PCR検査大規模実施に向け注目される世田谷区(保坂展人)方式−邪魔する加藤勝信厚労相、検査利権墨守

本サイトで既に紹介した東京都・世田谷区の保坂展人区長が提唱し、実現に向けた動きを加速させているPCR検査人数の大幅増加のための世田谷方式が注目を集めている。日本ではPCR検査妨害「策」が取られ、人口当たり検査人数が累計で世界160位前後と、一応の先進国としては考えられない水準にある。「世田谷方式」はこの検査数を飛躍的に拡大するためのモデルであり、パフォーマンスを見せるだけで東京都よりも状況が悪化している吉村洋文大阪府知事(日本維新の会・副代表)が提唱した参考数値だけの大阪モデルにとって替わる可能性が高い。

◎NHKのWebサイトによると、6日は15時現在で新型コロナウイルス新規感染確認者は前日5日の263人から360人に増加した。新規感染者の詳細はまだ不明だが週後半に上昇する傾向はある。ただし、東京都の専門家の中には「PCR検査の人数は前週同日時点と比べて減少しているが陽性判定率が上昇しているのは感染が都内に広がっている証拠」と懸念する声も上がっている。やはり、エピセンター(感染の震源地)を特定し、エピセンターと社会インフラを支える職場では全員検査、そうでないところでは希望に応じて誰でも簡単に抗体検査・PCR検査を受けることができるような検査体制に抜本転換する必要がある。全国の状況が明らかになるのは、20時30分前後。安倍晋三首相は6日の広島原爆投下の式典で「感染者が多くなっているのは確かだが、前回と比べて状況が異なり、緊急事態宣言を発令する状況にない。全国の地方自治体と緊密に連携を取りながら、高い緊張感を持って注視していく」の呪文を繰り返すのみ。

安倍晋三首相はPCR検査の検査能力の拡大体制は語るが「検査数の拡大」は口にせず、実際に人口当たりの検査人数は世界160位程度しかないという一応の先進国としては考えられない水準に低迷している。

日本の人口当たりPCR検査は世界で最下位の部類
日本の人口当たりPCR検査は世界で最下位の部類(児玉龍彦東大名誉教授による)

治療法も確立されておらず、ワクチンの開発も専門家の間では難しいとされている中、国際保険機関(WHO)が公式見解としてデドロス・アダノム事務局長が繰り返し主張しているようにこのようなウイルスに対処するにはまず、「検査・隔離・可能な限りの治療」しかないのが現状だ。なお、ワクチン開発の見込みだが、医療ガバナンス研究所の上昌広理事長(感染症対策の専門研究機関のひとつである東大医科学研究所=東大医科研=出身の医師)によると、抗体を生成する開発の第2相までたどり着くのは比較的容易だが、生成された抗体が有効(新型コロナウイルスに対して強い免疫力を持つ)で、しかも、人体に有害な副作用(Antibody Dependent Ehnancement)を持たないことを確認する開発の第3相を通過するのは極めて難しい。2003年に流行したコロナウイルスの一種である重症急性呼吸器症候群(SARS-)のワクチンなどは未だに開発されていない。

さて、日本でPCR検査人数が世界の中でも最下位の部類に位置しているのは、感染症法第15条による「積極的疫学調査」という名の「行政検査」でしか対応できなかったことがある。検査を受けるためには、最終的に厚労省が管轄する保健所の許可が必要であり、そのための条件は当初、①37.5度以上の高熱が4日間続くこと②強い倦怠感があること③PCR検査で陽性判定が出た者の濃厚接触者−に限られた。途中から、保険医による通常の医療保険での検査が認められるようになったが、その実態は感染症法の制約のため、保険医が地方自治体に検査許可の申請を行い、その許可を得なけれはならなというものでしかないため、保健所や地方衛生研究所(総本山は国立感染症研究所)の「委託業務機関」でしかない。しかも、許可を得るためには1カ月以上かかる。

また、自費で受けるとなると3万円かかる。上理事長によると実際は高々数千円だそうである。ただし、検査医療機関などは自分で見つけなければならない。通常の医療法(各種健康保険による医療機関での診察と治療)ではないので、国民はまことに不便を強いられる。5日は沖縄県浦添市で高熱が出ているのに消防員がコロナと思い込み救急車で搬送せず、発熱患者の40代の女性を死亡させた。検査の結果、新型コロナウイルス感染者ではなかった。女性の高齢の母親は途方に暮れている。

保健所を通じて厚労省の審査と指示を受けなければならないというのは、民間の検査機関も同じことだ。現在の感染症法は、今回の新型コロナウイルスのように感染力が極めて強く、毒性も高いウイルスによる感染症には対応し切れていない。本来は「積極的疫学調査」という名の「行政検査」では、新型コロナ感染二波の原因になっている無症状感染者は把握できず、それが放置されたままになっていた。そのツケが回り、日本独自の感染集積地=エピセンターが形成されて、今や先進国では起こっていない感染の第二派が訪れている。中国では人口800万人の北京市で一時、新型コロナ感染者のクラスターが発生したが、上理事長によると少なくとも200万人に対してPCR検査を行い、400人の感染者を突き止め、保護・隔離・治療に入ることで制圧した。その結果、今年第2・四半期で実質国内総生産(GDP)が前年同期比2%超えのプラス成長になり、事実上、経済大国の中では中国だけが前年同期比プラス成長になった。

日本では、政府の専門家会議(現在は廃止、政府コロナ感染症対策本部の分科会に格下げ)の間で「大規模なPCR検査を行うと医療体制が崩壊する」、「間違って陽性と判定する偽陽性になる確率が1%はある」などという、世界の潮流からかけ離れた俗論がまことしやかに喧伝された。市中感染が少なけれは、陽性率は下がるはずだし、上理事長によると今年に入ってからPCR検査の検査技術は革新が進んでいる。昔は検体の遺伝子の拡大に6時間もかかっていたが、この時間が飛躍的に短縮され、高々1時間程度で増幅が完了するようになったという。また、のどから検体を採取しなくても、唾液で同じ精度を持つ検査が可能になった。こういうPCR検査の技術革新には目もくれず、政府=安倍晋三政権が「ワクチンだ、ワクチンだ」と叫びまくり、厚労省がPCR検査をいまだに抑制=妨害しているのは、結局の所、厚労省と国立感染研究所が独占する「予算措置付きの検査利権」を奪われないための「悪の発露」としか言えない。

上理事長によると、旧陸海軍の感染対処病院を受け継ぎ、衛生警察や徴兵検査を行ったのがそれぞれ現在の国立感染研究所グループと保健所だ。戦後も感染症と医療法が調整されておらず、国民の目線に立った医療制度の法整備がなされていない。整備には国会を開く必要があるが、時間の余裕はないため、臨時国会を早急に開き、問題の所在を明らかにしたうえで、野党の要求を踏まえ、政令で対応できるところは政令で対応し、法改正が必要なところは十二分に審議するという手順が必要だ。

人口1400万人の東京都の小池百合子都知事は、10月には1日1万件の検査体制を確立すると言っている。しかし、ニューヨーク州(クオモ知事)の人口は2000万人だが、全州に750か所のPCRセンターを設置し、1日当たり6万7000人が国籍、貧富の差にかかわらず、誰でもいつでもPCR検査を受けることができる。小池都知事は7日移動平均で1日あたり感染者数が350人を超え、感染経路が不明な陽性判定者が60%程度に上昇、世代も若者から全世代に広まり、地域も小池知事が「夜の街」と差別した新宿歌舞伎町や豊島区池袋などの地域での陽性判定者は20%以下になり、職場や家庭で陽性判定者が急増している現状をどう認識しているのか。しかも、東京版疾病予防管理センター(CDC)は10月から本格稼働の準備だという。

日本記者クラブで「世田谷方式」について講演した保坂展人区長
日本記者クラブで「世田谷方式」について講演した保坂展人区長(日経新聞社サイトhttps://www.nikkei.com/article/DGXMZO62270420U0A800C2L83000/より)。

こうした政府=安倍政権やその傘下の小池都知事(後ろ盾は保守新党時代の先輩だった二階俊博自民党幹事長)の緊急時の無為無策には目が余る。これに対して、社民党副幹事長出身の保坂展人世田谷区長は、こうした事実上のPCR検査無視の対処に疑問を持ち、「世田谷方式」を早期に導入する意向だ。以前にも本欄で紹介したが、世田谷方式は、東大先端科学技術センターで遺伝子工学の専門家である児玉龍彦東大名誉教授(世田谷区在住)の助言を得て、構想したもの。具体的には、①大型機械の導入②検体の一部を数人分混ぜて検査する「プール方式」−を導入し、地元の医師会の強力を得て1日の検査人数を1日あたり現在の200〜300人からその10倍の2000〜3000人に大幅拡大しようというものだ。「だれでも、どこでも」検査を受けることができるようにする、という。東京23区が世田谷方式を取り入れるとすれば、東京都区内だけで1日あたり5万人程度が検査を受けられることになる。

「世田谷方式」については、8月3日に東京新聞が報じ、4日には日本記者クラブでも記者会見を開き、大手メディアが報道することになった。東京新聞掲載の図を下記に再掲させて頂く。

東京新聞Web(https://www.tokyo-np.co.jp/article/46562)より

Youtubeで報道しているデモクラシータイムスの動画は、下図だ。

動画によると課題は、①財源措置②陽性判定者(新型コロナ感染患者)の保護・隔離・治療施設−の2点。前者について、世田谷区ではふるさと納税により、年間50億円以上の財源が失われているが、これらの対処とともに、区民有志の寄付金も募っているとのことだ。しかし、これではやはり限りがあるだろう。本来は小池都知事が、先進国でもまだ例のない日本での新型コロナウイルス感染拡大第二波の感染震源地=エピセンターが東京都になった責任を取って、全国の都道府県の知事の先頭に立ち、政府=安倍政権の地方創生交付金をコロナ対策費として政府=安倍政権から引っ張り出してくるべきところだ。そうは言っても、二階幹事長の傘下にあるから、「自分ファースト」の小池都知事にはできないだろう。

それができないなら、せめて首長の使命の原点に立ち返り、東京都議選でれいわ新選組代表の山本太郎候補が訴えたように、都債を発行すれば良い。無為無策でいるうちに、感染拡大で経済も苦境に陥り、2020年度の税収は法人事業税・法人住民税・住民税(都税・区市町村)税とともに激減し、税収が非常に厳しくなるだろう。後者については、通常の医療機関の強力を得ることはもちろんだが、ホテルの買上げや船の財団法人日本船舶振興会(現日本財団)が設立した公益財団法人日本海事科学振興財団が臨海復都心に設置・運営する船の博物館の膨大な敷地(財団側にコロナ禍対策に貢献の意思があると聞く)、文字通りの船、オリンピック選手村−などを指摘している。

いずれにしても、検査数が飛躍的に拡大すれば、陽性判定者は隔離・保護・治療しなければならないため、病院を含むさまざまな施設を確保するのは上位自治体である東京都や政府=安倍政権の仕事だ。しかし、加藤勝信厚労相は自らの使命はどこかに飛んで、「世田谷方式の実施の際には感染者の隔離施設を確保する必要がある」と言って待ったをかける。やはり、検査利権と国立感染研究所や保健所への天下りなど、検査利権・厚労省利権を確保することがまず第一になっている。なお、各種メディアの報道によると、東京都は旧都立府中教育センター(府中市)と東海大学医学部付属東京病院(渋谷区)を「初のコロナ専門病院」として確保することで双方と交渉している。


なお、現場や医療関係者、まともな感染症対策専門家の間では、PCR検査などの検査の思い切った拡充を求める声が彷彿している。各種メディアが伝えたが、朝日デジタル2020年8月6日5時00分投稿記事、6日付朝日新聞記事によると、「日本医師会は5日、中川俊男会長らが会見し、新型コロナウイルスの感染を把握するためPCR検査や抗原検査の充実を求める緊急提言を発表した。中川会長は「医師が必要と判断したら確実に検査が受けられるようにすべきだ」と話した。厚生労働省や政府関係者に働きかけていくという」。医師会の有識者会議(永井良三自治医大学長)も無症状感染者なども含めコロナ検診体制の整備を求めている。PCR検査を含めた各種の検査を徹底的に実施し、陽性判定者は保護・隔離・治療が不可欠だ。

新型コロナ検査体制の確率
新型コロナ検査体制の確率(児玉龍彦東大名誉教授による)

※東京新聞8月6日付1面、東京Web2020年8月6日 06時00分報道記事によると、「4府県のコロナ感染者の割合、GoTo除外時の東京を超」している。「Go To トラベル」の対象から大阪府や愛知県、福岡県、沖縄県などを外さないのは、ダブルスタンダードという以上におかしい。また、「Go To トラベル」が全国に新型コロナウイルス感染を拡大した疑いが濃厚だ。「Go To トラベル」事業について、国会で正さなければならない。

Go To トラベル問題
東京Web(https://www.tokyo-np.co.jp/article/47294)より。

 

政府=安倍政権が、国民の生命と暮らしを守るうえで極めて重要なこの時期に、野党側の憲法第53条に基づく臨時国会の召集に応じないのは、言語道断としか言う他はない。

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