ゼレンスキー大統領の背後にいるコロモ イスキー氏とウクライナ事変の現状

第三次世界大戦も起こり得ると強気の発言をしていたゼレンスキー大統領がプーチン大統領との直接交渉の意向を示すなど、同大統領に軟化の兆しも見える。欧米日など西側諸国のロシア敗戦間近とも受け取れる報道と実際の戦闘状況は異なっているのではないか。

ウクライナでの戦闘状況はロシア側に有利か

ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍が包囲する南東部の要衝年であるマウリポリ市がほぼ陥落した3月20日、プーチン大統領との直接交渉による早期停戦に意欲は示したものの、失敗すれば「第三次世界大戦」につながるとの強気の姿勢を示していた(https://news.yahoo.co.jp/articles/6273a79b5b93a95d794a98c0a8e288df272ec92c)。

ウクライナ情勢です。激戦地の南東部マリウポリでは、ロシア側がウクライナ軍に降伏を要求。一方、ゼレンスキー大統領は「第三次世界大戦につながりかねない」と、プーチン大統領との直接会談を呼びかけました(中略)。

19日に公開された動画で、今こそ話し合うべきだとロシア側に対話を求めたゼレンスキー大統領。ゼレンスキー大統領(は)「特にモスクワの人たちに聞いてもらいたい。話し合いの時がきた。いまこそ話し合うべきだ」(と語った)。20日、アメリカのCNNテレビとのインタビューでは、プーチン大統領と交渉する準備はできている。どんな形式でも構わず交渉に繋がるならどんなチャンスも逃さないと強調し「交渉への試みが失敗すれば、それは第三次世界大戦を意味する」と警告しました。

これより以前の17日、NHKがサイトで「プーチン大統領 直接会談に意欲か トルコ大統領との電話会談で」と題して報道した内容によると、プーチン大統領もゼレンスキー大統領との直接交渉に意欲を示しているらしい(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220319/k10013541961000.html)。

ロシアのプーチン大統領が、17日に行ったトルコのエルドアン大統領との電話会談の中で、停戦に向けた条件を改めて挙げたうえで、ウクライナのゼレンスキー大統領との直接会談に意欲を示したと、トルコ大統領府の高官が明らかにしました。このトルコ大統領府の高官は、電話会談のやり取りを聞いたとしていて、イギリスの公共放送BBCの取材に答えました。

それによりますと、プーチン大統領は、停戦に向けた条件として、ウクライナがNATO=北大西洋条約機構に加盟しないことを含めた「中立化」や、ロシアの脅威となる兵器を撤去させる「非軍事化」などを改めて挙げました。また、8年前に一方的に併合した南部クリミアの承認や、親ロシア派の武装勢力が事実上、支配している東部地域の独立承認なども条件になるという考えを示しました。そのうえで、ウクライナのゼレンスキー大統領との直接会談に意欲を示したということです。

一方、トルコ大統領府は、この電話会談の中で、エルドアン大統領がプーチン大統領に対し、ゼレンスキー大統領との会談をトルコの最大都市イスタンブールや首都アンカラで開くことを提案したとしています。

これは、ロシア側がウクライナのゼレンスキー大統領政権に向けて示してきた停戦条件(①ウクライナのNATO加盟阻止=中立化=NATOの東方拡大の阻止②ロシアの脅威になる非軍事化の実施=実質的には米国の軍事兵器の供与と軍事訓練の阻止③ミンスク合意Ⅱの誠実な履行④ロシア系ウクライナ人の多いクリミア半島地方のロシア編入阻止⑤ウクライナに根付いているネオ・ナチ勢力の一掃)であり、ゼレンスキー大統領がウソをついたミンスク合意Ⅱの誠実な履行を求めることを基礎にしたものだ。ウクライナのゼレンスキー大統領とその背後で同大統領を指示していると思われる米国のディープ・ステートにとっては受け入れられない条件だ。しかし、早期停戦に向けての現実的な提案でもある。

今までゼレンスキー大統領が「徹底抗戦」を叫び続けてきたことからすれば、プーチン大統領ひきいるロシア側の停戦条件を受け入れられないことは明らかだ。つまり、ロシアとウクライナの戦闘が続くことになることは不可避だが、それが「第三次世界大戦」になるというのは、通常はあり得ない。ウクライナはまだ、米国を盟主国とする北大西洋条約機構(NATO)に加盟しておらず、ロシアとウクライナの二国間戦争にとどまるからだ。

もし、「第三次世界大戦」が勃発するならそれは、米国のディープ・ステート(闇の帝国:軍産複合体と弱肉強食の新自由主義を信奉する米系多国籍企業)を後ろ盾にしたバイデン大統領率いるNATOがロシアとウクライナの戦争に参戦する時であって、ゼレンスキー大統領が判断することではない。しかし、ゼレンスキー大統領があえて「第三次世界大戦」につながると発言したのは、ウクライナのゼレンスキー政権とNATOに深い関係があることを示唆するに十分だ。つまり、ゼレンスキー政権が米国の「傀儡政権」であることを伺わせる。

これは、米国のオリバー・ストーン監督の手になるドキュメンタリー映画「ウクライナ・オン・ファイアー」を視聴すれば、よく分かる。しかし、このドキュメンタリー映画は何者かによって削除されまくっている。現在3月23日午前の段階ではYoutubeの次のサイト:https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=6ArsqiXSoWAで視聴できるが、いつ削除されるか分からない。サイト管理者(筆者)は念の為動画をキャプチャーしておいた。

さて、そのゼレンスキー大統領が21日、軟化を示す次のような発言を行っている(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220322/k10013544421000.html)。これは実際のところ。ロシアとウクライナの戦闘状況がウクライナ側に不利になっていることを示すものではないだろうか。

ゼレンスキー大統領「国民投票を実施して決定」

ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、首都キエフでウクライナ公共放送などのインタビューに応じ、「どんな形式であれ、ロシアの大統領との会談が実現するまでは、停戦に向け彼らにどのような用意があるのか、真に理解することは難しい」と述べ、プーチン大統領との対話を実現させたうえで、交渉の妥協点を見いだしたい考えを示しました。

そのうえで、当面NATO加盟は難しいとの考えを改めて示したうえで、「われわれの安全保障について話す中で、憲法の改正やウクライナの法律の変更についても話し合うことになるだろう。どんな結果になろうとも、大統領だけで決定をすることはない。変更が歴史的に重要なものになる場合は、国民投票を実施して決めることになる」と述べ、停戦交渉での合意内容によっては国民投票が必要との考えを示しました。

欧米日を中心とした西側諸国ではメディアやYoutube、SNSなどで、ウクライナ国防軍の奮闘により、ロシア軍の敗北とロシアでのプーチン政権の基盤が弱体化しているとの圧倒的な量の情報が流布されている。しかし、情報は少ないがこの見方に反する情報もある。国際ジャーナリストとして知られる田中宇(たなか・さかい、共同通信社出身)氏もその一人だ。田中氏は「ウクライナで妄想し負けていく米欧」と題する投稿記事で次のように述べている(https://tanakanews.com/220320ukraine.htm)。長くなるが、ご容赦いただきたい。なお、リンクは別タブでは開かないので、田中氏のサイトを開いていただきたい。

米共和党系の軍事専門家ダグラス・マクレガー(Douglas Macgregor)が、ウクライナでロシア軍が作戦をゆっくり展開しているのは、ウクライナの市民や都市を破壊しないようにしつつ、露軍を攻撃してくる敵方の極右民兵団(ウクライナ内務省傘下のアゾフ大隊など。ネオナチ)だけを潰せるようにしているからだ、と指摘している。それなのに欧米のマスコミ権威筋は、「露軍がウクライナで苦戦し負けている」と勝手に間違った妄想を展開・喧伝し続け、「ロシアが負けているのだから米欧NATOがウクライナの領空を露軍から奪還して飛行禁止区域を設定できるはずだ」と勘違いしている、とマクレガーは言う。 (American military expert explains ‘slow’ Russian advance in Ukraine) (Macgregor: Washington Wants War To Continue As Long As Possible In Hopes To Overthrow Putin

私が見るところマクレガーは正しい。NATO内で、米政府やNATO事務局は、マスコミの方が妄想で実は露軍が勝っていることを知っているので、「ウクライナに飛行禁止区域を設定するのは不可能だ。核戦争の世界大戦になってしまう」と言っている。だが、間違った妄想の方を軽信してしまっているバルト三国やポーランドなど東欧の政府議会、それから米欧全体のマスコミとその軽信者たちは「早く飛行禁止区域を作れ」と叫び続けている。もし今後、東欧のどこかの国が事態を甘く見誤って戦闘機をウクライナに入れようとして露軍に撃墜され、NATOの5条が発動されて米国がロシアと戦争する義務を負った場合、米国はNATO5条を無視して動かず、米国がこの不履行をやった時点でNATOの信用が崩壊する。 (NATO Unity Faltering as Calls Grow for a No-Fly Zone Over Ukraine

マクレガーによると、プーチンは開戦時から露軍に対し、ウクライナで市民を殺したり市街を破壊することをできるだけ避けつつ任務を遂行せよと命じてきた。米欧のマスコミ側の人々は「マクレガーはロシアのウソのプロパガンダを軽信しているだけだ」と言っているが、実のところ、マスコミ側の人々の方が間違っている。ロシア人にとってウクライナ人は同じ民族に近い半同胞であり、ウクライナにはロシア系も多いので、ロシア軍ができるだけウクライナの市民や街区を破壊せずに任務を遂行したいの当然だ。 (Tell Me How Ukraine Ends

2014年に米英が起こしたマイダン革命の政権転覆後、ウクライナは米諜報界が軍事訓練して育てたロシア敵視の極右民兵団(注:ネオナチ)に席巻され、彼らがウクライナのロシア系住民を殺して街区を破壊する内戦を開始し、ウクライナ系に対しても略奪などをやり続けてきた。極右はゼレンスキー側近などウクライナ政府の上層部にも入り込んできた。米諜報界は、育成した極右を通じてウクライナを事実上植民地支配してきた。ロシアは、ウクライナの極右を退治したかったが、米国はロシアよりはるかに強く、最近まで手出しできなかった。 (8-Year Secret CIA Training Program in Eastern Ukraine Helped Prepare for Russian Invasion

最近、米国の覇権が急低下し、コモディティのインフレも激化して、米露が対決したらロシアが勝ちうる状況になったので、今回の戦争になった。米政府は露軍侵攻の前に米欧の大使館や諜報要員をすべてウクライナから撤退して支援を突然に打ち切り、ロシアに有利な状況を作ってやっていた(米国は隠れ多極主義的だ)。この流れから見えるものは、露軍のウクライナ侵攻の目的がロシア政府の公式発表の通り、ウクライナの非武装中立化(米英傀儡からの脱却)と非ナチ化(米英に操られた極右勢力の排除)であると考えるのが自然ということだ。ロシアやプーチンの主張は全部ウソだと言っているマスコミとその軽信者(今や日米欧の人々の大部分)の方が間違っている。私が見るところ、ウクライナは以前のような米英の傀儡国であり続けるより、今回の戦争でロシアの傀儡国に戻った方が安定して平和になる。 (Putin Addresses Huge Pro-War Rally At Moscow Soccer Stadium) (バイデンがプーチンをウクライナ侵攻に導いた

マクレガーによると、露軍はすでに、あちこちにいるウクライナ側の軍勢(正規軍と極右民兵団。主に極右)のすべてを包囲し、補給路を断っている。極右は露軍に包囲された状態で、住民を「人間の盾」にして立てこもっている。この状態で露軍が極右を攻撃すると市民が死ぬので、露軍は極右を包囲したまま、ウクライナ政府と交渉して人道回廊を作って市民を包囲網の外に避難させ、その上で極右を投降させるか、潰そうとしている。だから、露軍は極右を包囲したまましばらく動きを止めている。米欧諸国がウクライナに携帯用地対空ミサイルのスティンガーなどを送る話になっているが、ウクライナの軍勢は、露軍に包囲され補給路を断たれているため、それらの兵器を受け取れない。ウクライナ空軍はすでに設備のほとんどを露軍に破壊された。米欧は、ウクライナ側が潰されかかっている戦況を変えられない。 (Kremlin Responds To US Claim Putin “Frustrated” Over Ukraine Operation, Says Military Was Told ‘Avoid Storming Major Cities’) (ウクライナ難民危機の誇張

ウクライナ戦争でロシアが負けているという、米欧日のマスコミ権威筋がばらまく大間違いの妄想は、米欧日にとって不利な状況を今後いろいろ引き起こす。近いうちにロシアが負けて米欧に降参し、プーチン政権が転覆されて米英傀儡政権に戻るので、ロシアからの石油ガスの輸出が再開されるだろう、とか。これもトンデモな妄想だ。ロシアは勝った状態のまま、米欧の妄想をあえてそれほど打ち消さず、この状態を長引かせることで、米欧を主に経済面で窮乏させ、米国覇権を自滅させていきたい。プーチンはこれを意図的にやっている。現状が長引くほど、米欧日は窮乏する。マスコミはプーチンのうっかり傀儡になっている。これも隠れ多極主義者の意図のうちだろう。 (優勢なロシア、行き詰まる米欧、多極化する世界)(中略)

今回の指摘を出したマクレガーはトランプの側近だった。トランプは彼を駐ドイツ大使にしようとしたが米議会に阻止されて失敗した。トランプは政権末期、マクレガーに国防総省の顧問をやらせていた。最近マクレガーは、共和党系のFOXテレビのタッカー・カールソンの番組によく出ている。民主党や軍産エスタブ系(注:軍産複合体)のマスコミがばらまいてきた新型コロナのインチキ報道のウソを暴いたカールソンは今、同じマスコミ勢力がばらまいているウクライナ戦争のインチキ報道のウソを暴いている。マクレガーは、それに貢献している。マクレガーは以前から、親露的だと非難されてマスコミや軍産民主党からボロクソに誹謗中傷されてきたが、誹謗中傷してきた側の方がウソつきだった感じだ。ロシアゲートのウソや、ハンター・バイデン(注:バイデン副大統領の次男、ウクライナの企業から高額の報酬を受けたとの疑惑がある)の不正行為をめぐる話からもそれが感じられるが、それらはあらためて書く。 (Why a former Trump appointee’s pro-Russia rhetoric matters) (Greenwald: Russian Invasion Has Elevated “Treason”-Mania To Never-Before-Seen-Heights

日本のマスコミやYoutube、SNSでは見られない発言だ。田中氏は米国ディープ・ステートか当時のバイデン副大統領とビクトリア・ヌーランド国務次官補が、ウクライナに連綿として根付いてきたネオ・ナチ勢力を利用して、選挙で正当に選出されたヤヌコーヴィッチ政権を打倒してロシアに追放したマイダン暴力革命についても熟知していると思われる。先のゼレンスキー大統領の弱気に見える発言を裏付ける内容ではないかと思う。

ウクライナ事変の本質は、ロシアと米国ディープ・ステート(闇の帝国:軍産複合体と弱肉強食の新自由主義を信奉する米系多国籍企業)との戦いだ。サイト管理者(筆者)はその論調に全面的に賛同しているわけではないが、リーマン・ショックを的中させた副島隆彦氏も同じ見方をしている。欧米日諸国がここ数年の間に非常に厳しい経済情勢に見舞われると予測している。

ゼレンスキー政権の背後で暗躍するオリガルヒ・コロモイスキー氏

さて、ゼレンスキー大統領が政権の座について米国の傀儡政権になってきた経緯について、政治経済評論家の植草一秀氏がメールマガジン第3178号「ゼレンスキーを操る(イーホル・)コロモイスキー」、第3179号「 軍事行動を誘導したのは誰か」、第3181号「戦乱誘導拡大指向のゼレンスキー」で詳しく述べておられる。

ゼレンスキー氏とコロモイスキー氏

サイト管理者(筆者)の観点で、箇条書きでまとめてみたい。

  1. 2014年2月のマイダン房力革命によってヤヌコーヴィッチ政権は打倒され、最高議会(ヴェルホーヴナ・ラーダ)でオレクサンドル・トゥルチノフ大統領代行(暫定大統領)とアルセニー・ヤツェニュク首相がヴェルホーヴナ・ラーダにおいて承認され、親米ウクライナ新政権が発足した。これにロシア系ウクライナ人が大抗議行動を展開し、ロシア系ウクライナ住民が多いクリミア半島地方では住民投票によって、同地方がロシアに帰属することが決まった(クリミア半島の「ロシア併合」と呼ばれる)が、東部のドンバス地方では新米ウクライナ政権がネオ・ナチ勢力を使ってジェノサイド並みの殺戮を行った。ウクライナ東部ドンバス地方のルガンスク州、ドネツク州のロシア系ウクライナ人に対して行った政府軍(主力はネオ・チ親衛隊のアゾフ)による弾圧・殺戮の詳細は次のサイト(https://www.kazan-glocal.com/official-blog/2014/11/24/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%81%8C%E9%BB%99%E6%AE%BA%E3%81%99%E3%82%8B%E3%82%A6%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%8A%E6%9D%B1%E9%83%A8%E3%81%AE%E5%A4%A7%E8%99%90/)に詳しい。凄惨なジェノサイド並の殺戮が行われている。
  2. 2014年6月に大統領選挙によって選ばれたペトロ・ポロシェンコ氏が大統領に就任したが、東部ドンバス地方での戦闘は続き、2014年9月と2015年2月にベラルーシの首都ミンスクで、①東部ドンバス地方での停戦②ルガンスク州、ドネツク州に高度の自治権を認める③人質の解放と捕虜の交換ーことなどを主な内容としたミンスク合意Ⅰ(全く守られなかった)とミンスク合意Ⅱが成立、議定書としてまとめられ、ミンスク合意Ⅱは国連の安全保障理事会でも承認(国連安保理決議第2202号)され、国際法並みの拘束力を持ったが結局、守られなかった。
  3. 2019年にポロシェンコ現職大統領を破り、大統領に就任したゼレンスキー氏はミンスク合意Ⅱ履行によるウクライナ東部問題解決を公約に掲げた。ところが、大統領就任後にこの公約を踏みにじり、ロシアとの軍事敵対姿勢を尖鋭化した。これが、今回のウクライナ事変の直接の原因である。さて、2019年にウクライナ大統領に選出されたウォロディミル・オレクサンドロヴィチ・ゼレンスキー氏の背後には、ウクライナ屈指のオリガルヒ(新興財閥)であるイーホル・コロモイスキー氏が存在する。
  4. 2015年にウクライナでテレビドラマ「国民のしもべ」がスタートした。ドラマは2015年、2017年、2019年に3シリーズが放映された。平凡な歴史教師であるゴロボロチコがウクライナの現状への不満をぶちまける様子を生徒がスマートフォンで盗み撮りし、それがSNSに投稿されて大人気を博す。これを契機に主人公だったゼレンスキー氏が大統領選に立候補し、当選した。ゼレンスキー氏が大統領選への出馬を表明したのは2018年末だが、すでに2017年末に「国民のしもべ」という名称で政党が登録されていたことからすると、このテレビドラマは事実上の選挙活動だった。
  5. このテレビドラマを放映したのが「1+1」というテレビ局だが、この「1+1」のオーナーが上記のオリガルヒ=イホル・コロモイスキー氏である。コロモイスキー氏は2014年冬のヤヌコヴィッチ政権転覆を実現した暴力革命=マイダン革命遂行に際して私兵や私財を差し出した。同氏は2014年2月の政変後に東部地域でロシア系住民に対する虐殺等に関与したとされるウクライナ極右勢力(ネオ・ナチ勢力)への中核的な資金提供者であったと見られている。ウクライナのネオ・ナチ化が問題視され、ポーランド人、ユダヤ人、ロシア人を大量虐殺したナチスドイツに加担したウクライナ民族主義者組織の系譜を引く極右=ネオ・ナチ勢力がウクライナに存在するが、この系譜上に新しい極右勢力を創設、あるいは資金援助してきたのがコロモイスキー氏であると見られている。コロモイスキー氏は2014年4月、武装集団「アゾフ」を組織した。右派セクターから流れてきた200人ほどのメンバーで構成されているといわれる。その約半数は犯罪歴があり、6月14日のキエフのロシア大使館襲撃事件の中心的存在だったと伝えられる。コロモイスキー氏はそのほにも、「アイダル」「ドンバス」「ドニエプル」(前記の兵士リトビノフが所属)といった武装グループも作ったという。コロモイスキー氏は、ウクライナ、イスラエル、キプロスの三重国籍を持ち、ウクライナ最大の商業銀行「プリバトバンク」の創設者でもあった。
  6. 日本の公安調査庁(法務省の外局で破壊活動防止団体などを監視する組織)は国際テロリズム要覧2021でThe Sofan Center(TSC)の 世界の白人至上主義に関するレポートを元に、「2014年,ウクライナの親ロシア派武装勢力が,東部・ドンバスの占領を開始したことを受け,『ウクライナの愛国者』を自称するネオナチ組織が「アゾフ大隊」なる部隊を結成した。同部隊は,欧米出身者を中心に白人至上主義やネオナチ思想を有する外国人戦闘員を勧誘したとされ,同部隊を含めウクライナ紛争に参加した欧米出身者は約2,000人とされる」と記述されている(Wikipediaより。引用文献付きで記述)
  7. コロモイスキー氏は当初、ポロシェンコ大統領と親交が深く、ドニプロペトロフスク州の知事に任命された。しかし、2015年3月にウクライナパイプライン企業トップがコロモイスキー支配下の人物から政府任命の人物に交代されると、コロモイスキー氏の私兵勢力が同社を襲撃。このことによって、コロモイスキー氏はドニプロペトロフスク州知事を解任された。コロモイスキー氏は2016年にプリバトバンクから数十億ドルを騙し取ったとして刑事告発され、ウクライナ政府はプリバトバンクを国有化した。コロモイスキー氏はとりあえずイスラエルに脱出する。
  8. このころから、コロモイスキー氏は「打倒ポロシェンコ大統領」を目指すようになり、ゼレンスキー氏を背後で操って次期大統領にするための画策を行った。その代表事例が既に述べたテレビドラマ「国民のしもべ」であり、ポロシェンコ大統領政権の腐敗ぶりをウクライナ国民の目に焼き付ける効果があった。同氏はゼレンスキー氏の大統領就任直前にウクライナに帰国。2019年の大統領選で当選したゼレンスキー大統領はドラマ「国民のしもべ」の脚本を書いたシナリオ・ライターのユーリー・コスチュク氏を大統領府副長官に任命した。ゼレンスキー演説の多くをコスチュク氏が執筆していると推察される。同時に、ゼレンスキー氏は大統領府長官にコロモイスキー氏の弁護士だったアンドレイ・バグダノフ氏を任命したが、この人事はコロモイスキー氏が強く要求したものであるとウクライナのメディアが報道した。また、ゼレンスキー大統領の下で、ウクライナ極右勢力である「ライト・セクター」代表のドミトリー・ヤロシ氏がウクライナ軍総司令官顧問に任命されたことをヤロシ氏が明らかにしている。
  9. こうしてゼレンスキー大統領は、繰り返しになるがミンスク合意Ⅱの履行をうたいながら大統領選挙に立候補したが、当選するや否やミンスク合意Ⅱの履行約束を反故にし、ウクライナ極右勢力=ネオ・ナチ勢力を全面的に支援するコロモイスキー氏をバックボーンとして政権を運営し、ウクライナのロシア系住民を弾圧するとともに、2019年4月にトルコから軍事用のドローンを購入してドンバス地方の偵察やルガンスク州の分離は独立組織の榴弾砲(りゅうだんほう)の破壊に利用。そして、NATO加盟を中間目標とした親米反ロシア路線に突き進んでいる。これが、プーチン大統領が今回のロシア事変の開始に踏み切らざるを得なかった目的である。

ウクライナでのロシア軍の戦闘行為は決して許されるものではないが、日本の広島と長崎に玄麦を投下し、沖縄戦とともにB29によるナパーム弾であるM69焼夷弾などの焼夷弾を投下して爆撃被災者約310万人、死者11万5千人以上、負傷者は15万人以上、損害家屋は約85万戸以上の件数を出したと言われる東京大空襲や全国各主要都市の空襲を行った米国の大統領が何の反省もなく、プーチン大統領を「戦争犯罪極悪人」という資格があるのか、疑問である。早期停戦が喫緊の課題であり、急務だ。また、「冷戦思考」は捨て去り、停戦後(の和平交渉で)は「汎欧州共通の家」を実現する必要がある。

ゼレンスキー大統領にも大きな問題があることは既述の通りだが、付け加えると、ウクライナに巣食うネオ・ナチ勢力がウクライナ市民を人質に取っていると思われるが、ウクライナの市民に限らず人命は最も尊い。ゼレンスキー政権は18歳から60歳までの成年男子のウクライナからの出国を許可していないが、これは国民の「生存権・基本的人権」を否定するものだ。

早期停戦に向けての基礎的な交渉合意内容は、やはり「ミンスク合意Ⅱの誠実な履行」を根本にして決定すべきだ。なお、真正野党側がこれに気づかないと、敵基地攻撃能力の保有・強化や核共有、軍備増強の声に押されて6月の参院議員選挙で大敗し、日本国憲法は壊憲される可能性が大である。

世界諸国は経済問題で日米欧陣営と中露陣営に分裂か

ロシアは国内総生産(ドル建てGDP)で2020年に11位だが、石油・天然ガスや鉱物資源の大国だ。欧州諸国や日本はロシアの天然資源に頼っているところが少なからずある。その意味で、米欧日諸国がロシアに対して厳しい制裁措置を発動したことはむしろ、米欧日諸国に“ブーメラン”として跳ね返ってくる公算が大きい。その一方で、ロシアと中国の経済協力関係は強くなるだろう。中国問題グローバル研究所の遠藤誉所長は3月3日に、「習近平が描く対露【軍冷経熱】の恐るべきシナリオ」と題する解説記事を執筆しておられる(https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20220303-00284766)。

習近平はプーチンの軍事行動には同調しない代りに経済的には徹底してロシアを支援する。だから国連での対露経済制裁決議では棄権した。習近平の対露【軍冷経熱】戦略は、アメリカの対中包囲網を弱体化させるか?

◆【経熱】中国は12年連続でロシア最大の貿易相手国
今年2月9日、中国中央行政省庁の一つである商務部は<中国は12年連続でロシア最大の貿易相手国であり、中露経済貿易協力は実りある成果を上げている>という見出しで、「2021年の中露貿易は飛躍的発展を遂げている」として新しいデータを発表した。それによれば、2021年の中露貿易高は1468億7000万ドルで、前年同期比35.9%増であるという。これはこれまでの中露二国間貿易における最高記録であり、中国は12年連続でロシア最大の貿易相手国であり続けているとのことだ。2021年には、中露貿易構造の最適化が促進され、輸出入商品貿易だけでなく、インフラ投資や建設などの分野での二国間協力が一層強化された。

まず輸出入方面を見るならば、2021年、中露の機械・電気製品の貿易額は434億ドルに達し、このうち「中国からロシアへの自動車、家電製品、建設機械の輸出」が急速な伸びを遂げている。たとえば、ハーヴァー、シェリー、吉利(ジーリー)などの中国ブランド車がロシアで記録的な販売台数を記録しており、ファーウェイやシャオミーなどの中国ブランドスマホがロシア国民に好まれている。電子商取引の分野では、2021年最初の11ヶ月間で187%増加している。

現在、中国とロシアは「中露物品・サービス貿易の質の高い発展のためのロードマップ」を策定し、両国間の貿易額2000億ドルという目標を達成するための計画に基づいて動いている。昨年11月、中国とロシアの関連部門は、デジタル経済分野における投資協力に関する覚書に署名し、両国の産業間の協力を奨励し、支援し、デジタル・エンパワーメント、グリーン・エンパワーメント、イノベーションを促進した。 双方は、「5G、バイオ医薬品、グリーン低炭素、スマートシティなどの新たな成長ポイントの構築、政策、産業、プロジェクトのドッキングの強化、エネルギー鉱物、農林開発、工業生産、情報通信などの分野における上流・下流協力の一層の深化、機械・電気などの工業団地の相互設置の促進、インフラのハードウェア・ソフトウェア接続のレベルの向上、産業チェーンのサプライチェーンの深化など、科学技術イノベーション協力を一層強化すること」で合意した。

北京オリンピックの際に訪中したプーチン大統領がウクライナ事変の全貌について習近平主席に語っていたかは不明だ。しかし、習主席は一貫して対ロ経済制裁には反対しているものの、中露経済協力関係は深めていくようだ。ASEAN諸国や南アジア、中東、アフリカ諸国に親米国は多くない。米国(のディープ・ステート)の「押し付け似非民主主義」を嫌っているからだ。国連総会でのロシア非難決議は193カ国中、賛成が141カ国。反対はベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、ロシア、シリアの5カ国、棄権は中国やインドなど35カ国だった。

反対ないし棄権した諸国の人口は世界人口の半数程度だ。つまり、人口で言えば「地球村」の半数が積極的な賛成はしていない。こうなると、石油・天然ガスと鉱物資源の争奪戦をめぐって、世界の諸国は米欧日諸国陣営と中露両国陣営に分かれることになる可能性が考えられる。米国、欧州諸国、日本もエネルギー問題にさいなまれる公算が大きい。併せて、ロシアに対する経済制裁でロシアが保有するドルが使えなくなったことも考慮すると、ドル基軸通貨体制にも大きなひびが入る可能性を否定できない。今後、ウクライナ事変は世界の経済情勢に対しても大きな影響を与えると考えられる。米国流の「押し付け似非民主主義」に代替できる理念が必要になる。


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