週刊文春が3月4日発売の3月11日号で、総務省の谷脇康彦審議官と山田真貴子総務審議官(いずれも当時)、総務省巻口英司国際戦略局長、金杉憲治外務審議官(当時)が、NTTの鵜浦博夫前社長や、澤田純社長、子会社・NTTデータの岩本敏男前社長から2020年6月〜9月にかけて国家公務員倫理規定法違反の高額接待を受けていたと報じたことで、総務省が「内部調査」なるものを行っている。しかし、疑惑の中心人物である谷脇氏が総務省大臣官房付に異動したことで、60歳の谷脇氏が事務次官(定年62歳)にならない限り、今年3月末には退職することになる。そうなれば、内閣広報官を辞職した山田氏と同じように「内部調査」なるものは不可能になる(する)。刑法上は贈収賄罪疑惑に相当するが、「判事(裁判官)検事(検察官)交流」が恒常化していることに象徴されるように今日、裁判所と検察庁の癒着は当然のようになっている。検察庁(東京地方検察庁)が捜査を開始するとは思えないし、検察審査会も検察庁と癒着している裁判所が管轄している限り、「起訴相当」の議決を2回行うとは思われない。政府として安倍晋三政権、菅義偉政権など自公政権が続く限り、真相の究明は不可能だ。
東京都のモニタリング(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)では、7日移動平均での感染者数は265.7人、前週水曜日比率は95.4%の模様(東京都は前週比率を発表しなくなった)。PCR検・抗原査人数は6417.9.人。陽性率は東京都独自の計算方式(7日間移動平均での7日間移動平均での新規感染者数を、同じく7日間移動平均の検査人数で除したもの)は3.3%。感染経路不明率は47.68%。全国では午後23時59分の時点で1316人が新規感染、54人の死亡が確認されている。重症者数は前日比16人減の364人になっている。
【参考】東洋経済ONLINE(https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/)では、3月9日時点の実効再生産数は全国が前日比0.05人増の1.06人、東京都は3月8日時点で前日比0.02人増の0.96人だった。東京都は9日時点の実効再生産数は不明だが、全国では9日時点の実効再生産数がこのところ1.0人を上回っており再拡大(リバウンド)を警戒すべき状況であることを示唆している。
追記:新型コロナの主流は英国など外国で変異した変異株に
政府のコロナ対策本部分科会の尾身茂座長は10日の衆議院厚生労働委員会で、子供の感染者数が増えていることも考慮に入れると今後、変異ウイルスが国内でも主流になっていく可能性があると指摘した(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210310/k10012907281000.html)。立憲民主党の山井和則衆院議員の質問に対して答弁したもの(https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=51703&media_type=)。厚生労働省の「公式発表」は適切なものではなく「氷山の一角」を示しただけで、第三波が収まり切らないうちに第四波が生じてくる公算が大きくなった。
なお、尾身座長は首都圏での緊急事態宣言の解除に当たっては、新規感染者数よりも医療供給体制のひっ迫度が優先的に配慮されるとのニュアンスの(とも受け止められる)発言を行った。新規感染者数が再拡大(リバウンド)すれば当然、医療供給体制は逼迫するので、単刀直入に言えば矛盾した発言だ。
主論:本投稿記事の本論
今回の違法接待の発端は、2018年9月13日に告示され、9月30日投開票された沖縄県知事選挙である。この時の選挙は、オール沖縄の支持を受けた玉城デニー候補(自由党籍を離れた)が約8万票の大差をつけて、自公両党が推薦した佐喜真候補を敗った。当然の結果ではあるが、この国政選挙並みの選挙戦で佐喜候補の応援に駆けつけた菅官房長官(当時)が突然、「携帯端末の通信料金を値下げする」との国政にかかわる異例の「応援演説」を行った。携帯端末(スマートフォン=iPhone含む=)の通信料金を管轄するのは郵政省と自治省が合体した総務省である。
沖縄県知事選の「応援演説」としては理解に苦しむ発言であるが、この選挙後の2019年6月には当時総務省の国際担当審議官だった山田氏が、巻口英司国際戦略局長、金杉憲治外務審議官(当時)らとともにNTTの澤田社長から国家公務員倫理規定法違反の接待を受けている。恐らく、総務相を務めた菅官房長官(当時)の指示(忖度の可能性はあるがやはり指示の可能性が強い)、沖縄選挙後に「天領」である総務省とNTT(日本電信電話株式会社等に関する法律=NTT法=に基づき、通信事業を主体とする企業集団であるNTTグループの持株会社として設立された特殊会社)による通信端末の料金値下げ工作が始まったのだろう。
通信料金値下げの見返りは、NTTグループの再編(目標は事実上の独占企業になること)だ。NTTグループは、日本に新自由主義を本格的に導入した中曽根康弘政権のもとで、日本国民の財産である(国有公営企業)である日本電信電話公社(電電公社)を1985年、分割・民営化することによって誕生した。NTTグループは、東日本電信電話(NTT東日本)、西日本電信電話(NTT西日本)、NTTコミュニケーションズ、NTTデータ、NTTドコモからなる。分割民営化によって通信業界、コンピューター・システム業界に競争原理を導入するという「大義名分」からすれば、それぞれが個別の企業として独立した経営を行って当然だ。
しかし、NTTグループは、企業の利益を最大化するという目的から、やはり分割・民営化の大義名分に反するグループの事実上の統合を目指している。事実、NTTが2020年11月17日、NTTドコモに対してTOB(株式公開買い付け)を行い、TOB完了後の12月29日 にNTTの完全子会社にした。「通信端末料金ゼロ」という時代があったが、これは通信料金を割高に設定していたために可能になっていたことで、通信端末(スマートフォン)の値段を適正化すれば、通信料金の引き下げはいとも間棚なことだ。
それに比べれば、持株会社であるNTTがグループ各社の経営権を握れば、事実上の独占企業として、市場原理を柱とした市場経済に基づく資本主義体制にはそぐわない独占利潤を手に入れることができる。政府=菅政権は、こうしたNTTの言わば「野望」を達成させることの引き換えに、「鳴り物入り」の政策として「モバイル通信料金」の値下げを大々的に喧伝したわけだ。総務省は「野望」を実現させるためのNTT改革を次々と打ち出している。次の図はそのひとつだ。
話がそれることになって申し訳ないが、菅首相の指示に基づく総務省高菅の行政対応は次の問題点がある。競争原理は働かなくなるため、企業の成長・発展・新規分野への参入は行われなくなり、企業の競争力はかえって弱体化してしまう。引いては、日本の産業構造を時代の流れ(技術革新の推移)に応じて高度化するということが行われなくなる。今や、日本は5Gなどの情報通信技術や電気自動車、自然再生可能エネルギー分野、医薬品などで世界の先進諸国に決定的に立ち後れ、東アジア諸国の「後進国」になりつつある。
電気自動車の時代に突入したため、トヨタ自動車は、2020年3月の第116回定時株主総会で、同社の先進技術カンパニーのシニアフェローを務めていたジェ-ムス・カフナー氏が取締役・執行役員に就任した。カフナー氏はグーグルで自動運転の開発に携わってきた。2016年にトヨタが米国に設立したAI(人工知能)開発会社に入社していた(https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/03808/)ことがある。ところが、トヨタはGoogleとは提携せず、スマートシティー(国家戦略特区だが、住民の地方自治参政権や基本的人権が損なわれる)構想実現のため、NTTと提携した(https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/03808/)。若干引用させていただきたい。
トヨタ自動車とNTTが、「スマートシティー」事業で手を組んだ。約2000億円を相互出資し、業務資本提携する。スマートシティー事業を巡っては、米グーグル(Google)系をはじめとするIT企業が先行。トヨタ・NTT連合の成否は、Googleの弱点を突けるかどうかにかかる。
(中略)2020年3月24日に開いた記者会見で、トヨタ社長の豊田章男氏は意気込みを語った。明言こそしないが、同氏の念頭にあるのはGoogleだろう。豊田氏と並んで会見に臨んだNTT社長の澤田純氏は、「GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)対抗という意識は大いにある」と断言した。
しかし、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)+マイクロソフトの力はもちろん、全くあなどれない。政府=菅政権は設置予定のデジタル庁のプラットフォームに米国のアマゾンが開発した「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」を採用することにしたことに象徴される。要するに、NTTの力量には見切りを付けているわけだ。これについては日刊ゲンダイが報道している(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/76173?page=3)。一部、引用させていただきたい。
政府は10月1日から、政府共通プラットフォームの運用を開始した。これを受注したのはアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)だ。NTTデータやNEC、東芝など日本の巨大ITベンダーは牙城を外資に明け渡した。
ITゼネコンとも呼ばれる日本のITベンダーは、開発・設計さえ握れば、メンテナンスやシステム更新をほしいままに受注できた。この構造がベンダーロックインと呼ばれる利権を作り、政府DXが世界的に後れを取った上、技術的にガラパゴス化してきた理由だと指摘されている。そして、ついに日本のITベンダーは、AWSに敗れ去った。
投稿記事中、「政府DX(デジタル・トランスフォーメイション)」とは大雑把に言えば、政府が採用する人工知能(AI)や情報通信技術(ICT)、情報通信技術によるハードウェアの制御技術(IoT=Internet of things=)など、これからの産業・技術基盤のことだ(https://staffing.archetyp.jp/magazine/dx-explanation/)。次の図がイメージ図です。
政府=菅政権のデジタル庁は、未来志向のプラットフォームにNTTグループの技術を採用しなかったわけだ。これでは、総務省の高級官僚に指示して「NTT改革」をさせてきたことと支離滅裂になる。2000年代初頭の小泉純一郎政権が「民で出来ることは民に任せよ」との「スローガン」は実のところ、利権集団(政官業癒着集団)による国有財産の私物化にほかならなかった。これを主導してきた中心人物が、竹中平蔵パソナ会長(東洋大学教授、慶應義塾大学名誉教授)という学商だ。その前提として、政官業癒着集団によって政治権力を奪取し、「権力の私物化=血税の私物化」を行ってきた。
現在、日本国民は「国民主権」を事実上放棄し、有権者の50%は投票に行かず、このうち25%(近年は徐々に低下傾向にある)は政官業癒着集団が占めるうえ、必ず選挙に行く。加えて、神津里季生会長率いる日本労働組合総連合会(連合)が日本共産党を排除する運動を大々的に展開して野党分断工作を行っている。立憲民主党はやはり、連合が重要な支持母体になっているから、神津会長の働きかけに弱い。それを立憲がはねのけて、日本共産党を含む野党側が強力な反新自由放任主義に基づく政策連合を結成して、小選挙区で候補者を一本化しない限り、政権交代は有り得ない。ただし、菅首相の打ち出す政策が「支離滅裂・小出し・右往左往」の結果をもたらすことを繰り返しているため、日本維新の会や国民民主党を除く野党、特に、立憲が本気になれば、政権奪回のチャンスはある。
そのためにも、総務省の接待疑惑の真相究明は重要だが、現実的には難しいところがある。冒頭に述べたように、疑惑の中心人物である谷脇前総務省審議官が3月末で退職すると見られるからだ。確かに、朝日新聞が3月10日付1面のトップ記事で掲載している上脇博之神戸学院大学教授の談話が指摘するように、国家公務員法倫理規定法の趣旨に照らせば、「退職した国家公務員に処分を下せないことと、在職中の行為が適法かどうかを調べることは別問題」であり、「なぜ接待されたか、行政のゆがみはなかったか。当事者(総務省を含む政府=菅政権)には説明責任があり、総務省は退職者であっても積極的に調べるべきだ」(https://digital.asahi.com/articles/DA3S14827737.html?iref=pc_ss_date_article)という正論はある。しかし、与野党の現在の議席数では、事実上困難だ。
なお、NTTの澤田社長が15日の参院予算委員会に参考人として国会招致されるが、「虚偽答弁」をしても国会では「当たり前」になっているうえ、答弁に窮しても「記憶にございません」を繰り返せば、時間を稼いで「幕引き」を図ることはできる。刑法上は今回の総務省違法接待事案は増収罪に問われる事案であるが、裁判所と検察庁が癒着しているうえ、贈収賄の金額が「少ない」(ただし、国民や業界のための公正かつ公平な行政を歪めた罪は非常に大きい)ため、捜査に乗り出すことはまずないだろう。
ヤフー・ニュースが報道した佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士によると、総務省高級官僚違法接待事案は刑法違反だ(https://news.yahoo.co.jp/articles/823e9d54e27cd6d4e994255eb4f140738e1e6c9b)。主な論点を引用させていただきたい。
収賄罪は『公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、またはその要求もしくは約束をしたとき』に成立し、5年以下の懲役に処すると定められています(刑法197条1項前段-単純収賄罪)。賄賂は金銭だけでなく、人の欲望を満たすあらゆるものが対象になります。単純収賄罪は、公務員がその職務に関する頼み事をされていなくても、また、公務員が実際に不正な行いをしていない場合でも成立します(中略)。
いずれにせよ、賄賂の金額に関係なく、要件を満たしていれば犯罪は成立しますが、賄賂の金額は実際に検察が立件するかどうか判断する上で影響を与えます。金額が低ければ、起訴されない可能性もあるでしょう。
確かに、刑法(https://elaws.e-gov.go.jp/document?law_unique_id=140AC0000000045_20200401_430AC0000000072)197条第1項前段「公務員が、その職務に関し、賄賂ろを収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲役に処する」、197条第3項目第3段「公務員であった者が、その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する」(現時点では公訴時効ではない)などの規定があるから、今回の総務省違法接待事案は検察庁(東京地方検察庁)が捜査に着手すべき事案である。
しかし、公務員による収賄事案が、公平かつ公正な行政を歪めたことに対する規定は明確ではない。さらに、佐藤弁護士が述べているように、金額が低ければ起訴されないだろう。今回の事案は公平かつ公正な行政を歪め、日本の経済社会を異常な事態に陥れてきたことに最大の問題があるが、そのための捜査を行えるか否かになると明確ではない。検察が捜査することはないだろう。このため、市民団体(検察庁法改正に反対する会)が検察審査会に対して総務省違法接待事案のうち、東北新社事案に対して刑事告発を行い、受理された(https://news.yahoo.co.jp/articles/72013c6692685ba04dc982e8081acfbbca850cb2)。
しかし、検察庁と癒着関係にある裁判所が管轄する検察審査会が二度、「起訴相当」の議決を行う可能性は相当に低いと思われる。過去に、立憲の小沢一郎衆院議員の「陸山会」の政治資金収支報告書記載問題が起こったことがある。これは、小沢氏の政治資金管理団体である陸山会が、秘書の住居のための不動産を取得した際に、政治資金収支報告書に購入代金を支払った年と登記が完了した年のどちらの年に記載すべきかという問題が焦点だった(ささいな問題で、間違いがあれば修正できる)。この問題は政治資金規正法違反として刑事告発された事案(弁護側の証人である公認会計士は小沢氏側の収支報告記載が正しいと証言)で、検察庁と検察審査会の不透明な関係が指摘されたが結局、小沢氏側は「冤罪」に遭った。この事件をきっかけに、小沢氏側が民主党内新自由放任主義者たちから排除され、民主党は旧来の自民党政権のようになった。
こうしたことを考えると、森友学園問題から始まって今回の総務省高官違法接待事案に至るまで、放置されているすべての事案は、真正野党が強力な政策連合を結成し、国民の理解と共感を得られる政治理念と政策体制、影の内閣(シャドウ・キャビネット)を中心とした連合政権構想を打ち出して、今秋までには必ず行われる総選挙で政策連合側が政権を奪還しない限り、全容を解明することは不可能だ。