ロシアの狙いは親ロシア政権の樹立かーウクライナ事変で

今回のウクライナ事変でのロシアの狙いは、ウクライナに新ロシア派の政権を樹立することのようだ。ウクライナを北大西洋条約機構(NATO)に加盟させず、米欧諸国との緩衝地帯をわずかだが確保するためだ。欧州、日本にとってはロシアが生産し欧州諸国や日本などに供給している原油・天然ガスの輸出が断たれることになり、半導体生産に必要な貴金属も同様な状態になる。G7諸国が「強力な経済制裁措置」を行ってもロシアを「降参」に追い込めるほどの力を発揮することはできないだろう。むしろ、世界的な規模でスタグフレーションが起こる公算が大きい。

プーチン大統領の狙い、ゼレンスキー政権の打倒か

既に前回の投稿記事でも述べたように、問題の発端は1990年当時のソ連帝国崩壊の際に、ソ連のゴルバチョフ大統領・シェワルナゼ外相と米国のブッシュ大統領・ベーカー国務長官(いずれも当時)との間で合意したNATOの東方拡大を米欧諸国が反故にしたことにある。歴史的には帝政ロシア時代以降、フランスのナポレオンのモスクワ侵攻や、いったん独ソ不可侵条約を提携したもののナチス・ドイツがソ連に侵攻したことなどで、現在のロシアにも欧米諸国に対する脅威は根強く残っている。

だが、欧米諸国はロシアと欧州諸国の緩衝地帯のNATO入りを認めてきた。東欧諸国にとってロシアに頼れるほどの魅力がなかったことは否めないが、それでもNATO加盟諸国はロシアの恐れに配慮すべきだった。「窮鼠猫を噛む」という諺がある。KGB出身のプーチン大統領は、第二次大戦後のマッカーサー連合国軍総司令官が朝鮮戦争で核兵器の使用を公然と求めたことに次いで、第二次世界大戦後としては二度目に核兵器の使用について強硬姿勢を匂わせている。その最悪事態だけは、何としても防がなければならない(https://www.youtube.com/watch?v=glf4OWCz0zU)。

東方拡大するNATO

 

最後にロシア圏内にとどまったのは、ベラルーシーやウクライナなどのわずかの諸国だったが、そのウクライナは当初、新ロシア派政権が樹立されていたものの、暴力革命によって新米欧政権に転覆されたようだ。国際政治経済にも詳しい植草一秀氏は、メールマガジン・第3160号「米軍産複合体が渇望する紛争」で次のように説明されている。若干長くなるが、引用させていただきたい。

ウクライナ東部地域とウクライナ政府は2015年に「ミンスク合意」を締結している。ミンスク合意は2014年と15年に結ばれた。合意内容には、親ロ派勢力が実効支配するウクライナ東部ドンバス地域をめぐる紛争の停戦や、この地域への自治権付与が含まれた。ロシア、ウクライナ、仏、独の4カ国がまとめた。ロシアが重視してきたのは東部地域への自治権付与である。ウクライナ東部地域が外交自主権を確保すれば、ウクライナのNATO加盟は不可能になる。ロシアは旧ソ連邦国家のNATO加盟を阻止する考えを有していると見られる。

ロシアのプーチン大統領はウクライナが東部ドンバス地域の紛争解決を目指す「ミンスク合意」を履行しなかったと批判し、ロシアによるドンバス地域の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立承認はやむを得ない決定だったと述べた。これに対して、米国のバイデン大統領は「ロシアによる軍事侵攻が始まった」と繰り返している。同じ事象であっても、表現の仕方が変わると印象が著しく異なる。

この問題を考えるに際して見落とせないことは2014年のウクライナ政変についての理解だ。2014年にウクライナのヤヌコヴィチ大統領がロシア亡命に追い込まれた。暴力革命が勃発して政権が排除された。このとき、暴力革命の背後で糸を引いたと見られるのが米国である。米国のバイデン副大統領、ヌーランド国務次官補が中核的役割を担ったと見られている。ヌーランド国務次官補が、ウクライナの極右組織「スヴォボダ(自由)」のオレフ・チャグニボク党首と、クーデター直前の2014年2月6日に満面の笑顔を湛えて撮影された写真がインターネット上にも流布されている。

「スヴォボダ(自由)」は、戦前のナチスドイツ協力者で、ユダヤ人やポーランド人の数万人に及ぶ殺害に手を染めたステパーン・バンデーラの「ウクライナ民族主義者組織」の直系であるとされる。成澤宗男(注:中央大学大学院法学研究科政治学専攻修士課程修了後、現在はジャーナリスト)の世界情勢分析「バイデンが国務省に入れた極右の正体2」(によると)(https://bit.ly/3IkhktI)ヤヌコヴィチ大統領は民主的な選挙で正当に選出された大統領である。その政権を米国が介入して暴力革命で転覆した。

成澤氏は次のように指摘する。「街頭での暴力行為の中心にいた『ライトセクター』と称する極右・ネオナチ集団があくまでヤヌコヴィッチ打倒を掲げ、手薄になった大統領官邸に押しかけて力づくで政権を打倒したというのが真相だ。」この経緯を含めて問題を捉えないと(今回のウクライナ事変の)正当な評価は成り立たない。

親ロシア派だったヤヌコヴィッチ政権が欧州連合(EU)との通商協定調印を見送ったことが、政権が転覆された直接の契機になったと見られる。2014年9月、ドンバスの内戦が続いたなかで、ミンスク合意(「ミンスク1」)が調印された。しかし、2015年1月に戦線全体で再び戦争が勃発。ウクライナ勢は再び主導権を握ろうとして軍事行動を激化させたが失敗に終わり、2015年2月に「ミンスク2」が締結された。2019年5月にゼレンスキー大統領が選出され、すでに任期が半分以上経過したが、ミンスク2を履行する気配すら示さない。「2015年末までのドネツク・ルガンスク州の個々の地区の特別の地位に関する永続法の採択」という規定の実現がまったく見えない。このなかでロシアが両地域を共和国としての独立を承認した(以下略)。

これらのことは欧米日のメディアでは報じられない。要するに、今回のウクライナ事変の発端・真相は、米国のジョー・バイデン首相、ビクトリア・ヌーランド国務次官(女性)の背後にいる軍産複合体(ディープステート)にあるというのである。「好戦の共和国」ディープステートは主敵を中国としており、ロシアとも戦う二正面作戦は展開できない。このため、欧州諸国と日本に圧力をかけて、対露経済制裁を展開するにとどまるだろう。ウクライナがNATOに正式加盟していないこともあって、NATOも軍を派遣する義務もない。

ただし、冒頭に述べたように歴史的に見てロシアの欧州諸国・米国への脅威の念には根深いものがある。NATOはロシアと大人の対応をすべきだっただろう。朝日デジタルが報道した「国境近くヘリ150機、衛星写真で確認 ロシア軍、キエフ制圧準備か」と題する記事は、次のように伝えている(https://digital.asahi.com/articles/ASQ2V24YQQ2VUHBI006.html?iref=comtop_7_02)。

ロシア軍がウクライナの首都キエフに迫るなか、国境線に近いベラルーシ南部に150機近くのヘリコプターや大量の地上部隊が配備されていることが判明した。米宇宙企業マクサー・テクノロジーズが25日に撮影した衛星写真が、その姿を捉えた。キエフ制圧に向けた準備の可能性もある。

プーチン大統領の狙いは、ミンスク合意の「ミンスク2」のまともな履行に目をそむけたヤヌコヴィッチ政権を廃して、新ロシア系のウクライナ政権を樹立し、NATOには加盟しないとの約束を取り付けることにあると思われる。事態をやや静観している中国の習近平主席もこれを黙認しているようだ。朝日デジタルは「プーチン氏と電話協議した習近平氏『冷戦の考え方を捨てて』と主張」と題する報道記事の中で、次のように記している(https://digital.asahi.com/articles/ASQ2T7J0MQ2TUHBI05J.html?iref=pc_ss_date_article)。

中国の習近平(シーチンピン)国家主席とロシアのプーチン大統領が25日、電話協議した。中国外務省の発表によると、プーチン氏はウクライナ問題をめぐるロシア側の立場を説明した上で、「ウクライナとハイレベル協議を行うことを希望している」と伝えた。これに対し、習氏は「協議による問題解決を支持する」と語ったという。(中略)

ただ、ロシアのラブロフ外相は同日、ウクライナのゼレンスキー大統領を「うそつき」と呼んで交渉相手と認めない考えを示している。中ロ両首脳がこの日言及した「協議」が何を意味するのかは不透明だ。

朝日デジタルは。「【速報中】キエフ中心部に攻撃、ロシア軍侵入か 政府庁舎付近で銃声」と題する記事で次のように伝えている(https://digital.asahi.com/articles/ASQ2V26MKQ2VUHBI00R.html?iref=comtop_7_01)。

ロシアが隣国のウクライナに侵攻し、両軍の間で激しい戦闘が続いています。ロシア軍は東部と北部、南部の国境の3方向から侵攻し、チェルノブイリ原発を掌握するなどしながら、ウクライナの首都キエフに迫っています。欧米や日本などは制裁を拡大し、ロシアのプーチン大統領への圧力を強めようとしています。(中略)

キエフ中心部の政府庁舎付近で銃声
ロイター通信が26日朝、住民の話として伝えたところでは、首都キエフ中心部にある政府庁舎の近くで銃声が聞こえた。

東京新聞の「狙いは親ロシア政権樹立」次の記事も参照にされたい(https://www.tokyo-np.co.jp/article/162359)。ただし、「新たな冷戦期の始まり」ではまく、「本格的な多極化時代」の幕開けだろう。国際連合の使命が問われる。

ロシアとウクライナは民族的、宗教的(ギリシア正教:カトリック、プロテスタントと並ぶ三大キリスト教の一角)に近い。ロシア(プーチン大統領)としては「傀儡政権」と避難されようが、新ロシア系のウクライナ政権の樹立を望んているのだろう。それが達成できれば、ロシア軍のウクライナ侵攻の第一目的は達成される。残るは、ウクライナ内のネオ・ナチ勢力の一層だろう。なお、ロシアは資源大国であることで経済力を保っており、真の市場経済体制が確立されているとは言い難い面がある。この点は、市場経済体制を成功裏に導入した中国に学ぶ必要がある。

欧米諸国と日本は、バイデン政権を操っているディープ・ステートに振り回されると、コロナ禍、ウクライナ事変によって引き起こされるコストプッシュ・インフレによるスタグフレーション(国民の実質賃金・所得の大幅低下による巨大な需要不足)の深刻な経済危機に陥ることになることを深く考慮する必要がある。最早、米国一国に振り回される時代ではない。


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