ウクライナ事変での早期停戦は「ミンスク合意」履行による「ウクライナ中立化(NATO加盟の断念)」がカギ

悲惨な状況が続いているウクライナ事変での早期戦争停止(停戦)の条件は、「ミンスク合意」履行による「ウクライナ中立化(NATO加盟の断念)」だろう。

ウクライナでの早期停戦とミンスク合意の履行・中立国化

2月24日に「ウクライナ事変」が勃発して以降、イラク戦争時とは大幅に報道体制が異なることには疑問を抱くが、それでもウクライナで悲惨な状況が続いていることには変わりはないだろう。戦闘を一刻も早く終わらせ、停戦に持ち込むことは急務だ。

現在の戦闘の状況(戦況)の実態・実際は不明だが、朝日デジタルは3月9日に「ロシア軍の消耗は限定的か 3方向からキエフ包囲の動き 米高官」と題する記事を報道、その中で次のように伝えている(https://digital.asahi.com/articles/ASQ391GTLQ38UHBI058.html)。

米国防総省の高官は8日、ロシア軍が新たに北東部からも首都キエフに向けて前進し、3方向からキエフを包囲する動きを進めているとの見解を示した。現時点までのロシア軍の消耗度合いは限定的で、制空権をめぐってもロシアが優位性を得つつあるという。

高官によると、ウクライナ北東部スムイ方面からの部隊が新たに進軍し、キエフまで60キロ地点に到達したという。ほかに北西部、北部からもロシア軍がキエフに接近している。高官は「キエフを包囲し、降伏を迫るのがロシア軍の主要な狙いだ」との見方を示した。キエフ郊外からのミサイル攻撃も交え、ロシア軍は圧力を強めている(以下、略)。

これに関連して、政府系の読売新聞のサイトも3月10日、「3方面から首都キエフ包囲網、米情報機関『10日から2週間で絶望的状況になる』」と題する記事を伝え、次のように伝えている(https://www.yomiuri.co.jp/world/20220309-OYT1T50260/)。

米国防総省高官は8日、ウクライナに侵攻しているロシア軍が首都キエフの包囲網を3方面から狭め、総攻撃への準備を進めているとの分析を明らかにした。各地で激しい市街戦が展開される恐れが強まっているが、住民の退避は思うように進んでいない。(以下、略)

ウクライナ側が厳しい状況に追い込まれていることは確かだろう。こうした中、トルコの仲介でロシア、ウクライナの外相レベルの4回目の停戦に向けての協議が行われるが、ぜリンスキー政権側は、ウクライナのNATO加盟を諦めているようだ(https://www.yomiuri.co.jp/world/20220309-OYT1T50257/)。

ロシアとの停戦協議でウクライナ側交渉団を率いるミハイロ・ポドリャク大統領府顧問は8日、同国メディアに対し、ウクライナの「安全の保証」が確約されることを条件に、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を断念することもあり得るとの認識を示した。戦闘被害が拡大する中、停戦合意実現のため、ロシアが要求する「中立化」の条件には柔軟に対応する姿勢を示したものだ。近く開かれる4回目の停戦協議で提案する可能性がある。(中略)

ポドリャク氏の発言に先立ち、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領も米ABCテレビのインタビューで、「NATOにはウクライナを受け入れる覚悟がないとかなり前に理解した」と述べ、NATO加盟をあきらめる考えを示唆していた。ロシアは、ウクライナ東部の親露派支配地域などの独立承認も停戦条件としている。ゼレンスキー氏は「ロシアしか承認しない偽の共和国だ」と拒否する考えだが、妥協策を見いだすため協議する姿勢も示した。

ウクライナの市民の生命を危険にさらす「徹底抗戦」は行うべきではない。短期的にはロシア軍の優勢がほぼ確実な中では、ロシア側の要求する①非軍事化を含む中立化(NATO非加盟)②ウクライナ東部の親露派支配地域などの独立承認ーという停戦条件に対して、妥協点を見出すことが必要だろう。【注21時:トルコの仲介で行われたロシア・ウクライナの外相会談は決裂したようだ。最後に後述】。これに関連して、政治経済評論家の植草一秀氏はメールマガジン第3171号「ミンスク合意の履行が停戦のカギ」と題して次のように述べておられる。

問題の根源にはウクライナの二つの政変の経緯がある。米国はNATO東方拡大戦略の最重要到達点の一つにウクライナの体制転覆を位置付けてきたと見られる。『ウクライナ・オン・ファイヤー』は米国CIAがウクライナのネオナチ組織を温存、支援してきた歴史的事実に光を当てている。2021年1月のバイデン政権発足に際して、ヴィクトリア・ヌーランドは国務次官に抜擢された。バイデン・ヌーランドラインこそ、米国の対ウクライナ工作を展開における中核なのである。

ヌーランドがウクライナ極右勢力と結託して暴力革命を主導し、ウクライナの政権転覆を図ったなら、これだけで戦争が勃発してもおかしくない。暴力革命によって樹立された新政権を米国は直ちに承認した。この事実を踏まえれば、ロシアがドネツク、ルガンスク両共和国の独立を承認することを米国は非難できない。

ウクライナ政府がミンスク合意に従って、東部両地域に強い自治権を付与する場合、ウクライナのNATO加盟は事実上不可能になる。ミンスク合意は、東部ドネツク、ルガンスクにロシア人の人権を保障するロシア人特別区を創設することを盛り込んだ。この特別区はウクライナのNATO加盟に反対することになる。

NATOには「民族紛争または領土紛争を有する国はこれをOSCE(欧州安全保障機構)の原則に従って平和的に解決しなくてはならならず、これらの紛争を平和的に
解決しているかどうかが、加盟を許すか否かの判断要因になる」との内規があり、ウクライナはNATOに加盟できないことになる。ロシアがミンスク合意に賛同したのは、ウクライナのNATO加盟を封印する内容が盛り込まれたからである。

ところが、ゼレンスキー大統領は、ミンスク合意を履行する姿勢を一切示さず、逆にウクライナのNATO加盟を強行する姿勢を示した。最大の転換点は2021年3月の「軍事安全保障戦略」を認める大統領令への署名だった。「軍事安全保障戦略」は「ロシア連邦との地政学的対決において、国際社会がウクライナを政治的、経済的、軍事的に支援すること」を求めることを明記した。ゼレンスキー大統領はミンスク合意の履行ではなく、これと正反対の方向を示すロシアとの軍事対決の姿勢を鮮明にした。

このゼレンスキー大統領の行動背景に2021年1月のバイデン政権発足があった。ゼレンスキー政権は米国の傀儡政権であると理解できる。2022年6月のNATO首脳会議で、ウクライナのNATO加盟が既成事実化されるリスクが顕在化した。この状況下でロシアが軍事行動に踏み切ったと言える。いま求められることは早期の停戦実現である。これまでの経緯を踏まえるなら、ウクライナがミンスク合意(ウクライナ東部のドネツク、ルガンスク両州が大層を占めるドンバス地方の安全保障の確立と特別自治区への昇格)の履行に回帰することが必要になる。

東部に特別区を創設すれば、ウクライナのNATO加盟は不可能になる。このことを踏まえて、ウクライナのNATO非加盟を明確にする。このことが確約されるなら停戦が実現する可能性は高い。ミンスク合意を履行することが問題収束のカギを握る。欧米がウクライナに対する軍事支援を拡大することは戦乱の収束ではなく戦乱の拡大を招く要因になる。戦乱を一刻も早く停止するための協議が強く求められている。

2014年2月のウクライナでの米国のバイデン副大統領、ヌーランド国務次官補の指示によるネオ・ナチ勢力を用いたクーデター(暴力革命)が今回のウクライナ事変の根本原因だ。このクーデター(暴力革命)を描いたドキュメンタリー映画が「ウクライナ・オン・ファイアー」でYoutubeで視聴できるが、すぐに消されるとのことだ(参考:https://www.chosyu-journal.jp/review/22893)。その場合は「ブラック・ファイアー」でGoogle検索をして、視聴していただきたい。植草氏による解説文を引用させていただく。

動画解説文を以下に転載させていただく。「ウクライナの歴史と近年に起こされたカラー革命と呼ばれるクーデターの仕組みを解説している2016年に制作されたドキュメンタリーです。2014年、キエフのマイダン独立広場で起こされた虐殺は、ヴィクトル・ヤヌコーヴィチ大統領を追放するために起こされたクーデターだったのです。西側メディアはヤヌコーヴィチ政権とロシアを加害者として描いています。

しかし、本当にそうだったのでしょうか?このクーデターにより、炎上したウクライナは、2004年のオレンジ革命、2014年の反乱、そして民主的に選ばれたヤヌコヴィッチ政権の転覆につながりました。この悲劇を西側メディアは民主主義の革命として大きく取り上げましたが、実際にはウクライナに戦後生き延びたネオナチ民族主義者と米国務省によって脚本・演出されたクーデターであったことが知られています。この様なカラー革命は世界中至るところで起こされています。それは如何にして起こされて来たのでしょうか?そのテクニックをオリバー・ストーン監督は、分かりやすく描いています」

米国の軍産複合体(ディープ・ステート)の動向と世界一極支配に向けた戦略を、主流メディアとは異なる視点で分析している国際ジャーナリストの成澤宗男氏も次のように2014年2月のウクライナでのクーデター(暴力革命)の首謀者を明確にしている(https://blog.goo.ne.jp/lotus72ford/e/01e6eb8ca79cf2a2b81bfb02f3b980d2)。

前項では、ヴィクトリア・ヌーランドのウクライナクーデターとの関りについて触れたが、彼女の名前を一躍世界に知らしめる契機となった盗聴による有名な会話の暴露を取り上げないわけにはいかない。「Fuck the EU!」という、ヌーランドが謝罪に追い込まれた「外交官」らしからぬ公の場では使われない下劣な表現による侮蔑で有名なこの音声は、ロシア諜報機関の盗聴によるものと見られ、録音されたのはクーデター前の2014年2月6日のようだ。会話の相手は、当時の駐ウクライナ大使のジェフリー・パイアット。この会話記録は、米国のクーデター関与を裏付ける証拠としても知られている。

特に重要な部分で名前が登場するのは、前項のヌーランドの写真に納まったネオナチの「スヴォボダ」党首のオレフ・チャグニボクと、親欧米派で反政府派の「ウクライナ民主改革連合」党首のヴィタリー・クリチコ、そして当時、反ロシアの保守的な「全ウクライナ連合『祖国』」(後に人民戦線党と改称)を率いていたアルセニー・ヤツェニュクの、主要な野党指導者3人だ。

この「全ウクライナ連合『祖国』」(後に人民戦線党と改称)を率いていたアルセニー・ヤツェニュクが、オレクサンドル・トゥルチノフ大統領代行が大統領に就任した際に、同時に首相に就任した。米国のディープステート(闇の帝国:軍産複合体と多国籍金融資本・企業)がウクライナに傀儡政権を樹立し、その後をぜレンスキー政権が継いだというのが深層・真相だ。ウクライナには独ソ不可侵条約締結後に行われたウクライナを含む東欧諸国の分割でネオ・ナチ派グループが確かに、確実に存在している。プーチン大統領は決してバイデン政権とウクライナのネオ・ナチグループは許さないだろうし、それが今回のウクライナ事変の原因になっている。

そのバイデン大統領率いる米政権はむしろ、ウクライナ事変を激化させる方向に動いている。ウクライナへの兵器の供与や人道支援で100億ドルの予算を米上下院議会に求めたが結局、その規模は136億ドルに膨れ上がった(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220310/k10013523951000.html)。人道支援はともかく、武器の供与はウクライナ事変での戦闘を激化させ、無垢の市民の生命を大きく脅かし、ウクライナ事変の泥沼化、長期化をもたらすだけだ。「停戦合意」こそが、喫緊の課題だ。

トランプ前大統領はプーチン大統領への評価を「天才」との評価からトーンダウンさせながらも、「自分が大統領だったら直接、モスクワに乗り込み、プーチン大統領と談判して停戦に持ち込む」旨の発言を行っている。トランプ氏は非ディープ・ステート系の人物だ。

最も重要なことは、北大西洋条約機構(NATO)を昇華させて「汎欧州共通の家」を実現するとともに、ディープステートに支配された「好戦の似非民主主義国家」米国の再生に向けて、世界の諸国民・政府が協力することだ。権威主義国家として非難されるロシア、中国での基本的人権の保障も、それが前提だ。それには、米国が「信仰の自由」を求めて英国から移住した清教徒たちによって建国されたという歴史的伝統に立ち返り、キリスト教会が真の「平和志向の民主主義国家」への米国の再生に向けて団結することが必要だ。軍産複合体に与しないトランプ前大統領もまた水面下では、2024年の大統領選挙に向けてそのような方向に向けて動いているようだ。

トルコでのロシア、ウクライナ外相会談、合意に至らず

トルコでの ラブロフ・ロシア外相とウクライナ・クレバ外相との会談は合意に至らなかったようだ(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220310/k10013524961000.html)。

ロシア側との会談後、記者会見したウクライナのクレバ外相は「交渉について話し合ったが進展はなかった。再び交渉をする用意はある。交渉の目的は戦争を止め、ウクライナの市民を救い、ロシア軍の占領から解放することだ」と述べました。(中略)

ウクライナ側との会談後、記者会見したロシアのラブロフ外相は「交渉を続けることは重要だが、ベラルーシで行っているロシアとウクライナとの代表団による交渉の妨げにはなってはならない。ベラルーシでの交渉で、真剣に話し合いたい」と述べ、ベラルーシで行われているロシアとウクライナの代表団による交渉を重視する考えを示しました。

また、ラブロフ外相は、「ヨーロッパなど海外からのウクライナへの兵器の供与は非常に危険だ」と述べるとともに、アメリカがウクライナでの生物兵器の開発に関与していると一方的に批判しました。また、ラブロフ外相は「もちろん私たちはウクライナが中立であることを望んでいる。ヨーロッパの国々とともにウクライナの安全保障を議論する用意がある」と述べ、ウクライナをNATO=北大西洋条約機構に加盟させない「中立化」を求める姿勢を改めて示しました。また、「ウクライナの『非軍事化』も必要であり、これを遅らせることはできない」と強調しました。

一方で、ラブロフ外相は、ウクライナのクレバ外相との間では、停戦に合意するかどうかは議論されなかったと述べました。

朝日デジタルは次のように伝えている(https://digital.asahi.com/articles/ASQ3B01PRQ39UHBI04B.html?iref=comtop_7_02)。

ロイター通信などは10日、トルコ南部アンタルヤで行われていたウクライナ、ロシア、トルコの3カ国外相会談が終了した、と一斉に報じた。会談後、ウクライナのクレバ外相は記者会見を開き、「ロシア側が要求しているのは降伏だ」としたほか、「停戦に向けて進展はなかった」と述べた。一方、ロシアのラブロフ外相も会見し、「西側がウクライナに対し、ロシアか西側かを選ぶことを迫ったことがこの紛争につながった」などと欧米を批判。「ウクライナに武器を供給しようとするものは、どんな危険を冒しているか理解すべきだ」と牽制(けんせい)した。両外相はともに、今後も交渉を続けたい考えを示した。

バイデン政権が人道支援を含む武器供与の議会への提案を上下両院が可決(総額136億ドル=1兆6000億円程度)し、結果的にバイデン政権がウクライナ側に圧力をかけた可能性が考えられるが、詳細は不明。ロシア側が総力をあげてキエフを攻撃する公算が大きくなった。



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