ウクライナ戦争の軍事的な勝敗を決めるとされ注目されているドネツク州の要衝バフムトの攻防戦は軍事的にはロシアの勝利で終わったが、同戦争には米側陣営と非米側陣営との政治的・経済的な戦いの意味もあり、政治的には継続している。ウクライナ戦争の真の終結には、米側陣営と米側陣営との和合が必要であり、世界諸国の主権と国民の基本的人権を尊重する真の意味での多極的世界の形成という意味での両陣営の和合が必要だ。
バフムトの攻防戦がロシア側の軍事的勝利で決着しているとの戦況分析は、国際情勢解説者の田中宇(さかい)氏が5月26日に公開された「決着ついたが終わらないウクライナ戦争」(https://tanakanews.com/230526ukrain.htm、無料記事)で明らかにされた。
田中氏による「決着ついたが終わらないウクライナ戦争」と題する解説記事のリード文では次のように記されている。
ウクライナ戦争は軍事的にバフムト陥落で一段落した。しかし、政治的な意味でのウクライナ戦争はまだまだ続く。米国とロシアは別々に、軍事的に終わっているウクライナ戦争を、政治的(プロパガンタ的)にどう継続していくか策略を考えている。策略の一つは、米国側がF16戦闘機をウクライナに送る話だ。
ロシア側がバフムトを制圧した戦況分析については次のように記されている。
半年間の激戦で、ウクライナ軍は6万-10万人の戦死者を出した。ウクライナ軍は、他の戦場でも兵士と武器弾薬車両を大量投入して露軍に破壊殺戮され続け、徴兵しても兵力が足りない。徴兵したばかりの兵士を数日間の訓練だけで前線に送り出してどんどん戦死させてきた。支援してきた欧米も、軍事品の在庫が払底してきている。 バフムトの戦闘のほとんどは政府軍でなくワグネルが行った。その指導者プリゴジンによると、224日続いたこの戦闘でのワグネルの戦死者は2万人だった。ウクライナはロシアの3-5倍の戦死者を出している。欧米が大量の兵器を送ってもロシアの優勢は崩れない。 (Prigozhin Says 20,000 Wagner Fighters Were Killed in Bakhmut Battle)
ドイツの諜報長官が最近、ロシアは昨年来の戦争でほとんど疲弊・不安定化しておらず、この先もずっと戦争を続けられる国力や民意を維持していると認める分析を発表している。 ウクライナ軍よりも露軍が甚大な損失を被ったという報道は、米国側の歪曲と、露側の「偽悪戦略」の産物だ。 (Russia able to conduct its special military op for a long time – German intelligence chief)
5月24日にはロシアの警察がバフムトに入って機能し始め、治安の安定化や地雷の撤去、瓦礫の片付けなど都市機能の再建が開始された。 ウクライナ国防省は「バフムトはまだ陥落していない。戦闘が続いている」と発表し、米国側マスコミがそれを喧伝した。しかし、ゼレンスキーの側近はバフムトの陥落を認めた上で「必ず奪還する」と言っている。 (Russian police begin work in Artyomovsk)
実のところ、奪還は無理だ。ウクライナ軍は、戦闘技能を持った人の多くが戦死・負傷し、戦争継続が難しくなっている。先日は軍の総司令官(Valery Zaluzhny)が負傷して交代が必要になったが、後継の人材がいない状態だ。 (Ukrainian Top General’s Replacement Would Likely Have to Be Vetted by US)
激戦が続いていた今年3月末、ゼレンスキーは「露側がバフムトを陥落したら、ウクライナ(と米国側諸国)の厭戦機運が高まって戦闘を続けられなくなり、露側と和解せざるを得なくなるかもしれない」と言っていた。 (Zelensky Says if He Loses Bakhmut, He Will Be Pushed to ‘Compromise’ With Russia)
日本の広島市で行われた今回G7サミットに合わせて訪日したウクライナのゼレンスキー大統領も「(米側陣営の財政負担=究極的には国民の増税で)軍事兵器の供与」を叫んでいた。ウクライナ側では、軍事兵器が大幅になくなっているのはもちろんのこと、実戦で戦える戦闘要員も大幅に不足している。最新の軍事兵器を供与しても、戦闘要員が大幅に不足している中ではまともに操作できないのは当然のことだ。この点についても、田中氏は最新鋭のステルス戦闘機F16の供与に関連して次のように述べておられる。
米国(諜報界の隠れ多極派)とロシア(プーチン)は(相互作用を感じつつ)別々に、軍事的に終わっているウクライナ戦争を、政治的(プロパガンタ的)にどう継続していくかという策略を考えているはずだ。 策略の試みとおぼしきものがいくつか出てきている。一つは、米国側がF16戦闘機をウクライナに送る話だ。この話は数か月前から出ていたが、これまで消極的だった米政府が最近急に乗り気になって決定した。 (Biden Taunts Russia At G7 When Asked About “Colossal Risk” Of Escalation)
F16の送付には、ウクライナ空軍パイロットの訓練を中心に、数か月の時間がかかる。NATOのどの国が保有するF16を送るかも決まっていない。 F16がウクライナに配備されるまで「配備されたロシアを潰せるぞ」とか、逆方向の「F16投入で劣勢になるロシアがNATOに反撃して世界大戦になるぞ」といった喧伝・騒動が続けられ、政治的にウクライナ戦争を継続できる。 (F-16s won’t fundamentally alter the course of Ukraine War)
実際は、F16が配備されても戦況は変わらない。ウクライナ空軍はF16と似た性能であるSu27の部隊を持っているが、制空権を露軍に握られ続けて劣勢のままだ。 投入されるF16は使用耐用年数がすぎたポンコツなものになる見通しで、F16が初体験のウクライナはうまく整備できない。F16は気まぐれな飛行機で、もともと整備が難しい。 (F-16s To Ukraine)
数か月のパイロット訓練では最低限しか教えられない。ソ連製戦闘機の操縦経験がむしろ邪魔になる。 飛んだら露軍に簡単に撃墜されて終わる可能性が高い。しかし、それまで1年間ぐらいは戦争状態を維持できる。 (Scott Ritter: Sending F-16 to Ukraine Will Backfire)
こうした戦況分析は米側陣営のメディアでは報道されなかから、少なくとも米側陣営の国民は知る由もない。しかし、田中氏が指摘しているように、ウクライナ戦争が続く限り、非米側の結束が進行し、世界の資源類の多くが非米側に帰属するようになる。米国側はドルのバブルがあるだけになり、いずれ金融崩壊して米覇権が消失する。多極型世界が形成され、固定化していく。 EUは分解する。日本は中露と仲良くせざるを得なくなる。マスコミ権威筋は最後までこの流れを認めない。マスコミを軽信しない人から順番に現実を理解していく
だろう。
いずれ、世界の諸国民は次のようなウクライナ戦争の真実を知ることになる。ウクライナ戦争の原因を作ったのは、2014年2月のマイダン暴力クーデターを指揮した米国(クリントン政権)とその傀儡政権であるウクライナ極右政権(現在はゼレンスキー政権)だ。両者はウクライナでクーデターを起こし、合法的なヤヌコビッチ政権を打倒した後、ウクライナ東部ドンバス地方のロシア系住民を迫害・弾圧・虐殺し続けてきた。ウクライナは多宗教(カトリックとロシア正教)、多民族国家だ。宗教間、民族間の対立を克服(宗教の和合や高度な自治権の承認などの方法がある)できない限り、内戦状態に陥る。ロシアが「特別軍事作戦」を開始し、東武ドンバス地方のロシア系ウクライナ人を保護せざるを得なかったのはこのためだ。
ただし、田中氏独自の理論であるが、米国諜報界(ディープ・ステート)は「隠れ多極主義者」に牛耳られている。サイト管理者(筆者)の理解では、「隠れ多極主義者」はもはや米国(精確にはアングロ・サクソン国家である米英両国)だけでは世界の単独覇権を維持する政治・経済・軍事的な力はなくなっていると考えていると思われる。今日の話題では6月1日を期限とする米国債発行残高の引き上げ問題の決着だ。毎年、チキンレースが繰り返され、最終的には国際発行残高の引き上げで決着してきたが、「隠れ多極主義者」がどう出るかがカギになる。
現在では、①資源・エネルギーを含むコモディティの生産量・埋蔵量➁人口の多さと人口構造の若年構成ーで、非米側陣営(G7諸国はグローバル・サウスと言っているが、中国やロシア、インド、サウジアラビアを盟主とする中東諸国はグローバル・ノース=北半球=に属する)が圧倒的に有利になりつつある。ただし、田中氏も認めているように、中国やロシアにも全体主義的なところがある。
中国やロシアなど非米側も全体主義的なところがあるが、非米側は米覇権からの攻撃に対応防御するために全体主義をやっているところがあり、米覇権が崩壊すると非米側も非ナチ化される。米国がいなくなると、日本人も過去の言動をあっさり忘れて中露を敵視しなくなる。 (Bill Maher Blasts “Intellectual Cowardice” Of Those Who “Just Fall In Line” With Woke Madness)
ただし、米国もこのところ不正選挙がまかり通っており、全体主義化している。
米国側のこの構図は2度の大戦後から存在していたが、911あたりまでは濃厚でなく、網羅的でもなかった。しかし2016年のトランプ登場、2020年の新型コロナ、2022年のウクライナ開戦と、米国側の全体主義の政治構造がどんどん濃厚・網羅的になった。 大リセットは丸ごと全体主義だ。米民主党は、左翼リベラル共産主義者に牛耳られ、これまたひどい全体主義だ(社会主義と全体主義は騙し方が違うだけ)。彼らは選挙不正を続ける犯罪組織でもある。 (Pope Francis Bashes Gender Ideology, Calls It “Dangerous”)
いずれにしても、世界諸国の主権と基本的人権を尊重刷るという意味での真の意味での世界の多極化が必要だ。これについて、世界平和統一家庭連合(旧世界キリスト教神霊協会=略称統一教会=)の創始者である文鮮明師は自叙伝「平和を愛する世界人として」の序文で次のように述べておられる。
平和な世界に向かう近道を探して、政治に変化をもたらし、世の中を変えることにも熱中しました。ソ連のゴルバチョフ大統領に会い、共産主義と民主主義の和解を試み、北朝鮮の金日成主席と会い、朝鮮半島の平和について話し合いました。さらに、道徳面において崩れゆくアメリカに行き、清教徒(ピューリタン)の精神を目覚めさせるという医者や消防士のような役割も果たし、世界の紛争を防ぐことに没頭したのです。
文鮮明師のこの言葉を現代に生かして、ウクライナ戦争の真の終結も含めて今日、米側陣営と米側陣営との和合が必要であり、世界諸国の主権と国民の基本的人権を尊重する真の意味での多極的世界の形成という意味での両陣営の和合が必要だ。