世界保健機関が超短期間でVOC(懸念される変異株)に指定したオミクロン株が既に日本で市中感染している可能性が出てきた。検査体制と医療体制の抜本的拡充が急務だ。
オミクロン株と日本での市中感染の可能性
【追記2021年12月1日】政府は2例目のオミクロン変異株感染者を確認したと発表した(https://www.tokyo-np.co.jp/article/145967)。「濃厚接触者」という言葉をまだ使っている。少なくとも、どの飛行機便で日本に来たのかは把握しているはずだ。乗員・乗客全員が空気感染の疑いがあるとしてPCR検査と遺伝子解析を行う必要がある。ただし、確認された外国人意外の乗員・乗客が首都圏を中心に日本国内に散らばっている可能性は否定できない。
政府は1日、新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」について、国内で2例目となる感染を確認した。感染者は29日にペルーから日本に入国した外国人男性。政府関係者が明らかにした。新たに確認された外国人男性は、国内で初めて感染が確認されたアフリカ南部ナミビアの外交官の濃厚接触者ではないという。政府は感染ルートや濃厚接触者との連絡を急いでいる。(共同)
岸田文雄首相は11月29日、それまでの「ざる対策」としか言いようのない「水際対策」を修正して、全世界からの入国を禁止すると発表した。しかし、以下に述べるように既に日本で市中感染が始まっている可能性も考えられる。南アフリカ共和国がオミクロン株の存在をWHOに通告し、東京株式市場が暴落した11月26日に当面、「鎖国」政策を採ることを発表すべきだっただろう。
WHOによるとオミクロン株は感染力と重症化力、ワクチン耐性力でデルタ株を上回り、全貌はまだ解明されていないものの相当に懸念される新型コロナの変異株のようだ。12月1日の午前5時に公開された朝日デジタル「オミクロン株、国内初確認 2回接種、ナミビア外交官 空港検疫で(https://digital.asahi.com/articles/DA3S15128755.html?iref=pc_ss_date_article)」は次のように報道している。
政府は30日、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」が、日本国内で初めて確認されたと発表した。ナミビアから第三国を経由して28日に成田空港に到着した30代男性で、空港検疫で感染が確認された後、検体を国立感染症研究所で解析していた。
■同乗70人、濃厚接触者に
厚生労働省によると、男性は日本に駐在するナミビア国籍の外交官。家族2人とともに入国した。到着時は無症状だったが、宿泊療養施設に移動後、発熱が確認された。現在は、医療機関に入院している。米モデルナ製ワクチンの2回目を7月に接種していた。家族は陰性で、宿泊療養施設に滞在している。
空港検疫で陽性者が出た場合、通常は、陽性者と同じ航空機の前後2列以内に座っていた人について、濃厚接触者にあたるかどうか保健所が判断する。厚労省は今回、警戒を強めるため、同乗者70人全員を濃厚接触者とした。自宅や宿泊施設などで原則14日間の待機を要請し、アプリによる健康状態や所在の確認などに応じない場合、名前を公表する。30日夕までに全員と連絡がとれた。1人は発熱後に陰性が確認され、そのほかの人は体調の変化は確認されなかったという。(以下、略)
しかし、日本のコロナ関連の情報を継続的かつ的確に紹介しているYoutubeの「一月万冊」(例えば、https://www.youtube.com/watch?v=g5ZRRnfukUI)によれば、この記事には次の三点で疑問がある。第一に現在、「水際対策」として空港で行われている検査はPCR検査(技術革新で30分〜60分で結果が判明、オミクロン株に感染していることもほぼ確認できる)ではなく、精度の低い抗原検査(オミクロン株感染は全く確認できない)。抗原検査では新型コロナ感染者を正確に確定できる精度(感度)は50%以下というのがまともな専門家の見方。つまり、二人に一人はオミクロン株を含む新型コロナ感染者を見逃していることになる。仮に、オミクロン株に感染している無症状感染者を見逃した場合、同株の感染者から市中感染が起きることになる。
問題点の第二は、28日に新型コロナに感染していることが確認されてから、それが30日にオミクロン株であることが分かるまでに少なくとも2日もかかっていることだ。東京大学医科学研究所のヒトゲノム解析センターでは日立製のスーパーコンピューターなどを使って新型コロナウイルスよりも複雑なヒトの遺伝子解析(ゲノム解析)を行っており、新型コロナウイルスなどの遺伝子構造などは極めて短時間で解析できる。これに比べると、国立感染研の能力は著しく低い。遺伝子解析の専門家が極めて少なく(素人レベルの段階とも批判されている)と解析装置が貧弱なためだ。
医科研のヒトゲノム解析センターでは国立感染研に協力を申し込んでいるが、国立感染研は「縄張り」が荒らされる(予算が減額される)恐れがあるため、実質的に協力を拒否している。なお、感染した新型コロナウイルスがオミクロン株であるかどうかは、PCR検査の段階でおよそ検討がつく。オミクロン株の特徴だ。一番目の問題点と重なるが、それでも空港検疫でPCR検査を行わないのは厚生労働省を含む岸田政権の大失態だ。
第三は、事実上、従来の積極的疫学調査を否定して、感染経路の主流が空気感染(エアロゾル感染)であることを認めていることだ。空気感染であれば、機内の乗員・乗客を含む全員のPCR検査、ゲノム解析が必要だ。「厚労省は今回、警戒を強めるため、同乗者70人全員を濃厚接触者とした」との表現だが、これは日本政府の行ってきた「積極的疫学調査」なるものが、全く根拠のないでたらめな「コロナ対策」であったことが国民の前に明らかになることを隠蔽するための厚労省の情報操作と言って良い。朝日の記者も厚労省の情報操作に気づいていない。
なお、日本経済新聞の次の記事(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA293OP0Z21C21A1000000/)も参照願います。
(オミクロン株に感染していた)搭乗機はナミビアからの直行便ではなかったため、ナミビアなど対策が強化された国への滞在歴がない場合、入国時の検査で陰性であれば自宅などでの待機が認められている。自宅への帰宅時は公共交通機関の利用は認められていない。
厚労省の担当者は「(濃厚接触者の)人数は把握していない」と説明。市中に出ている可能性は「否定できない」とも語った。自宅での待機期間中はアプリで毎日、体調や居場所の報告が求められている。応じない人は厚労省がホームページ上で氏名を公表している。
厚労省は新型コロナの感染経路について次のように記しているが、エアロゾル感染は認めたものの「空気感染」という表現は使っていない。空気感染(エアロゾル感染)であれば、人と人が接触しなくても、感染者が居た部屋(飛行機の機内も同様)に入れば、新型コロナおよびその変異株に感染してしまう(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html、https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q2-2)。
問2 新型コロナウイルス感染症にはどのように感染しますか。
感染者の口や鼻から、咳、くしゃみ、会話等のときに排出される、ウイルスを含む飛沫又はエアロゾルと呼ばれる更に小さな水分を含んだ状態の粒子を吸入するか、感染者の目や鼻、口に直接的に接触することにより感染します。一般的には1メートル以内の近接した環境において感染しますが、エアロゾルは1メートルを超えて空気中にとどまりうることから、長時間滞在しがちな、換気が不十分であったり、混雑した室内では、感染が拡大するリスクがあることが知られています。また、ウイルスが付いたものに触った後、手を洗わずに、目や鼻、口を触ることにより感染することもあります。WHOは、新型コロナウイルスは、プラスチックの表面では最大72時間、ボール紙では最大24時間生存するなどとしています。
しかし、これは10月29日以降に変更したもの。世界では新型コロナへの感染が広まった(パンデミックに陥った)ころから、エアロゾル感染=空気感染が感染の主流経路ではないかとの論文が専門医学誌・科学誌に投稿されていたが、世界的には今年8月に権威ある米国の専門誌「サイエンス」の包括的・総合的論文で確定した(https://www.youtube.com/watch?v=g5ZRRnfukUI)。エアロゾル感染=空気感染が感染の主流経路であるということになれば、「濃厚接触者」を追跡調査する「積極的疫学調査」は保健所に多大の負担をかけるだけで、全く無意味なものになる。新型コロナへの基本・根本対策は中国が行ったように「大規模徹底PCR検査と感染者の隔離・保護・治療」で、それしかない。
しかし、本サイトでもしばしば指摘してきたように、安倍晋三、菅義偉、岸田政権と続いてきた自公連立政権は全くこれを無視してきた。もし、従来のコロナ対策の誤りを認め、抜本転換を行わない場合は、岸田政権の存亡にかかわる状況になり得る。
なお、NPO法人医療ガバナンス研究所の上昌広理事長兼臨床医師によると、本格的なコロナ第六波が11月中に起きなかった原因は、若年者・中年者に対するワクチン接種が遅れ、新型コロナに対する抗体がまだ存在しているためと思われる(https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/298117)。しかし、抗体の有効期限は最大で6カ月間とされ、その効果も今冬にはなくなる。欧州など世界的には冬に入るころから、新型コロナへの感染が重大な局面に陥っている(https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/)。日本の新型コロナのエピセンターである東京都でも、7日移動平均で新規感染者数としては少ないが下げ止まりまたは反転増加の模様だ。
なお、11月30日の東京株式市場では、米国の製薬大手で新型コロナワクチンを開発・提供しているモデルナのトップのステファン・バンセル最高経営責任者(CEO)が既存のワクチンの効果は低いと発言した影響で、日経平均株価は、前日終値より462円16銭安い2万7821円76銭で取引を終えた。終値が2万8千円を割り込むのは約2カ月ぶり。30日の米株式市場では、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が加速を示唆したことや新型コロナウイルスの変異株・オミクロン株に対して既存のワクチンや治療薬の効果が薄いとの報道や発表が相次いでいることから、一時700ドル安になり、結局、前日比652.22ドル安の3万4483.72ドルだった。FRBはオミクロン株の克服に楽観的な見通しを持っているようにも受け取れる。