厳しい緊縮政策の強要でギリシア経済破綻ー軍事クーデターの公算も【追記】

欧州連合(EU)首脳会議で、ギリシャのチプラス大統領が、同国に対する厳しい緊縮財政の強要を受け入れたことで、ドイツを盟主とするEU各国が金融支援を継続することで合意し、ギリシャ債務危機がひとまず落ち着いた。しかし、これは問題の解決を意味しない。要するに、追い貸しを継続するわけで、「追い貸し完了」の必要十分条件であるギリシャの経済再建は、厳しい緊縮財政では解決しないからだ。従って、同国にとっては巨額の債務返済は不可能の状態が続く。一方、15日までの緊縮政策の法制化を求められたチプラス首相の政治的基盤は弱くなり、近い将来、①ギリシャ国民の圧倒的支持を受けた緊縮政策の拒否を守る②貸し手責任を問う債務の減免(元本削減)がなければ、債務の履行は拒否③BRICsの盟主である中国やロシアと接近し、BRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)の力を借りるーなどを条件に、軍事クーデターが発生する公算も小さくない。

今回のギリシャ金融支援のポイントは、①日本の消費税に相当する欧州型付加価値税の増税②年金支給開始年齢の65歳から67歳への引き上げ③国防費を含むその他歳出の抑制④法人税率の引き上げーなどの15日までの法制化と、同国の国有資産500億マルク(6兆8千億円)の実質没収(名目的には債務返済に充てるほか銀行の資本増強に流用)である。(追記 債務減免はなし。)

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ギリシャで債務問題が発覚したのは2009年だが、同国の国債を民間機関投資家が大量に購入した背景には、ギリシャ国債の価値を保証するとして米国の金融機関が発行したクレジット・デフォールト・スワップ(CDS)もある。また、米国のゴールドマン・サックス(別名ガバメンタル・サックス)が財政赤字の粉飾決算を指南したとのうわさも絶えなかった。オリンピック利権団体の暗躍した2004年のアテネ・オリンピックの負担も大きかったと見られる。なお、2020年開催予定(あくまでも予定)のメーン・スタジアムである国立競技場の建設費はそれ以前のオリンピックのメーンスタジアムの設立費用のゆうに4倍はする。背景にあるのは、スポーツ・オリンピック利権団体だ。ピエール・ド・クーベルタン男爵の嘆きが聞こえてくるようだ。

債務危機発生後のパターンは、①民間の対ギリシャ不良債権をEU諸国や国際通貨基金(IMF)が購入、民間大手金融機関の損失をEU諸国民の税金で肩代わりする②ギリシャに対して「金融支援」を行う代わりに、強烈な緊縮政策を強要する③緊縮政策のもとで経済が立ち直れず、景気回復・財政再建が遠のく④再び「金融支援」(追い貸し)を行う代わりに、さらなる緊縮財政の強要をするーというパターンを繰り返してきた。

これといった産業もなく、また、金融政策を欧州銀行に握られ、独自の金融政策も発動できない状況では、古代ギリシャの観光資源が唯一の外貨獲得の手段であるギリシャの経済が立ち直れないのは当然である。現在、深刻な不況にあえぐギリシャの失業率は高く、特に若者の失業率は50%程度と、若者からお年寄りに至るまで同国の経済社会全体に国民の不満は鬱積している。

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このような、追い貸し→緊縮財政→景気悪化→債務返済(ギリシャ国債召喚)不可能→追い貸し→緊縮財政→景気悪化の悪循環で、ギリシャの債務問題が解決するはずがない。ギリシャ国民の不満の鬱積、特にチプラス首相の二枚舌を批判する国民層の支持も得て、政治・経済・国際情勢全般にわたって優れた分析と打開策を提示しているある国際経済アナリストの予想するように、「軍事クーデターが発生する公算も決して小さくはない」。ドイツのアンゲラ・メルケル首相が示した強硬姿勢は、完全な形ではないが、緊縮(財政)政策を強要する意味においては、一種の市場原理主義政策に基づく新自由主義である。この点、フランスのフランソワ・オランド大統領は少しギリシャ寄りだが如何せん、ドイツに比べれば「経済中国」に過ぎず、発言力に乏しい。EUは欧州共同体(European Communities)が前身だから、市場原理の上に立つ「共同体原理(共生共栄原理)」に基づく解決案を練って欲しかったと思う。

打開の道は、①EUからの離脱による独自財政金融政策の確立②BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)諸国からの金融・経済支援を有効に活用するーしかないだろう。後者は、ギリシャの地政学的重要性から見て、ウクライナのクリミア半島と同じような問題を引き起こす。

いわゆる「西側諸国」は、企業の民事再生法・個人の個人民事再生法と同じように、「国事再生法?」も真剣に考える必要がある。日経平均はギリシャ債務問題の「(一時的でしかないが)解決」を受けた欧米の株高を受けて朝方急反発したが、安堵は一時的でしかないことに留意が必要だ。

【※追記】

ロイター通信などが伝えた国際通貨基金(IMF)ギリシャの債務返済が事実上、不可能になったことが分かった。
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「ギリシャ債務の減免必要」 IMF、EU案に疑義
【ロンドン=小嶋麻友美】ギリシャへの金融支援をめぐり、国際通貨基金(IMF)が、ギリシャの債務の大幅な減免が必要だとする分析結果をまとめていたことが分かった。ロイター通信などが報じた。

ギリシャの債務残高は三千二百億ユーロ(約四十三兆四千億円)。十三日の欧州連合(EU)ユーロ圏首脳会議の合意では、新たに最大八百六十億ユーロの追加支援を決めた。ギリシャが求めていた債務減免は認めず、一定期間の返済延長や猶予で対応するとしていたが、疑問を呈する形となった。


ロイターによると、IMFはギリシャ債務の持続可能性について分析した最新の文書で、EUとの協議が難航して銀行が休業し、ギリシャの経済、金融状況が劇的に悪化したことを指摘。「現状で考慮され、提案されているより一層大規模な債務減免が必要になる」とした。


債務自体を削減しない以上、欧州各国は三十年間もの返済猶予や返済期間の劇的な延長を行うか、ギリシャに直接融資をする手だてが必要になるとしている。
文書は十三日、首脳会議がギリシャへの支援再開で合意した数時間後に各国政府に送られたという。
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※ギリシャの2014年の国内総生産(名目)は1791億ユーロ(24兆3千億円)。

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