バイデン政権は超党派でウクライナやイスラエルなどに軍事支援を供与するが、米国は大幅な財政赤字に苛まれているため、無理な経済支援は同国の経済を悪化させる。このことを踏まえると、長い目でみると米国はインフレと不況ーつまり、スタグフレーションーに陥ることになる。
膨大な財政赤字下の軍事支援は米国を始めとする米側陣営の経済の破綻をもたらすー太平洋戦争中の日本と似たところがある
NHKによると、米国は上下両院議員でも超党派でウクライナやイスラエル、「台湾海峡事態」に対処するため、軍事支援を行うことにした。NHKはこのことについて、「アメリカ ウクライナ軍事支援再開へ 議会上院で予算案可決」と題する報道で述べている(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240424/k10014431441000.html)。
アメリカ議会上院は23日、ロシアによる侵攻が続くウクライナへの追加の軍事支援を含む緊急予算案を賛成多数で可決しました。バイデン大統領は今週中にウクライナに武器や装備品を送り始めたいという考えを示し、滞っていたアメリカによる軍事支援が再開されることになりました。
アメリカ議会上院は23日、ウクライナへの追加の軍事支援を盛り込んだ緊急予算案の採決を行い、賛成79票、反対18票の賛成多数で可決しました。予算案は総額953億ドル余り、日本円にして14兆7000億円余りで、▼ウクライナへの支援におよそ608億ドルを充てるとともに▼イスラエルにおよそ263億ドル、▼台湾などインド太平洋地域におよそ81億ドルを充てています。
まず、今回の米国のウクライナ・ゼレンスキー政権への軍事援助は無駄ということだ。ウクライナ戦争の勝敗はロシア勝利・ウクライナ敗北で確定している。NHKによると、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「戦場での状況はすでに明らかだ。われわれは、新たな兵器が前線の状況を変えることはないと言い続けている」と語ったそうだ(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240425/k10014389601000.html)が、それは事実だ。ロシアとウクライナの前線の状況は変わらない。何よりも、ウクライナ戦争を事実上仕掛け米国のたビクトリア・ヌーランド国務次官が、次官を辞任せざるを得なかった。
合計はウクライナ支援約608億ドル、イスラエル支援約263億ドル、主として台湾海峡問題など約81億ドルで総額953億ドルあまりで、一千億ドルに近い。しかし、米国の財政赤字は対国内総生産比(GDP)で181位の8.79%(https://ecodb.net/ranking/imf_ggxcnl_ngdp.html#US)で、世界の中でも極めて悪い。実額では、2022年から2023年で1800億ドルから2500億ドルの赤字=https://ecodb.net/country/US/imf_ggxcnl.html=)だ。そういう状況なら、バイデン政権としては国債(借用証書)を市中金融機関に発行して、金融・資本市場で消化する必要があるが、財政赤字の拡大は米国の経済をインフレ下の不況(スタグフレーション)に追い込み、金融・資本市場もますます正常な機能が難しくなる。
順を追って説明すると、まず第一に、市中で国債を消化してもらうとすれば、本来なら国債を売却しなければならない(買ってもらわなければならない)。そうすると、国債価格は下落し、国債の金利は上昇する。こうなると、債券や株式は相場が急落ないし暴落してしまう。これを防ぐため第二に、連邦準備制度理事会(FRB)の傘下にある連邦準備銀行がこっそりと、国債を買い上げなければなくなる。日本の財政法はその5条で、「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行(注:日銀は日銀券=円の紙幣=を発行できる)からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない(注:赤字国債のこと)」としているが、連邦準備銀行も禁じ手のドル紙幣増刷で国債を買い上げてきている。
これは、ドル紙幣の過剰増刷(過剰流動性)によるインフレをもたらし、ロシアに対する経済制裁に伴うコスト・プッシュインフレをももたらす。米国で年初にインフレが落ち着いてきたから、米国連邦準備精度理事会は利下げに踏み切るとの観測が支配的になったが今や、利下げ観測は後退している。インフレが沈静化しなければ、米国を中心とした米側陣営諸国の国民の生活は苦しくなり(不況に陥り)、不況とインフレの併存というスタグフレーションに陥る。
国際経済(世界経済)にも詳しい田中宇氏は、21日に公開した「今後の世界経済」と題する今後の世界経済の見通しについて、関連記事として次のように述べておられる(https://tanakanews.com/240421economy.php、有料記事=https://tanakanews.com/intro.htm=)。
米当局は、インフレ激化を受けてやめてしまったQE(造幣=注:ドル紙幣発行=による債券買い支え、注:QE(Quantitative Easing=量的金融緩和政策=))の代わりに、政府の財政赤字を100日ごとに1兆ドルずつ増やし続け、その資金で株や債券をテコ入れしている。だが、財政赤字の急増は米国債の過剰発行になり、長期金利の上昇を引き起こし始めている。国債金利の上昇は、米政府の利払い増加となり、財政赤字をさらに増やす。IMFなどが米国に警告したが無視されている。財政赤字の増加で金融相場をテコ入れしているのであれば、1-2年以内に継続不能になり、金融危機を引き起こす(裏帳簿による不正な資金生成でテコ入れしているのであれば、もっと続く)。(Precious Metal Soars Above $2,400 After Sudden Gap Higher)(金融システムの詐欺激化)
この「裏帳簿」というのが、実態としては連邦準備銀行がドル紙幣を擦り、このドル紙幣で財政赤字を賄うために発行した国債を買い入れして、国債や株式の価格(相場)を無理して押し上げているものだと思われる(QE、つまり、Quantitative Easing=量的金融緩和政策=である)。しかし、そういうトリックは少し立てば通じなくなる。だから、田中氏は「1-2年以内に(注:証券相場の押し上げは)継続不能」と分析しているものと思われる。要するに、大規模な財政赤字(2022年から2023年で1800億ドルから2500億ドルの赤字=https://ecodb.net/country/US/imf_ggxcnl.html=)のもとでは、ウクライナやイスラエル、「台湾海峡事態」のための軍事支援の総額は財政赤字の半分ほどにも達するため、米国の大規模な支援にはもともと自ずから限界があるということだ。
この状況は米国だけでなく、欧州や日本など米側陣営諸国にも当てはまることだ。逆に、これに対して、非米側陣営は資源・エネルギーが米側陣営に比べてはるかに豊富なだけでなく、相場(価格)も上昇するとともに、科学技術の伴う産業が振興し、内需も強まっていることから、経済に勢いが出ている。だから、「非米側はすでに資源類も巨大消費市場も製造技術も持っている。今のような米国側と非米側の決定的な分断が25年も続けば、非米側だけで世界を長期に繁栄させる体制を作れる。米欧日(注:米側陣営)は、今よりずっとショボくなる。非米側が先進国で、米国側が後進国になる。発展途上でなく、衰退中のあわれな後進国」(田中氏)に過ぎなくなる。
米政府は財政赤字の急増・米国債の過剰発行を続けている。これはドルを弱め、逃避先として金地金を強くする。ビットコインも上がっているが、優勢になる非米側は民間仮想通貨を嫌っている。ドルや債券はヨタヨタしてるが、まだ崩壊していない。いずれ崩壊感が強まると、金相場が急騰する。2700ドルはすぐに超えてしまう。4000ドルの予測の方がしっくりくる。来年までドルや債券が崩壊せずに延命するだろうか。米連銀が裏金システムを持っているとか、新たな資金源を見い出せば延命する。そうでなく、財政赤字の増加にだけ頼っているのであれば、それは2年ぐらいしかもたないから、その後崩壊していく。(Massive Financial Strain – New Report Exposes Horrifying Situation)
サイト管理者(筆者)の考えとしては、田中氏はここで、「新たな資金源を見い出せば」と指摘しておられるが、実態は連邦準備銀行によるドル紙幣増発のことと思われ、それは既に昔から行っていたことである。しかし、日銀法第5条が「国債の日銀引き受け」を禁じていることが示しているように、国債の連邦準備銀行の引き受けは要するに、ヘリコプター・マネーと同じことであり、繰り返しになるが、第一義的にはインフレの温床になる(過剰流動性)をもたらす。これに、非米側陣営に対する制裁措置の副作用として、コストプッシュ・インフレが押し寄せる。インフレは基本的に米側陣営に打撃を与え、不況にもつながる。要するに、インフレ下の不況、つまり、スタグフレーションが本格化するということだ。
なお、田中氏はリードで上記のように、「非米側はすでに資源類も巨大消費市場も製造技術も持っている。今のような米国側と非米側の決定的な分断が25年も続けば、非米側だけで世界を長期に繁栄させる体制を作れる。米欧日は、今よりずっとショボくなる。非米側が先進国で、米国側が後進国になる。発展途上でなく、衰退中のあわれな後進国だ」と将来を見通している。非米側で有利な資源・エネルギー価格の中で最も、注意すべきなのは、金地金の相場である。三菱マテリアルによれば、最近の金地金相場はやや軟化している(https://gold.mmc.co.jp/market/gold-price/#gold_month)。
これは、中東情勢がやや落ち着いてきたものによるものと思われるが、それでも1トロイオンスで2300ドルをかなり上回っている。エジプトがイスラエルの願い通りガザ南部のラファ地帯からエジプトに100万人以上のガザ難民を脱出させない限り、根本的な解決策はなく、中東情勢は悪化する。実際、NHKによるとイスラエルはガザ南部のラファ地域への進行を強行しようとしているようだ(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240425/k10014432411000.html)。実際に、エジプトがガザ難民の受け入れを拒否し、イスラエルがエジプトや米国に圧力をかける強硬策を取れば、中東情勢の悪化を懸念して、金地金の相場が再び上昇する公算が大きい。
その場合、金地金の相場は1トロイオンスで3000ドルから4000ドルへと上昇していくだろう。そして、非米側陣営は着々と次世代の国際決済・金融システムを米側陣営に悟られない方法で築き上げているのに対して、米側陣営ではLME(London Mercantile Exchange、ロンドン商品取引所)やCME(Chicago Mercantile Exchange、シカゴ商品取引所)などの商品取引所から、ロシアなど非米側陣営を排除したため、結果的に非米側陣営(注:主役はBRICSと不ブリックスに加盟したサウジアラビア、イラン)の経済システム作りは、米側陣営に察知することができないようになってしまっている。
しかも、軍事兵器というのは生産設備や生産財、消費財を破壊することが唯一の目的の財である。軍事兵器によって経済が興隆することはなく、むしろその反対であり、スタグフレーションとともに米側陣営の経済は破綻してしまう。太平洋戦争終了後の日本と同じだ。バイデン政権は、そういう米側陣営諸国の経済の破綻を覚悟してウクライナなどの戦争を支援しなければならない。