【第五章(内閣)関係】

首相公選制をなぜとらないのか。

首相公選制については、以下の理由から、採用すべきではない。

(1) 過去において成功を収めた制度例が未だ存在しないこと。イスラエルでは、首相のリーダーシップの強化をねらって首相公選制が導入されたものの、議会の多党分立化、首相の議会の統制の弱体化、国政停滞を招き、廃止された。

(2) 我が国の場合は、公選の内閣総理大臣の存在が天皇制との緊張関係をはらむこと。公選された首相は大統領のような存在となり、元首的な性格を帯びてくる。また、天皇は、国民の名において、国民に代わって国事行為を行うことから、国の政治の最高権力者を主権者たる国民が直接選ぶのなら、天皇の国事行為その他の関わりは論理的には必要なくなってしまう。

【第八章(地方自治)関係】

道州制についてどう考えるか。

道州制については、連邦制を採らず、現在の単一国家としての国家体制を維持する限り、広域の地方公共団体として道州を位置づけることで、現行憲法の範囲内で実現可能と考える。したがって、仮に道州制を導入することとなった場合でも、憲法改正は必要ないものと考える。
現行憲法92条は「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」と規定し、具体的な組織や構成は限定していない。むしろ、時代の進展に伴い広域行政の必要性が高まっていることを踏まえれば、現行憲法は、広域の地方公共団体のあり方を、道州制の導入を含めて、相当程度立法政策に委ねていると解釈すべきである。

道州制と96条(改正規定)の改正の関係についてどう考えるか。

道州制の導入を、憲法改正で実現するとの主張の中には、その前段階として憲法96条を改正することとのパッケージになっているものも見受けられる。このような主張は、現行憲法の理念原則を踏まえた議論というよりは、道州制と絡めて、憲法96条の先行改正の是非を政治的に争点化しようとするものと考えざるを得ない。
なお、(我々は道州制の導入について憲法改正は不要と考えているが、仮に道州制導入に憲法改正が必要だという論旨を取るとしても)憲法改正が必要かどうかは、道州制の具体的内容を検討する中で、その結果として出てくる結論である。道州制の具体的な制度設計を固める前に、まず憲法96条改正が必要などとする主張は、憲法論議としては、いささか冷静さを欠くものと言わざるを得ない。

【その他関係】

憲法に必要な緊急事態の規定は、どのようなものか。

1. 現行憲法においては、テロ、災害も含めた緊急事態の下で国家の統治機構が機能不全に陥った場合の規定が空白である。したがって、内閣による緊急事態宣言の根拠規定その他の緊急事態の際、民主的統制を確保し対処するための規定は必要であるとともに、内閣総理大臣を含む全国務大臣が欠けたときも含めた臨時代理についての憲法上の規定も必要である。

2. なお、自民党改憲案の99条3項に「緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も…公の機関の指示に従わなければならない」とあるのは、強権的にすぎると考える。このような義務付けは、公共交通機関や医療機関など、一定の公共的な責務を負う者に限定すべきものである。

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう