妥当性欠く「憲法」根拠にした菅政権の日本学術会議会員任命拒否理由ー政権批判勢力の政治的弾圧が狙い(表追記)
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菅政権下の内閣府は6日、憲法を盾に日本学術会員について「(同会議の)推薦通りに)任命する義務はない」とする「2018年11月13日付け」の内部文書を公開した。しかし、加藤勝信官房長官は法解は変更していないとの姿勢を崩しておらず、このことからすると1983年の「政府の任命は形式的なもの」とする中曽根康弘首相(当時)の答弁との整合性が取れていないことなど、問題だらけだ。やはり、政権批判勢力の政治的弾圧が今回の同会員任命拒否の狙いで、菅政権が今後一層、学問の自由を含む国民の基本的人権を踏みにじって政権批判勢力の弾圧を強行する警察ファッショ国家への道を爆進することになることは明らかだ。

◎追記:10月7日の新型コロナウイルス感染者は、東京都で午後15時の時点で142人、重症者は前日比1日減少の24人。1周間前の9月30日は194人だった。東京都のモニタリング指標によると、7日間の移動平均では検査人数4224.4人に対して感染者数は161.16人。感染経路不明者の割合は55.9%。瞬間陽性率は3.8%だが東京都の計算方式では3.2%。東洋経済ONLINE(https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/)のサイトでは10月6日時点の実効再生産数は前日比0.11%減の1.02%。全国では508人の新規感染者、死亡者7人が確認された。全体としては感染増加傾向が緩やかになっているが、アップル社の人口移動指数がピークだった9月19日からの4連休の4週間目に相当する10月17日以降の新規感染者数の動向が注目される(以後、基本的にはこの形式で記述します)。

日本学術会議への介入は安倍晋三前政権時代の2016年ころから次第に強まってきたが、朝日新聞、東京新聞の10月7日付けによると、2017年9月には官邸側(内閣官房)が所管の内閣府を通じて交代枠(任期6年で3年後に半数改選のため105人)を上回る名簿を要求してきたことや、2018年9月にも定年の70歳を超える会員の補充人事として同会議が3人を推薦したものの首相官邸側が2名を拒否したため、同会議が「首相による任命は形式的なもの」とする原則を貫いたことで、欠員が2名生じていたことが明らかになった。このため、昨日10月6日に投稿した菅政権による日本学術会議への人事介入の経緯を補強しておく。

1946年 日本学術会議は日本学術会議法に基づいて、科学が戦争に動員された反省から、内閣総理大臣の「所轄」で経費は国庫負担としながらも、政府から独立して職務(研究・提言、世論への啓発など)を行う「特別の」機関として規定された。定員は210人で任期は6年、3年毎に半数(105人)が改選される。当初は国内のほぼすべての研究者による選挙で選ばれ「学者の国会」と呼ばれた。
1983年5月12日 各種の学会が創設され、立候補する科学者(学者)が減ったことから、会員の選出方法を選挙から日本学術会議の推薦に基づく内閣総理大臣による任命とする方向が示されるようになりこの時期、時の中曽根康弘首相が「政府が行うのは形式的任命に過ぎない。学問の自由、独立はあくまで保証される」と延べ、学術会議の推薦を尊重する考えを示した。
1983年11月24日 参院文教委員会で日本共産党の吉川春子参院議員の質問に対し丹羽兵助総理府総務長官(当時)が「学会の方から推薦をしていただいた者は拒否はしない、そのとおりの形だけ の任命をしていく」>
1983年11月28日 日本学術会議法改正・施行。各種学会の方針を基にして学術会議が候補者を推薦し、内閣総理大臣がその推薦を基に「形式的」に任命するようになった。憲法第6条の「天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する」と同じ意味合い。
2005年 現会員が次の会員を推薦する方式が導入され、日本学術会議はこの推薦に基づいて105人の被推薦人を選出するようになり、70歳定年制も導入された。
2016年 欠員補充人事の正式な推薦決定前に、日本学術会議が推薦した候補者案の一部に首相官邸が難色。同会議は欠員補充を見送り。安倍晋三(当時)政権が内閣調査室の情報に基づいて、所管官庁の内閣府を通じて政府批判の学者を拒否した可能性がある。
2017年 日本学術会員半数(105人)の交代にあたり、首相官邸(内閣官房)が同会議に対して105人の推薦候補者に数人を加えることを要請。会議は大西隆会長(東大名誉教授)が計110人超の名簿を提示、強く交渉したが結果的に、会議が優先的に推薦した105人が任命される結果になった。ただし、2016年、2017年とともに表沙汰にならなかった。
2018年9月 定年のために生じる欠員3人の補充のため、日本学術会議は補充のため3人の新会員を推薦したが、首相官邸(内閣官房)は内閣府を通じて拒否。2人の欠員が生じたままになった。
2018年11月 日本学術会議を所管する内閣府が、内閣法制局に同法の解釈を照会し、表向き「必ず任命する義務はない」ことを確認。今年2020年9月にも再び照会していたが、昨日10月5日の記者会見で加藤官房長官は解釈変更はしていないと強弁。
2020年10月1日 8月末に日本学術会議が内閣府に2017年とは異なり、105人を超える推薦人名簿を提出することなく。105人ちょうどの推薦人名簿を提出。9月末、政府が6人を除く99人を任命する文書を決裁。10月1日、しんぶん赤旗(https://www.jcp.or.jp/akahata/aik20/2020-10-01/2020100100_00_0.html)が日本学術会議の会員の「形式的任命」が「実質的任命」に変更されたこと、つまり、同会議会員の人事に対して政治介入を行い、菅政権が日本国減法第23条「学問の自由は、これを保障する」を破ったことを報道した。マスコミ各社が独自にフォローして一斉に伝え、菅政権が学問の自由はもとより、言論・思想・結社・集会の自由を弾圧する事実上の警察・ファッショ政権である疑惑を報道するという展開になった。
2020年10月3日 日本学術会議が「第25期新規会員に対する要望書」(http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kanji/pdf25/siryo301-youbou.pdf)を菅首相に提出。内容は、①任命拒否の理由②任命拒否の撤回ーの2点。




さて、東京新聞3面によると6日、首相官邸(内閣官房)が提示してきた2018年11月11月の内部文書の要約は次の通り。
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【学術会議の設立趣旨】
学術会議は、科学に関する重要事項の審議および研究の連絡に関する事務を所掌し、政府からの諮問に対する答申、政府への勧告等を行う国の行政機関として設置。現在は「特別の機関」として内閣府に置かれている。

【会員選出方法】
学術会議は、210人の特別職の国家公務員たる会員で組織され、日本学術会議法17条の規定による推薦に基づき、首相が会員を任命する。任期は6年で、3年ごとにその半数を任命している。

【首相の任命権】
首相は(学術会議に)推薦されていない者を任命することはできない。その上で、同法17条による推薦の通りに首相が会員を任命すべき義務があるかどうかについて検討する。
学術会議が首相の所轄下の国の行政機関であり、憲法65条「行政権は内閣に属する」、72条「内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する」の規定に照らし、首相は、会員の任命権者として、学術会議に人事を通じて一定の監督権を行使することができる。
憲法15条第1項の規定で明らかにされている公務員の終局的任命権が国民にあるという国民主権の原理からすれば、任命権者の首相が、会員の任命について国民および国会に対して責任を負えるものでなければならない。首相に学術会議の推薦通り会員を任命すべき義務があるとまでは言えない。

(※)首相による会員の任命は、推薦を前提とするものであることから「形式的任命」と言われることもあるが、国の行政機関に属する国家公務員の任命であることから、憲法23条に規定された学問の自由を保障するために大学の自治が認められているところでの文部科学相による大学の学長の任命とは同視できない。首相は任命に当たり、学術会議からの推薦を十分に尊重する必要がある。任命すべき会員を上回る候補者の推薦を求め、その中から任命することも否定されない(学術会議に保障された職務の独立を侵害するものではない)と考えられる。
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さて、加藤勝信内閣官房長官は6日あくまで、法解釈(1983年の中曽根首相談話)は変更していないと語るが、この「内部文書」なるものは明らかに中曽根談話の「形式任命説」を逸脱している。

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政府の内部文書の第一の問題点は、日本学術会議法の法解釈(任命は形式的なものに過ぎないという「任命権」についての解釈)の変更はしていない(6日の加藤官房長官、内閣法制局)としているのに、内部文書の結論は「首相は日本学術会議の推薦の通りに任命すべき義務があるとまでは言えない」となっており、矛盾していることだ。第二は、学術会議会員の任命権の根拠を憲法第15条「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」に求めているが、公務員の選定、罷免の権利を有する主体は「国民」であること。内閣は国民の代表である国会のコントロール下にあるというのが三権分立の根本だ(ただし、安倍、菅政権はこれを全く無視してきた)。

また、政治家の首相が、①高度な高度な専門分野での学術論文が日本国及び国民に資するかどうかの判断ができる能力を有するか②そもそも、一部の国民ではなく国民全体の奉仕者なり得る倫理的資質を有するかーということも重要であり、内閣府の「内部文書」なるものも、実に苦しい言い訳をしていると言わざるを得ない。そもそも、本当に2018年11月13日に作成されたものかどうか、デジタルデータではないため、確認のしようがない。

このように、憲法23条で保障されている学問の自由を侵害するほどの「憲法の組み立て」なら事前に、内閣委員会で解釈の妥当性を徹底的に議論し、衆参両院本会議でその承認を受けておかなければならない。しかも、憲法第15条はその2項において、「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない」と定めている。日本国および日本国民に益する観点から、時の政権の政策(権力の私物化など)を批判する正統な提言が出されれば、政権は謙虚に受け止める必要がある。なお、安倍政権(当時)が日本学術会議への政治的介入を強めてから、正当化のため政府内で小細工の法解釈を行ったというのが、真相ではないか。

第三は、公務員の任命権・罷免権が実務的には内閣(行政側)に属するとしても、公務員の性格はその公務の内容によって異なる。憲法第15条第1項は、「一般的・抽象的な内容を表現したものであり」(憲法に詳しい識者)、公務員の任命・罷免はそれぞれ個別の公務員法に基づくべきだというのが憲法・法律専門家の一般的な解釈・常識だ。日本学術会議の会員の任命については、日本学術会議法7条と同条で引用されている17条に基づく。首相に実質的な任命権があるというのなら、同法と過去の解釈を尊守してその結論を導き出す必要があるが、日本国憲法を破壊してきた安倍、菅政権がご都合主義よろしく「憲法」を弄り回しても説得力がない。

第四は、「一般的行政機関」と「学術機関(科学アカデミー)」とでは性格が全く異なる。両者を同一の次元で解釈するのは学問・芸術(学術)の意義を知らない者のすることだ。Wikipediaによると菅首相は、「秋田県雄勝郡秋ノ宮村(現・湯沢市秋ノ宮)中央部旧国道沿いに家があったイチゴ農家に長男として生まれる[。現住所は神奈川県横浜市神奈川区金港町1丁目。家族は父、母、姉2人、弟1人。父、菅和三郎は第二次世界大戦末期、満鉄職員として当時満州国の首都だった通化市で日本の降伏を迎えた。引き揚げ後、郷里の秋ノ宮で農耕に従事。『秋の宮いちご』のブランド化に成功して、秋の宮いちご生産出荷組合組合長や、雄勝町議会議員、湯沢市いちご生産集出荷組合組合長などを歴任。2010年に93歳で死去すると、旭日単光章を叙勲されている。母や叔父、叔母は元教員であり、2人の姉も(大学卒業後)高校教諭となった」という家族関係の持ち主である。

多くのマスコミが騒いでいるような貧農の農家に生まれ、集団就職して立身出世したなどの今太閤話は作り話だ。裕福な農家の3番目に生まれた長男だが、デモクラシータイムスがYoutube(https://www.youtube.com/watch?v=MeQu5YIsViA)で報道している「3ジジ対談」で、菅首相が「アカデミズム」に疎いことが論じられている。また、会計検査院や人事院、検察庁など政府から独立性の高い行政機関の人事にも悪影響を及ぼす。なお、「内閣人事局」を乱用して、有能な官僚でも究極的には自分に逆らう(実際は、ふるさと納税の弊害など正論を上申する)官僚は左遷するなどの強引な人事は忖度政治の横行か、官僚の離反を招く。

第五は、今回の日本学術会議会員任命拒否事件では、安倍、菅政権の憲法違反行為の重大な問題点を著書などで公にしている社会科学者らが任命を拒否されたが、これは、信仰・言論・結社・学問の自由などの民主主義社会にとって最も大事な基本的人権を踏みにじり、政治が国民の「心の領域」にまで介入することを示す。菅首相は、デジタル庁の新設とか携帯電話(スマートフォン)の通信料金を安くするとか言っているが、デジタル庁の新設にはマイ・ナンバーカードを紐づけ、国民の管理を狙っているし、後者は市場経済への介入という結果にもなる。要するに、菅政権は警察全体主義独裁国家に向かって爆進し始めたと見るべきだろう。



7日の東京新聞(https://www.tokyo-np.co.jp/article/60146?rct=politics)は、政府の主張の問題点を下図のようにまとめている。

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憲法学者や政治学者が結成した立憲デモクラシー(共同代表・樋口陽一東京大学名誉教授・憲法学、山口二郎法政大学法学部政治学科教授)は10月6日、衆議院会館で記者会見を行い(https://www.tokyo-np.co.jp/article/60125)、「菅義偉首相による日本学術会議会員の任命に関する声明(https://constitutionaldemocracyjapan.tumblr.com/)」を発表、「一般に、『何々に基づいて』という文言は、行政機関の権限行使を強く拘束するものと理解されている。しかも、日本学術会議法は、同会議が『独立して』その職務を行うものとしており(同法3条)、同会議の政府からの独立性を尊重すべき旨を明確にしている。会議による会員候補者の推薦は、内閣総理大臣の任命権の行使をとりわけ強く拘束するものと理解することができる。今回の首相の行動は、現政権が学問の自由を掘りくずそうとしているのではないかとの強い懸念を与える」としている。

衆議院会館で抗議声明を発表する立憲デモクラシーの会
今回の首相の行動は、現政権が学問の自由を掘りくずそうとしているのではないかとの強い懸念を与える」などと強く抗議しており、市民団体もコロナ禍の中、抗議集会を繰り広げている。なお、菅首相、加藤官房長官も「総合的・俯瞰的に活動して頂くためにどうあるべきなのか、という観点から任命した」と語っている。しかし、「俯瞰的」とは「物事を一段と高い位置から見ること」を意味する。この意味からすれば、菅首相が内閣総理大臣としての自分の立場・考えから任命を拒否したということをはからずも吐露したことになる。これは、日本学術会議の人事に自らの政治判断を使うという意味であり、政治が憲法に保障された学問の自由を政治的に犯すということにしかならない。菅首相も加藤官房長官もこうした極めて危険な言葉を、意図してか意図せずか知らないが使ったことを意味する。多分意図して使ったのであろう。

政府の日本学術会議会員人事に対する介入に講義する市民団体

政府の日本学術会議会員人事に対する介入に講義する市民団体

こうした民間の動きに対して、野党は結束を強めるべきだ。ただし、野党第一党の立憲民主党の枝野幸男代表に、政権奪還=政権を国民の手に取り戻すの意欲が感じられない。同党の完成綱領、政策をみても、抽象的すぎる。特に、経済政策が弱く、新自由主義に代替できる国民本位の新しい国家像も提示し得ていない。「新55年体制」の構築で、議員特権を享受できればそれで良いと考えているように感じられる。動向を注意して見なければならない。



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