オリ/パラ会長辞任ドタバタ劇と開催の可否は別、「積極的疫学調査」失敗認めコロナ禍対策抜本転換を

森喜朗会長(当時)の「女性蔑視」発言による東京オリンピック/パラリンピック大会組織委員会のドタバタ劇は、2月12日の評議員会と理事会との合同会議でも新会長が定まらず、新たなステージに入った。ただし、大会組織委に対する国民の疑惑は一段と明らかになってしまった。なお、新会長が決まったとしても、新型コロナウイルスへの新規感染者数が減少しているのは主として「季節要因」のためだ。第三波で新規感染者数が著増したため「積極的疫学調査」は「基礎疾患を持つ住民と高齢者」に限定せざるを得ず、PCR検査人数も減ってしまった。これは「積極的疫学調査」の失敗・破綻というほかはない。国庫負担による十分な補償を前提に、検査体制の抜本的拡充と簡易医療施設の設営も含めた医療体制の再建というコロナ禍対策の抜本転換を行わない限り、夏場にかけて「季節要因」から予想される新規感染者の増加には対応できなくなる。

2月14日コロナ感染状況
本日2月13日土曜日の新型コロナ感染状況は、東京都では新規感染確認者は1週間前の2月6日土曜日の639人から270人減少して369人だった、500人以下は7日連続。重症者は前日比2人増加して104人になった(https://www.fnn.jp/articles/-/61484)。ただし、13人が亡くなられた。
東京都のモニタリング(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)では、7日移動平均での感染者数は388.3人、PCR検査人数は6309.4人だから、瞬間陽性率は6.15%。東京都独自の計算方式では5.0%。感染経路不明率は49.27%。PCR検査人数が減少していることに変わりはない。
全国では午後23時59分の時点で、新規感染者数は1362人、死亡者数は65人で重症者数は前日比8人減少の693人。Go To トラベルの「積極的感染拡大推進策」で新規感染者が激増、首都圏、関西圏で医療体制が崩壊したため死亡者が著増。このところ、死亡者は減少しているが、高水準だ。内船扱いだった豪華客船ダイアモンドプリンセス号を含むと累計で6936人で7000人台突破が間近に迫っている。
【参考】東洋経済ONLINEhttps://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/)では、212日時点の実効再生産数は全国が前日比0.01人減の0.74人、東京都は前日比0.01人減の0.77人となっている。

東京都のコロナ感染者数の推移
東京都のコロナ感染者数の推移

昨日2月12日のオリ/パラ組織委員会の評議員会と理事会の合同会議では結局、新会長を選任できなかった。合同部会の後、武藤敏郎事務総長(大蔵省・財務省の事務次官を務めた経歴を持つ)が記者会見を行い、新会長の選任については理事会に御手洗冨士夫名誉会長(キヤノン社長を経て第2代日本経済団体連合会会長を務め、現在は名誉会長)を座長にアスリートの起用を重視した新会長候補者選考検討委員会を設置して、新会長候補者を選定(一人に確定することが望ましいが、候補者を複数選定することもあり得る)、理事会で決定する②辞任した森前会長のポストを用意することは現時点では考えていないーなど、今になって「透明性」を確保するという当然のことを遅れ馳せに明らかにしただけだった。

合同部会後に記者会見する武藤敏郎事務局長
合同部会後に記者会見する武藤敏郎事務局長

実は、菅義偉首相は当初、女性蔑視の森発言については「組織委で対応されること」と逃げ回っていたが、複数のメディアによると、森会長(当時)や菅首相、安倍晋三前首相、小池百合子都知事、武藤敏郎事務総長らと川淵三郎元会長を新会長にすることで一致していた。ところが、内定していた川淵三郎Jリーグ元会長が報道陣に対して「森氏を相談役に」と口を滑らせたことで、密室での談合就任は崩れた。このため、菅首相は組織委の最高顧問としての立場を利用し、立場を一転させて「透明性のある新会長選考が必要だ」と語るようになり、振り出しに戻ることになった。しかし、密室で後継者を決めるというのは、昨夏の安倍晋三首相辞任・新総裁選出事案の件に象徴されるように、自民党の得意技ではないか。

ただ、武藤氏は森前会長の「実績」を強調しており、森前会長の活動再開の可能性に含みは残した。組織委の定款では、組織委会長は実質的に理事会で選任されることになっており、無糖事務総長が、新たに設置される新会長候補者選考委員会の会員にはアスリートを重点的に起用すると発言したことから、新会長には菅義偉内閣の橋本聖子五輪担当相が起用され、同担当相の後任(閣僚と組織委会長との兼任はできない)には、第2次安倍晋三政権第3次改造内閣で、東京オリンピック・パラリンピック大会担当国務大臣を務めた経験がある丸川珠代参院議員(東京選挙区、本名は大塚珠代。菅義偉首相・自民党総裁の下では自民党広報本部長)を起用するとの見方もある。

ただし、武藤事務総長が今さら透明性を確保すると言っても、国民に対する信頼確保は困難だろう。森前会長は首相経験者だから、政界、官界、財界に太いつながりがある。国際的にも人脈を築いている。オリンピック憲章を読んでいない可能性がある(無糖事務総長は記者会見でその可能性は否定しなかった)が、「カネ」を引っ張ってくる能力はあるからだ。自民党の世耕弘成参院幹事長は12日の記者会見で、森前会長の手を借りるしかないと発言している(https://www.tokyo-np.co.jp/article/85580)。

自民党の世耕弘成参院幹事長は12日の記者会見で、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の辞任に関して「新会長が国際的な人脈をいきなりつくり上げるのは難しく、引き続き森氏に何らかの形で力を借りるしかない」と述べた。

森前会長が何らかの形で暗躍することはほぼ確実だ。しかし、森前会長は「女性蔑視」の考えを改めていない。まず、2月3日の問題発言を東京新聞Webから引用させていただく(https://www.tokyo-np.co.jp/article/83919)。

【森喜朗会長の女性理事に関する主な発言は次の通り。】
女性理事を選ぶっていうのは文科省がうるさく言うんです。だけど、女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる。
ラグビー協会、今までの倍の時間がかかる。女性は今、5人か。女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手を挙げて言われると、自分も言わないといけないと思うんでしょうね。それで、みんな発言される。
女性の数を増やしていく場合は、この発言の時間もある程度は規制をしておかないとなかなか終わらないので困る、と誰かが言っていた。
私どもの組織委員会にも女性は7人くらいおられる。みんなわきまえておられて、みんな競技団体のご出身で、国際的に大きな場所を踏んでおられる方々ばかりですから、お話も的を射たご発信をされて非常にわれわれも役立っている。

組織委員会の女性7人を褒めたのは、森氏=武藤氏コンビの指示ないし根回しに従ってくれるためだ。オリンピック憲章の根本原則第6条の「オリンピック・ムーブメントの目的は、いかなる差別をも伴うことなく、友情、連帯、フェアプレーの精神をもって相互に理解しあうオリンピック精神に基づいて行なわれるスポーツを通して青少年を教育することにより、平和でよりよい世界をつくることに貢献することにある」に全く反する。

しかし、昨日の2月12日に行われたオリ/パラ組織委合同部会の冒頭発言では、森会長はまたも開き直った(https://www.tokyo-np.co.jp/article/85567/2/)。

【「女性蔑視」は解釈の仕方、意図的な報道あった】
そしてコロナ対策ということで、第一段を政府にとりまとめていただきましたが、結局そのためにわれわれの想像もつかないような、1年延期するということ、これは当時の安倍総理の発案で、IOCとの間で合意を得たわけであります。したがってその1年、計画しましたのも半年になりました。私どもとしては、あくまでオリンピック、パラリンピックを開催するという強い方針で、今、準備を進めていた矢先でありまして、そういう中で会長である私が余計なことを申し上げたのか、まあこれは解釈の仕方だと思うんですけれども、そういうとまた悪口を書かれますけれども、私は当時そういうものを言ったわけじゃないんだが、多少意図的な報道があったんだろうと思いますけれども。まあ女性蔑視だと、そう言われまして。

完全な女性蔑視の発言を行ったのに、そうではないと言い逃れを行い、全世界のメディアが意図をねじ曲げて報道したと「逆ギレ」したままだ。また、オリ/パラ組織委は森会長(当時)と武藤事務総長のコンビが仕切ってきた。商業化などオリンピック問題に詳しい博報堂出身の作家・本間龍氏が組織委の内部から得た情報によると、2人が理事会で根回し工作を行い、理事会、評議員会は「シャンシャン会議」が続いていたという。2人に逆らえない体質なのだ。当初は7000億円程度の費用で開催できるとしていたが、結局、血税を利用し、直接・間接の大会費は3兆円もの巨額に膨れ上がった。しかも、大会延期費用3千億円のうち、新型コロナ対策費の千億円はどんぶり勘定で、オリ/パラ開催を強行する場合、通常の規模の観客にするか、選別するか、それとも無観客で行うかによって大幅に異なる。

これでは、森前会長辞任後のオリ/パラ組織委を信用することは不可能だ。また、東京オリンピック/パラリンピックはオリンピック憲章第3条「オリンピズムの目標は、あらゆる場でスポーツを人間の調和のとれた発育に役立てることにある。またその目的は、人間の尊厳を保つことに重きを置く平和な社会の確立を奨励することにある。この趣意において、オリンピック・ムーブメントは単独または他組織の協力により、その行使し得る手段の範囲内で平和を推進する活動に従事する」にも違反する。

まず、「フクシマ復興五輪」という大義名分が完全に色あせた。フクシマ第一原発事故の際に発令された「原子力緊急宣言」は解除されておらず、健康被害がないとして国際放射線防護委員会=ICRP=が勧告している人間一人当たりの年間1ミリシーベルトの被曝量は、20ミリシーベルトに引き上げられたままだ。これはフクシマ第一原発難民に対する救済措置(帰郷支援対策など)を打ち切るためだ。現地では危険な中、フクシマ第一原発事故で亡くなられた家族の遺骨を探し続けている遺族の方もおられる。

フクシマ第一原発著増タンク
フクシマ第一原発著増タンク

しかも、フクシマ第一原発の第1号機から第4号機は炉心溶融(メルトダウン)が収まらず、冷却水を注入するだけの状態に陥っている。冷却水は汚染水になる。汚染水はヨウ素131、セシウム134、セシウム137、ストロンチウム90など生物、人間にとって有害な放射性物質にまみれているため、貯蔵タンク注入しているが、この著増タンクも、敷地の空きが限られてきているため、自公連立政権は、2023年ころには無責任にも福島県沖に海洋投棄する意向だ。これは、福島県の漁民だけでなく、太平洋諸国を中心に世界的に大問題になる。京大原子炉研究所の次教を務めた小出章氏は、ソ連時代のチェルノブイリ事故のように巨大な石棺で原発を覆うのが取り敢えずの最良対策だとしている。

オリンピック憲章第3条の「またその目的は、人間の尊厳を保つことに重きを置く平和な社会の確立を奨励することにある」に反するもうひとつの重要な事案は、コロナ禍が収束しないうちに、政府=菅義偉政権や東京都、組織委が東京オリンピック/パラリンピックを強行開催する意向であることだ。このところ、新型コロナ新規感染者数が相当減少しているのは、➀冬季入りすると新型コロナウイルスは活性化するが、冬から春にかけて活性化力が衰え、感染力と重症化率が弱まってくるという「季節的要因」(参考:https://twitter.com/KamiMasahiro/status/1356142985704947712)②新型コロナウィスルが活性化する秋から冬にかけてGo To トラベルを強行したため、新規感染者が著増し、特に重症者、死亡者が急増しため、政府=安倍晋三、菅政権が行ってきた「積極的疫学調査」(有症状感染者の濃厚接触者の追跡)が保健所の医療資源が逼迫(パンク)して困難になり、追跡調査対象者を「基礎疾患のある住民や高齢者」に限定したことーにある。下図を参照していただきたい。

NPO法人・医療ガバナンス研究所理事長で臨床医師の上昌広氏はが引用した東京新聞の記事内容では、東京都の都のモニタリング会議メンバーを務める国立国際医療研究センターの大曲貴夫のりお医師が「積極的疫学調査」が破綻したことを否定している(https://www.tokyo-np.co.jp/article/84483)。だから、上理事量・意思がツイッターで大曲氏を批判した。

上昌広理事長・医師のツイッター
上昌広理事長・医師のツイッター
上の差裕のツイッター
上の差裕のツイッター

NPO法人・医療ガバナンス研究所の上昌広理事長・臨床医師や遺伝子工学に詳しい東大先端研の児玉龍彦名誉求時などの政府=安倍、菅政権のコロナ禍対策を根本から批判している感染症の専門家は、「積極的疫学調査」の基本策を抜本転換し、国庫負担による十分な補償を前提に、検査体制の抜本的拡充と簡易医療施設の設営も含めた医療体制の再建というコロナ禍対策の抜本転換を行わない限り、新型コロナを抑制できないとしている。特に、上理事長・医師は、PCR検査の抜本的拡充と医療体制の再建をしなければ、夏場にかけて「季節要因」から予想される新規感染者の増加には対応できなくなる、と改めて指摘している(https://www.youtube.com/watch?v=glAbeDkwq_w)。コロナ感染の抑制と終結は、オリンピック憲章第3条に相応しい内容だ。

この他、アップル社が調査・公表している人口移動指数と日本の実効再生産数(免疫力を持っている集団の中で、コロナ感染者が何人に感染を拡大するかの数値)、英国や南アフリカ、ブラジルで変異した新型コロナウイルスの変異株の市中感染を見ておかなければならない。人口移動指数は1月下旬から傾向的に上昇しており、その3週間語の2月21日の週前後から影響が表れてくる。ただし、季節要因も考慮する必要はあり、立春意向の不活性化期入りが優れば新規感染者の増加としては表れない可能性もある。実効再生産数は簡易版だが低下止まりの様相を呈している。NHKでは有効実効生産数の簡易版を専門家の指導のもとで計算し、東京都、愛知県、岐阜県など一部の都県で感染減少のスピードが鈍ってきているとしている(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210212/k10012862521000.html)、

なお、昨日12日には厚生労働省の発表で英国やブラジルなどの変異株に7人が市中感染している(山梨県、滋賀県では初めて)ことが明らかになり、「公式発表」ですら57人が市中感染している。

アップル社が公表している人口移動指数
アップル社が公表している人口移動指数
東洋経済ONLINEによる全国と東京都の実効再生産指数
東洋経済ONLINEによる全国と東京都の実効再生産指数

国庫でこうしたコロナ禍対策抜本転換の措置を取らなければ、東京オリンピック/パラリンピックの安全性は担保されない。米国のバイデン新大統領は東京オリンピック/パラリンピックの開催には「大会を安全に行うことのできる科学的事実(証拠)」が必要だと言っている。もっとも重要なことは、知らず知らずのうちにコロナ感染を拡大する無症状感染者(ステルス・スプレッダー)への対応だ。

郷原信郎弁護士による上昌広医療ガバナンス研究所の上昌広理事長へのインタヒュー
郷原信郎弁護士による上昌広医療ガバナンス研究所の上昌広理事長へのインタヒュー

政府=菅政権は本日13日から改正コロナ関連法が施行されることから、10都府県での緊急事態宣言の早期解除を狙いうとともに、「まん延防止等重点措置」を進めていく。しかし、最も重要なことは、世界標準のパンデミック対策に反してPCR検査を抑制した原因になってきた厚労省医系技官主導の「新型コロナ感染症の指定感染症Ⅱ類指定」と「積極的疫学調査」を中心に行ってきた従来のコロナ禍対策の誤りを認めることだ。そして、従来のコロナ禍対策を抜本的に転換し、国際標準のパンデミック対策に準じた科学的な努力(検査体制の抜本的拡充)をすることだ。

さもなければ、強行開催する場合、東京オリンピック/パラリンピックは悲惨なことになる。大会組織委は本来なら、コロナ感染症対策部会を設け、政府=菅政権や小池百合子都知事率いる東京都に提言しなければならないが、組織委のこれまでの歩みを見るとそれはまず、無理というものだろう。


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