れいわ・山本代表の軍師は松尾匡立命館大教授かー立憲民主党は守旧派に転落へ

れいわ新選組の山本太郎代表は広義の政府(統合政府=政府と日銀)の通貨発行権を使った「れいわニューディール政策」を打ち出しているが、同政策の「軍師(アドバイザー)は立命館大学経済学部「反緊縮・積極財政」を唱える松尾匡(ただす)教授のようだ。一方、11月30日の立憲民主党代表選で当初は「積極財政」を訴えていた泉健太政調会長が新代表に選ばれた。泉新代表は消費税減税の必要性は語りつつも、相変わらず立憲と日本共産党との分断工作を展開している連合との「良好な関係」を維持することを述べている。憲法改正=改悪の発議が可能になった段階で、野党共闘はどうなるのか。

松尾匡立命館大教授とれいわニューディール政策

松尾教授(サイト:http://matsuo-tadasu.ptu.jp/)は新古典派経済学やケインズ経済学はもちろん、数理マルクス経済学の専門家だ。誤解を恐れずに言えば、現代マルクス経済学者だろう。ケインズ経済学の「集大成」としての現代貨幣理論(MMT)にも理解があるとされている。れいわの山本代表は「れいわニューディール政策」はMMTに基くものではないと繰り返し強調しているが、その理由は松尾理論に影響を受けているためと思われる。そうであれば、れいわ新選組と日本共産党は意外に政治・経済立場が近いかも知れない。サイト管理者(筆者)は現代版「科学的社会主義」を提示し得ないで、旧い反共攻撃を受けている日本共産党が松尾理論に学び、マルクス・レーニン・スターリン主義を真の意味で超克、同党とれいわが立憲民主党の軌道を正しく誘導することを期待したい。

政府の御用新聞と揶揄される産経新聞がWebサイトで「山本太郎氏の軍師は『反緊縮』の立命館大・松尾氏 野党にじわり侵食」と題する記事(第一次れいわ新選組の人気があった当時の2019年11月9日)で次のように報じている。山本代表を「共産主義者」として批判する狙いがあると思われる。

れいわ新選組の山本太郎代表が最近、盛んに経済政策の軍師をアピールしている。消費税廃止という主要政策の源泉は、「反緊縮」を訴え増税反対の論陣を貼る立命館大の松尾匡教授だ。松尾氏の考えも参考にした大規模な財政出動と手厚い社会保障、消費税減税を組み合わせた特異な政策は「無責任」との批判も強いが、野党内では第一党の立憲民主党の牙城を脅かすほど、じわじわ支持者を増やしている。

山本氏によると、旧自由党時代にNHK番組に出演した際、松尾氏の著書に影響を受けたと言及したところ、松尾氏がブログで反応。松尾氏にメールを送って直接、教えを請うたことで交流が始まったという。松尾氏を介して人脈が広がり、関西学院大の朴勝俊教授らからもレクチャーを受けることになった。山本氏は10月31日の講演で、一連の出合いを「消費税は止められるじゃないかと感じたきっかけだった」と振り返った。

松尾匡氏は亜紀書房から2018年5月1日、英国・ブライトン在住の保育士・ライター・コラムニストのブレイディ・みかこ氏と東京大学大学院情報学環教授で現代理論社会学の専門家の北田暁大氏との対談集「それそろ左派は〈経済〉を語ろうーレフト3・0の政治経済学」を出版している。2020年2月7日に第一版第五冊。本著は、いわゆる左翼思想の系譜をレフト1.0(マルクス・レーニン・スターリン主義)→レフト1.5(反帝国主義・反スターリン主義の新左翼)→レフト2.0(英国のトニー・ブレア首相が提唱した福祉国家路線を否定する「第三の道」を提唱したが、新自由主義化して失敗した)として総括し、現在は「反緊縮(国債増発による金融緩和)・積極財政」のレフト3.0が欧州諸国で成果を挙げつつあることを明快に述べた書だ。

共産主義」に代表される「左派」は「パンの問題」(生活・経済)の問題解決から出発したが、スターリン主義の失敗以、降経済問題の解決をおろそかにしてきたことの限界を説き、今は「反緊縮・積極財政」を採用すべきことを明快に説いている。サイト管理者(筆者)は、「人はパンのみにて生くるにあらず」と思うが、「パン」の問題も重要だ。ここでは、やや長文になるが、れいわ新選組の主張と直接関係した松尾教授の発言内容を引用させていただきたい(98-99ページ)。

 

ただ、国の借金というのは普通の借金とは性質が違うんですよ。たしかに、金本位制をやめてお金を「無からつくり出す」といっても、結局、日銀が政府の国債などの資産を買い取って、その分のお金をつくっているわけです。じゃあ、「国国債は借金じゃないか」ってなると思うんですけど、よく考えてみてください。そもそも、そのお金はどこに対する借金なのかっていうと、(金融機関を含む)民間の企業ではなくて日銀に対する借金なんですよね。

日本の場合、大半の借金は別に外国から借りているわけではありません。一応、今の日本では、財政法第五条で、国会で特別に認められた時以外は、日銀が直接国債を買い取ることは禁じられているので、通常だと政府が直接お金を借りるのは、民間の国内銀行からです。でも、最近では銀行が持っている国債を日銀が大量に買い取ってお金を出しています。結局債券市場を一度通してから、日銀がそこから国債を大量に買い取っているだけなので、間にクッションは挟んでいますけど、政府が日銀からお金を借りているのと同じことになります。それでいま、(全)国債の四割くらいは日銀の金庫の中に入っています。やろうと思えば、民間流通している国債をもっと日銀が買い取ることもできます。

ここでのポイントは、実は政府の日銀に対する借金というのは、期限が来たら借り換えをして、また期限が来たら借り換えをして・・・という風に、永久に先送りすることが可能だということです。つまり、事実上、好きな時まで返さなくてすむという仕組みになっているんですよね。当たり前ですが、これは合法ですよ(笑)。日本でもこの借り換えということは以前から行っています。

もちろん、こういう風に返済期間を無限に先送りしても、国債の利子分は日銀に払わなければいけないんですけど、日銀というのは収益から職員の人件費などの経費を差し引いた額を「国庫納付金」として政府に戻していますから、事実上利子がないのと同じです。職員の人件費を普通の公務員と同じように税金でまかなっているみたいなものだからですね。

要するに、通貨発行権を持っている主権国では、政府と中央銀行の「統合政府」の枠組みを使い、国債の発行によって民間に資金を供給しているわけで、経済がデフレ不況(需要不足の状態にある経済)の際には、この民間に供給する資金で消費需要や設備投資需要を喚起することが必要であり、重要であるということだ。この考え方は、山本代表率いる「れいわニューディール」政策の根幹になっている。

ただし、れいわ新選組ではデフレ経済であっても国民経済に対する無制限の需要注入は、いずれ需要が供給を上回り、インフレを加速することから、政府の国債発行による資金供給はインフレ率2%までとするという上限を設けているわけだ。また、松尾教授は税制でインフレ加速を防止することを説いている(180ページ)

そうなると(インフレ加速の気配が見えてくれば)今度は増税をして、富裕層や大企業から税金を多くとるという方向に転換しなければいけません。(中略)累進課税の累進性を強化するとか、法人税を高くするとかというのは、そのための手段なんです。(中略)いまのうちに法人税などを増税しつつ、デフレを抜け出さないうちはそれが景気回復の足を引っ張らないように、日銀がつくったお金(緩和マネー)で設備投資補助金とか雇用調整助成金などの名目で同じ額を企業セクターに戻す。そしてデフレを脱却したら、この補助金・助成金を段階的に縮小・停止していけばいいわけです。

このように、れいわ新選組の「れいわニューディール政策」は松尾教授の考え方が基礎になっている。本書では欧州諸国を中心に「レフト3・0」の「反緊縮・積極財政」政策が展開され恥じたことが、各国の経済成長を促し、政治的安定の回復に役立ったことが随所で示されている(184、299-301ページなど)。

実際には、これまで政権について、反緊縮政策を進めることができたのは、どちらかと言えば穏健派が主導する政権です。いずれも目下のところ首尾は上々、以下、IMF好評のデータを使って三例紹介しましょう。

カナダで二〇一五年に緊縮派の保守政権を倒して政権についた中道左派の自由党は、三年間で二五〇億カナダドルの財政赤字を容認し、計六〇〇億カナダドルのインフラ投資を公約して選挙を闘っていました。実際この二年間で七〇〇億ドルほど歳出を増やし、二〇一五年に〇・九四パーセントだった実質成長率は二〇一七年に三・〇四パーセントへ増加。雇用はこの間四四万人増えて、二〇一五年に六・九パーセントだった失業率は、二〇一七年末時点で五パーセントにまで下がっています。この間、二〇一五年に二度の利下げをしたまま、二〇一七年秋の利上げに至るまで、緩和的な金融政策運営が続いてきました。財政・金融双方の積極政策が功を奏していると言えます。

二〇一五年にはポルトガルでも保守系の緊縮派から社会党政権に交代し、共産党など左翼三派の閣外協力を得て緊縮政策から転換しました。その結果、景気が拡大して二〇一五年に一二・四パーセントあった失業率は劇的に低下して、二〇一七年には九・七パーセントまで下がっています。するとかえって財政赤字は減り、公的債務のGDP比も下がってきます。この「奇跡」は「ポルトガル新時代 反緊縮のたたかい」と題して『赤旗』で二〇一八年一月一四日から連載記事になっています。

二〇一四年のスウェーデン総選挙では、それまで緊縮政策をとってきた保守中道政権が敗北し、社民党・環境党連立に左翼党が閣外協力する少数与党政権が成立しました。そのもとで財政赤字拡大と、金融引き締めから金融緩和への転換がなされ、それまで低迷していた景気が拡大。二〇万人の雇用増で、失業率は二〇一四年の七・九パーセントから二〇一七年の六・六パーセントに低下する一方、財政収支は税収増によりかえって黒字化しています。実は、スウェーデンの中央銀行は、政権交代前の、私(松尾氏)がIMFのウェブデータから確認できるかぎりでははじめて、中央政府に対する債権(恐らく国債)を保有していますが、二〇一五年にはその額を前年比一五倍に増やし、以後もその保有水準を増加させ続けています。つまり、政権発足時点の赤字財政政策は、中央銀行による国債買い入れで結果的にバックアップされたと考えられます。この結果、中央銀行の出したお金であるマネタリーベースは、二〇一四年と比べて二〇一六年には倍増しました。

左派が国債発行による反緊縮・積極財政に転じたことの成功例である。なお、積極財政に転じたとしても人や財を破壊する消費財である軍事兵器の生産や購入に使ってはならないことは言うまでもないことだ。経済の供給能力を毀損し、インフレ加速の原因になるが、人道的に許されない。ただし、「ライト(右派)」からも「反緊縮・積極財政」を主張する政治運動が広まっていることを紹介している。古くは国家社会主義労働者党(ナチス)が「反緊縮・積極財政」で経済をある程度立て直したことに示されるが、初期のアベノミクスの①量的金融緩和②積極財政ーもそのひとつだとしている。ただし、アベノミクスは最終的には「新自由主義」に転化してしまった。日銀の「量的金融緩和政策」は国民生活を豊かにするための「積極財政」には用いられず、資本市場にバブルを惹起したとサイト管理者(筆者)は見ている。

なお、本書は新型コロナ・パンデミックが発生する前に書かれた書であるから、現実的にはコロナ禍にも対処できるように応用する必要がある。

欧州諸国で「反緊縮・積極財政」が奏功しているように、日本でも「左派」ないしは「リベラル勢力」がまともな「反緊縮・積極財政」政策を打ち出すことを期待したい。れいわ新選組の「れいわニューディール政策」はその手始めと思われるが、日本共産党や泉健太新代表率いる立憲民主党にもそうした政策を期待せずには居られない。「国債残高は国民の借金」だという財務省のガセネタ情報にだまされてはいけないし、主権者国民に対して正しい情報を提供する努力が必要だ。

なお、財務省自身は「日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」(https://www.mof.go.jp/about_mof/other/other/rating/p140430.htm)とこっそり、正しいことを表明している()。泉代表率いる立憲が、米国のディープステート(闇の帝国:軍産複合体と多国籍金融資本・企業)の対日工作要因による日本共産党など野党分断工作に屈すれば、日本は主権者国民が望んでもいない「緊急事態条項」を盛り込んだ憲法改正=改悪で軍事独裁政権に移行するようになる。

なお、世界的なコロナ禍や温室効果ガス排出規制に反発した中東産油国の増産拒否による原油や部品の供給不足による「供給ショック」によるインフレに対しては、①ガソリン税の当面の廃止などの構造政策(もっとも、石油備蓄の協調方策よりはオミクロン株の登場の方が効いた)②世界規模でのコロナ禍対策のための「ニューディール」政策が必要だろう。

立憲民主党は守旧派勢力に

上記では立憲民主党に対する期待を述べたが、残念ながら実現しそうにない。立憲民主党の幹事長は西村智恵美氏、政調会長は小川淳也氏、国会対策委員長は馬淵澄夫氏、選対委員長には大西健介氏、党代表代行は逢坂誠二氏に決まったが、政治経済評論家で政治活動にも携わる植草一秀氏はメールマガジン第3092号「守旧派勢力色が鮮明になる立憲民主党」で次のように述べている。

立憲民主党が新代表に泉健太氏を選出した。泉健太氏は4人の候補者のなかでもっとも右寄りに立つ人物。(日本)共産党を含む野党共闘に対しても否定的な考え方を有すると考えられる。連合と連携する姿勢も明確。連合は(日本)共産党との共闘を「あり得ない」と明言している。これが「連合」の総意だとすれば、連合はもはや労働者を代表する組織ではない。

泉代表は、代表当選後の記者会見(https://www.youtube.com/watch?v=1pZ-06xerF0)で消費税減税には前向きな姿勢を示したが、野党共闘体制については総選挙の総括を踏まえて対応するとあいまいな答弁に終始した。総選挙から一カ月経って総括もできないのかと首をかしげざるを得ない。さらに、泉新代表が、①日本共産党をはじめとした真性野党との共闘体制は破棄する意向を示唆した②日本共産党との共闘を否定する日本労働組合総連合会(連合)との協力関係は維持する姿勢を示したーことなど重要な言及を見逃すわけにはいかない。

泉新代表が西村氏を幹事長に、れいわの山本代表に近い馬淵澄夫氏を国体委員長に起用したのは、小沢一郎衆院議員が同代表を支援したことによるものと思われる。しかし、小川氏は消費税増税論者、大西氏は安保法制に賛成する希望の党から旧国民民主党入りしており、憲法9条への自衛隊の明記についての姿勢はあいまいだ。泉代表が小沢氏の「国民の生活が第一」の理念を政策として実行できれば良いが、野党共闘について曖昧な姿勢に終止するなど無原則な「挙党一致体制」は大きな内部対立を生む公算が大きい。

暫く様子を見る必要はあるが結局のところ、立憲民主党の泉新執行部(役員)は御用組合である連合六産別と日本共産党、れいわ新選組、社民党との股裂き状態に遭うだろう。その結果として、泉新代表率いる立憲民主党は国民民主党・日本維新の会とともに「第二自公」形成に向けて動く可能性が高い。米国のディープステート(闇の帝国:軍産複合体と多国籍金融資本・企業)の策略にはまってしまうだろう。

このことが明確になれば、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合(市民連合)」など大半のこれまでの立憲民主党支持者層は同党離れを行うことになる。西村氏を支援した議員などは、①戦争法制廃止②原発廃止③消費税減税もしくはゼロ%への引き下げ、廃止を含む税制改革と積極財政への転換(新自由主義から決別した共生の経済政策)④日米地位協定の抜本的見直しーなどの立憲民主党創設時の理念・政策を支持しているのではないか。

そうした議員は懐柔政策に乗らずに同党から離脱し(分党し)、日本共産党、れいわ新選組、社民党とともに日本の対米隷属体制を刷新する日本の政治・経済革新勢力を形成すべきだ。なお、連合(700万人)も旧同盟系(400万人)と旧総評系(300万人)に分裂した方が良い。消費税廃止を含む反緊縮の積極財政の経済政策を全面的に打ち出すべきだ。れいわ(の山本代表)が果たすべき役割は大きい。



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