一般に、民主主義に基づく法治国家では、憲法が国家の最高規範であり、その上で憲法→条約→法律の順序で規範が策定される。全ての内閣は憲法はもちろん法律にも規制される。時の内閣が法律違反の意思決定を行うことはできない。こう考えると、今回の安保関連法制案=戦争法案の出発点になった昨年7月1日の解釈改憲の閣議決定、つまり、「限定的な集団的自衛権」を容認した閣議決定は、1954年(昭和29年)に成立した「自衛隊法76条1項」に違反しており、無効である。
昨年2014年7月1日の閣議決定では、集団的自衛権の行使を明確に否定した昭和47年田中角栄内閣時の政府見解で、我が国が必要最小限度の自衛の措置を取り得るのは、「外国からの武力攻撃」に対してであり、「そうだとすれば」集団的自衛権は認められない、と断定している。
素直に読めば、「外国からの武力攻撃」は「我が国に対する外国からの武力攻撃」ということである。民主党の小西洋之参院議員も数々の資料を駆使して、当時の内閣法制局長官であった吉国一郎長官もその意味での文言であったことを明らかにしている。
しかし、安倍晋三内閣は「外国からの武力攻撃」の文言に「我が国に対する」の文言が明示されていないことから、「我が国と密接な関係にある他国に対する」という文言も含まれていたと勝手に読み替え、7・1閣議決定は「合憲」である強弁としている。上記の小西参院議員も、戦争法案審議特別委員会であらゆる資料を駆使して横畠裕介 (よこばたけ・ゆうすけ)現内閣法制局長官を追及しているが、同委員会の委員である小西氏の反論にまともに答えず、愚弄した発言を繰り返している。
しかし、1972年の政府見解以前の1954年(昭和29年)に制定された自衛隊法76条1項には、次のように明記されている。
「第七十六条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃(以下『武力攻撃』という。)が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合においては、武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律 (平成十五年法律第七十九号)第九条 の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。」
自衛隊の「防衛出動」の要件を定めたこの条項では、「我が国に対する武力攻撃」と明確に規定しているのである。集団的自衛権の行使を明確に否定した政府の1972年見解(昭和47年見解)も、憲法から法律に至る国内規範の「法的安定性」を踏まえ当然、「外国からの武力攻撃」という文言は「我が国に対する外部からの武力攻撃」という文言であると解釈されねばならない。
こうしてみると、7・1閣議決定は法律違反であるのは当然であり、違法・無効な閣議決定である。従って、この閣議決定に基づいて国会に上程された今回の安全保障関連法案=戦争法案は根底から崩れることになる。にもかかわらず、政府・与党は9月11日または憲法の定めた「60日ルール」が適用される14日に暴走可決して成立させることを目論んでいる。この法治国家・民主主義体制の崩壊を危惧して昨日の8月30日、国会周辺での12万人大規模抗議デモを始めとして、全国各地で100万人規模のデモが挙行された。
しかし、安倍晋三首相は同日、国連関連の会合に出席しただけで、東京・富ヶ谷の自宅に閉じこもり切り。国民の声を聞こうとはしない。それでいて、「国民に対して丁寧に説明し、理解していただいたうえで採決、成立させたい」ということだから、言行不一致もはなはだしい。
また、こうした事実をほとんどの日本のメディアは取り上げず、娯楽番組を流し続けている。「社会の木鐸」としての機能をとうの昔に失っており、「ダマスゴミ」路線をこれまた暴走している。政府、マスコミともに、こうした暴走がまかり通るのは、日本の主権が事実上、憲法に規定された国民にはなく、日米安全保障条約に規定された日米地位協定に則り、日米両国の政府=行政機関どうしの協議組織である「日米合同委員会=対米隷属委員会」にあるからだ。同委員会が我が国の実質的な意思決定を行う「主権者」なのである。だから、ここまで米国に隷属する諸外国は、呆れて物が言えない。日米安保条約には来年の米国大統領選挙で共和党候補からも不満の声が強まっている。これを機に日米安全保障条約、日米地位協定について徹底的な見直しをすべきである。