小出裕章著「フクシマ事故と東京オリンピック」の感想

遅くなったが、京都大学元原子炉実験所助教の小出裕章氏の「フクシマ事故と東京オリンピック」(径書房刊行)の感想を述べさせていただきたい。

2020東京オリンピックのメインスタジアムの竣工式がこのほど開始されたが、安倍晋三首相のオリンピック誘致発言「Fukushima is under control.」の大嘘が本著で暴かれている。本著は7カ国語の文章(メイン言語は日本語)と重要なカラー写真で構成された書籍で、見るものの心を打つ。誘致する必要もないオリンピックに巨費を投入する以前に、フクシマ第一原発周辺に連れ戻され、棄民となってしまった住民に対し、生命、生活と財産の補償をするためにこそ、財政資金を投入すべきである。

重要な記述箇所を引用させていただくと、第一に「広島原発168発分のセシウム137が大気中に放出された。 広島原爆1発分の放射能でさえも猛烈に恐ろしいものだが、なんとその168 倍もの放射能が大気中にばらまかれたと日本政府が言っているのである。 セシウム137はウランが核分裂して生成される核分裂生成物の一種であり、 フクシマ事故で人間に最大の脅威を与える放射性物質である」。気の遠くなるような放射能が飛散したわけで、その影響がどう出てくるのか、まともな研究がなされていないので皆目分からない。

第二に、「もちろん一番大切なのは、焼け落ちてしまった炉心を少しでも安全な状態にもっていくことだが、8年以上の歳月が経った今でも、焼け落ちた炉心がどこに、どんな状態であるかすら分かっていないからである。なぜなら、現場に行かれないからである。(中略)事故を起こしたのが原子力発電所の場合、事故現場に人間が行けば、死んでしまう。
国と東京電力は代わりにロボットを行かせようとしたが、ロボットは被爆に弱い。なぜなら命令が書き込まれているICチップに放射線が当たれば、命令事態が書き変わってしまうからである。そのため、これまで送り込まれたロボットはほぼすべてが帰還できなかった」。

筆者は、チェルノブイリ原発事故対策の際に採られた石棺でフクシマ第一原発全体を封じ込める対策を考えられる最良の方法として訴えてきた。しかし、巨費を要することから、原発マフィアと癒着している日本の政権からはまったく相手にされなかった。「そのチェルノブイリ原発の石棺は30年たってぼろぼろになり、2016年11月にさらに巨大な第2石棺で覆われた。その第二石棺の寿命は100年という。その後、どのような手段が可能かは分からない」。

第三に、どうして良いか分からないため政府と原子力マフィアは、まともなフクシマ第一原発対策を講じることを放棄し、「2017年3月になって、一度は避難させた、あるいは自主的に避難していた人たちに対して、1年間に20ミリシーベルトを越えないような汚染地であれば帰還するよう指示し、それまでは曲がりなりにも支援してきた住宅補償を打ち切った。そうなれば、(所得の少ない住民は)汚染地に戻らざるを得なくなる」。

この「1年間に20ミリシーベルトという被曝量は、『放射線業務従事者』に対して 国が初めて許した被曝の限度である。  『放射線業務従事者』だけが『放射線管理区域』への立ち入りを許される。 この『放射線管理区域』において許容される放射線被曝上限が年間20ミリ シーベルトなのだ。 その「放射線管理区域」においては、放射線業務従事者であっても、水を飲む ことも食べ物を食べることも禁じられている。 寝ることも禁じられ、トイレすらなく、排せつもできない。  『ところが、国は、今は緊急事態だとして、従来の法令を反故にし、その汚染 地帯に数百万人の人を棄て、そこで生活するように強いた。』 そしてこの措置を強いている、フクシマ事故が起きた当日に発令された『原子 力緊急事態宣言』は事故から8年経った今も解除されていない。

第四に、一方で、日本政府と原子力マフィアは安易な対策として、「敷地内に1000基近いタンクを作って(処理水という名の)汚染水を貯めてきたが、その総量は100万トンを超えた。敷地には限りがあり、タンクの増設にも限度がある。近い将来、東京電力は放射能汚染水を海に流さざるを得なくなる」。地元の漁業協同組合が大変心配しているが、無視され、フクシマ第一原発沖合から海に流され、魚が汚染される。その魚を日本国民が食べる。棄民がさらに増大する。

野党と称する立憲、国民民主が「桜」問題のどさくさに紛れて、日米FTAの最初の段階である日米物品協定の国会批准に協力したため、来年初めから人体に有害な農薬や成長ホルモン剤、遺伝子で組み替え栽培した農作物など、農畜産物が大量に輸入されることから、上記の問題と併せ日本の国民の生命が非常に危険な状態になる。

安倍晋三政権と原発マフィアは、血税が原資の財政資金を国民の生命と財産を守るためには使わず、自分たちの利益に叶うように着服する。これは、国民の生存権を保証した日本国憲法違反である。

このため第五に、「筆舌に尽くしがたい被害と被害者が生まれた。 一方、原発の破局的事故は決して起こらないと嘘をついてきた国や東京電力 は、誰一人として責任を取ろうとしないし、処罰もされていない。 絶大な権力を持つ彼らは、教育とマスコミを使ってフクシマ事故を忘れさせる 作戦に出た。 そして、東京オリンピックのお祭り騒ぎに国民の目を集めることで、フクシマ 事故をなきものし、一度は止まった原発を再稼働させようとしている。 フクシマ事故が起きた当日に発令された「原子力緊急事態宣言」は事故から8 年経った今も解除できないままである。 しかし、国民のほとんどはその事実すら知らない」

これが来年、2020東京オリンピックを誘致・開催する真の理由である。しかし、「真実から目を逸らすことは犯罪である」。そして、真実は必ず明らかになる。日本の歴史はまだ、民主主義革命を経験していない。土佐の高知県から自由民権運動が起こり、大正デモクラシーも経たが、身を結ばなかった。軍部に独裁政権を樹立されてしまい、無謀な太平洋戦争に突入、大敗戦を喫して無条件降伏を余儀なくされた。戦後処理として、GHQから「民主主義」なるものが与えられたが、それでは本当の民主主義は根付かない。

今の政治構図は与党対野党ではなく、民主主義革命を目指す革新派と「カネだけ、今だけ、自分だけ」の三だけ主義にこり固まった守旧派と対決である。そして、守旧派はいずれ、保守反動となり立法・行政・司法の三権を掌握した独裁政治を敷く。「フクシマ事故と東京オリンピック」は、その契機となるべきである。

おすすめの記事