東京オリンピック/パラリンピック組織委員会の森嘉郎日本オリンピック委員会(JOC)評議員会で女性を蔑視する発言を行ったことで、世界中から反発が出ている。オリ/パラ関係者の処分を行う権限を持っている国際オリンピック委員会は「発言を撤回し、深謝したことで(森発言問題は)収束したと考える」と大甘だが、森会長の「深謝」記者会見では誠意がなく、記者のツッコミに同会長はブチ切れた。森会長は即刻辞任するとともに、変異株の市中感染も踏まえ、抜本的なコロナ禍対策の一環として東京オリンピック/パラリンピックは即刻中止を正式に公表すべきだ。
本日2月5日金曜日の新型コロナ感染状況は、東京都では新規感染確認者は1週間前の1月28日金曜日の868人から291人減少して577人、累計感染者は40万人を超えた。死亡者は22人。重症者は前日から2人増えて117人になった(https://www.fnn.jp/articles/-/61484)。
東京都のモニタリング(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)では、7日移動平均での感染者数は619.7人、PCR検査人数は8633.6人だから、瞬間陽性率は7.41%。東京都独自の計算方式では5.6%。感染者のうち感染経路不明率は49.75%だった。
全国では、午後23時59分の時点で新規感染者は2372人、死亡者は106人。重症患者は前日から15人減少して877人になっている。
【参考】東洋経済ONLINE(https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/)では、2月4日時点の実効再生産数は全国が前日比0.01人減の0.75人、東京都は前日比0.01人減の0.75人となっている。NPO法人医療ガバナンス研究所の上昌広理事長の指摘するように、季節要因で新規感染者数が前週に比べ大幅に減少しているようだ。新型コロナの変異株による市中感染の程度が低ければ、政府=菅義偉政権が達成を目指している新規感染者数500人は達成できる可能性があるが、市中の無症状感染者を発見・保護することはできないから、がGo To トラベル再開を急げば夏の季節に第四波が襲来する恐れが高い。
今月2月3日午後、JOC評議員会での森会長の発言は、1984年 第3回世界選手権で日本女子柔道選手として初優勝、1988年のソウルオリンピックで銅メダルを獲得して、日本の女子柔道界を牽引したが、コロナ禍の下では東京オリンピック/パラリンピック開催は無理だと勇気ある正論を主張している山口香理事を牽制したものだろう。
森会長は兎に角、道徳心・倫理性に欠ける。2001年2月10日8時45分(日本時間)、愛媛県立宇和島水産高等学校の練習船「えひめ丸」が、突然浮上してきた米国海軍の原子力潜水艦・グリーンビルに衝突し沈没した「えひめ丸」事故が発生(グリーンビル側がソナーによる確認作業でミスを犯した)。その際、森首相(当時)はすぐに事故連絡を受けたが、無視してゴルフを続け、熱中していた。えひめ丸の乗務員35人のうち、えひめ丸に取り残された教員5人と生徒4人が死亡し、救出された生徒や教員のうち、9人がPTSD(Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)と診断された。
それより先の2000年(平成12年)5月15日、神道政治連盟国会議員懇談会で森首相は、「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知して戴く、そのために我々(=神政連関係議員)が頑張って来た」と発言、日本国憲法の基本理念である「国民主権」を否定して、大きな問題になった。そもそも、森氏は正当な手続きを経て、自民党総裁・総理大臣に選出されたわけではない。
簡単に経過を説明すると、1980年台後半に米国に強いられた超金融緩和政策でバブルが発生、大蔵省=現財務省=と日銀がバブル潰しのため、不動産購入融資を厳しく規制、金融政策も強力な引き締め策を行ったことで、日本経済はバブル崩壊不況に突入した。当時の小渕恵三首相は積極財政を主導し、1996年ころには一度、日本経済を立て直す功労者だった。しかし、2000年4月5日、3日前に脳梗塞で倒れ緊急入院した小渕恵三首相が逝去された(背景には、大蔵省などから総攻撃を受けたことによる心労が積み重なっていたことがあると推測される)。本来なら、当時の青木幹雄内閣官房長官が逝去を正式発表して、後任の自民党総裁を党規約に従って選出すべきだった。
しかし、当時の状況を知る関係者やWikipediaによると、森喜朗幹事長、青木幹雄内閣官房長官(小渕首相が倒れてから首相臨時代理)、村上正邦参院会長、野中広務幹事長代理、亀井静香政調会長ら5人組が赤坂プリンスホテルで談合を行い、村上参院会長の「あんたが首相をやればいいじゃないか」のひと言で、事実上、森幹事長が自民党総裁、内閣総理大臣になった。いわゆる、「5人組事件」である。こうした経緯から森内閣は1年で幕を閉じた。
第二次安倍晋三政権はこうした倫理的にも法的にも問題のある人物を東京オリンピック/パラリンピック組織委会長にしてしまったが、その咎めが当然のように現在、起きた。それが今回の「女性蔑視発言」だ。発言内容をNHKWebサイトから引用させていただく。
JOCは、3日午後、臨時の評議員会を開きオンラインも含めて51人が参加するなかで、ことし6月の役員改選に向けた規定の改正が報告され、女性の理事の割合を40%以上にする目標も示されました。
評議員会に出席した東京大会組織委員会の森会長は、会合の最後にあいさつし、女性の理事を増やす目標に対して「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」と発言しました。
そのうえで、自身が会長や名誉会長を歴任した日本ラグビー協会で女性の理事が増えていることを例にあげ「今までの倍、時間がかかる。女性というのは競争意識が強い。誰か1人が手をあげて言うと自分も言わなきゃいけないと思うのだろう。それでみんな発言する」などと述べました。
JOCの評議員会はふだん報道各社に公開されていますが緊急事態宣言が出されている中で、3日の会合は各社に映像が配信され、森会長の発言に対しては出席者から指摘などは出ませんでした。
JOC山口香理事「残念でならない」
森会長の発言について、JOC=日本オリンピック委員会の山口香理事が取材に応じ「多様性の重視が東京大会のコンセプトに含まれている中で、組織委員会のトップがこのような考えを持っていることが世界に発信されたことは残念でならない」と話しました。
森発言を受けて、お笑いコンビ、「ロンドンブーツ1号2号」の田村淳氏が愛知県犬山市で走る予定だった聖火ランナーを辞退した。無給のボランティアの中にも、ボランティアを辞める方々が増えている。オリンピック憲章(https://www.joc.or.jp/olympism/charter/pdf/olympiccharter2020.pdf)には次のように明確に男女平等、人種平等、思想・信条の事由を掲げている。
オリンピズムの根本原則(注:抜粋)
4.スポーツをすることは人権の 1 つである。 すべての個人はいかなる種類の差別も受けること なく、オリンピック精神に基づき、スポーツをする機会を与えられなければならない。 オリンピッ ク精神においては友情、 連帯、 フェアプレーの精神とともに相互理解が求められる。8. このオリンピック憲章の定める権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、 国あるいは社会的な出身、 財産、 出自やその他の身分などの理由による、 いかなる種類の差別も受けることなく、 確実に享受されなければならない。
森会長のことだから、オリンピック憲章など読んでいなかったと思われる。オリンピックに詳しい博報堂出で作家の本間龍氏もそう言っている(https://www.youtube.com/watch?v=Q0uZvfjW6Qc)。森会長の発言はまたたくうちに、米紙ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙、AP通信、ロイター通信などが取り上げ、全世界に流れた。オリンピック憲章によると、オリンピック関係者の不祥事は、国際オリンピック委員会(IOC)が持っている。
第 6 章 対応措置と制裁、 規律上の手続きと 紛争の解決
59 .対応措置と制裁 * オリンピック憲章、 世界アンチ ・ドーピング規程、 試合の不正操作防止に関するオリンピック ・ムー ブメント規程、 その他の規則に違反した場合、 総会、 IOC 理事会あるいは下記規則 2.4 で明記 する規律委員会が決定することのできる対応措置または制裁は以下の通りである。1. オリンピック ・ ムーブメントに関するもの
1.1 IOC 委員と名誉会長、 名誉委員、 栄誉委員
a) けん責 - IOC 理事会の判断
b) 一定期間の資格停止 - IOC 理事会の判断 資格停止は当事者が委員であることで得られる権利と優先権、 活動役割のすべて、 も しくは一部に及ぶことがある。
東京オリンピック/パラリンピック組織委会長と言えば、「1.1 IOC 委員と名誉会長、 名誉委員、 栄誉委員」に相当するが、実際にもJOC名誉良いんだ。バッハIOC会長が処罰ないしは辞職勧告して当然だ。しかし、NHKWebによると、「『森会長は自身の発言を謝罪しました。これによってIOCはこの問題が収束したと考えています』とコメントしました」だけ。しかし、4日の謝罪会見がひどい。朝日デジタルの「森会長、謝罪会見で投げやりに 組織委幹部『逆効果だ』」(https://digital.asahi.com/articles/ASP245FMBP24UTQP01P.html?iref=comtop_7_02)から引用させていただきたい。
しかし質疑が始まると、いらだちを隠せなくなった。辞意を問われ、「皆さんが邪魔だと言われれば、おっしゃる通り、老害が粗大ごみになったのかもしれません。そしたら掃いてもらえば良いんじゃないですか」と自嘲気味に返答。「国際オリンピック委員会(IOC)に説明するのか」と聞かれると、「そんな必要はないでしょう。いまここで(説明)したんだから」と険しい口調になった。
「会長は女性の話が長いと思っているのか」という質問は、「最近は女性の話を聞かないのであまり分かりません」。組織委会長として適任と思うかと問われると、質問した記者を見て「さあ、あなたはどう思いますか?」。辞めた方がいいと応じられると、「はい。じゃあ、そのように承っておきます」と返した。
さらに、「女性が多いと時間が長くなるという発言を誤解と表現していたが、これは誤った認識ではないのか」という質問には「(競技団体から)そういう風に聞いておるんです」と答えていた。「おもしろおかしくしたいから、聞いているんだろう」と気色ばむ場面もあった。
女性が会議に参加すると、会議時間が長くなるというのは、本間氏の指摘するように、女性は元来、責任者に忖度しない存在だからだ。だから、山口理事のようにまともなことを発言する女性理事は更迭したいのだろう。トーマス・バッハ会長も森喜郎会長も、オリンピック精神には全く無頓着で、1984年のロサンゼルス・オリンピックから始まった商業主義の権化になっている。日本では国民の生命と生業より、東京オリンピック/パラリンピックを最優先させ、コロナ禍対策を抜本的に失敗してきた。
なお、オリンピック憲章の「4.スポーツをすることは人権の 1 つである。 すべての個人はいかなる種類の差別も受けること なく、オリンピック精神に基づき、スポーツをする機会を与えられなければならない。 オリンピッ ク精神においては友情、 連帯、 フェアプレーの精神とともに相互理解が求められる」からすれば、IOCや政府、東京都が強行しようとしている参加国数を極めて限定した無観客試合が、オリンピック憲章の「フェアプレーの精神」にもとることは明らかだ。
NPO法人の上昌広医療ガバナンス研究所の上昌広理事長指摘するように、現在の新規感染者数が季節要因によって減少しているのなら、3月7日までに7日間の移動平均でも新規感染者数が東京都で目標の500人以下になるかもしれない(重要Youtube:https://www.youtube.com/watch?v=Zcbd3Po9SXY)。しかし、コロナ感染のスプレッダーになっている「幹部分」の無症状感染者は発見が出来なくて減らないから、「夏風邪」という言葉が存在するように夏場、つまり、オリンピック開催前か開催中に第四波が起きる可能性は十分にある。その場合、東京オリンピック/パラリンピックは大変なことになる。
ただし、感染力と毒性の強い変異株の市中感染が日本でも静岡県から始まり、埼玉県では集団感染が起こった(https://www.sankeibiz.jp/macro/news/210202/mca2102022315038-n1.htm)東京、東京都でも確認されており、富山県でも南アフリカ在住歴のある女性とその濃厚接触者2人が、新型ワクチンの効かない南ア株に感染していることが分かった。昨日は神奈川県でも同様な南ア株感染者(2人)が発見された。
英国では2月1日(現地時間、日本では2日)同国で発見された英国変異株よりさらに感染力と毒性が強く、新型ワクチンが効かない南アフリカで流行している変異ウイルスの感染事例が105例見つかり、11例で市中感染が発見されていることを発表、同時に南ア株の市中感染が疑われる地域を郵便番号で指定し、住民の一斉検査を始めることを決めたという(https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4188519.htm)。また、新規感染者の少なかったベトナムでは1月28日、78人が英国変異株に感染していると報道されている(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM282X10Y1A120C2000000/)。
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日本では当初、菅義偉首相がベトナムを含む11カ国のビジネス、レジデント(居住)入国を制限しなかったから、英国変異株や南ア変異株の市中感染が昨年末から始まっていると推定される。厚生労働省は、12月31日には変異株に感染した事実を公表している(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15829.html)。にも拘らず、非常事態宣言は1月8日からと遅すぎた。しかも、「飲食店」を生贄(いけにえ)にした限定的なものでしかない。加えて、最初の公表から1カ月以上経っているから、現在の市中感染状況とその対策について、少なくとも総合的なページを構築すべきだ。
変異株による市中感染は残念ながら、既に拡大している可能性が濃厚だ。なお、「飲食店」を生贄(いけにえ)にすべきではない。再掲させていただくが、家庭内感染が最も多いからだ。
変異株への感染も季節要因で減少すれば良いが、それは不明だ。政府は東京オリンピック/パラリンピック開催を敗戦間近の「国体護持」のように、国民の生命や生業を優先すべきではないはずだ。最悪の場合は、「原爆」が透過されることになる。現状、すべての資源をコロナ対策に充てなければならない。
高齢者・持病を持たれる国民の死亡者が急増し、入院待ち・自宅療養の感染患者が非常に多くなっている現状、簡易医療施設の設営も含めて政府が総力をあげて基本原則に基づいたコロナ禍対策を行うこと自体が、有効な経済対策になる。そのためにも、森会長の辞任とともに、オリンピックの「フェアプレイ」の精神に立ち戻って、今回の東京オリンピック/パラリンピックは中止を公表し、オリ/パラの資源(選手村や各種競技場)を簡易医療施設に利用すべきだ。東京都の小池百合子都知事も昨年3月末に、オリンピック選手村を簡易医療施設に充てる提言をしたことがある。