◆米国足抜けの後を埋める

マネーに国境はない。日本と欧州が緩和マネーをどんどん吐き出せば、米国や新興国の株式市場は暴落を避けることができる。黒田日銀のハロウィーン緩和は、FRBの抜けた穴を心配する各国の株式市場を勇気づけた。

「ジャクソンホールの密約」という噂が市場で取りざたされている。8月下旬、米国ワイオミング州の保養地ジャクソンホールで金融セミナーが開かれ た。各国の中央銀行総裁が集まる会議の裏で「米国が量的緩和を終えた後、不足する資金を日・欧が埋める、という密約が交わされた」いうのである。

当局者は否定するが「密約があろうと無かろうと、そうなるだろう」というのが市場の受け止め方だ。ハロウィーン緩和は密約を裏付け、次はECBの出番とウォール街は好感している。

バトンを渡された日銀は蟻地獄に足を踏み込んだ。資金を止めれば日本だけでなく世界の株価まで動揺する。危ない役割を引き受けた黒田総裁の正気を疑う。米国には「日本の肩代わり」という出口があったが、日本にはない。

「国際協調」と謳われる政策の連携は、強い国が弱い国に「損」を押し付けるときのうたい文句でもある。

1985年にドル安への協調を謳ったプラザ合意は、1ドル=230円台だった円ドル相場を1年で150円台にまで追い込んだ。円高でありながら米国へ資金が流れるように、日本は金利引き下げを強いられ、超低金利の中でバブル経済に突入、その崩壊が長期停滞へとつながった。

自動車、半導体、鉄鋼の自主規制も貿易摩擦解消のための国際協調だった。

安倍首相が、「アメリカがやっている金融の量的緩和を日本もやろう」と言い出した時、歓迎したのは米国である。前任の白川総裁が慎重だった「異次元の緩和」に黒田総裁が踏み切り、ウォール街はその決断を讃えた。米国で評判のいい“クロダ”は、米国の金融界に都合のいい人物だった。

量的緩和をいつまでも続けていれば、FRBに米国債や住宅債券が滞留してしまう。値下がりする危険のある金融商品を抱えるのは不健全だ。緩和マ ネーで怪しげな投資ファンドや影の銀行を儲けさせるのは不道徳でもある。市場を混乱させずに足抜けしたい。その時ニューマネーを注いでくれる忠実なパートナーとして黒田総裁は歓迎された。

日本にとってバブル崩壊は「第二の敗戦」だった。金融の蟻地獄は「第三の敗戦」にならないといえるだろうか。

◆ 市場が囃す「ダブルバズーカ」

メディアを賑わす追加緩和への発言は概ね「肯定的」でヨイショも目立った。その中で目を引いたのはBNPパリバ証券チーフエコノミスト河野龍太郎氏のコメントである。

「国の借金を中央銀行が引き受ける『マネタイゼーション』の色彩が強まった」(日経新聞)。核心を突いている。

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が11月から運用資産に占める株式の比率を高める。これまでGPIFの運用は国内債券(主に国債)が 60%で国内株12%、外国株12%だった。それを国内債券を35%に減らし、国内株・外国株の比率をそれぞれ25%に引き上げた。

GPIFの資産規模は132兆円。新たに株式に流れ組む資金は内外併せて34兆円程度になる。債券を売って株に乗り換える。国債が放出されれば、長期金利は上昇する。「市場で売られる30兆円の国債を日銀が肩代わりするのが今回のスキーム」と河野氏は見る。

30兆円ものニューマネーが流れ込む株式市場は大歓迎だ。GPIFだけではない。日銀もETFの保有を3倍増させる。東証の指標銘柄に買いが入る。市場は「ダブルバズーカ」と囃したてた。

日銀の支援を受けて米国は量的緩和を終了し、ゼロ金利の解除が視野に入った。金利は上がっていく。日米の金利差は開く、との思惑からドルが買われた。蟻地獄から這い出る米国を助け、自らが蟻地獄に落ちた日本の円が売られるのは当然だろう。

◆再増税実施を迫るメッセージ

今でも黒田総裁や安倍首相は「円安は日本経済にプラス」と考えているのだろうか。

安倍首相がどこまで知らされているかは分からないが、日銀総裁は背筋が寒くなっていることだろう。  *円札の価値を裏付ける日銀の資産に国債や株式がどんどん増える。国債金利は史上空前の低金利である0.4%台。つまり国債価格は極めて異常な超高値になっている。金利が反転すれば暴落の恐れさえある。

いまの株式市場は政権の都合で「腕力相場」の様相を呈している。GPIFや日銀など総動員体制で株価を上げているが、不自然な価格形成は長続きしない。

急落すれば日銀の膨大な損が出て、お札の価値が危うくなる。

こんな事態を招かないために「日銀の政治的独立」が大事とされてきた。自民党が政権に復帰し、安倍首相の周辺から「日銀の政治的独立はいらない」という声が上がり、首相のお眼鏡にかなった黒田総裁が就任し、日銀は政権のサポーターになった。

これから何が起こるのか。中央銀行が政権のシモベになり、政府が発行する国債をせっせと買い取る「マネイゼーション」が進むだろう。中央銀行にとって地獄への道である。

黒田総裁は「歴史に残る悪総裁」にはなりたくない。地獄への道を断ち切るには「国債発行の抑制・財政再建が必要」と、ことあるごとに述べている。 財務官僚でもあった黒田総裁は「予定通り消費税10%」を主張している。危ない橋を渡って政府に協力するのは、消費税の再増税を予定通り行う環境つくりが 必要と考えているからだ。「日銀が不健全なことをとことんやるから、財政を健全にしてくれ」というメッセージでもある。

安倍首相は年内に消費増税の可否を決定するという。政府が選んだ有識者が官邸に呼ばれ意見を聞かれている。巷では景気回復を実感できない人がほとんどだ。株高の恩恵は大企業や富裕層だけ。円安はグローバル企業を喜ばすが、庶民は物価高に悲鳴を上げる。実質所得は17ヵ月連続して下がったまま。化けの皮が剥がれたアベノミクスを取り繕い、見せかけの経済をよくして消費増税にこぎつけたいというのが黒田総裁の本音だろう。

「消費増税は世界への公約」「増税は社会保障財源などに組み込まれ今更止めるわけにはいかない」という声が財務省を中心に吹き出ている。

「予定通り進まなければ債券市場などに不安定な動きが出かねない」。黒田総裁は慎重に言葉を選びながら、国債暴落の恐れを警告する。日本政府が財政健全化を放棄したと見なされれば円安に拍車がかかる。最悪のシナリオは、国債と日本円が抱き合って暴落する「日本売り」だ。

下降する景気をさらに悪化させる増税か、破局の危険を覚悟して回避するか。どちらも選びたくない選択が待ち受けている。
≫(ダイアモンドONLINE:山田厚史の「世界かわら版」)

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米国は世界最大の借金大国(対外純債務国)である。ドル高・内需による景気拡大は不均衡を拡大する。つまり、不均衡拡大の方向に世界の経済システムが動作している。これは、無理筋である。無理筋を維持するために、中央銀行による直接・間接の国債引き受け(ペーパーマネーの増刷)が強化されている。超円安・消費税大増税による大不況・倒産多発と、悪い物価上昇(スタグフレーション)が展開される時代ーつまり、スタグフレーションの時代ーが本格化する。

 

 

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