ロシアの狙いは「ノボロシア」(新ロシア)のウクライナからの独立かー「汎欧州共通の家」実現の必要性も

2022年4月24日に欧米日諸国陣営が「軍事侵攻」として非難の限りを尽くしているウクライナでの「特別軍事作戦」について、ロシアの最終的な狙いはハリコフ、ルガンスク、ドネツク、オデッサの諸都市を中核としたウクライナ東南部の、昔から「ノボロシア」(新ロシア)と呼ばれる地域のウクライナからの分離独立ではないかとの見方が出ている。国際情勢解説者の田中宇氏の予想だ。

「ノボロシア」(新ロシア)とは

2004年12月に親米派のユシチェンコ政権を誕生させた「オレンジ革命」を経て、合法的に選出されたヤヌコビッチ大統領率いるヤヌコビッチ政権を非合法かつ暴力的に倒した2014年2月のマイダン暴力革命以降、ウクライナは完全に変わった。その経緯については、次の投稿記事を参考していただきたい。

1991年12月のソビエト連邦の正式崩壊後、独立国家共同体(CIS、ソビエト連邦の崩壊時に、ソビエト社会主義共和国連邦を構成していた15か国のうちバルト3国を除く12か国の参加によって誕生したゆるやかな国家連合体)が結成されたが、その中でもロシアとウクライナは比較的良好な関係を保っていた。しかし、マイダン暴力革命以降、ネオ・ナチ勢力を権力の中枢に置いた親米ウクライナ政権(米国の傀儡政権)は、ウクライナでロシア語を公用語として禁止し、特に東部ドンバス地方に居住している圧倒的多数のロシア系住民の虐殺を行うようになった。

ウクライナに対する米国ディープ・ステート(DS:闇の帝国:軍産複合体と多国籍金融資本・企業)の内政干渉によるものだが、国際情勢の解説者として知られる田中宇氏の「ノボロシア建国がウクライナでの露の目標?」(https://tanakanews.com/220425novorussia.htm、無料記事)によると東部ドンバス地方での長期間にわたる武力紛争の経緯・理由は、米英加仏が出資して全欧州からネオ・ナチの活動家を10万人ほどウクライナに集めて軍事訓練して極右民兵団を作るセンチュリア・プロジェクト(Centuria project)を遂行し、それまで弱かったウクライナ軍をテコ入れしつつ東部の親露勢力を攻撃させるなど、ウクライナが米英の傀儡になってロシア側に戦闘を仕掛けてきた (NATO lies exposed! Former agent speaks out!ということにある。

その結果として、フルシチョフ書記長の時代にロシア系住民が多かったウクライナ領内に編入されたクリミア半島は、住民投票によりロシアに併合されたが、東部ドンバス地方では親米ウクライナ政権(詰まるところ、米国の傀儡政権)の軍隊に事実上編入されたネオ・ナチ勢力(民間の軍事組織がウクライナ国防軍の事実上の中核部隊として格上げされた)とロシア系住民による武装組織との内戦状態に陥り、2015年2月のミンスク合意Ⅱ(国連安保理決議第2202号として国連によって承認され、国際法になった)の成立にもかかわらず、長期にわたって内戦状態が続いた。

ゼレンスキー氏は2019年4月の大統領選挙の際にはミンスク合意Ⅱの履行を公約として大統領選で勝利し、大統領の座についたが、公約を反故にして親米傾向を強め、2022年6月にも北大西洋条約機構(NATO)に加盟する可能性があった。田中氏によると、ロシアのプーチン大統領はマイダン暴力革命によってウクライナ問題が深刻化すると、次のように示唆したという。

ロシアにとってのウクライナ問題が始まった後の2014年4月、ロシアのプーチン大統領はテレビ出演の中で、ウクライナ問題の解決方法として「ソ連建国時になぜかウクライナ領に編入されたが本来はロシア領であるべきノボロシア(ハリコフ、ルガンスク、ドネツク、オデッサといった諸都市)に多いロシア系住民に、解決方法を考えてもらうのが良い」と述べ、昔のノボロシアにあたるウクライナ東部・南部の住民が、米英傀儡のロシア敵視国になってしまったウクライナから分離独立してノボロシアを建国・再建するのが良いと示唆した。

これ以来、米英では「ノボロシア」の名前が「プーチンの危険なウクライナ分割構想」として攻撃的に紹介されるようになった。ロシアでは逆に、愛国的な人々が「ノボロシアを建国してウクライナ問題を解決しよう」と言い続けた。ウクライナの東部から南部にかけてノボロシアが建国されると、ウクライナは黒海岸を全て失って(経済力が衰退した)内陸国になる。 (Putin Talks About Novorussia

ノボロシアについては、田中氏が米国版Wikipediaなどを参照しながら、次のように述べておられる。なお下図の、現在のウクライナでの戦闘状況は英国BBCのhttps://www.bbc.com/japanese/61198930によるものです。

このような構想は、すでに実際に存在している。それは「ノボロシア(新ロシア)」と呼ばれている。ノボロシアは、18世紀後半から実際に今のウクライナの東部と南部に存在していたロシア帝国傘下の行政区の名前だ。当時のロシア帝国は領土拡張の目的で、衰退していたオスマントルコ帝国から割譲させたり、自立的なコサックが開拓した地域を併合したりして、この地域をまとめてノボロシアとして自国領にした。18世紀にウクライナという国はなく他国に分割支配されていたが、20世紀始めのロシア革命で近代ウクライナが建国されてソ連の一部になると、ノボロシアの地域はウクライナに編入された。 (Novorossiya Governorate – Wikipedia) (Novorossiya – Wikipedia

サイト管理者(筆者)はこれまで、ミンスクⅡ合意をウクライナとロシアとの早期停戦交渉の土台にすべきだと述べた。しかし、米国を盟主とする北大西洋条約機構(NATO)は、ウクライナ東部・南部地方を奪還するため、ゼレンスキー大統領率いる親米(傀儡)ウクライナ政権に対する軍事支援を強力に推進していくようだ(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220426/k10013591961000.html)。

アメリカ国務省によりますとアメリカのブリンケン国務長官とオースティン国防長官は、24日にウクライナの首都キーウ(注:キエフ)を訪問して行ったゼレンスキー大統領との会談で新たな軍事支援を行うことを伝えました。

 

具体的にはウクライナへの軍事支援を強化するため、ウクライナとヨーロッパ東部などの15の国に対して7億1300万ドル以上、日本円にして900億円以上の支援を行うとしています。このうち、ウクライナに対しては3億2200万ドル以上、日本円にして400億円以上を直接支援し、残りはウクライナに兵器を供与した国々への支援にあてられるということです。

米国では既に130億ドル規模の軍事支援を中心とした支援を親米ウクライナ政権に対して供与する予算が上下両院で可決されており、今やウクライナ国防軍の正規軍の中核とも言えるネオ・ナチ軍事組織を中核部隊として、今後もマウロポリの奪還などを行うと見られる。その場合は、ウクライナが焦土になり、ウクライナの国民(市民)に多大の犠牲が伴うとともに、国民(市民の)財産や公共の施設が著しく損なわれる。

逆に言えば、大多数のウクライナの国民(市民)が犠牲になっても、ウクライナ政権の傀儡政権化は続け、プーチン政権を打倒してロシアを破壊するというのが、米国(のディープ・ステート)の狙いだということだ。欧米日諸国のマス・メディアはプーチン大統領を「戦争犯罪極悪人」と決めつけた報道を展開しているが、むしろ「悪の権化はロシアではなく米国」というのが正解だ。

この点に関しては、国際情勢の深層・真相解説者の第一人者である植草一秀氏がメールマガジン第3207号 「アメリカンダブルスタンダード」でも次のように述べておられる。

米国はロシアを戦争に引きずり込んで、ウクライナを舞台にロシアを疲弊させることを目論んでいる。戦乱長期化、戦乱拡大で被害を蒙るのがウクライナの市民である一方、戦乱長期化、戦乱拡大で法外な利益を得るのが米国の軍産複合体(注:ディープ・ステートの主力勢力)。米国はロシアの戦争犯罪を訴えるが、戦争犯罪を裁く国際刑事裁判所の役割を否定し続けてきたのが他ならぬ米国である。

米国の「知の巨人」ノーム・チョムスキー氏(注:哲学者・言語学者でマサチューセッツ工科大学の言語学および言語哲学の研究所教授兼名誉教授)が「ウクライナ戦争とアメリカの巨大な欺瞞」について語っている。
https://bit.ly/3Oy5jEh(注:Youtubeの動画、日本語字幕付き)
じっくりと視聴されたく思う。

チョムスキー氏は「米国こそがならず者国家である」と喝破している(チョムスキー氏動画39分06秒の発言)


【注:チョムスキー氏はYoutubeの動画で、①ミンスク合意Ⅱを土台にした早期停戦交渉を支持している②ロシアのプーチン政権を打倒し、ロシアを破壊するため、ウクライナを焦土化させても代理戦争に利用しようとしていることを厳しく批判している③米国が自国の犯した戦争犯罪を裁けないよう各種の条約などに「免責条項」を設けていることなども併せて厳しく批判している④米国の有力なマスメディアが政府のプロパガンダの協力者に成り果てていることの危険性を鋭く指摘している⑤ロシアに対する経済制裁を行っている国は対米隷属国だけだ⑥米国ではロシアの主張を客観的に理解しようとする識者を批判するネオ・マッカーシズムが吹き荒れているーことなどを語っている。ただし、ロシアが戦争犯罪を犯していることは明らかだとする発言を行っているが、ウクライナの親米傀儡政権がネオ・ナチ軍事組織を利用して東部ドンバス地方で数々の戦争犯罪を犯してきたことを考慮すると、この点は第三者機関が慎重に調査しなければならないと思う】

米国では、こうした見方がメディアのバイデン政権礼賛報道の意図とは逆に、大きな世論を形成する可能性がある。その場合は秋の中間選挙(下院全議席。上院三分の一議席の選出)に大きな影響を与える。話を元に戻して、米国バイデン政権の狙いが、ウクライナを焦土化させてもロシアのプーチン政権を打倒することにあるとすれば、ミンスク合意Ⅱを土台に停戦交渉が成立しても、ウクライナ問題の根本的問題は解決しない。やはり、ウクライナ事変が第三次世界大戦に暗転しないためにも、ウクライナ問題の根本的な解決が必要になってくる。その一つとして田中氏は次のように述べている。

最終的に、ロシアはどのようにウクライナ問題を解決していくつもりなのか。一つありそうなのは、ウクライナの中で親露派が比較的多いドンバスなどいくつかの地域において、露軍の庇護のもと、地元の地方政府がウクライナから分離独立を宣言し、ロシアが国家承認してウクライナとは別の国になることだ。ウクライナは、分離独立した親露派の国と、以前からの米英傀儡ロシア敵視のゼレンスキーの残存国に分割される。ドンバスなどウクライナの東部と南部が親露派の国として分離独立すると、それは2100万人の人口と、旧ウクライナのGDPの3分の2を持つ。ウクライナの工業地帯の多くは東部にある。ロシア敵視の残存国は人口が4600万人(注:日本の外務省のデータでは4159万人)から2100万人に減る。残存国は、引き続き米英傀儡としてロシア敵視を続けるが、その国力はかなり縮小し、ロシアにとっての脅威が減る。ウクライナから分離独立した親露派の国は、ロシア本土と米英傀儡残存国との緩衝地帯として機能するので、その意味でもウクライナがロシアにもたらす脅威が減る。Putin’s “Greater Novorossiya” – The Dismemberment of Ukraine)(中略)

ロシア政府がノボロシアに言及したのは開戦から2か月たち、露軍作戦の第1段階が終わって次の第2段階がどうなるのか人々が注目する中、4月22日にロシア軍のミネカエフ副司令官(Rustam Minnekayev)が、ウクライナでの露軍の今後の目標を発表した時だった。ミネカエフによると露軍は今後、当初の目標である東部のドンバス2州を完全に管理下に入れるだけでなく、まだウクライナ側の管理下にある南部地域にも支配を広げ、沿ドニエストル共和国(注:ウクライナの西側の国家モルドバにあり、親露派が特に多いウクライナ国境とドニエストル川に挟まれた細長い地域。1990年にモルドバから分離独立宣言したが、モルドバ政権は認めず内乱が起こった。1992年にロシア軍が沿ドニエストルに入って両者を停戦させ、それ以来1500人ほどの露軍が駐留したまま、沿ドニエストル共和国は国際的に未承認国家として存在している。ロシアは、モルドバとの関係も良いので沿ドニエストル共和国を国家承認していない)までロシアから陸路で行けるようにすることを目標にする。ミネカエフはノボロシアという言葉を使っていないが、これはまさに露軍のウクライナでの今後の目標がノボロシアの領土確保であると言っているようなものだった。 (Russia says it plans full control of Donbas and southern Ukraine)(中略)

露軍のミネカエフ副司令官が、ウクライナ東部だけでなく南部も占領し、すでに露軍が駐留している沿ドニエストルとつなげるノボロシア建国を連想させる計画を発表したことに対し、沿ドニエストルの分離独立を認めていないモルドバ政府が、駐在するロシア大使を呼びつけて苦情を言った。モルドバは今回のウクライナ戦争に際して中立の立場をとっている。モルドバ(注:一人当たり国内総生産=GDP=は欧州では2番目に貧しい国で、ロシアとの経済関係の維持は重要だ=日本語版Wikipediaより=)は経済がロシアとの貿易に依存しており、ロシアと対立したくないが、沿ドニエストルの分離独立を認めるわけにはいかない。モルドバはロシアに「わが国は貴国と仲良くしたいので困らせないでください」という態度だ。ロシア政府は何も答えていない。ノボロシア的な計画の表明はミネカエフ副司令官の不規則発言でなく、ロシア政府の公式見解な感じだ。 (Moldova’s foreign ministry expresses ‘deep concern’ after Russian military chief outlines plans to seize Ukraine’s entire south coast

欧米日諸国陣営がどのように叫ぼうとしても、ノボロシア(新ロシア)が現実に成立してしまえば、ノボロシアは米国を盟主とする北大西洋条約機構(NATO)とロシアとの緩衝地帯になってしまう。しかも、内陸部のウクライナは地政学的に経済的な衰退が予想される一方で、ノボロシアは工業地帯であり、アゾフ海や黒海という不凍港を有しているため、非欧米日諸国陣営との貿易も活発化し、急速な経済発展の余地が見込まれる。ただし、「ノボロシア(新ロシア)」実現戦略については、いくつかの問題、疑問がある。

第一は、ロシアが、モルドバとの友好関係を維持することができるか否かだ。ノボロシアは経済的には内陸部の親米傀儡政権化のウクライナとは逆に、経済発展が見込まれる。ロシアと友好関係を深めている中国の一帯一路構想(ユーラシア大陸ハイウェー構想。ただし、金利が6%程度と高いことが重要な問題)の実現からも恩恵を受けることができる。ロシアとモルドバは基本的に友好関係にあるから、友好関係を維持することは不可能ではないだろう。

なお、ロシアのタス通信によると、モルドバの親ロシア派地域の治安機関庁舎で現地時間の25日、複数の爆発が起きたという(https://www.tokyo-np.co.jp/article/173994)。

ウクライナに隣接するモルドバ東部の親ロ派支配地域、自称「沿ドニエストル共和国」の治安機関庁舎で(現地時間の)25日、複数の爆発が起きた。タス通信が伝えた。ロシア中央軍管区のミンネカエフ副司令官は25日、同地域について、ウクライナ東部と南部を掌握した後の「到達目標」と表明。緊張が高まっている。
爆発の直前、ウクライナ東部の親ロ派勢力、自称「ドネツク人民共和国」の元軍事部門トップが「北大西洋条約機構(NATO)加盟国のルーマニアがモルドバに兵力を送り込んでいる」と根拠を示さずSNS(交流サイト)に書き込んでいた。ウクライナの情報機関は、爆発について「ウクライナとモルドバの不安定化を狙ったロシア側の自作自演」と指摘した。

ウクライナ側は「ロシアの自作自演」としているが、田中氏の指摘する「ノボロシア(新ロシア)」実現構想を裏付ける内容であり、NATOがこの構想を阻止しようとしている可能性を否定できない。ただし、併せてNATOがウクライナ事変に直接参戦していることを示す事件が発生したと受け止めることもできないわけではない。後に触れるように、ロシアのラブロフ外相の発言を踏まえれば重大な局面になりかねない。

第二は、ウクライナ事変が長期化することだ。欧米日諸国陣営側のマスコミはしきりに、5月9日にソ連によるナチス・ドイツとの戦勝記念が開かれ、プーチン大統領がロシア国民に対してウクライナ事変での「戦果」をアピールする必要に迫られていると強調、プーチン大統領率いるロシア軍の「焦り」を報道する。しかし、ノボロシア実現を目指すならウクライナ事変の長期化は避けられず、プーチン大統領としては焦る必要もないし、適当なことを語っておれば良い。

第三は、ウクライナ事変が長期化すると、欧米日諸国陣営側から強力な経済制裁を受けているロシアは持ちこたえられないのではないか、という問題である。しかし、植草氏は先のメールマガジンで次のように述べている。

3月2日の国連総会緊急特別会合における「ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議」採択で、賛成した国は193ヵ国中の141ヵ国。他方、非賛成は、反対5ヵ国。棄権35ヵ国、意思表示なし12ヵ国の合計52ヵ国。国の数では賛成が多いが、賛成、非賛成の国の人口合計では様相が逆転する。賛成国の人口合計は32.2億人。非賛成国の人口合計は45.3億人。比率は賛成国41.5%に対し、非賛成国58.5%。

4月20日に米国のワシントンで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議(注:G7諸国に代わって世界の主導権を握るのはG20諸国になっている)。米国はロシアを非難し、ロシアに対する経済制裁強化を決定することを目論んだ。しかし、G20は共同声明を発表できず、ロシア代表発言時の退席も米、英、加、豪の4ヵ国(注:アングロ・サクソン陣営)にとどまった。G20でロシアに対する経済政策に加わっている国は10ヵ国(EUを1ヵ国として)。経済制裁を実施していない国も10ヵ国。人口比では制裁参加国が9.0億人で19%であるのに対し、制裁非参加国が38.4億人で81%だった。衰退する欧米と勃興する新興国。衰退する欧米が対ロシア制裁を行い、勃興する新興国が対ロシア制裁に加わっていない。

実際、本サイトではプーチン大統領が「特別軍事作戦」だけではなく、国際新経済秩序(具体的には精油や天然ガス、金など貴金属、IT産業に必要な希少金属などのコモディティに裏付けられた通貨=バスケット通貨や国際通貨基金(IMF)のSDRなどを含む=による新たな決済システム=ブレトンウッズ3=)の実現に取り組んでいることを述べてきた。

コモディティを裏付けにした国際決済新秩序の創設は、ロシア、中国、サウジアラビア、イランなど非欧米日諸国陣営側で水面下で進んでいるようだ。日本政府の御用新聞と揶揄される日経新聞もその動きを伝えざるを得なくなっている。「『ブレトンウッズ3』の足音 せめぎ合うドルと商品」と題する解説記事が、それだ(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD220VM0S2A320C2000000/)。

グローバル化の旗手が、グローバリズムの「終止符」に言及した。米資産運用会社、ブラックロックのラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)である。ロシアのウクライナ侵攻を受けた2022年2月26日(注:24日のことか)は分岐点となった。

ブレトンウッズ3の解説で有名なエコノミストは、米国の米国連邦準備精度理事会(FRB)のアナリストとして活躍し、現在クレディスイスの短期金利ストラテジスト、ゾルタン・ポズサー氏が3月7日に公表したリポートが有名だ。これについては、福島香織氏が「中国・習近平、じつは『金、石油、穀物』をひっそり「爆買い」している危ない事情」(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/93575?imp=0)と題する解説記事で多少の説明を行っている。ただし、筆者の福島氏はこれまた日本政府の広報紙と揶揄される産経新聞社の出身で、中国の習近平氏に対する評価にはバイアスがかかっているのて、注意を必要とする。

中国が欧米社会と足並みをそろえて対ロシア制裁に踏み切るのか、あるいはロシアサイドに回って全面的に支援に回るのか――。これは中国共産党内でも激しい意見の対立があるようで、その選択によっては下半期に予定されている第20回党大会で確実視されていた習近平連任の可能性にも影がさすかもしれない。だが、中国が、いずれの立場をとるにしても、この対ロ制裁によってドルのグローバル金融における相対的地位の(注:「地位が」の誤りか)転落する――そんな予測をして話題になっている「ポズサー・レポート」に、いま中国当局者も注目しているという。

このブレトンウッズ3については、本サイトでもたびたび紹介させて頂いているが、日本では恐らく田中宇氏が同氏のサイトで先駆けて主張しておられる。例えば、「優勢になるロシア(https://tanakanews.com/220316ukraine.htm)」では次のように述べておられる。

米国の金融システムが(注:コロナ・パンデミックによるサプライ・チェーンの寸断と資源価格高騰によるコストプッシュ・インフレと現金残高と預金残高を合わせたM2によるデマンドプル・インフレを防ぐための政策金利の引き上げと米国債10年物を中心とした長期金利の上昇による金融バブル崩落で)崩壊すると、世界は、米国系の債券金融システムが支配していたニクソンショック以来の「ブレトンウッズ2体制」から、中露イランサウジなど非米化した諸国が持つ石油ガス鉱物穀物などコモディティの利権が支配的になる多極型の「ブレトンウッズ3体制」に転換していく。これは元米連銀(現クレディスイス)のアナリストであるゾルタン・ポズサーが言っていることだ。プーチンのウクライナ侵攻は、米欧がロシアへの経済制裁によって自滅的にコモディティの利権を手放すことを引き起こし、これからの転換の引き金を引いた。プーチンが、QE(Quantitative Easing=量的金融緩和=)の終了に合わせるタイミングでウクライナに侵攻したことも非常に重要だ。 (Credit Suisse Strategist Says We’re Witnessing Birth of a New World Monetary Order) (US commodity crisis to give rise to new world order, says Credit Suisse’s Zoltan Pozsar

ただし、ブレトンウッズ3の構築には多少の時間がかかる。だから、プーチン大統領は米欧日陣営の「プーチン極悪戦争犯罪人」報道をそのままにする情報戦を展開して、ウクライナ事変を長期化させようと狙っているフシがある。田中氏もおなじ見立てだ。このことは、米欧日陣営もある程度認めざるを得ない状態になっている。

露軍がこれから何か月かけてオデッサからウクライナ軍を追い出していく計画なのか予想できないが、ゆっくり進めていくだろう。オデッサが露軍の管理下に入ると、沿ドニエストルまでの距離は近い。ノボロシア建国の準備が整っていく。そこから実際の分離独立や建国までの住民の政治的な動きにも時間をかけるだろう。その間、まだ戦争が続いているかのような状況が描かれ続ける。米国側のいろんな権威筋が、ウクライナ戦争はこれから1-2年続くと予測している。彼らは自分たちの敗北までは明言していない。英国首相が「ロシアは勝ちうる」と発言したり、米国のイエレン財務長官(注:前米国連邦準備精度理事会=FRB=議長)が「対露制裁はロシアより欧州を打撃する」と言うなど、状況はわかっているようだが、自滅への道をやめる動きはない。 (Johnson Warns Russian Victory A “Realistic Possibility”) (Yellen: European ban on Russian energy may do more harm than good

第四として解明されなければならないことがある。ロシア軍が当初、三方面からキエフに進攻していたがその後、東南部の攻略に全力を尽くし始めた。米欧日諸国陣営のマスメディアではキエフ攻防では米国のロッキード社やレイセオン社製造の携帯型対戦車ミサイル・シャベリンが威力を発揮して進攻が停滞し、戦略転換を余儀なくされたとしている。これに対して、ロシア側は「特別軍事作戦」の「第一任務は完了した」と言っている。その食い違いの理由が今のところ、不明だ。考えられる背景としては、①ロシア側がウクライナ側に対して、陽動作戦を行った②ロシアのラブロフ外相が当初、ウクライナ政権側が提案していた「ウクライナの中立化と非武装化(ロシアを脅かす高性能軍事兵器を有した軍事基地は設立しないこと)という条件を、当のウクライナ側が(米国バイデン政権に屈して)事実上取り下げたーことなどが考えられるかもしれないが。

そして第五として、「ノボロシア(新ロシア)」実現戦略に対する積極的な疑問として、ロシア側のノボロシア建国に向けての動きに対して、ロシアが制圧した東部、南部地方を奪還するためと推察されるが、ウクライナ政権に対する軍事支援を強化している米国を盟主とするNATO側の反応だ。ラブロフ外相は「核戦争回避が基本的立場だが、第3次大戦の可能性もありうる」として、ロシアとの停戦交渉を拒否し、ひたすら高性能軍事兵器の供与を求め続けているゼレンスキー大統領やNATOの動きを牽制していると伝えられている(https://news.yahoo.co.jp/pickup/6424876)。NATO側がラブロフ外相の牽制を無視すれば、中性子爆弾や中距離核弾頭ミサイルなど戦術核兵器から始まって戦略核兵器(大陸間核ミサイル弾道弾)を使用する第三次世界大戦につながる可能性は否定できない。

ロシアが「ノボロシア」(新ロシア)の実現をウクライナに対する「特別軍事作戦」の最終目的に置いているという主張は、NATOがウクライナのゼレンスキー政権に対して、最新軍事兵器を大量に供与しなければ、一定の説得性がある。ただし、ウクライナ事変が第三次世界大戦に暗転すれば、逆効果になる。その前に、「ノボロシア」(新ロシア)構想に代えて、日本で生まれたリヒャルト・クーデンホーフ=カレルギー伯爵が発案し、ソ連崩壊に合わせてゴルバチョフ元大統領が継承・発展・提唱した「汎欧州共通の家」構想の実現に向けて進むことが必要になる。

その場合には、ユーラシア大陸欧州側の二大宗教であるローマ・カトリック教とギリシア正教(ロシア正教)の力量が問われることになる。両者とも451年のカルケドン信条(「イエス・キリストは神であると同時に人間である」、「父・子・聖霊の三位一体説」)を基礎にしているが、ギリシア正教ではイコン=聖画像が重要視される。ただし、ローマ・カトリック教会とギリシア正教は歴史的に激しく対立してきた関係があり、和解は容易ではない。キリスト教の世界では正統とされるアタナシウス派と異端とされるアリウス派と後継のネストリウス派の正統と異端の問題も未解決である。これらの問題を解決しなければ、「汎欧州共通の家」構想の基礎的理念・思想が定まらない。

今後、NATO側の対応とロシア軍の動きとしてオデッサ市以西の戦闘に着目していく必要があるだろう。ただし、ウクライナ事変はバイデン政権の思惑通りには動かないだろう。むしろ、ロシアに対する経済制裁が非米欧日諸国側を団結させるとともに、日欧米諸国側のコストプッシュ・インフレ(新型コロナによるサプライチェーンの寸断とウクライナ事変に対抗して行っているロシア経済精査による資源・穀物価格高騰)に対応するための金融引き締め政策によって、同陣営側が自壊していく可能性に注目していく必要がある。ただし、サイト管理者(筆者)は米欧日諸国側の自壊は望まない。欧米文明はキリスト教によって創出されたものであり。基本的人権などの普遍的な価値を人類史にもたらした。そのことは最も重視しなければならない。

なお、本サイトではロシア軍が東部・南部の攻略に重点を置いていることについては既に、触れさせていただいている。

今後、プーチン大統領や習近平主席の動きとともに、ディープ・ステート(DS)に属さないで2024年の大統領選挙に向けて動きを開始しているトランプ前大統領の動きに注目する必要があるだろう。日本では、立憲民主党が米国ディープ・ステート(DS)の傘下にある日本労働組合総連合会(連合、芳野友子会長)の支配下に組み入れられ、参院選補選で敗退を続けて今夏の参院選を迎えるだろう。惨敗は避けられない。同党の心ある国会議員は一刻も早く同党から分党するか離脱して、ウクライナ事変の深層・真相に詳しい山本代表率いるれいわ新選組に合流するべきだ。

2022年フランス大統領選挙結果について

注目されたフランスの大統領選挙でマクロン大統領が勝利した。しかし、得票率ではマクロン大統領がマリーヌ・ルペン候補との差を縮められている。2017年の時には、マクロン候補が 66.10%、マリーヌ・ルペン候補が 33.90%だった。ただし、接戦にはならなかった。これには一応、①ロシアによる「ウクライナ侵攻」でフランス国民が正しい情報を得ていないことがマクロン大統領の多少の追い風になった②メランション党首率いる「不服従のフランス」の支持者のうち棄権したものが多かった(投票率は前回2017年の74.56%から71.99%に低下した)ーことに原因がある可能性がある。しかし、6月のフランス国民議会(小選挙区2回投票:選挙制度は1区1人選出の小選挙区制で、有効得票の50%超(2分の1)かつ登録有権者の25%以上(4分の1)の得票を得た候補がいない場合は、登録有権者の全体の8分の1以上の得票を得た候補による決選投票を行う)を控え、マクロン大統領の政権運営も安泰ではない。

なお、マスメディアがマリーヌ・ルペン氏を「極右」と呼ぶのは暗にテロリストや過激派のイメージを抱かせており、意図的な誹謗だろう。マリーヌ・ルペン氏は、弱肉強食の新自由主義を覆い隠すために使われている「グローバリズム」に反対(欧州連合=EU=の改革を訴えているのはそのためだ)しており、「フランス庶民の生活第一」を優先している。移民政策に厳しいのは、中東・アフリカなどのイスラム教国で米国ディープ・ステート(DS)が行った不当な内政干渉や軍事侵略の結果として生じたイスラム難民を、表向きは「移民を受け入れる」との美名の下に、実質的には低賃金の労働者として受け入れているため、フランス国民自体の給与収入が減り、所得が低下したためだ。

また、例えば米国によるイラク侵略で少なくとも10万人以上のイラク国民が虐殺されたものの、米欧日陣営のマスコミがこれを報じなかったことやイスラム難民の受け入れに手厚い保護をしないでいるのは、ウクライナ難民の受け入れと比較すると、人種差別と言わざるを得ない。実際のマリーヌ・ルペン氏は「保守的な民衆政治家」だろう。左派勢力がマリーヌ・ルペン氏やウクライナ事変の深層・真相を見抜けなければ、フランス社会はいつまでも国民分断国家になり、日本と同じように衰退してしまう。


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