米商務省が4月29日発表した3月の個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比6.6%上昇し、1982年1月以来、40年2カ月ぶりの高い伸びになった。新型コロナ警戒感の薄れで国内需要が旺盛になってきたこととコロナ禍によるサプライチェーンの寸断化に加えウクライナ事変に対する経済制裁で資源価格が高騰してきたことによる。今後、米国の中央銀行システム(FRS)としては強力な金融引き締め政策を採らざるを得なくなり、国際金融市場と世界経済は修羅場を迎えることになる。
修羅場を迎える米欧日諸国の金融・資本市場
米国の商務省が発表している消費者物価上昇率には消費者物価指数(CPI)と国内総生産(GDP)から算出される個人消費支出価格指数(PCE)の二つがある。両者の違いは次の通りだが米国の中央銀行システム(FRS=米国連邦準備精度理事会や連邦公開市場委員会、12の連邦準備銀行などからなる=)が最も重視しているのは後者だ(https://www.dbj.jp/reportshift/topics/pdf/no047.pdf)。日本政策銀行調査部によると、両者には次の違いがある。
・代表的な価格指数としては他に消費者物価指数(以下 CPI)があるが、指数の計算方法に違いがある。CPIは基準年のウエイトを用いるラスパイレス指数であるため、低価格品への代替効果が反映されず上方バイアスが生じる。これに対して PCE価格指数はラスパイレス指数とパーシェ指数の幾何平均の連鎖指数を用いているため、 バイアスが生じにくい 。
・この違いの結果、 CPIはPCE価格指数よりも高い伸び率 となっている。日本についても民間最終消費のデフレータの伸び率は CPIの伸び率よりも概して低い。
要するに、個人消費支出価格指数(以下 PCE価格指数)のほうが、一国経済(この場合は、米国経済)のインフレ動向を的確に表す。その PCE価格指数が40年ぶりの高い伸びになったということだ。なお、米国を盟主とする北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国がウクライナを犠牲にして同国に最新の軍事兵器の供与を拡大することにしているため、ウクライナ事変は長期化する見通しだから、コアインフレ率だけを注目しても意味がない。時事通信社は次のように伝えている(https://finance.yahoo.co.jp/news/detail/20220430-00000003-jijf-bus_all)。
米商務省が29日発表した3月の個人消費支出(PCE)物価指数は、前年同月比6.6%上昇した。1982年1月以来、40年2カ月ぶりの高い伸び。ロシアのウクライナ侵攻に伴う原油などエネルギー高騰も背景に、上昇は前月(6.3%)から一段と加速した。エネルギー関連は33.9%上昇と、前月(25.7%上昇)から伸びが拡大した。一方、価格変動の大きい食品とエネルギーを除いたコア指数は5.2%上昇で、前月(5.3%上昇)から小幅減速。ただ、依然として高水準にあり、幅広い分野での価格上昇圧力が示された。
米国では、新型コロナウイルス危機からの力強い景気回復を受けて急増する需要に、供給が対応できない状況だ。人手不足も重なり、著しい物価上昇を招いた。ウクライナ危機による資源高や供給制約も物価をさらに押し上げる恐れがある。
PCE物価指数の上昇率は、中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)が目標とする2%を大きく上回って推移している。FRBは経済や社会における高インフレ定着を防ぐため、5月3、4日の金融政策会合で0.5%の大幅利上げに踏み切るとの観測が強まっている。
コロナ禍によるサプライチェーンの寸断修復には時間がかかるうえ、ウクライナ事変による対ロシア経済制裁では米欧日諸国陣営は(中心はディープ・ステート傘下の米英両国)「コモディティ」小国(注:シェールガスの埋蔵量は1位が中国、2位がアルゼンチン、3位がアルジェリア、米国は4位。ロシアは9位=https://emira-t.jp/keyword/191/=ただし、コストの問題がなお残っている)であるため、石油・天然ガス・金など貴金属・IT産業に必要な希少金属など資源価格インフレ(コストプッシュ・インフレ)に直撃される。このため、ブレトンウッズ2(ドル基軸管理通貨国際決済システム)の中心国である米国では今後、急ピッチで政策金利(フェデラルファンド・レート)が引き上げられることになる。なお、NATOの出方によっては第三次世界大戦の可能性も考慮しておく必要がある。その場合は、資源価格インフレは最悪の状況になることを覚悟しなければならない。
米国の10年物国債金利など債券の長期金利はFRSがコントロールすることは基本的にはできない。不正なQT(Quantitative Tightening=量的金融引き締め=、米国連邦準備銀行と金融機関との帳簿上だけでの債権債務の帳消しにして、実際はFRSは金融・資本市場から大量に供給した貨幣=紙幣=は吸収しない)を行った上で、国債や債券など証券価格が暴落しないように隠れQE(Quantitative Easying=量的金融緩和=金融・資本市場)をこっそり行うなどの不正行為はそのうちできなくなる。
同じ29日には、ニューヨーク株式市場は、IT大手アマゾンの業績悪化をきっかけに企業業績の先行きへの懸念が高まり、ダウ平均株価は一時、1000ドルを超える急落となり、結局、前日比939.18ドル安い3万2977.21ドルで引けた、などと報道された(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220430/k10013606301000.html)が、個人消費支出価格指数(PCE)との関連しての報道ではない。米国企業の業績悪化は今後、FRSが強力な金融引き締め政策を行うことが予想されているのが原因だ。米国そして対米隷属の欧日諸国陣営では金融・資本市場は不安定な動きが続いており、日本では為替市場でも円が急落(実質実行為替相場で言えば暴落)している。日本では資源価格インフレ、急激な円安によるインフレを克服できずにいずれ、自公政権が太平洋戦争直後に行われた「デノミ実施と預金封鎖」を強行するとの予測も出ている(植草一秀氏の最新刊「日本経済の黒い霧ーウクライナ戦乱と資源価格インフレ」、大増刷決定済み)。
詰まるところ、米欧日諸国陣営は今後、金融資本為替市場、実体経済で修羅場を迎えることになる。ただし、ウクライナ事変が起きる前から米欧日諸国陣営は弱肉強食の新自由主義政策を採り、QEを続けて証券価格のバブルを引き起こしていたから、金融・資本市場、実体経済が修羅場を迎えることにはなっていた。これに拍車をかけたのが、ウクライナ事変だ。ディープ・ステート(DS=闇の帝国:軍産複合体と多国籍金融資本・企業=)の中核である米英両国が仕掛けたウクライナ事変には米英側に大義はないから、天輪(天の法度、「天網恢恢疎にして漏らさず」)から言っても金融・資本市場、実態経済が修羅場を迎えることは必至だ。
ウクライナ市民を犠牲にする大義のない米欧日諸国陣営の同国軍事支援
米英のディープ・ステート(DS)は傘下のマスメディアを使って、「プーチン大統領戦争犯罪者・極悪人」説を毎日、これでもか、これでもかと言うほど垂れ流している。この垂れ流し報道に抗して、国際情勢解説者の田中宇(さかい)氏はウクライナ事変の深層・真相を投稿し続けておられる。なお、深層・真相を追求し、公開するものは「陰謀論者」として非難され、言論が抑圧される。戦後の「マッカーシズム(ただし、ロシアはもはや共産主義国家ではない)」が欧米日諸国陣営側を覆っている。
弱すぎて話にならなかったウクライナの国防軍に対して、米国を盟主とする北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国が、ウクライナに根付くネオ・ナチ勢力に対して高性能軍事兵器の供与と軍事訓練を行って「民兵部隊」から「正規軍化」してきたことを詳細に解説した最新解説記事の「ウクライナ戦争で最も悪いのは米英」(29日公開:無料記事)(https://tanakanews.com/220429baud.htm)もそのひとつだ。重要な箇所をいくつか引用させていただきたい。結論は、トップページに記載の次の内容だ。
米英は、ごろつきだったウクライナの極右ネオナチの人々を集めて訓練して武装させ、ウクライナ人だけでは足りないので欧米諸国からも募集して合流させた。米英は、極右やネオナチを集めて民兵団を作り、8年間にわたってロシア系住民を虐殺させた。米英の行為は(注:イラク侵略戦争などと同様に)極悪な戦争犯罪である。米英がウクライナに作って育て、親露派を虐殺し続けた極右ネオナチの民兵団を潰すのが、今回のロシアのウクライナ攻撃の目標の一つである「ウクライナの非ナチ化」になっている。正当な目標だ。ウクライナ戦争はロシアにとって正当防衛だ。
田中氏はNATOの要員として2014年以降にウクライナ軍のテコ入れ策を担当していたスイス軍の元情報将校ジャック・ボー氏がネットに公開した情報をもとに、本文で「ウクライナ戦争で最も悪いのは米英」であることを詳細に解説している。
- (注:士気が極めて低く、戦闘能力もなかった国防軍が)親露派民兵団やロシア側に対抗できる兵力を急いで持つことを米英から要請されていたウクライナ政府(注:米国の傀儡政権)は、政府軍の改善をあきらめ、代替策として、ウクライナ国内と、NATO加盟国など19の欧米諸国から極右・ネオナチの人々を傭兵として集め、NATO諸国の軍が彼らに軍事訓練をほどこし、政府軍を補佐する民兵団を作ることにした(注:ウクライナは暴力革命によって帝政ロシアを打倒したボリシェビキによってソ連に併合されたが、ボリシェビキにはレーニンなどユダヤ系の勢力が多く、ウクライナには反ユダヤの思想が根強かった)。極右民兵団の幹部たちは、英国のサンドハースト王立士官学校などで訓練を受けた。民兵団は国防省の傘下でなく、内務省傘下の国家警備隊の一部として作られた。ボーによると、2020年時点でこの民兵団は10万2千人の民兵を擁し、政府軍と合わせたウクライナの軍事勢力の4割の兵力を持つに至っている。ウクライナ内務省傘下の極右民兵団はいくつかあるが、最も有名なのが今回の戦争でマリウポリなどで住民を「人間の盾」にして立てこもって露軍に抵抗した「アゾフ大隊」だ(注:この民兵団がウクライナの実質的な正規軍の中核になっており、いかなる行為も厭わない)。(中略)
- アゾフ大隊など(注:ネオ・ナチ)極右民兵団は、2014年の米英による極右政権への転換(注:2014年2月のマイダン暴力革命)後、ウクライナ国内のユダヤ敵視の流れに沿って、米英の動きと関係なく形成されたように最近の米国側のマスコミでは描かれている。しかし実のところ極右民兵団は、米英などNATO諸国が、ウクライナの親露派を攻撃するウクライナ軍を強化するために、ウクライナにもともといた(注:ネオ・ナチ)極右に加えて、欧米諸国から極右ネオナチ勢力を傭兵として募集して人数を増やし、NATO諸国が軍資金を出して訓練をほどこして養成したものだ。政権転覆直後という時期的な一致から考えて、ウクライナの極右民兵団を創設・出資・養成した黒幕は米英だった可能性が高い。ボーの説明からそれが読み取れる。 (ウクライナで妄想し負けていく米欧)(中略)
- なぜ米英はウクライナを傀儡化して親露派を殺す内戦をやらせたのか。親露派はウクライナ国内での自治の復活を求めていただけで、米英にとって何ら脅威でなかった。米英はウクライナに傀儡政権を作って親露派が2012年から持っていた自治を剥奪し、親露派が怒って分離独立を宣言すると極右民兵団を作って親露派を殺す内戦を起こした。なぜこんなことをしたのか。おそらく、ロシアを怒らせ、親露派を守ってやらねばという気にさせて、露軍をウクライナに侵攻させるためだろう。露軍がウクライナに侵攻したら、米英はロシアを経済制裁する口実ができる。米欧とロシア(露中)が鋭く対立し続け、ロシアや中国を弱体化する新冷戦体制を作れる。米英は今回の戦争をロシアに起こさせるために、8年前にウクライナの政権を転覆したことになる。(中略)
- ボーも、米国がウクライナに介入するのはウクライナを守るためでなく、ウクライナを傀儡化してロシア(国内親露派)にかみつかせ、ロシアを怒らせてウクライナ侵攻させることが目的だった、と指摘している。しかし、プーチンのロシアはなかなかウクライナに侵攻しなかった。ロシアは当初、ウクライナ内戦を停戦させる交渉の参加者にもならなかった。最初の停戦協議であるミンスク合意は、プーチンの盟友(子分)であるベラルーシのルカシェンコ大統領によるお膳立てで進められ、ウクライナ政府が、国内の親露派(ドンバスの民兵団)から剥奪した自治権を戻すことでいったん合意した。ロシアは、ドンバスが自治を再獲得してウクライナ領内にとどまることを望んでいた。しかし、米英傀儡のウクライナ政府は合意を履行せず、ドンバスの内戦は続いた。2015年に仏独がロシアを誘ってミンスク合意の交渉に参加し、仏独露が参加したことで合意は「ミンスク2」に再編されたが、それでもウクライナ政府はドンバスに自治を再付与せず、内戦が続いた。 (ウクライナ再停戦の経緯)(中略)
- ウクライナ政府に内戦を終わらせて親露派に自治を再付与させるというロシア側の希望が潰えたのは昨年(2021年)3月、ゼレンスキー大統領が、ロシアに奪われたクリミアを軍事的に再征服する法律に署名し、その法律を根拠として、ウクライナ軍が南部のドンバスとの境界の近くに兵器を蓄積する動きを始めた時だった。このウクライナの新戦略は、米国のランド研究所が2019年に作った、ウクライナに兵器を支援してロシアと長い戦争を戦わせる戦略に沿った動きだった。昨年秋になると米国側が「いつロシア軍がウクライナに侵攻してもおかしくない」と言い出すようになった。そして、今年2月16日、ウクライナ軍が蓄積した兵器を使って、それまでの30倍の激しさでドンバスを攻撃し始めた。その後、激しい猛攻撃が連日続いた。米バイデン大統領は2月11日から「間もなくロシアがウクライナを侵攻する」と言っており、2月16日からのウクライナ軍のドンバスへの猛攻撃は、露軍の侵攻を誘発したい米国の指示で行われた可能性が高い。 (ロシアがウクライナ東部2州を併合しそう) (ロシアは正義のためにウクライナに侵攻するかも)
- (注:その後の今年2022年2月14日にロシア議会がドンバス、ルガンスク両州が望むウクライナからの分離独立をロシアが承認することを決議し、2月22日にプーチンが署名して、ロシアと東部ドンバス地方のドネツク、ルガンスク両自治共和国が安保条約を結び、ウクライナ軍から猛攻撃を受け続けるドンバスが2月23日にロシアに軍事支援を依頼し、新条約に沿って2月24日に露軍がウクライナに侵攻=特殊作戦=を開始したが)露軍はドンバス周辺だけでなく、キエフなど他の地域にも侵攻し、ウクライナ全体の制空権を奪取した。ドンバスを守るならもっと小規模に、ドンバスだけに侵攻するのでも良かったはずだが、露軍は大胆に、ウクライナ全体を作戦の対象にした。その理由についてボーは「露の進軍先がドンバスだけだったとしても、手ぐすね引いて待っていた米国は、ロシアを過激に全面的に経済制裁したはずだ。それならドンバスにとって脅威になるウクライナ側の軍事施設を全て破壊した方が良いとプーチンは考え、広範な攻撃に踏み切った」という趣旨の分析をしている。 (US, EU Sacrificing Ukraine To “Weaken Russia”: Former NATO Adviser)
- 私自身は、この要素に加えて、米国側の対露経済制裁がロシアでなく米国側の経済を破壊することになる特性が勘案されたのでないかと考えている。露軍のウクライナ攻撃が広範なものであるほど、米国側は激怒し衝撃を受けてロシアを過激に経済制裁し、その後の米国側の経済的な自滅もすごいものになる。米国側の経済自滅をすごいものにするために、プーチンは米国側をできるだけ激怒させる広範な攻撃をウクライナに行ったのだろう。 (優勢なロシア、行き詰まる米欧、多極化する世界) (ドルを否定し、金・資源本位制になるロシア)
米英のディープ・ステート(DS)側はウクライナの国民(市民)を犠牲にしてロシアにウクライナへの「軍事進攻」を行わせるように仕向けたが、プーチン大統領はそれを見越したうえで、さらに米国中心の国際経済体制(中核はドル基軸通貨による国際決済システム=ブレトンウッズ2=)を破綻させ、石油・天然ガス・金など貴金属・IT産業に必要な希少金属などの天然資源や穀物に裏付けられた通貨(バスケット通貨や国際通貨基金のSDR=特別引き出し権、出資額に応じて加盟各国の通貨を取得できる権利=相当の仕組みを含む)による新たな国際決済システムを創出することをというわけだ。
NATOの元情報将校ジャック・ボー氏や田中氏の見立ては恐らく正しいだろう。プーチン大統領が天然ガスの決済についてルーブル建てにすることを求め、ルーブルで支払わなければ天然ガスの供給を止めると言明したことや、今年11月にインドネシアのジョコ大統領を通して同国のバリ島で開かれる予定のG20首脳会議に参加すると伝えた(ウクライナ事変が11月までに終了するとは断言できない)ことは、プーチン大統領が他のコモディティ大国とともにブレトンウッズ3の構築を目指していることを象徴する証左だろう。
ウクライナ事変を正当に評価できるようになるためには本来ならロシア革命まで遡らなければならない。米英のディープ・ステート(DS)傘下のマスメディアが垂れ流す情報をうのみにしていては、深層・真相は分からない。サイト管理者(筆者)も首都圏の街頭で立憲民主党などが「ウクライナ支援募金」を募っている活動に出くわしたが、れいわ新選組を除いた野党側(日本維新の会と国民民主党は除く)に真実を知ろうとする努力がなければ、参院補選や夏の産院本選で決定的な敗北を被るだろう。