一方、ロシア議会下院で国際問題を担当する委員会のスルツキー委員長は17日、国営のタス通信に対し「極めて深刻なエスカレーションを招くことは避けられない」などと述べて反発しました。また、ロシア大統領府のペスコフ報道官は18日、記者団の取材に対し「本当にそのような決定がなされ、ウクライナ側に伝えられたのならば、新たな緊張の段階に入ることになる」と述べ、反発しました。その上で、ペスコフ氏は「この紛争へのアメリカの関与という点からしても、新しい状況となる。われわれの立場は明確だ」と述べました。ロシアのプーチン大統領は、ことし9月、欧米が射程の長い兵器の使用を認めれば「NATO=北大西洋条約機構の国々がロシアと戦うことを意味し、紛争の本質を変える」と発言しており、報道官の発言は、欧米側を強くけん制するロシアの立場を改めて強調した形です(注:単なる牽制にはとどまらないだろう)。
日本時間で11月19日の午前5時ころ、NHKが「バイデン大統領、ウクライナに供与の高精度長距離ミサイル(ATACMS=エイタクムス)によるロシア攻撃容認」との報道を流した。ロシアのプーチン大統領は、高精度長距離ミサイルによるロシア攻撃について、「北大西洋条約機構(NATO)加盟国によるウクライナ戦争への『直接的な参加』を意味する」と警告していたから、報道が事実とすれば、ウクライナ戦争がNATOとロシアの戦争に「格上げ」されることになる。そうなれば、核ミサイルの使用を伴う第三次世界大戦への道を切り開くことになってしまうのは間違いない。ウクライナ戦争を早期に終戦に持ち込もうとしているトランプ次期政権の外交政策を妨害するものであり、バイデン大統領の「認知症」が事実であることの確証となるものだ。
「バイデン大統領、ウクライナの対露高精度長距離ミサイル容認攻撃」報道、トランプ次期政権を妨害
NHKの報道はその後更新されているが、次のようなものだ(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241118/k10014641571000.html)。
アメリカの主要メディアは、バイデン大統領がウクライナに対し、ロシア領内への攻撃で長距離ミサイルを使うことを許可したと伝えました。ロシアが北朝鮮の兵力を戦闘に投入する決断をしたことへの対応だとしています。アメリカの有力紙、ニューヨーク・タイムズなど複数のメディアは17日、政府関係者の話としてバイデン大統領がウクライナに対し、すでに供与した長距離ミサイルをロシア領内への攻撃のために使用することを許可したと伝えました。使用を許可したのは精密攻撃が可能とされる射程の長いミサイル、ATACMS(エイタクムス)だとしています。(中略)
制限の撤廃を求めてきたとみられるのがアメリカから供与された最大射程がおよそ300キロとされるミサイル、ATACMSや、イギリスとフランスから供与された射程が250キロ以上の巡航ミサイル「ストームシャドー」と「SCALP(スカルプ)」です。アメリカのシンクタンク「戦争研究所」(注:独自の「民主主義的価値観を他の文明圏に属する諸国に押し付け、従わなければ戦争を強行する好戦的なネオコン(注:元々の意味はネオ・今サーバティブ=新保守主義、新自由主義=だが今は、リベラル独裁主義に転化している)のシンクタンク)はことし8月下旬の時点で、ロシア領内の16の空軍基地を含む少なくとも245の軍事施設などの標的がATACMSの射程内にあるという分析を示しています。
また、英国のBBCは、同社が提携している米国産大ネットワークのひとつのCBSニュースからの情報として、次のように伝えている(https://www.bbc.com/japanese/articles/c74878rk3dwo)。
アメリカのジョー・バイデン大統領は17日、ウクライナがアメリカから供給された長距離ミサイルを使用してロシアを攻撃することを許可した。米メディアなどが報じた。この前日にはウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が国内メディアに、ドナルド・トランプ次期大統領の政権になれば戦争は「より素早く終わる」だろうと話していた。
長距離ミサイルのロシア領内使用についてアメリカ当局者は、アメリカの政策にとって大転換となるこの動きを、BBCが提携するCBSニュースに対して認めた。ミサイルの使用許可は、ウクライナが夏に侵攻したロシア西部クルスク州内でウクライナ軍を防衛するためにのみ、限定されるものという。
これに対して、ロシア側は強く反発している(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241118/k10014641571000.html)。NHKの上記の報道への追加記事です。
ロイター通信は、情報筋の話として「ウクライナは近日中に最初の攻撃を行う計画だ」と伝えました。アメリカの(注:好戦的なネオコン系)シンクタンク「戦争研究所」は「クルスク州の軍事目標に対する射程の長い兵器の使用制限を部分的に解除しても、ロシア軍の聖域をなくすことにはならない」と指摘し、効果は限定的だとの見方を示しました。アメリカのメディア ブルームバーグは17日、北朝鮮が今後、兵士を順次派遣しその規模はあわせて10万人に達する可能性があると一部の国が分析しているという関係者の話を伝えていて、ウクライナがATACMSを使って両国の部隊を食い止められるかが焦点です(注:NHKはATACMSの使用に極めて楽観的)。
ロシア側は反発
なお、英国のBBCによると、プーチン政権が現地時間の18日に発表した公式な見解は「(ウクライナが米製長距離ミサイルを使ってロシア領内を攻撃すれば)適切かつ具体的な対応を取る」というもので、プーチン大統領の報道官は、米国のバイデン政権が「火に油を注いでいる」と批判した(https://www.bbc.com/japanese/articles/czxvre96pkxo)。具体的な対抗措置を取るということで、NATO加盟国がウクライナ戦争に参戦すれば、核搭載の中長距離ミサイルによるウクライナへの重要都市への報復攻撃も選択肢に入るから、ウクライナ及びNATO諸国は覚悟が必要だということだろう。
注目されるトランプ次期大統領陣営の反応だ(https://www.bbc.com/japanese/articles/czj7wn0d2ndo)。
今回の決定に直接かかわらないものの、今後大きな影響力をもつのが、トランプ次期大統領だ。バイデン氏は任期が残り2カ月しかない、「レイムダック」の大統領だからだ。トランプ氏は、今回の決定を継続するのか発言していない。しかし、側近の間には早くも批判の声が出ている。(次期米政権の高官指名に一定の影響力を持つ)次期大統領の長男、ドナルド・トランプ・ジュニア氏はソーシャルメディアで、「軍産複合体はどうやら、うちの父が平和を実現し人命を救えるようになる前に、第3次世界大戦を確実に始めておきたいようだ」と書いた。(中略)
J・D・ヴァンス次期副大統領をはじめ、トランプ陣営幹部の多くは、アメリカはこれ以上ウクライナに軍事援助を提供するべきではないという意見だ。しかしトランプ次期政権関係者には、異論もある。マイケル・ウォルツ次期大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、ロシアに交渉の席に着かせるため、アメリカがウクライナへの武器提供を加速させるという手もあると主張している。次期大統領がどちらの方向へ進むのかは不透明だ(ウクライナ戦争でロシアを批判してきた英国の公共放送であるBBCらしい書き方である)。しかし、ウクライナでは多くの人が、トランプ氏はATCMSを含め武器提供を打ち切るだろうと懸念している。
「心配している。(トランプ氏には決定を)覆さないでもらいたい」と、ウクライナ議会のオレクシイ・ゴンチャレンコ議員はBBCに話した。
肝心のプーチン大統領とトランプ次期大統領の本件に関するコメントはまだ出ていないが、両氏が密接に連絡を取り合っている可能性も考えられる。場合によっては、共同で声明を出すということも考えられるが、米国の法律上(注:米国には、民間人が政府の許可なく他国と交渉することを禁止する「ローガン法」という法律があるらしい=https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241117/k10014640951000.html=)それが難しいなら、別々に声明を発表することもあるかも知れない。
ウクライナの「ゼレンスキー大統領は(前日の)15日、米大統領にトランプ前大統領が就任することで、ロシアとの戦争は終結が早まるとの見通し」を示していた。ロシアのプーチン大統領が、高精度長距離ミサイルによるロシア攻撃について、「北大西洋条約機構(NATO)加盟国によるウクライナ戦争への『直接的な参加』を意味する」と警告していたことからすると、高精度長距離ミサイルによるロシア攻撃は、終戦への道筋を破壊する公算が大きい。英仏が供与した「ストームシャドー」と「SCALP(スカルプ)」も対ロシア攻撃に使用するとなると、一層困難な事態になる。
ゼレンスキー大統領は、「攻撃はことばで行われるものではない。そういったことは発表されない。ミサイルがみずから語る」として肯定も否定もしていないが、ウクライナが報道を自らに有利なものにするために思わせぶりな発言をしているのは確かだ。ロシア西部のクルスク州に侵攻したウクライナ軍を守るためだけに使用するとの報道だが、プーチン大統領は常日頃から、どこに対して攻撃しようが、高精度長距離ミサイルの自国への使用は、ウクライナ戦争をNATO加盟諸国とロシアとの直接の戦争に格上げすることになると強く警告している。だから、NATO加盟諸国がロシアと直接交戦することになると、世界一の核ミサイル大国ロシアのプーチン政権としても、最後は核ミサイルを伴う第三次世界大戦の勃発につながるとの認識を持たざるを得なくなるだろう。
米国とかつてのソ連は中距離核戦力全廃条約(Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty=INF条約=)を結んだが、中国はINF条約に関与しておらず、中長距離ミサイル技術の開発に相当な力を注いできたから、中長距離ミサイル技術に関しては米国の、技術力を上回っている公算が大きい。台湾の頼清徳(ライ・チントー)総統率いる民進党が、台湾国民の大多数が願っている現状維持路線を無視して、台湾の独立を画策すれば、中国は全力を挙げて阻止する。これが「台湾有事」というものだ。もし、米国が1979年に制定された「台湾関係法」に従って台湾を軍事的に守ろうとすれば、中国は日本に所在する在日米軍基地の滑走路を即座に破壊し、在日米軍基地を使用不可能にするだろう(外務省出身の外交評論家・孫崎享氏による)。
NATO諸国がロシアと交戦状態に突入すると、そういう高度な中長距離ミサイル技術を有する中国が、ほとんど経済同盟関係にあるロシアと軍事同盟を結ぶことも考えておく必要があるだろう。ロシアは世界最大の核ミサイル大国だが、そんなロシアが中国と軍事同盟を結べば、高精度なピン・ポイント攻撃も出来る核ミサイルの使用を伴う世界第三次大戦は、中露を盟主とする非米側陣営の勝利に終わる公算が大きい。何故なら、非米側陣営諸国は人口大国であるから、人口のかなりの部分を失ったとしても、米側陣営諸国に対する反撃能力は十分にある。
報道では、ロシアの西部にあるクルスク州を守っているウクライナ軍を守るためだけに使われるとされているが、ウクライナのゼレンスキー政権がクルスク州を侵攻した理由は、ゼレンスキー大統領によると、「現在、防衛作戦全体におけるウクライナ軍の主要な任務は、可能な限りロシアの戦力を破壊し、最大限の反撃行動を取ることだ」(https://www.cnn.co.jp/world/35222906.html)という。
よく使われる別の言い方は、ロシア軍の軍事力を分散化し、ウクライナ東部への攻撃能力を大幅に削ぐという言い方だ。しかし、「ウクライナ軍は約2週間前に驚きの越境攻撃を開始して以降、クルスク州でじりじりと前進を続けている。だが、ウクライナは同国東部でロシア軍の圧力にさらされており、ロシア軍はウクライナにとっての軍事的要衝へ向かっている(特に、ドネツク州最大の要衝であるポクロウシクの陥落が間近いと見られている)」(同)。また、クルスク州は露朝軍によって奪還されたとの見方も出ている。
なお、毎日新聞社のサイトは17日付けで、「ウクライナ東部戦線でロシアが攻勢強化、制圧面積は過去最大級」と題する報道記事を公開、同記事で次のように述べている(https://mainichi.jp/articles/20241117/k00/00m/030/090000c)。
ウクライナ東部戦線でロシア軍が攻勢を強めている。(注:ネオコン系で軍産複合体と組んでいる)米シンクタンク「戦争研究所」によると、露軍は9~10月、約1500平方キロのウクライナ領やウクライナ軍が越境攻撃するロシア領クルスク州の領土を制圧した。ロシアが2カ月で制圧した面積としては侵攻した2022年2月以降で最大だという。
露軍は11月上旬以降、ドネツク州西部の要衝ポクロウシクと、10月初めに占領したウグレダル北部にある物流拠点クラホベの攻略を目指し、激戦を展開している。ウクライナのゼレンスキー大統領は8日の演説で「クラホベ方面とポクロウシク方面は今、最も困難な状況だ」と述べた。
この報道記事が指摘するように、ウクライナ軍が侵攻したロシア西部のクルスク州は、ロシア軍と露朝二国の二国間安全保障のために軍事同盟を結んだ北朝鮮のロシア支援軍によってほとんど奪還された可能性もある。そして、クルスク州侵攻の目的であるロシア軍の軍事力の分散化は実現せず、むしろ、ドネツク州最大の要衝であるポクロウシクは同市の南部(ウグレダル、クラホべ、セリドベ)からロシア軍に攻略され、陥落に向けて追い込まれているようだ。
なお、プーチン政権が当初、クルスク州の奪還にそれほど力を入れなかったのは、国際情勢解説者の田中宇氏のように、非米側陣営の国債決済システムの構築のための時間稼ぎに使う目的があったからだと分析する専門家も存在する。ウクライナ戦争の結果は、トランプ次期大統領も選挙中に何度も指摘しているように、ウクライナ側の完全な敗北である。このため、ウクライナ戦争の早期(出来れば、次期大統領就任前)の終戦を公約に掲げるトランプ前大統領が大統領選で大勝したことや、議会選挙でも共和党が上下両院を制したことから、ウクライナへの軍事支援・経済支援は行うべきではないとの米国民の声が急速に高まってきている。
現在、こうした戦況になっていることから、ウクライナ戦争の終戦案は、①ロシアが併合したウクライナの領土はロシアの領土として認める(軍事力による領土の変更は戦後、NATOが強力に支援したコソボ紛争=ユーゴスラビア崩壊後のセルビアから独立。コソボは国連に加盟できないでいる=など、「民主主義陣営諸国」が恥も外聞もなく行ってきた)②ウクライナは20年間はNATOに加盟できない(その間にNATOは消滅する)③ウクライナと新しいロシアとの国境線1800マイルを国連軍が警戒する(南北朝鮮境界の38度線方式)ーなどが骨格になっている。
目標が実現できなかったクルスク州侵攻のウクライナ軍を守るために、ATACMSのロシア攻撃を容認するというバイデン大統領の「決定」が事実でも、クルスク州が事実上、露朝軍に奪還されているなら、ATACMSで露朝軍を攻撃したとしても、終戦条件でウクライナ側をどれだけ有利にすることができるのか。プーチン政権や金正恩政権の怒りを買うだけだ。トランプ次期大統領の大勝で終戦が間近なことを考慮して、ロシアのプーチン政権は、軍事技術と人的資源を取引して、二国間の共同防衛のために軍事同盟を結び、北朝鮮の軍人をクルスク州に導入、クルスク州の早期奪還の動きを見せている。プーチン政権の戦略の方がバイデン・ゼレンスキー政権のそれよりもはるかに勝っている。ウクライナが戦局を逆転すると言うなら、高精度長距離ミサイルを大量に使ってロシアの主要都市や主要軍事基地を攻撃する以外にない。
それは、核ミサイルを利用した第三次世界大戦の勃発に向けて、道を大きく切り開くことになる。しかしながら、そうした大規模攻撃は、常識的には行ってはならないことだし、「戦争放棄屋」のトランプ次期大統領が来年1月20日、大統領に就任すれば出来なくなる。結局のところは、最初のバイデン政権がリークしたと思われる「報道内容」は、トランプ次期政権の最重要政策のひとつである早期のウクライナ終戦を妨害するための謀略としか言いようがない。これは、2016年選挙で敗北した軍産複合体に操られたヒラリー・クリントン氏らが当時のトランプ大統領の政治活動を妨害するためにでっちあげた「ロシア・ゲート事件」(https://tanakanews.com/191227scandals.htm)に似ている。
同時に、国際情勢の現実を正確に認識することができなくなったという意味で、バイデン大統領の持病と噂されている「認知症」が確かな事実であることを裏付けるものになるだろう。ゼレンスキー大統領は、バイデン政権の大規模な軍事支援を前提として、自らがミンスク合意Ⅱの実施を大統領選挙公約の違反で破ることにより、ロシアの侵攻を誘引するという無法ぶりを行ったことがかえってたたり、敗色が極めて濃厚になった現実を直視する必要がある。そうして、早期にクルスク州からウクライナ軍を引き揚げて、高性能長距離ミサイル使用の前提条件をなくすべきである。
ATACMSの性能(ウイキペディアによる)
ウイキペディアからATACMSの性能について、引用してみる。
MGM-140 ATACMS のこと。正式名は、Army Tactical Missile System、日本語では「エイタクムス」)と呼ばれる。アメリカ陸軍の地対地ミサイルの1つである。米ロッキード・マーティン社により製造されている地対地ミサイル (Surface-to-surface missile、SSM)。アメリカ陸軍を中心に使用されている。M270、M270 IPDS、M270A1といったMLRSとHIMARSから発射される。地対地ミサイルではあるがシーカーを変更して対艦能力を付加することも検討されている。ATACMS1発入りのコンテナは、他のMLRS用ロケット弾の6発入りコンテナ同様に蓋6枚や筒状の外装を有し、梱包物がATACMSか否か外観を判別不能に偽装し、部隊の射程を秘匿している。
ATACMSの最初の実戦使用は1991年の湾岸戦争における砂漠の嵐作戦で、合わせて332発のATACMSミサイルがM270 MLRSから発射された。イラク戦争中のイラクの自由作戦で450発以上のATACMSミサイルが発射された。2022年6月5日に北朝鮮が8発の短距離弾道ミサイルを日本海に向けて発射し、翌日にアメリカと韓国は連携してアメリカ1発、韓国7発のATACMSを発射し「精密攻撃の能力と準備」を示した。
ATACMSはロッキードが開発・製造したものだが、35年前の湾岸戦争から使用されており、最新鋭の高精度長距離ミサイルとは言えず、中古品に近い。
トランプ時期政権はイランとの関係改善を図る
ディープステートがさきの大統領選で、米国とイランと戦わせるためにトランプ前大統領を当選させたという話がある(https://www.youtube.com/watch?v=dlKGZKTkTfQ)。しかし、実際のところ、田中氏の分析によると、トランプ氏勝利のために貢献したのはシオニストであり、イスラエルは米国のバブル崩壊と国力の衰退を予想して、非米側陣営に属するようになり、ロシアにイランとの仲介を頼んでいてようである。同氏が本日11月18日に投稿・公開した「中東全体解決の進展(実質はその2)」(https://tanakanews.com/241117mideast.htm、無料記事)のリード文は、「イスラエルとヒズボラの停戦を軸にした中東全体解決の試みが、さらに進展している。ロシアとイランが、停戦や和解の交渉の中に招き入れられている。イスラエルは、米国でなくロシアが停戦仲裁役の中心になるのが良いと考えている。中東の敵対構造が崩れ、これまでなかった種類の交渉が始まっている」というものである。
そう言えば、ロシアのプーチン大統領が、イスラエルとイランの報復の応酬懸念が高まっていたころ、両国の和解・関係改善に力を貸したいと表明したこともあった。ロシアにはディアスポラのユダヤ人が少なくなく、イスラエルとの関係も悪くなかったし、「パレスチナ抹消を含むイスラエルの計画を容認している」(田中氏)。そして、イランは中露が盟主のBRICSプラスの一員である。田中氏は次のように分析している。ロシアはイスラエルとイランを仲介し、中東にイスラエル民族とイスラム民族の和解をもたらす力を有している。
米国は、ウクライナ戦争などでロシアを敵視している。米国とロシアが仲良く一緒に仲裁役をやるのは不可能だ。どちらかを選ぶ場合、イスラエルは米国ととても親密なので、常識的には仲裁役を米国に頼むしかない。だが米国は、イラン系と敵対しており仲裁役に向かないし、中東覇権も衰退する一方だ。米国が失った中東覇権のかなりの部分(とくにイラン系との関係)がロシアに移っている。イスラエルは親米だが、日独など「米傀儡」の諸国と正反対に、イスラエルが米国を傀儡化して牛耳っている。日独がロシアと親しくしたら米国から非難懲罰されるが、イスラエルは好き勝手にやれる。イスラエルは、ロシアと米国が別々に中東全体解決を仲裁するようにしたい。イスラエルは、ロシアが米国を押しのけて中東の主な仲裁役になるようにいざなっている。イスラエルは以前から、目立たないようにしつつロシアと親密だ。(米国に頼れずロシアと組むイスラエル)(ロシアの中東覇権を好むイスラエル)
ドナルド・トランプは一期目に、イランを猛烈に敵視していた。トランプがイスラエルのためにイランと交渉することは考えにくかった。しかし今、トランプの側近になったイーロン・マスクが、イランの事実上の在米代表であるイラバニ国連大使と非公式に会った、という報道が出てきている。トランプはネタニヤフに頼まれ、マスクを派遣してイラバニに会わせたのでないか。トランプは、マスクの独自な考察や発想を高く評価し、それを自政権の戦略に活かしたいと考え、マスクを各種の会合に同席させたり派遣し、見聞させて発想を抽出している。(Elon Musk Met With Iran’s U.N. Ambassador, Iranian Officials Say)(中略)
イランは、シリアやレバノンでの影響力を完全に削がれるかといえば、そうでもない。政治力もあるシーア派のヒズボラは、今後もイランに忠誠心を持ち続ける。レバノンの暫定首相が最近、イランに対し、ヒズボラとイスラエルの停戦を仲裁してほしいと要請した。今後イランとイスラエルが交渉するかもしれない。中東の敵対構造が崩れ、これまでなかった種類の交渉が始まっている。もともと中東を敵対だらけにしたのは大英帝国で、覇権維持のためスンニ対シーアなど諸国間の対立を扇動・固定化してきた。英米覇権がなくなる今後、中東の対立構造が解消されていくのは自然な流れだ。(Lebanese leader asks Iran to help secure a ceasefire between Hezbollah and Israel)
米国はバイデン政権時代(認知症やハリス無能の問題もあり)、露イラン北など敵性諸国との対話を拒否し、傀儡の同盟諸国も敵方との話し合いを禁止されてきた。その結果、敵方の非米諸国どうしがBRICSなどで結束し、トルコ印度サウジなど、親米だが対米自立できる諸国も国益重視で非米側と協調を強め、米覇権衰退と多極化に拍車がかかった。
今後、トランプが大統領になり、非米側の首脳たちと会談する外交に大転換する可能性がある。トランプは1期目に、金正恩と会い続けたり、習近平をマーラゴに呼ぶなど劇的な首脳外交を好んだ。トランプの個性から考えて、2期目も似たようなことをやりたいはずだ。だが、トランプは覇権放棄屋でもある。首脳外交を展開して米覇権が蘇生するのは望むところでない。(How Trump can navigate the new multi-polar world)
ロシアには歴史的にディアスポラのユダヤ人が少なくなかった。あのロシア革命を指導したレーニンはユダヤ系である。また、イスラエルのモサドはスパイ行為だけでなく、国際情勢の分析・洞察も鋭い。これから、米国の国力が衰退し、米側陣営の政治・経済的後退と非米側陣営の興隆を予想している。イスラエルは米側陣営と非米側陣営とを国益に従って、上手に渡り歩くのではないか。ただし、本サイトでいつも述べているように、宗教面からのアプローチも重要である。
イエス・キリストはアブラハムの子であるヤコブの子、ユダの子孫である。ただし、通常は想像を絶する「天使長がブルエルによってマリアから処女懐胎」によって生まれた。キリスト教の秘密はここにある。
トランプ次期政権の真の政策課題は金融バブルの解消
トランプ次期大統領は米議会上院で承認が必要な大統領補佐官や各省長官など政府高官1200名もの人選を急ぎ、選挙中に国民に約束したMAGEの実現に全力を挙げている。しかしながら、トランプ次期政権の真の課題は、①基軸通貨ドルの信認の低下を防いで回復するか、新しい国際決済システムを創設する②金融・資本市場のバブルを解消するーことである。基軸通貨ドルの信認が低下していることは、大統領選までドルの最大のライバルである金地金相場が1トロイオンス=2000ドルの壁を突破して、次第に急上昇していったことなどで、トランプ氏も気づいている。また、トランプ次期大統領も気付いているように、米国民は物価高の中、失業に苦しんでいる(非農業部門の雇用増加は一人で複数の仕事についても、複数の雇用増加として換算されてしまう)。
要するに、米国経済はスタグフレーションに陥っていると見たほうが良い。トランプ次期政権の顔ぶれが矢継ぎ早に発表されているが、対中強硬派が多い。しかし、中国は鄧小平の改革開放路線が成功して以来、米国経済のサプライチェーンに組み込まれてきた。中国に対しては一党独裁であり、最近の経済不調もあって「崩壊論」が全盛期の時期になっているが、それでも、米国経済と中国経済がデ・カップリングするのは、新しいサプライチェーンを築かなければならず、難しい。特に、中国からの輸入品に対して60ー100%の関税をかけると、スタグフレーションが解消しない公算が大きくなる。
こうした中で、米国経済は世界最大の軍事国家でありながら、巨額の財政赤字・大幅な経常赤字・膨大な対外潤債務残高に苦しんでいる。これは中長期的には両立しない。今までは、米国に対する経常黒字国が、獲得したドルを米国の10年物国債などに投資することによってドルが米国に還流し、同国は経済破綻を免れてきた。これは、米国経済がスタグフレーションに陥っているにも拘らず、量的金融緩和政策を行ったり、財政支出の中から10年物国債を購入することなどによって、10年物国債を中心に債券価格を人為的に上昇させてきたからだ。つまり、バブルを引き起こしてきたことがある。債券価格・株価が高いから、世界の諸国民は喜んで米国の債券や株式を購入し、ドル高になった(見かけのドルに対する信認は続いた)。
しかし、その手法はもう通用しなくなっている。経済が事実上、スタグフレーションに陥っており、中間層以下の国民は生活苦に喘いでいるのに、債券高・株高というのはどう考えても、おかしい。このため、中国など非米側陣営諸国は米国の債券の購入を止めたり、逆に、売却したりしている。このため、10年物国債を中心に、債券価格は下落し、長期金利は次第に上昇している。この長期金利の趨勢的上昇は、企業にとって悪夢になる。そして、米国経済全体としては、経済成長も経済発展も出来なくなる(https://jp.investing.com/rates-bonds/u.s.-10-year-bond-yield-streaming-chart)。
トランプ前大統領が大勝した後、ドルの天敵である金地金の相場は下がったが、ロンドン貴金属市場協会(LBMA=London Bullion Market Association=)から中国の貴金属取引会社が脱退したため、金地金相場はいわば一物二価の状態になっている。こうなると、裁定取引によって金地金相場の下落はいつまでも続かない。田中氏も11月16日に投稿・公開した「薄氷のトランプ経済」(https://tanakanews.com/241116economy.php、有料記事=https://tanakanews.com/intro.htm=)で、次のように述べている。
金相場に関しては、中国との関係もある。世界を動かす力を増している習近平は、金相場の下落を望まない。米英は、相場の支配権を奪われぬよう、中国に譲歩して金相場の上昇を許してきた。トランプはそれを壊している。トランプ当選へのご祝儀で、中共は大統領就任まで下落傾向を容認するかもしれないが、その後は相場の反発力が強まる(注:https://gold.mmc.co.jp/toshima_t/2024/11/3987.html)。金相場の米中談合が崩れて対決になると、中国の勝ちになり、トランプの任期中に金相場と長期金利が上昇してドルを破壊する可能性が出てくる。これはトランプの望むところでない。この考えに立つと、トランプは、習近平が望む金相場の上昇を容認していく。(A top 3% investor warns the ‘Trump bump’ is the icing on the cake of a euphoric stock market bubble that’s worse than the dot-com peak)
次図は、三菱マテリアルによる金地金相場の推移である(https://gold.mmc.co.jp/market/gold-price/)。
米国がバブル経済を解消するためには、トランプ次期大統領が目指しているように、ディープステートの単独覇権派である軍産複合体とネオコンを解体して、さらなる経済成長と経済発展が望めるように、米国を産業国家として再生させなければならない。そのためにイーロン・マスク氏とビベック・ラマスワミ氏が責任者となる新設の「政府効率化省」を実のある省に育てなければならない。田中氏の上記の分析記事からすると、①軍産複合体とネオコンが確保した軍事予算を大幅に削減する②単独覇権派が財政面で調達してきた巨額の諜報活動費を大胆に削減するーことなどが肝要である。ただし、歳出の一部の巨額資金を長期債の購入に充てることは徐々に止めていかなければならないと思う。
なお、米国社会の分断も解消しなければならないが、白人(WASP)、黒人、ヒスパニックもいずれもカトリック、プロテスタントのキリスト教を信奉している。この流れを拡大するとともに、いずれもアタナシウス派キリスト教であるから、LGBTQの浸透(キリスト教解体の思想=文化共産主義=エンゲルスの「家族・私有財産・国家」=)を食い止めることができない。LGBTQの流れを食い止めるためには、異端とされてきたアリウス派キリスト教を高次元的に昇華し、アタナシウス派キリスト教を吸収する現代版宗教改革が必要だ。