黒田日銀がQE(量的金融緩和政策)を終了したが資源価格インフレは収束せずーウクライナ戦争の終結が唯一のカギ

日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁が今月12月20日、「長期金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げる」と語り、事実上、国債をはじめとした金融商品を無制限に購入する超金融緩和政策のQE(Quantitative Easing=量的金融緩和政策=)を転換した。インフレ抑制のためだが、現在の消費者物価上昇率(11月で前年同月比3.8%)の主因は、ウクライナ戦争による資源穀物価格(コモディティ価格)の上昇によるもの。財政金融政策は需要サイドの経済政策で、同政策で供給サイドの状況を変更することはできない。日本を含む米側陣営の唯一の「インフレ抑制政策」は、米側陣営が不当に誘導したウクライナ戦争を早期に集結させ、対露経済制裁措置を撤回する以外にない。さもなければ、米側陣営はスタグフレーション(不況と物価高)に本格突入することになる。

日銀の黒田東彦総裁が20日発表した「金融政策の一部修正」について、NHKは「日銀 金融緩和策の一部修正決定 円相場急激値上がり 株価下落」と題して次のように報道している(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221220/k10013928411000.html)。

日銀はいまの大規模な金融緩和策の修正を決め、これまで0.25%程度に抑えてきた長期金利の上限を0.5%程度に引き上げることになりました。日銀が金利の上昇を許容することとなり外国為替市場では事実上金融引き締めにあたるという受け止めから円高ドル安が加速しました。日銀は20日までの2日間、金融政策を決める会合を開き、いまの大規模な金融緩和策を一部修正することを決めました。

黒田総裁は、「市場機能を改善し、緩和効果をより円滑に波及させることが狙い」としゃべり、QE(Quantitative Easing=量的金融緩和政策=)の打ち止め、転換ではないことを強調しているが、意味不明で金融関係者を中心に誰も信じない。QEは日本経済を深刻な不況にもたらさないためにある程度必要ではあったが、日本銀行法は日銀の使命(第一目標)として物価価値の安定を掲げている。同法では第一条で、「日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする」、第二条で「通貨及び金融の調節の理念」として「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」と定めているところだ。

現在の通貨価値の安定とは消費者物価上昇率が2%を超えないことであり、為替相場に関して言えば要するにドル相場に対して極端に円安にならない(円相場が暴落しない)ことである。このいずれに対しても、黒田日銀は完全に失敗した。総務省統計局による今年11月の消費者物価上昇率は次の通りだ(https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-z.html)。資源価格インフレだから、総合指数の前年同月比上昇率が重要。高騰している生鮮食品、エネルギー価格を除外しても意味はない。

また、三菱UFJ銀行によると、円の対ドル相場は次のように推移している(https://www.bk.mufg.jp/tameru/gaika/realtime/chart.html)。一時、円相場は1ドル=150円台近くまで暴落した。また、円相場の実力を測るうえで重要な相手国との貿易額を考慮し、インフレ率も勘案して計算した実質実効為替レートは、50年ぶりの円安に暴落したと見るのが、ニッセイ基礎研究所など金融・為替専門家の間では一般的だ(https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=71819?pno=1&site=nli)。

円の対ドル相場は、植草一秀氏のメールマガジン第3386号 の「財務省に服従岸田内閣の悲劇」によると、「2015年06月10日、黒田東彦氏は衆議院財務金融委員会で『実質実効為替レートでは、かなり円安の水準になっている』、『ここからさらに実質実効為替レートが円安に振れるということは、普通に考えればありそうにない』と発言した。この発言を受けてドル円相場は1ドル=125円台をピークに反転。2016年06月の1ドル=99円台にまで円高推移することになった。(中略)1ドル紙幣の価格が100円から150円に暴騰(円相場は暴落)した」という有様である。

これは、ウクライナ戦争が始まり、米側陣営でインフレが急加速し、米英を中心にQE(Quantitative Easying=量的金融緩和、中央銀行が国債を発行して民間金融機関に売却、その後民間金融機関から資金から国債を買い入れることや民間保有の証券を買い入れて市場に資金を供給、事実上の財政ファイナンス。ただし、通貨は金融市場に流れるだけで、実体経済には回らなかった)からQT(Quantitative Tigtening=量的金融引き締め、中央銀行保有証券を売却して市場から資金を引き揚げること=)に本格転換し始めたため、QEを続けている日本と米国の長期金利差が拡大したためである。

消費者物価上昇率の急上昇や円相場の暴落、特に円相場の暴落は、輸出産業にとっては好都合かも知れないが、日本国民と国民経済にとっては大きなマイナスである。黒田東彦総裁(来年4月に失意の中で退任する)は、ウクライナ戦争勃発後の米英を中心とした非米側陣営での金融引締政策の動向に無頓着すぎたように見える。ただし、今回の米側陣営でのインフレ加速は、ウクライナ戦争による対露経済政策政策の跳ね返りとして資源・エネルギー・穀物価格が急騰しているという供給側の要件によってもたらされたものだとの認識から、QEを放置していた可能性はある。

しかし、QE放置策もここにきて限界に達したようだ。植草氏は上記のメールマガジンで、①(QTに転じた)米国の圧力②財務省の圧力(「敵基地反撃能力」保有のための増税を考えていることから、インフレ加速の中での増税は「まずい」との思惑)ーの二点を上げている。供給側に制約がなければ、今後は財政拡張・金融引締め(金利上昇は資産の太宗を保有している国民にとってプラス)が妥当なポリシー・ミックスだ。

しかし、今回の非米側陣営でのインフレ加速は、明らかにウクライナ戦争の勃発・長期化による資源・エネルギー・穀物価格の上昇という供給側の要因によるものだ。インフレ抑制の正しい解決策は、米国のディープ・ステート(DS)とウクライナが結託してロシアをウクライナ事変からウクライナ戦争に誘導したウクライナ戦争を終結させること以外にない。そのためには、ロシアに対して非を認め、ロシア側に有利な形での戦争終結の条件を米国(バイデン政権)とウクライナ(ゼレンスキー政権)が出す以外にない。ウクライナは、ロシア側の社会インフラに対するミサイル攻撃によって、電力が大幅に不足し、今冬を乗り切れるかどうか危ぶまれている状況だ。

しかし、米国のディープ・ステート(国際情勢解説者の田中宇=さかい=氏によると、DS=主力は隠れ多極派に乗っ取られた軍産複合体、米側陣営の属国に無理難題を浴びせ、自滅させようとしている=)によって支配されているバイデン政権にはその気がないようだ。結局のところ、米側陣営の金融引締め政策と資源価格インフレは同陣営に深刻なスタグフレーションを引き起こす可能性が強い。

田中氏は11月17日に公開した「債券金融システムの終わり」と題する論考(https://tanakanews.com/221117credit.php、有料記事。申込みはこちら。https://tanakanews.com/intro.htm)で次のように指摘されている。

金融相場はまだ決定的な崩壊になっていない。大崩壊直前の状態で寸止めされている。長期米国債の金利が5%を大きく越え、ジャンク債の金利が10%を大きく越えて上昇していくと、金利が高止まりして不可逆的な大崩壊を引き起こし、債券金融システムと米金融覇権の終わりになる。大崩壊が今後いつ起きるかはわからないが、大崩壊が起きずに金融システムが蘇生していくことはない。きたるべき大崩壊は、米諜報界(深奥国家)の多極化勢力が意図的に起そうとしてきた動きだ。彼らは、米覇権を崩壊させて覇権構造を多極型に転換するという目的を達成するまで画策し続ける。コロナ超愚策や。ウクライナ戦争(対露制裁の失敗による非米側の台頭)などを見ると、多極派の目的が達成されつつあることがわかる。 (Stocks Sink As Yield Curve Tumbles To Biggest Inversion In 40 Years) (金融を破綻させ世界システムを入れ替える

金融システムの周辺部分はすでに崩壊している。たとえば最近、仮想通貨が多くの銘柄で大幅下落し、今後さらに下がると予測されている。仮想通貨は「ドルなど政府管理の通貨に対抗する、政府が介入できない通貨」とされ、ドルの基軸性・覇権が低下するほど仮想通貨の価値が増すと言われてきた。だが実際には今年、QE中毒や長引くインフレ、対露制裁の大失敗などによってドルの基軸性が低下し続けても、ビットコインなど仮想通貨の相場は上がるどころか逆に下がり続けている。仮想通貨の価値の源泉は、ドルへの対抗性でなく、米金融界が債券発行などで作ったバブル資金で仮想通貨を買って相場をつり上げることだったと考えられる。今年、QTと利上げのの連続でバブル資金が急減しているが、これと並行して仮想通貨の価格も下がっている。仮想通貨は結局のところ「ドルの対抗馬」でなく、ドル(債券金融システム)が作った資金で膨張してきた「ドルの傀儡」に過ぎなかった。仮想通貨取引会社FTXの破綻を受け、以前から金融危機を予測してきた経済学者のヌリエル・ルビーニは、仮想通貨はひどく腐敗した存在だと指摘している。 (Crypto ‘totally corrupt’ – Nouriel Roubini) (Roubini Warns Of Imminent Dollar Crash: The Fed Is Going To “Wimp Out” In The Inflation Fight

きたるべき金融の大崩壊が起こり、債券金融システムが不可逆的に崩れたら、それ以前に存在していた金本位制に戻るのか。金融の「専門家」たちは、そんなことあるわけない、金融システムはニクソンショックで金本位制を捨てた後、規模が大幅に拡大・膨張しており、金地金で支えられるような規模でない、と言ってきた。しかし、金融専門家自身が債券金融システムのバブル膨張を支える詐欺のために存在する傀儡勢力である。金地金についてボロクソに言うことは、専門家の詐欺行為の一つである。中国やロシアなど非米諸国は金地金を買い集めている。非米側は金地金の価値を重視している。そのことと、金本位制の導入とは別物だ。実際にこれから金融大崩壊が起きた後、金本位制に戻るのかどうかはわからない。まず、信用取引を使って金相場が不正に引き下げられている状況を解消せねばならない。それが達成されれば、少なくとも、国際決済や資産備蓄の一つの道具として金地金が使われるようになる。 (Establishment Supports Central Bank Gold Secrecy instead Of Exposing It) (金本位制の基軸通貨をめざす中国

米側陣営のメディアでは、ウクライナ戦争は、米国ディープ・ステート(DS)傘下の米国とその従属化にある北大西洋条約機構(NATO加盟諸国)、ウクライナの勝利で集結するとの見方が圧倒的に強い(逆の見方をする識者は嘘つき呼ばわりされる)が、実のところ、非米側陣営は米側陣営に対抗して、中露を中心にBRICS諸国や上海協力機構が政治・経済・軍事体制を強固に強化しているようだ。例えば、これまで米側陣営の属国だった中東諸国、特に盟主国のサウジアラビアはBRICSに入りたがっているようだ。

中国の習近平主席は12月07日にサウジアラビアを訪問して、サウジの実験を握るムハンマド・ビン・サルマーン皇太子(王太子兼首相兼経済開発評議会議長。王族サウード家の一員で、第7代国王サルマーン・ビン・アブドゥルアズィーズの子、Mbs皇太子)から熱烈な歓迎を受けた。ロイター通信は「習氏がサウジ訪問開始、関係強化へ 米『中国の影響力拡大を注視』」と題して、次のように伝えている。

中国の習近平国家主席は7日、サウジアラビアに到着した。サウジ国営メディアは、リヤド州知事やファイサル外相、政府系ファンドであるパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)代表らが習氏を出迎える様子を放映した。
国営サウジ通信(SPA)は到着時の習氏の発言として、サウジアラビアなど6カ国で構成する湾岸協力会議(GCC)諸国などと協力し「中国とアラブの関係、中国とGCCの関係を新たな段階に進める」と述べたと報じた。中国政府は習氏のサウジ訪問をアラブ世界における最大の外交的イニシアチブと位置付ける。サウジは、人権問題や石油減産を巡り米国などとの関係が冷え込む中、中国との関係強化を目指す。

この習近平氏のサウジアラビア訪問について田中氏は、サウジはBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)に加盟したい意向を伝えているが、中国は、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が実権を握るまではサウジと米国との関係が属国的に良好であったため、BRICSの機密情報が米国に筒抜けになる恐れがあり、その打開策を慎重に見極めるためだったとの見方を示している(「中露が誘う中東の非米化」https://tanakanews.com/221221Saudi.htm、無料記事)。

世界は今後さらに米覇権の崩壊が進み、中露など非米諸国が台頭するのが必至なので、サウジは対米従属をやめてBRICSに入り、非米側に転向したい。だがサウジがBRICSに入るには、米国との安保上の関係を完全に切らねばならない。サウジの上層部には米諜報界の傀儡者(スパイ)がたくさんおり、米国との安保関係を完全に切るのは時間がかかる。MbSらサウジ王政は最近、急速に米国から距離をおいている。だが、それで十分なのか。サウジをBRICSに入れてしまって大丈夫なのか。習近平はそれを探りにサウジに行った感じだ。その点ではサウジよりも、米国に敵視されてきたイランの方がBRICS加盟にふさわしい。国家の格で見た場合は別だが。 (War of words escalates between US and Saudi Arabia over Opec+ cut)(中略)

これまでの中東において、サウジなどアラブ諸国やイラン、トルコは、米英欧から支配され発展を阻害される傾向だった。対照的にイスラエルは、米英欧を脅してゆすりたかりをやったり、上層部・諜報界に入り込んで米英欧の政策をイスラエル好みの方向にねじ曲げて力を延ばしてきた。イスラエルは米覇権を使って自国を強化してきたが、他の中東諸国(イスラム諸国)は米覇権の傀儡にされて弱いままだった。今後、米英欧は支配力と覇権が低下し続けるのが必至なので、イスラエルは神通力を失って弱くなり、イスラム諸国は米英のくびきから解放されて強くなる。イスラエルは、衰退する米欧からの協力を期待できなくなり、代わりに中露の力を借りざるを得なくなっている。 (歪曲続くイラン核問題) (イラン核問題:繰り返される不正義) (Bibi is back and providing fresh political land mines for US

国際情勢の真実は、米側陣営のメディアの報道とは全く異なった方向に展開しているようだ。対米従属勢力の巣窟になっている日本の官僚たちにはそのことが分かっていない。だから、中国を敵国として先制攻撃も可能な「敵基地反撃能力」を構築しようとしたりなどの愚かなことを続ける。財源は定まらないままだ。本サイトで何度も指摘しているように、現在は、米側陣営の没落に反比例して非米側陣営が台頭する文明の転換期に来ている。

ただし、非米側陣営も欧米文明が800年(原子キリスト教の土台になった古代ユダヤ教が中心的宗教になった古代イスラエルの時代も含めると3000年)の年月をかけてアタナシウス派キリスト教を中心に築いてきた基本的人権の重要性や男女平等と結婚の神聖性、博愛主義、平和主義の普遍的価値観を十分に相続しているとは言い難い。その意味で、キリスト教が抱える難問を乗り越えることのできる新たな世界宗教の活躍が必要だ。その舞台の最初は、平和統一が歴史的な課題になる朝鮮半島だろう(https://www.it-ishin.com/2020/08/16/historical-sociology-2/)。


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