新年以降の展望―天皇制官僚支配新自由主義と共生共栄友愛主義の闘い【加筆】

2013年の大納会の平均株価の終値は、前週末比112円37銭(0.69%)高の1万6291円31銭となり、7営業日連続で年初来高値を更新、大発会の1万688円11銭に比べて年間で52%上昇した。同日の東証大納会では、安倍晋三首相が「アベノミクスは買い」と得意満面だったが、何のことはない。本当のところは、米国の長期金利高➤ドル高・円安➤日本株高の図式であり、「米国に支えられた」だけのことである。

米国の長期金利高は、ベン・バーナンキ議長率いる連邦準備制度理事会(FRB)の量的金融緩和政策に限界が来たからだ。同国は月に850億ドル、つまり、年間1兆ドルのドル紙幣を、既発米国債を始めとした証券と交換に、市中金融機関に流した。つまり、「ヘリコプター・マネーのベン」の異名通りの政策を実施したのであるが、マネタリーベース(ドル紙幣の量)を激増させても市中のマネーサプライ(主として企業の設備投資など実体経済に使われるカネ)は増加せず、米国経済は好転していない。

その象徴は、米国の労働者が求職を諦め、労働市場から撤退しても(失業率を計算するための分母=労働人口=が縮小しても)失業率がなお7%から下がらないことである。経済政策の究極の目標である完全雇用からほど遠いのが、偽らざる米国経済の姿である。また、FRBは米国政府が発行した既発債を大量に購入しており、それだけでドルの信用は怪しいが、巨額の財政赤字をファイナンする(債務不履行を回避する)ため、市中金融機関を迂回した直接の引き受けに踏み切る可能性もある。「月刊日本」の1月号によると、米国内では大量の債務を抱えている私企業群であるFRBシステム倒産派が台頭しているという。

なお、米国の「シェールガス革命」なるものも、人間の生命を支える水を汚染することが明らかになり、全く期待できないものであることが次第に明白になってきた(副島隆彦著「帝国の逆襲―金とドル 最後の闘い」)。

なお、副島氏の「帝国の逆襲」によると、米国の連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長と、副議長または理事に内定している、それぞれジャネット・イエレン女史とラエル・ブレイナード女史(米国の三つ子の赤字で精神病に陥ったとの噂が絶えないガートナー財務長官の代役を務めた財務次官)の壮絶な闘いが、世界の経済の真の舞台になるとのことである。イエレン次期FRB議長は量的金融緩和を縮小すると言ったり、継続すると言ったりして、市場参加者を巧みに誘導しようとするだろうが、ブレイナード女史は「豪速球」を投げてくると思われる。

YELLEN Brainard

このため、米国ではハイパー・スタグフレーションの恐れが生じ、長期金利(10年物国債)が2012年の7月に1・38%の大底をつけたのち、ジワジワ上昇してきた。2013年12月末には3%程度まで上昇している。この米国の長期金利の上昇と黒岩日銀の「異次元金融緩和」(掛け声だけだが、実態は近隣窮乏化政策)で日米の長期金利差が拡大。これがドル高・円安をもたらして、日本の平均株価の上昇に連動しただけに過ぎない。

なお、安倍政権は2014年4月から消費税率を引き上げるために見かけの景気を良くせざるを得なかったため、総額13兆円規模の平成24年度補正予算を編成し、4―6月期に執行した。これも多少は株高に役だった。といっても、自民党お得意の利権バラマキ型の公共事業実施であり、日本に真に必要な社会的共通資本の拡充とはほど遠い。そんなカネがあるなら、東電を法的整理して福島第一原発事故対策に充てるべきであった。

本サイトでは2014年4月からの消費税大増税(8兆円規模)に加え、平成25年度での平成24年度補正予算の執行が26年度に裏目(13兆円規模の有効需要の消失)に出ることや、国民に対する復興特別増税、各種社会保険料の引き上げなど社会保障負担の増大(8兆円規模)などで30兆円規模のデフレ財政が組まれることを指摘してきた。安倍政権が6兆円程度の経済対策を打ったとしても、ネットで25兆円規模(対国内総生産比で5%規模)の壮大なデフレ財政が組まれる。

従って、植草氏が最新著「日本経済撃墜―恐怖の政策逆噴射」で指摘しているように、2014年度の日本経済はデフレ不況が一段と深刻化する。これに、「ドルと金との闘いで最終的に金が勝つ」(副島氏)ことが加わり、世界は終末・末法の時代(マックス・ウェーバー的に言えば、文明の大転換期)に本格突入する。2014年から2016年にかけて、予想もしないことが起こるだろう。

なお、植草氏は同著で安倍首相が同氏の提言を受け入れて「恐怖の逆噴射政策」を実行せず、また、米国の金融クライシスが勃発しないという前提の下で、平均株価は2万1870円まで上昇する、つまり、2万円を突破するとの見通しを示している(147頁)。しかし、天皇制官僚支配新自由主義体制の樹立を目指している安倍政権の下ではそうはならないだろう。

【参考】植草氏の予測手法
極めてオーソドックスなもので、株式益利回り(株価収益率の逆数)と債券利回り(10年物国債利回り)の差の適正水準を経験的に3%とすることから始まる。株価よりも金利が当てになるが、長期金利は1%程度と見て株式益利回りは4%。だから、株価収益率(PER)は25倍。2013年10月13日の平均株価の終値は1万4426円であり、予想株価収益率は16.49倍だったから(日経新聞マネー欄)1万4426×25倍÷16.49倍=2万1870円。

植草氏は基本的にこの手法で前著「金利・為替・株価大躍動」で平均株価が1万6000円程度まで上昇することを予測した。2013年1月13日時点では平均株価は1万801円、債券金利が0.8%。これからすると、妥当な株式益利回りは3.8%。これを株価収益率になおすと、100÷3.8=26.3倍。同日の予想株価収益率は17.88倍と低かったから、1万801×26.3倍÷17.88倍=1万5877円となる。実際の平均株価は5月22日に1万5627円まで上昇したあと、大暴落した。その後は、米国の長期金利上昇に伴うドル高・円安で持ち直してきた。もともとアベノミクス効果というものは、なかったのである。

安倍政権が積極財政(5年間200兆円)+財源捻出のための第一時財政構造改革(特別会計の解体的改革とシロアリ退治)+長期金利上昇を抑制するための金融支援政策+救米政策➤景気浮揚➤税収増加➤第二次財政構造改革(財政再建)に踏み切れば、植草氏の予測は的中すると思うが、安倍晋三首相に期待するのは、「無いものねだり」に等しい。

新年以降、日本が対米隷属天皇制官僚支配新自由主義体制と共生共栄友愛社会体制の壮絶な闘いが繰り広げられる。

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新年の要注意の課題としては、①消費税大増税に伴う大逆噴射政策②米国の三つ子の赤字(巨額の財政赤字、大幅な経常赤字、世界最大の対外純債務)と量的金融緩和政策の失敗に伴うドルへの不信拡大➤金融クライシス(債券価格、株価、為替のトリプル安➤トリプル暴落)③米国の軍産複合体(50兆円規模の「産業群」)を維持するための中東、朝鮮半島での戦争勃発④シャドー・バンキング問題に端を発しているチャイナ・リスク―などがある。

ただし、植草氏によると、上海総合株価指数の先行指標であるPMI指数に底入れの気配が出ており、新年の中国経済は底入れするとの見通しだが、サイト管理者も支持したい。中国経済のフトコロは深い。政治の安定、共産党幹部の汚職の一掃、貧富の格差の縮小、日本の技術導入による環境汚染問題の解決に向けての取り組みなどが効を奏すれば、安定成長期道に乗ることも考えられる。

ちなみに、「金持ちのスマートフォン」と言われるアップルのiPhoneは中国で組み立てられている。「貧乏人のスマートフォン」と言われてきたAndroid搭載スマホは中身が公開されているため、世界中で製造されているが、韓国のサムソン、ラッキー金星が最大手である。コンピューターの心臓部分であるマザーボードは中国―台湾連合軍で製造されており、日本の出る幕は全くない。

【補論1】妥当な株価収益率(PER)について
植草一秀氏の「日本経済撃墜ー恐怖の政策逆噴射」は安倍晋三政権のマクロ、ミクロの経済政策に対する評価ははもちろん、政治、外交、安保、国際情勢に関する洞察も鋭い。サイト管理者にとっても大変勉強させていただいたが、株式投資家にとっても必読の書だ。はっきり言って、株式投資で成功するには、これらすべてに精通していることが不可欠だからである。

それはさておき、第4章の「続 最強・常勝の極意」はサイト管理者にとって新鮮な内容であった。そこで、同書をもとに、妥当な株価収益率(PER)について考えてみたい。株式に対して、国債に代表される債券への投資はより安全だとされる。投資家にとって重要なのは投資収益率であるから、債券の利回りと株式への投資の利回りー株式益利回りーの比較が最も重要になる。そこで一般論として、投資家は債券の利回りを上回る株式益利回りを要求する。これがリスクプレミアムと言われるものだ。

リスクプレミアムは一定ではないが、同書では経験的に3%を目安としている。そこで、仮に経済が中期的に安定的に推移するとして、日米の長期金利をそれぞれ1%、3%とすると、これにリスクプレミアムの3%を加えた4%と7%が、両国での妥当な株式益利回り(1株に投資した時に得られる利益)ということになる。株価収益率というのは、株価が1株あたりの収益の何倍になるかをしめすものだから、株式益利回りの逆数ということになる。そこで、日米両国の妥当な株価収益率(PER)は100÷4,100÷7のそれぞれ25倍、14倍ということになる。

そこで、現在のPERを調べてみると、下図を提示しているサイトがあった。

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平均株価、ダウ平均ともにもう少しの上昇余地がありそうではある。ただし、上の考えは経済が安定的に推移するとの前提である。長期金利やリスクプレミアムは「異変」(多くの投資家が美人と思っている人物が実は美人ではなかった)が起きると急騰する。サイト管理者は、新自由主義に基づく「量的金融緩和政策」と称する各国紙幣の増刷、バラマキは現代の管理通貨制度を根本から破壊するものだと認識しているから、異変は起きうると予測している。特に基軸通貨とされるドルにその傾向が強い。そのことを強調しているのが副島隆彦氏の「帝国の逆襲ー金とドル最後の闘い」だと思われる。

新年の2014年以降、ドルに対する市場の不安と不信が強くなり、米国の最高首脳がいくら金を殺そうとしても金は殺されない。逆に、ドルは金との闘いに負けるーこれが、副島氏の新著の結論であると思われる。この見立ては、妥当だろう。サイト管理者は世界は激動期を迎えると予測している。

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なお、米国の経常赤字はリーマンショック前に8000億ドルに近づき、リーマン・ショック以降は景気の大幅悪化による輸入の激減で半減したがそれでも4000億ドル超の赤字が続き、2013年は前年の4404億ドルより拡大する見通しである。これを受けて、経常赤字の累積である対外純債務残高は拡大の一途だ。三菱総研は、2013年2012年10月のマンスリー・レビューでこのことを明らかにしている。

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