ベラルーシへの亡命で「プリコジンの反乱」は終息ープーチン政権の「ウクライナ戦争長期化」の意図を見抜けなかったか(追記:プーチン政権の公式見解)

民間軍事会社(PMC)ワグネルを創設したエフゲニー・プリコジン氏がベラルーシーのルカチェンコ大統領の説得で同国に亡命し、プーチン政権もプリコジンを「謀反」の罪で刑事訴追しないことで、「プリコジンの反乱」は終息した。ウクライナ戦争は既にロシア側の勝利が確定しているが、米側陣営(欧米文明)を打倒するためのプーチン政権(並びに中国など非米側陣営)のウクライナ戦争の長期化という戦略目標に、プリコジン氏の理解が足りなかったことが、「プリコジンの反乱」の原因ではないかと思われる。

「プリコジンの乱」についてー「ウクライナ戦争長期化」の政治的理解の程度の差か

国際情勢解説者の田中宇氏は昨日6月25日の日曜日に急遽、「プリコジンの反乱(謀反)」についての解説記事「ロシアでワグネル反乱の意味」(https://tanakanews.com/230625russia.htm、無料記事)を投稿・公開した。田中氏は次のように述べている。

プーチンの露政府はウクライナ戦争を低強度の膠着状態でずっと続けることをひそかな戦略にしている。ウクライナ戦争が長期化するほど、中国サウジなど非米諸国が結束を強めてロシアを支持し、非米側が石油ガスなど世界の資源類の大半を持ったまま米国側と対立し、米国側の経済難が資源不足などによって悪化して自滅する傾向が強まるからだ。米国側も、覇権運営を牛耳っているのが隠れ多極派なので、ウクライナ戦争を長引かせて米覇権を自滅させたい。米露の両方が、ウクライナ戦争が低強度・膠着状態でずっと続くよう画策してきた(注:隠れ多極派は米国はもはや単独覇権国家として存続できる能力を持ち合わせていないといする米国ディープ・ステートの支配勢力)。
ウクライナ戦争体制の恒久化
プーチンの偽悪戦略に乗せられた人類

露政府は国軍の犠牲を減らすため、膠着状態での戦闘をワグネルに任せる傾向が強くなった。ワグネルのプリゴジンは今年3月ごろから、露側はウクライナ軍を決定的な敗北に追い込めるのだから早く完勝して勝利宣言してこの戦争を終わらせるべきだと繰り返し表明し、それを無視する露政府を非難するようになった。
プリゴジンはプーチンと同じサンクトペテルブルグ出身で、プーチンがサンクト市役所の幹部だった1990年代から親しかった。プーチンは露諜報界(FSB)の人であり、プリゴジンも諜報界と連携しながらワグネルを運営してきた(と米国側が言っている)。それならプリゴジンは、ウクライナ戦争を長期化してロシアを台頭・繁栄させたいプーチンの策を知っているはずだし賛成のはずだ。
Yevgeny Prigozhin From Wikipedia

私はそう推測したのだが、実際のプリゴジンはそうでなかった。ワグネルが、ウクライナ戦争の最後の激戦地といわれたバフムト(アルティモフスク)をほぼ占領して勝利が見えた4月下旬、プリゴジンは、ウクライナ軍は弱体化しているのでもう大してドンバスを攻撃できない、露側はすでにこの戦争(特殊作戦)に勝っている、早く勝利宣言してドンバスの再建に注力すべきなのに露政府が聞いてくれないのはダメだ、などと宣言した。だが露政府はプリゴジンの要請を聞かず、むしろ勝ちそうなバフムトから政府軍を撤退させたり、ワグネルへの弾薬供給を止めたりして苦戦するように仕向けたりした。プリゴジンが怒ったので露政府は数日後にワグネルの弾薬供給を再開した。
決着ついたウクライナ戦争。今後どうなる?
Prigozhin erupts: Has a Russian succession struggle begun?

プリゴジンは政府の対応に怒りつつも、ワグネルだけでバフムトの攻略を続け、5月20日に完全に陥落(解放)した。これにより、露側はドンバスからウクライナ軍を掃討する戦闘を終了した。その後、ウクライナは米国に加圧されて露側に対する反攻を6月5日に開始した。だがそれも、ワグネルと露政府軍の反撃によって3日間で撃破され、ウクライナの敗北で終わった。ウクライナの戦場における露側の勝利は確定・不可逆的になった。
それでもプーチンの露政府は戦争の勝利や終結を宣言しなかった。米国側もウクライナの負けを認めなかったので、その後もウクライナでの戦闘が決着つかずに続いているかのような様相が世界に喧伝され続けている。
Top Russian general sends message to ’mutinous’ Wagner PMC
決着ついたが終わらないウクライナ戦争

真相はまだやぶの中だが、この米側陣営(欧米文明)の終焉を誘うためのウクライナ戦争の「(政治的な)長期化」についての理解が、プリコジン氏に欠けていたのではないか。田中氏は次のように結論づけている。

プリゴジンは、軍勢を引き連れてモスクワまで行ってプーチンに会い、ウクライナ戦争の終結・勝利宣言をしてもらおうとした。だが、この動きはプーチンや露政府から見ると、政府が決めた方針に従わず軍事力で首都を乗っ取ろうとする「反逆」や「クーデター」になる。プーチンはプリゴジンが反逆罪を犯したと宣言し、政府軍がワグネルと戦って掃討する姿勢を見せた。プリゴジンとワグネルがそのままモスクワに向かうと、露軍との内戦になってしまう。それはプリゴジンにとっても望むことでなかった。
プーチンとブリゴジンの両方と親しかったベラルーシのルカシェンコ大統領が仲裁に入り、6月24日になってブリゴジンはモスクワに向かうことをやめてベラルーシに事実上亡命し、その代わり露政府はプリゴジンを訴追しないことで話がまとまった。内戦は回避された。
Wagner’s Prigozhin Halts Advance on Moscow

プリゴジンは、ウクライナ戦争を長期化することがロシアの国益と敵である米欧の自滅になるというプーチンの策略を知らなかったのか。そんなことはない。ワグネルは露軍の代理・隠密部隊として、アフリカやシリアにも派兵されてきた。ワグネルを動かしてきたプリゴジンは、ロシアの世界戦略に参加しており、ウクライナ戦争を長期化するとロシアが得して米欧が自滅するというプーチンの世界戦略を知っていたはずだ。
もしくは、プリゴジンはプーチンの戦略を知っていたけど反対だったのか。そのあたりの実態はわからない。プリゴジンはルカシェンコに説得されて反逆(強硬な政府説得策)を中止した。ウクライナ戦争を長期化してロシアと非米側全体の繁栄と強化、米国側の覇権崩壊につなげるプーチン(と米隠れ多極派)の策略は今後も続くことになった。

田中氏は、「プリゴジンはプーチンの戦略を知っていたけど反対だったのか。そのあたりの実態はわからない」とされているが、ワグネルはあくまでも民間軍事会社(PMC)である。ロシアやウクライナの東武ドンバス地方の囚人が「会社員(戦闘要員)」になっている民間会社だから、短期的な利益を求める傾向が強いと思われる。だから、プーチン政権の長期戦略を知りながらも、短期的な利益を優先したのではないかと思われる。

米側陣営(欧米文明)のメディアはプリコジン氏が行方不明だとプーチン政権の危機のように(面白おかしく)報道しているが、ワグネルのウクライナ戦争での貢献は非常に大きい。プーチン政権とルカチェンコ政権は妥当な処遇をするだろう。プーチン大統領は「裏切りだ」と言ったと伝えられているが、内戦を望んでいないワグネル氏に対して「内戦を回避する」ための発言だった可能性がある。また、NHKは「ロシア大統領府『誰も罪に問われないだろう』」https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230624/k10014108141000.html)とのプーチン政権の公式見解を報じている。

ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏は首都モスクワに向かわせているとしていた部隊について流血の事態を避けるためだとして引き返させていると主張しました。

プーチン大統領とプリコジン氏

NHKはまた次のようにも報道している(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230627/k10014110291000.html)。これは信じて良いだろう。

プーチン大統領 ワグネル戦闘員に国防省と契約結ぶ選択肢

ロシアのプーチン大統領は、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏による武装反乱を激しく非難する一方、ワグネルの戦闘員たちに対しては兵士として国防省との契約を結ぶ選択肢を示すとともに、同盟関係にある隣国ベラルーシに行けば、安全を保証すると主張しました。
ロシア国営テレビは、26日夜、日本時間の27日4時すぎから、プーチン大統領の演説を放送しました。このなかでプーチン大統領は、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表、プリゴジン氏による武装反乱を念頭に「武装反乱はいかなる場合でも鎮圧される。反乱を組織した者たちは、国や国民を裏切り、犯罪に引きずり込んだ者も裏切った」と激しく非難しました。

一方で、ワグネルの部隊が一転して撤退したことに対し「唯一正しい決断を下したワグネルの兵士たちに感謝する。流血には至らず、最後の一線で立ち止まった」と述べました。そのうえで、ワグネルの戦闘員たちに対し「国防省やほかの機関と契約を結ぶことでロシアに奉仕し続ける機会や、家族のもとに戻る機会もある。望む人は、ベラルーシに行くことができる。私との約束は果たされる」と述べ、兵士として国防省との契約を結ぶ選択肢を示すとともに、同盟関係にある隣国ベラルーシに行けば、ワグネルの戦闘員の安全を保証すると主張しました。

そして今回の武装反乱をめぐって、プーチン政権とプリゴジン氏との仲介役を担ったとされるベラルーシのルカシェンコ大統領に対し、「平和的な解決への努力と貢献に感謝する」と述べ、謝意を示しました。
また、プーチン大統領は、「ロシアの敵であるウクライナのネオナチやこれを支援する西側諸国などが望んでいたのは、ロシア兵が互いに殺し合い、最終的にはロシアが負け、われわれの社会が分裂することだった」などと主張し、ウクライナや欧米側を強くけん制しました。

局のところは、次のようになるだろう。

プリゴジンは、ウクライナ戦争を長期化することがロシアの国益と敵である米欧の自滅になるというプーチンの策略を知らなかったのか。そんなことはない。もしくは、プリゴジンはプーチンの戦略を知っていたけど反対だったのか。実態はわからない。プリゴジンは、ルカシェンコに説得されて反逆(強硬な政府説得策)を中止した。ウクライナ戦争を長期化してロシアと非米側全体の繁栄と強化、米国側の覇権崩壊につなげるプーチン(と米隠れ多極派)の策略は今後も続くことになった。



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