ワクチン開発と接種に過大な期待は禁物、東京オリンピックの選手団・大会関係者への接種は困難か

昨日11月18日の新型コロナ感染新規感染確認者が全国で2002人、東京都(493人)をはじめとして神奈川、埼玉。長野、静岡の1都5県で過去最高を記録した。大阪府では273人だったが、近畿圏や中京圏、首都圏でも高水準になっている。コロナ禍対策の抜本転換が急がれるが、加藤勝信官房長官が「県をまたいだ移動の自粛を一律に要請する考えはない」と語るように、政府=菅義偉政権に経済最優先、東京オリンピック開催を念頭に置いたコロナ禍対策の転換を図る意向は見られない。こうした中で、東京オリンピック大会の関係者を含め、米国のファイザー社やモデルナ社が開発中の従来にない遺伝子型(RNA型)のワクチンに期待がかかっている。しかし、第3相の治験には本来3〜5年をかけるのが普通であり、過大な期待と早急な接種は禁物だ。

11月19日木曜日のコロナ感染状況
本日11月19日木曜日の新型コロナ感染状況は、東京都では午後15時の速報値で新規感染確認者は1週間前の12日木曜日の393人より150人も多い連日過去最多の543人(https://www.fnn.jp/articles/-/61484)になった。東京都は警戒レベルを最高の4(観戦が拡大している)に引き上げた。PCR検査などが増加しているためで、これまでPCR検査抑制政策を続けてきたため、無症状感染者を見逃してきたツケが回ってきた思われる。これに冬入り間近になっていることが新規感染者数の拡大を加速させている模様だ。
京都のモニタリング(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)では、7日移動平均での感染者数は355.1人、PCR検査人数は5598.7人だから、陽性率は6.34%。東京都独自の計算方式でも5.8%。感染者のうち感染経路不明率は57.56%だった。PCR検査人数は増えているが、陽性率も高まっており、厳しい状況が続いている。全国では、午後23時59分段階で2388人の新規感染者と20人の死亡者が確認され、連日の最多更新になっている。北海道、道内札幌市が過去最多を更新し、それぞれ257人、196人になった。愛知県も219人と過去最多の新規感染者が確認されたため、警戒レベルを最高度の「警戒レベル」に引き上げた。全国知事会の飯泉会長は、➀経営が悪化している医療機関に対する財政支援②中小企業の倒産、廃業による雇用情勢の相当な悪化に対して、雇用調整助成金の延長ーなどを求めているが、政府=菅義偉政権は無為無策に留まっている。
東洋ONLINE(https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/)では、11月18日時点の実効再生産数は全国が前日比0.06人減少して1.28人、東京都では前日比0.03人減少の1.23人となっている。実効再生産数はこのところ減少傾向にあるが、新規感染者の大幅増加と整合性が取れないように見える。

政府=菅政権が定めたコロナ感染状況のステージは下図に示す通りだ。

政府の分科会がまとめた感染状況の指標
政府の分科会がまとめた感染状況の指標

これに対して、朝日新聞19日付3面の新型コロナ関連の解説記事(朝日デジタルではhttps://digital.asahi.com/articles/DA3S14700613.html?iref=pc_ss_date)によると、現状の感染状況は次のようになっている。

このうち、大阪府についてはニュースサイト・リテラの配信記事(https://www.excite.co.jp/news/article/Litera_litera_11355/)によると「大阪府は10月14日に重症病床の確保数を188床から206床まで増やしたが、対して11月16日時点で大阪府の重症患者は73人で、病床使用率は35.0%に達した。だが、NHKニュース(16日付)によると、重症患者用に確保された病床は患者が少ない時期には一般患者用としており、15日時点で大阪府が重症患者用として運用できる状態になった病床数は107床でしかない。つまり、実質的には重症病床の使用率は60%を超えている」とのことだ。維新の大阪府・大阪市の状況把握には注意を要する。

コロナ第三波は二波よりも感染力が強く、感染する世代も若者から重症化・重篤化しやすい50代以上の中高齢者に移行している。普通ならは、ステージ3の段階でGo To トラベルなどのGo To政策は中止すべきだ。自民党の支持基盤である日本医師会の中川俊男会長でさえ、「(感染者急増のタイミングを考えると)Go To トラベルが感染拡大のきっかけになったことは間違いない」と語っている。なお、NHKによると今月9日段階で加藤官房長官がGo To トラベルの利用者でコロナに感染したのは131人と記者会見で報道している(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201110/k10012704981000.html)。都道府県の内訳など詳細も明らかにすべき(それでこそ信用できる)だが、第三波の襲来が日本でいち早く訪れた北海道(特に札幌市)での感染者が多いことが推察される。

こうした中で菅首相は本日19日の10時ころ記者団の取材を受けて、「最大限の警戒状況にある」と語り、「担当の西村康稔経済再生相と田村憲久厚生労働相に、19日の厚労省の助言機関と20日の政府の分科会の議論を踏まえ、更なる対策を打つよう指示した」という(https://digital.asahi.com/articles/ASNCM34G8NCMULFA002.html?iref=comtop_7_01)。ただし、マスクの着用や3密の回避など従来の「心がけ」を繰り返すにとどまり、Go To トラベルについては触れなかった。また、会食時でも会談する際は「マスク着用」という言葉も出た。会食の自粛を要請したものと見られる。

田村厚労相は昨日18日、「感染が広がっている地域は、症状が出ていない方も含めて検査をしていただくとかの対策をやらなければいけない」と語ったことから、本サイトでしばしば触れているように、感染震源地(エピセンター)を中心にPCR検査、高原検査、抗体検査の大規模検査実施へと、コロナ感染症対策を抜本的に転換する可能性もなくはないが、その可能性は低いだろう。逆に、日本の政府=菅政権は来夏に延期された東京オリンピックの強行開催の実現を最優先にしてコロナ対策を行っているから、米国のファイザー社やモデルナ社が開発中の従来にない遺伝子型(RNA型)のワクチンの「努力義務」という形での事実上の「強制接種」を打ち出してくる可能性もある。政府=菅政権にとっても、「予防接種法案」も今臨時国会での成立を要する最重要法案のひとつだ。

ただし、本日11月19日付の東京新聞が3面で報道しているように、両巨大大手製薬会社が「9割効果」と喧伝しても、「慎重さが必要」だ。報道記事の重要箇所を引用させて頂きたい。
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◆背景に五輪?日本の状況では「急ぐ方がリスク大きい」
ただ、ワクチン開発では最終段階の第三相試験だけで3~5年かけるのが普通だ。今回はいずれも開始から3カ月。両社とも「今のところ重い副反応(副作用)はない」とするが、片山さん(ウイルスやワクチンに詳しい北里大学の片山和彦教授)は「接種で免疫がついて変化していく人体のサイクルは速められない。治験を短くするのは無理がある」と指摘する。RNAワクチンはまだ実用化されたことがない新技術だ。他のコロナウイルスのワクチン開発では接種後しばらくして重い副作用が出たケースもあり「2年は見ないと安全とは言えない」と強調する。
(中略)
宮坂さん(免疫学に詳しい宮坂昌之大阪大学名誉教授)は「ワクチンは副作用を超える効果があると評価され初めて使用が許される。米国ほどの感染が起きれば接種を急ぐ理由になるかもしれないが、日本の状況では急ぐリスクの方が大きい」と訴える。「五輪があるので接種を急ぎたいのだろうが、十分な評価なく集団接種して副作用が相次げば、ワクチン全体への信頼をさらに下げる」と警告する。

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なお、RNA型ワクチンとされるの新種の遺伝子型ワクチンについて東京新聞は、「遺伝子ワクチン 従来のワクチンは弱毒化したウイルスやその断片を接種して体に覚えさせ、免疫をつけてきた。遺伝子ワクチンは、断片となるタンパク質の設計図となるDNAやRNAを接種し、体の細胞自身にウイルス断片のタンパク質を作らせる。比較的早く簡単に作ったり設計を変えたりできる。今回のように急いでワクチンを開発する際には向いている可能性があるが、実用化された例はまだない」と警告している。

さて、日本の新型コロナ感染症対策は、東京オリンピックの開催が最優先されているため、対応が遅れかつ歪んできた。端的には、世界保健機構(WHO、内部でも約60人が観戦)がパンデミック対策の最重要対策として指摘してきた「検査、検査と保護・隔離、保護・隔離」との指針に政府=安倍晋三、菅政権が従わず、PCR検査を抑制し続けてきた。PCR検査の抑制を貫いてきた加藤厚労相(現在は、内閣官房長官に昇進)の跡を継いだ田村厚労相は大規模検査の必要性を感じているが、新型コロナウイルス感染症は第Ⅱ類相当の指定感染症に政令指定(1月28日〜2月6日まで)されているため、全国の保健所や地方衛生研究所、医療機関に多大な治療上の負担と大規模な財政負担をかけている。このため、新型コロナウイルスを「新型インフルエンザ等」に加えた改正インフル特措法でも、緊急事態宣言の発出などの場合に休業補償規定は盛り込まれなかった。

ただし、政府は連立を組む公明党や野党、国民の声に押され、58兆円(うち、10兆円の巨額の予備費は財政民主主義に反する)の大規模な2020年度第一次、第二次補正予算を成立させ、補ってはきたが、コロナ禍対策として一貫したものではなかった。このために、PCR検査の大規模実施を含む医療体制の抜本的強化、医療機関の減収補填、休業補償の遅れなどが未だに解決されていない。そのうえに、無駄なものも目立った。その最たるものが「Go To」関連予算である。Go To トラベルは、1泊2食付きで 4万円以上の高級ホテル、旅館が大きな恩恵を被り、高所得者相に有利なものになった。本来は、「休業要請と国民生活保護のための休業補償」が一体になった柔軟な運用が可能な「新型コロナウイルス感染症対策法」を立案し、成立させるべきところだった。

急を要するために、従来の「新型インフル特措法」を改正するにしたが、その場合にも、まずは東京オリンピックの開催にはこだわらず、「休業要請と国民生活保護のための休業補償」を組み込み、柔軟な運用を可能にする内容にすべきところだった。18日の野党国対委員長会談で、立憲民主党の安住淳国対委員長が今月11月25日から、コロナ禍対策と日本学術会議会員任命拒否事案を扱う国会集中審議が始まることを告げた。本サイトでも述べてきたように、安住国対委員長は両者を「人質」に取り、種苗法改正法案や予防法接種法案の審議入りをすべきではなかったが、12月5日までの閉会機関までにはそれなりの審議期間がある。コロナ禍対策と日本学術会議会員任命拒否事案で政府=菅政権を徹底的に追及し、まともな第三次補正予算案を編成させるべきだろう。

なお、2020年度の大規模な補正予算のために、政府=安倍、菅政権が政策の根幹に据えてきた「財政再建言主義政策=緊縮財政政策」は完全に破綻した。膨大な赤字国債を償還するため、消費税を中心としたさらなる増税が必要だとの声が、日本経団連や財務省から自民党に届いているが、これ以上の消費税増税(税率の20%への引き上げ)は日本経済をさらに悪化させ、無理だ。野党は来年の解散・総選挙を踏まえ、財政・金融政策の抜本的転換を明示することが絶対的に必要である。現代貨幣理論(MMT)を政策議論のたたき台にすべきだ。

さて、来夏に延期された東京オリンピックについてはやはり、今年10月中旬ころ、国際オリンピック委員会(IOC)から中止に向けての打診があったようだ。博報堂出身で作家の本間龍氏がツイッターで最初に示したが、立憲民主党の杉尾秀哉参院議員が17日の参院内閣委員会で別の筋から同様の情報を得たと述べている。ただし、「東京オリンピックの中止に向けての打診だけでなく、強行開催しようと(日本側が判断すれば)強行開催はできる」との内容だったという(https://www.youtube.com/watch?v=jgKbnXYtQQ0)。日本側が「強行開催」にこだわったために、国際オリンピック委員会(IOC)側もそれなら日本側に任せるということで、トーマス・バッハ会長、ジョン・コーツ副会長らが11月15日から18日まで来日した。

なお、東京オリンピック関係者によると、IOCが日本側に協力のポーズを見せているのは、大会開催の権限を握っているIOCが自ら東京オリンピック大会中止の通告を公にしなかったのは、大会中止決定の通告をすれば今後、世界の各都市に対して行うオリンピック誘致活動に支障が生じると考えていることがあるという。そこで、日本側が開催に固執するなら、形だけでも協力するということになったと見ている。ただし、今回の大会中止の決定を行う「デッド・ライン(最終的期限)」について、日本側と打ち合わせすることが、今回のバッハ会長、コーツ副会長らの訪日の最大の目的だったとしている。

17日の参院内閣委員会で橋本聖子五輪担当相に答弁を求める立憲民主党の杉尾秀哉参院議員
17日の参院内閣委員会で橋本聖子五輪担当相に答弁を求める立憲民主党の杉尾秀哉参院議員

なお、11月18日に「東京国際体操大会」と銘打った小規模国際大会が行われ、日米中露4カ国、30人余りの選手が参加したが、コロナ対策だけで4000万円の費用がかかっている。なお、バッハ会長は森喜朗大会組織委員長との共同記者会見で、この「(ミニミニ)東京国際体操大会」の成功に、来夏の東京オリンピックの開催と成功が勇気づけられたと語った。冗談かと思わざるを得ないが、それはさておき、安倍晋三首相(当時)は東京オリンピックを「完全な形で来夏に必ず開催する」と公言した。その場合の東京オリンピックの規模は選手団だけで「ミニミニ東京国際体操大会」の300倍はする。単純計算で、120億円だ。これに、大会関係者や集まるかどうか分からないがボランティア、どの程度間引くか不明だが、競技観戦者に対するコロナ対策も含めれば、相当な金額のコロナ対策が必要になる。

さらに、大会延期のための費用を加えると、相当な規模の追加費用が必要になると見られるが、最終的には国民・都民が税金で負担することになる。安倍前首相の「完全な形での開催」という言葉はどこかにかすんでしまったが、橋本聖子五輪担当相は、バッハ会長が全員観戦が好ましいが、競技感染者を間引く可能性があると言ったため、最終的な追加費用の決定は来年4月ころになるとしながらも、年内には中間見通しを行うと回答した。コロナ第三波襲来の中、血税で負担する国民としては、追加費用も含めた大会開催全費用に大きく注目する必要がある。

さて。商業主義に陥っているオリンピックのバッハ会長が取り敢えず、日本側に協力するポーズを取るため、東京オリンピックの来夏強行開催可能性の根拠として語ったのが、上述のRNA型の新種コロナワクチンだ(スポンサー企業との契約が今年末で終わるので、契約更新させることが主な狙いと思われる)。IOCが選手団に接種する費用を持つと言ったが、実際のところは参加各国のNOCで分担するようだ。それなら、実質的に日本任せであり、具体的には日本国民・東京都民の血税に頼るということになるだろう。

ところで、バッハ会長が根拠としたウイルス接種論については、米国のニューズウイークが健康被害が全くなく完全に有効なワクチンが開発されたとしても、ワクチンの接種までには時間がかかり、接種するとしても医療従事者などのソーシャル・ワーカー、高齢者、持病のある方々からになるから、最初にアスリートに接種して来夏の東京オリンピックに間に合わせるというのは不可能だと強く反論している(https://jp.wsj.com/articles/SB12598095959990744244104587101423489724862、ただし全文閲覧は有料)。若干の例を挙げさせて頂く。

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  1. ジョンズ・ホプキンス大学健康安全保障センターの上級研究員で、全米大学体育協会(NCAA)の新型コロナ諮問委員会のメンバーでもあるアメシュ・アダルジャ氏は「ワクチンが最も効果を発揮するところにワクチンを届けなければならない」と発言している。「パンデミックが引き起こしている最大の問題は人々を死に至らしめることと、病院を危機に陥らせていることだ。どう計算しても、その答えがプロのアスリートにワクチン接種するということにはならない」と語っている。
  2. 世界保健機関(WHO)のグローバル保健法センター所長、ローレンス・ゴスティン氏は「7月までに世界で新型コロナのワクチン接種を広く行うというのは全く実行不可能だ」と指摘した。

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このほかの権威ある大会関係者にもかなりの取材をしている。日本の大手マスコミ各社(全国紙を発行)は中部地方のブロック紙である中日新聞系列の地方紙・東京新聞社以外は東京オリンピックのスポンサー企業になっているから、公正な報道をしない。バッハ会長・森喜朗大会組織委員長の共同記者会見では「一問一答」形式だから、記者が回答に対して疑念を持ち、再質問するということは許されていないし、特に、日本の大手メディア社の記者は突っ込んだ質問を行うことは避けているようにしか見えない。

サイト管理者(筆者)自身としては、このパンデミックのコロナ禍の際に巨額の費用をかけて東京オリンピック大会を強行開催することには反対で、そんな巨額の費用を使うくらいなら、コロナ禍対策(医療機関の経営悪化に対処するための財政支援をはじめ検査・医療体制の充実など)に回すべきだと思っている。また、フクシマ第Ⅰ原発事故からの復興を世界に宣言する大会でもあるとの「大義名分」があるが、溶融した燃料棒を冷却するために注入し続けた結果、汚染水の貯蔵タンク設置場所の空き地がなくなり、政府=菅政権が福島県沖海洋投棄やむなしとしてい。安倍前首相がブエノスアイレスで宣伝した「The Situation is Under Control」という言葉が全くの誤りであったことや、いまだに「原子力緊急事態宣言」が解除されていないことも問題とせざるを得ない。

来夏の東京オリンピックは、実質的には3月の聖火リレーから始まる。それまでには、最終的な結論を出しておかなければなるまい。国民の間では、現時点では「中止やむなし」の声が強いようだが、少なくとも「中止」もしくはそれに等しい「小規模開催」などになった場合、その責任は誰が取るのかだけは、明確にしておかなければならない。もはや、「1億総責任者」の時代ではない。





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