニ派に属していたが、同政権崩壊後には代わって歴史上初めてシーア派政権が発足、フセイン政権の政権中枢部が北部に逃れ、あるいは追放されてスンニ派勢力が肥大化し、ISIL(イスラム共和国=Isramic State in Iraq and the Revent=)が「樹立」されたという経緯があるからだ。
中東の情勢については、イスラム教についての歴史的な理解、石油を柱とする資源・エネルギー利権政治力学、中東エネルギー資源が世界経済に及ぼす影響、軍事戦略を総合して分析、解決の道を探る必要がある。孫引きで恐縮だが、植草一秀氏のまとめた「中東複雑系」の考察を引用させていただきたい。
以下は、http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2015/11/post-b6b8.htmlによる。
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シリア、イスラム国(ISIS)を取り巻く情勢は複雑で、遠く離れた日本では、その実情が分かりにくいが、ネット上に公開されている情報などをもとに、簡単に整理すると次のようなことになる。
http://barbarossa.red/syriancivilwar/ ←こちらが、下記の経緯の原典。
などを参照。
ISの活動が拡大し、欧米勢力がIS制圧を目的に行動を展開している一方、シリアのアサド政権もIS制圧を掲げていることから、欧米勢力はシリアのアサド政権に対する敵対姿勢を抑制する状況が続いてきた。しかし、アサド政権は反政府勢力に対する非人道的な攻撃を展開しているとされ、これが欧米勢力の反アサド政権姿勢を生み出す背景になってきた。
宗派的な側面に注目すると、現在のイラク政権、イラン政権、アサド政権は、いずれもイスラム教シーア派に属する。アサド政権はシーア派のなかのアラウィー派という少数派である。ただし、シリア政府を支配しているのはバアス党であり、バアス党は、「アラビア語を話す者は宗教・宗派にかかわらず一つの民族である」というアラブ民族主義の考え方を取っており、バアス党はスンニ派もキリスト教徒も排除していない。
実際に、スンニ派などのアラウィー派以外の人材も議会、政党、軍、公務員などのポストについている。2011年にチュニジア、エジプトで「アラブの春」と呼ばれる革命運動が勃発した延長上に、シリアでも反政府運動が発生し、「自由シリア軍」と呼ばれる反政府組織が形成された。これに対してアサド政権は反政府勢力鎮圧に動いた。
「自由シリア軍」は統率力を失い、市民の支持を失っていった。代わって登場したのが「ヌスラ戦線」というイスラム過激組織であったが、この組織がアル・カイーダ系統の組織であることが判明して支持を失った。そのなかで2013年央にシーア派のイスラム組織であるレバノンのヒズボラが参戦した。
これに対して、アラブのスンニ派国家が反発を強め、シリア内の反体制派を支援したため、内乱が宗派対立の様相を強めた。さらに、2014年入り後、イスラム国(ISIS)とシリア反政府勢力との衝突が激化した。シリアの反政府勢力は、当初、イスラム国の台頭を容認していたが、ISISが反政府勢力を支配下に置こうとして内紛が広がったと見られる。
シリアのアサド政権はIS制圧の姿勢を強調するが、直接の標的としているのはシリア内の反政府勢力である。米国はシリアのアサド政権を打倒するために、自由シリア軍などを支援し、同時に、ISの制圧を試みてきたとされるが、この計画はまったく効果を上げてこなかった。ロシアはISを制圧するとの名目でシリアにおける空爆に踏み切ったが、その狙いはシリア内部の反政府勢力であると見られている。
このような図式のなかで今回のロシア機撃墜事件が発生した。ロシアはIS制裁のための空爆を激化させる大義名分を確保したことになる。イラクではフセイン政権が打倒されて、歴史上、初めてスンニ派支配がシーア派支配に転換した。メソポタミア文明以来の大転換が生じたのである。
シーア派国家の中核はイランであり、サダト大統領のシリアが、分類上、シーア派支配ということになるから、ペルシャ湾から地中海にかけて、シーア派勢力による支配地域が確立される状況が生まれている。これに対して、スンニ派国家の盟主がサウジアラビアである。ISISはイラクのフセイン政権が打倒されて、その勢力が北部に逃げ延びて創設されたものであるとされる。
その最大の資金源はサウジアラビアであると言われている。
シーア派とスンニ派の宗派争いの側面を見落とせない。他方、ISはイスラエルに対する攻撃をほとんど示していない。イスラエルにとっては、イスラム勢力が一枚岩になってイスラエルに対峙する構図よりは、イスラム勢力が二分されて、闘争を展開することの方が、はるかに有利である。
さらに、米国の軍産複合体の最大関心事は、軍事紛争の火種が絶えないことである。また、ロシアにとっては、原油価格の下落が国家経済の根幹を揺さぶるため、有事に伴う資源価格上昇はメリットが大きい。複雑に絡み合う要因を洞察し抜かなければ、中東情勢を読み抜くことはできない。
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報復は報復の連鎖を呼び、終わりがなく、根本的な解決もない。取り敢えずは、核兵器を中心とした武器不拡散条約(武器拡散防止条約)を国連主導で締結することである。
この点で、重要な文献が筑摩書房から新書版で出版された。加藤典洋著「戦後入門」だ。出版社によると、「日本ばかりが、いまだ「戦後」を終わらせられないのはなぜか。この国をなお呪縛する「対米従属」や「ねじれ」の問題は、どこに起源があり、どうすれば解消できるのか――。世界大戦の意味を喝破し、原子爆弾と無条件降伏の関係を明らかにすることで、敗戦国日本がかかえた矛盾の本質が浮き彫りになる。憲法九条の平和原則をさらに強化することにより、戦後問題を一挙に突破する行程を示す決定的論考。どこまでも広く深く考え抜き、平明に語った本書は、これまでの思想の枠組みを破壊する、ことばの爆弾だ!」というものだ。
ただし、日本の現行平和憲法の徹底化のために、国連のあるべき姿に触れており、必読の書である。サイト管理者の住む杉並区では19人の予約が入っており、購入・拝読することにした。後ほど、書評を行いたい。