菅義偉官房長官が2015年8月4日午前、「普天間基地の辺野古移設作業を10日から9月9日まで中断する」と発表した。しかし、辺野古への軍事基地建設に変わりはないとしていることから、政治的意図が見え見えだ。要するに憲法違反であることはもちろん、法律効果(武力行使)に至るための法律要件(存立危機事態の概念)が極めて曖昧であり法律案としての体をなしていないことから、国民大多数の批判を浴びている「安全保障関連法案=戦争法案」を何がなんでも今国会で成立させるためである。
そのためには、今月8月に予定していた本体工事(基地建設工事)を強行して、内閣の支持率がさらに低下、戦争法案の成立に「悪影響」が及ぶことを避けたい、ということである。ただし、翁長雄志知事は「休戦中」は仲井真前裏切り沖縄知事の辺野古埋立工事(海兵隊用軍事基地建設工事)承認の「撤回・取り消し」も行わないとしている。以下に掲げるように、沖縄県の地元二紙の琉球新報と沖縄タイムズは今ごろではあるが、安倍政権が承認の「取り消し・撤回」を恐れていることを指摘、休戦が茶番劇であることを前提に、「取り消し・撤回」を求めている。
翁長雄志知事がサボタージュを続けていることは明らかだが、百歩譲るとして、安倍政権が辺野古への軍事基地建設を断念しない場合は、埋立作業の「撤回・取り消し」を行うと宣言してから交渉に臨むべきである。同知事にはしかし、そういう考えはないから「戦争法案」強行可決・成立に直接的に協力することになる。「木はその実にてより知るべし」(マタイによる福音書)。
以下、沖縄二紙の2015年8月5日の社説を引用させていただく。
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●琉球新報社説「新基地集中協議 政治利用許されない 決裂なら承認取り消しを」
菅義偉官房長官が米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に伴う新基地建設工事を10日から9月9日までの1カ月間停止し、県と集中的に協議すると発表した。ここにきて政府が協議の場を設けたのは、翁長雄志知事が埋め立て承認取り消しを検討していることを恐れたからにほかならない。
翁長知事が承認を取り消した後、9月の国連人権理事会本会議で新基地建設の不条理を世界に訴えることは、政府として避けたいということが背景にあろう。政治的な思惑で県との協議を利用することは許されない。政府は協議の場で県と真摯(しんし)に向き合い、民意を直視すべきだ。
政府は建設断念を
考えの異なる者同士の協議では、双方が互いの意見に耳を傾け、妥協点を見いだして結論を出すことが求められる。だが、政府にそのような考えはないようだ。菅官房長官は「普天間の危険除去と辺野古移設に関する政府の考え方や、沖縄県の負担軽減を目に見える形で実現したいという政府の取り組みをあらためて丁寧に説明したい」と述べている。「辺野古が唯一の解決策」との考えに何ら変わりはないということだ。
普天間飛行場は沖縄戦のさなか、住民を収容所に押し込めている間に米軍が無断で建設した。その経緯からしても「新基地は造らせない」とする県に正当性がある。県がこの点で妥協する必要は一切ない。政府が新基地建設を断念するのが筋である。
安倍政権はこの間、「地元に丁寧に説明し、理解を求めながら進める」「沖縄に寄り添う」などと述べてきた。だが、県の工事停止要求や協議呼び掛けを無視し続けてきた。政府がその姿勢を変化させたのは、県と協議することで強権的なイメージを薄めたいとの思惑があろう。安保法案の強硬姿勢で低下した内閣支持率が、新基地本体工事強行でさらに低下することを避ける狙いが透けて見える。新基地建設問題を打開することを主眼に据えているとはとてもいえない。
沖縄はこの時期、台風接近が続くことが予想され、もともと工事はできなくなる。その間を利用して県と協議し、丁寧に説明したとの形を残すことだけが目的だろう。一方で、政府が工事を一時停止し、県と協議せざるを得ない状況に追い込まれたのは、沖縄の強固な民意の存在がある。県民大会などを通して新基地建設の理不尽さを訴えて国民世論を喚起したことが、政府を立ち止まらせる結果につながったともいえよう。
後ろ向き対応に終始
翁長知事は協議の場で「普天間飛行場を辺野古に移設することは不可能であるということをあらためて申し上げたい」と述べている。政府は新基地建設を押し付けるとみられ、協議は平行線をたどることが予想される。前知事の埋め立て承認について検証した第三者委員会は、承認手続きに「瑕疵(かし)が認められる」とする報告書を翁長知事に提出している。たとえ協議が決裂したとしても、翁長知事は粛々と埋め立て承認取り消しといった次の段階に進めばいいだけのことだ。
菅官房長官は県が求めているキャンプ・シュワブ沿岸域の臨時制限区域への立ち入り調査を認める方針を示した。県は2月から調査を求めてきたが、米軍が拒否し、政府もその調整に積極的に協力しなかったため、実現できなかった。工事停止や協議開始、立ち入り調査など県の要求に対し、政府は全て後ろ向きな対応に終始している。今ごろ、調査が認められたからといって政府に感謝するわけにはいかない。ともあれ県はサンゴ破壊の状況を詳細に記録し、政府に問題点を突き付けてほしい。
県には政府を新基地建設断念に追い込むぐらいの決意で協議に臨むことが求められる。民意実現は県政の責務である。
●沖縄タイムズ社説「辺野古1カ月中断」
知事就任以来、4カ月も政府首脳に面会できず、沖縄防衛局のボーリング調査がサンゴ礁を傷つけた恐れがあるとして求めていた立ち入り調査も店(たな)ざらしにされていたのに一体何があったのだろうか。辺野古新基地建設をめぐり、菅義偉官房長官は記者会見で、移設作業を「10日から9月9日までの1カ月間中断する」と発表した。県が2月下旬に米軍に申請していた立ち入り調査も許可されるという。菅氏は「普天間の危険性除去と辺野古移設に関する考え方や負担軽減を実現したいという政府の取り組みを丁寧に説明したい」と語った。
菅氏が発表したのは移設作業の中断であって断念ではない。辺野古に基地を建設する考えは何も変わっていない。この時期に発表した意図はどこにあるのだろうか。官邸は明らかにしていないが、想像できる。衆院で強行採決し、参院で審議中の安保法案をめぐり、安倍内閣の支持率は急落。不支持率が支持率を上回った。翁長雄志知事が第三者委員会の検証結果に基づき辺野古埋め立て承認を取り消し、訴訟に発展すれば政権が打撃を受ける。問答無用の強権的な姿勢があからさまになるからだ。そんな事態を避けたい思惑がありそうだ。
安倍晋三首相は安保法案、原発再稼働、戦後70年談話と厳しい政治日程を抱える。9月には総裁選もある。そんな中で沖縄の声に耳を傾けるという一種のアリバイづくりのようにも見える。政権浮揚のために辺野古を使うのなら沖縄をもてあそぶものである。
菅氏の会見を受け、翁長知事も記者会見し、埋め立て承認の取り消しなど、この間は県としても新たな法的・行政手続きを取らないことを明らかにした。「辺野古への建設は不可能という前提で議論をしていきたい」とのスタンスをあらためて鮮明にした。
菅氏が中断中の集中協議を提案したのは沖縄の声を無視できなくなった側面もある。辺野古では海上と陸上で体を張った反対運動が続く。市町村では「島ぐるみ会議」の結成が相次ぐ。それに県・名護市が加わり、三位一体の抗議活動が継続している。
「辺野古基金」には全国から寄付金が届き、4億円を突破した。世論調査でも全国の6割以上が「工事中止」か「移設断念」を求めるようになるなど変化している。翁長知事は、選挙公約に託された有権者の思いを背負いいささかもぶれることなく協議に臨まなければならない。
概算要求を控える中、集中協議の透明性を高め、県民に疑念を持たれることがないようにしてもらいたい。
第三者委の検証結果が指摘するように政府は埋め立て申請で「なぜ辺野古なのか」「なぜ沖縄なのか」説明していない。沖縄の多くの人が感じている根本的な疑問だ。政府は一度も答えたことがない。日本の安全保障は、過重な基地を負担する沖縄県民の犠牲の上に成り立っている。政府は集中協議の中でその事実に向き合い、辺野古新基地建設を見直して断念へ舵(かじ)を切るきっかけにすべきだ。
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