新型コロナ感染対策専門会議、PCR検査増加には消極的(暫定投稿)

新型コロナ感染症対策本部(本部長・安倍晋三首相)の諮問機関である同専門家会議(座長=脇田隆字・国立感染症研究所長)が19日夜、第3回目の現状分析と対策を発表した。提言では、従来からの新型コロナウイルス感染患者集団(クラスター)の早期発見とそのための体制強化を提言するにとどまり、実際のPCR検査など世界保健機構が強く求めている感染判定のための検査数を増加させるための対策提言は事実上、盛り込まれなかった。また、東京オリンピック開催の是非については言及を避けた。

前置きが少し長くなるが、専門家会議の現状分析では、世界保健機関(WHO)が「中国、韓国以外での感染状況が加速する現状に強い懸念」を示したとの表現で、中国と韓国では新型コロナウイルス感染症の拡大が抑制されていることを暗に認めている。

3月19日、午後22時ころに行われた新型コロナウイルス専門家会議の記者会見

中国では湖北省武漢市の事実上の閉鎖など強権を発動した。しかし、中国と韓国はPCR検査など種々の検査の積極的実施に重点を置き、中国では1日2万人検査、韓国ではドライブ・スルー方式(感染を拡大させないため車内でPCR検査を行う方法)などを使いって1日あたり1万7000人から2万人のPCR検査を行い、症状によって適切な医療措置を行うことによって、感染者数の増加と死亡者の増加を食い止めている。また、中国も従来のPCR検査に加え、スイスの大手製薬会社ロシュや自国の製薬会社の製薬会社Vazyme Biotechが開発した検査キットを導入して、さらなる感染者の早期発見に務めてきた。朝日新聞3月20日付によると、武漢市では19日の新規感染者はゼロ。

ただし、感染経路が特定できない感染者(専門家会議によるとリンク切れの感染者)も発生しているため、終息にはまだ遠いとしている。やはり、検査の強力な実施と感染者の適切な隔離が必要と思われる。

中国の製薬会社が開発した検査ツールキット(塩野義製薬のサイトから)

これらの検査実施体制の強化で、中国と韓国では新型コロナウイルス感染症の拡大が抑制されてきている。日本の麻生太郎財務相は記者会見などで中国のこうした努力を無視し、「中国政府の発表した(新型コロナウイルス感染者が抑制されてきていることを示す)数字は信用できない」と発言し、中国政府から抗議を受けている。

このように、新型コロナウイルス感染拡大防止には、PCR検査を主として他の検査方法も導入して、何らかの症状を訴える患者に検査を実施し、陽性ならば症状に応じた医療措置を講じることが重要である。エチオピア出身で同国の保健大臣を務め、同国の健康増進に顕著な実績を残したことでも知られている世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長も現地時間16日10時(日本時間17日18時)、「この1週間で新型コロナウイルスの感染が急速に広がった。中国以外の感染者と死者の数が中国を上回った」として、新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大していることを懸念したうえで、「誰が感染しているか分からなければ流行を防げない」と指摘、各国にPCR検査など新型コロナウイルスに拡大しているか否かを判定する検査を徹底的に行うよう求めた。とにかく、「検査、検査、検査。疑わしい例は全て検査する」必要があるということだ。

前置きが長くなったが、今回の専門家会議の報告では、感染の広がりについて「持ちこたえているが、一部の地域で拡大が見られる」と分析。さらに、「この感染症は不明なところが多いが、最も重要なのは気がつかないうちに感染が広がり、爆発的に患者が急増するオーバーシュート(爆発的患者急増)」が起きる懸念があることを指摘しながらも、「世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、2020 年3月13日の事務局長のステートメントにおいて、日本が「クラスター(患者集団)の早期発見・早期対応」という戦略をとって様々な取組を進めてきたことを高く評価しています」と述べ、PCR検査などの検査数の増加には意欲を示していない。基本的には従来のクラスターの早期発見に努めることを柱とした「感染拡大対策」を変更せず、続けることを表明するにとどまっている。

具体的には、「①クラスター(患者集団)の早期発見・早期対②患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保③市民の行動変容(具体的には、換気の悪い密閉空間・人が密集・近距離での会話を避ける)-という3本柱の基本戦略は、さらに維持、必要に応じて強化し、速やかに行わなければならないと考えています」と述べるにとどめている。そして、オーバーシュートに至る事態を「防ぐためには、クラスターを早期に見つけ、感染の可能性がある人を探し出す作業が必要になるため、専門家を支援する人材を確保するよう政府に提言している」とのことである。

多少長くなるが、WHOが求めている検査実施の拡大については、次のように述べている。
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(8)PCR検査について
新型コロナウイルス感染症においては、医師が感染を疑う患者には、PCR検査が実施されることになっています。また、積極的疫学調査において検査の必要性がある濃厚接触者にもPCR検査が実施されます。このように適切な対象者を検査することで、新型コロナウイルスに感染した疑いのある肺炎患者への診断・治療を行っているほか、濃厚接触者の検査により、感染のクラスター連鎖をとめ、感染拡大を防止しています。すでに、検査受け入れ能力は増強されており、今後も現状で必要なPCR検査が速やかに実施されるべきと考えています。今後は、わが国全体の感染状況を把握するための調査も必要です。
なお、PCR検査法は優れた検査ではありますが、万能ではなく感染していても陽性と出ない例もあります。したがって、PCR検査のみならず、臨床症状もあわせて判断する必要があります。また、迅速診断法や血清抗体検査法などの導入により、より迅速で正確な診断が期待されています。
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PCR検査など各種の検査の目的は、➀軽症、無症状の感染者を明らかにして、感染拡大を阻止すること。②高齢者、基礎疾患を持つ人の感染を早期に発見し、重篤化を防ぐこと-である。後述するように、新型コロナウイルス感染症が政府=安倍政権の政令で指定感染症に定められているから、これまでは検査で陽性と判定されれば即入院だったが、専門家会議はこの点の是正は求めている。しかし、この文言だけでは「検査能力体制の強化」は要請しても、「実際の検査人数拡大の強化」の要請については明確ではない。

現在でも、3月6日からPCR検査に社会保険、健康保険(社会保険、国民健康保険)が適用されるようになったが、検査人数は全国で1日1200人程度にとどまっている。なお、政府=安倍政権が新型ウイルスを感染症法による指定感染症に定めたため、陽性と判定されれば即入院になっていた。しかし、これでは新型肺炎が顕在化して重症化した患者の治療に著しい制約が生じるため、「症状が軽い陽性者等が、高齢者や基礎疾患がある人と同居していて家族内感染のおそれが高い場合は、接触の機会を減らすための方策を検討する。具体的には、症状が軽い陽性者等が宿泊施設等での療養を行うことや、同居家族が受診した上で一時的に別の場所に滞在することなど、家族内感染リスクを下げる取組みを行う」として、即入院の是正を求めている。

また、誤解を恐れずに述べれば、全国を➀東京や大阪など大都市部を中心に感染の拡大が続いている②感染拡大に歯止めがかかってきている③感染拡大が縮小してきている-区域に分け、後者に近づけば近づくほど、クラスター(集団感染)を避けるためのイベントの自粛などは状況に応じて縮小しても可能と提言している。

ただし、報告では次のような試算も示している。日本のある特定地域(人口10万人)で大規模流行が生じ、さらにロックダウン(自宅待機支持、営業停止指示、休業指示など)の強行措置が取られなかった場合、基本再生指数(1人の感染者が他の人を感染させる数)をドイツ並みの2.5程度と仮定して、「症状の出ない人や軽症の人を含めて、流行 50 日目には 1 日の新規感染者数が 5,414 人にのぼり、最終的に人口の 79.9%が感染すると考えられます。また、呼吸管理・全身管理を要する重篤患者数が流行 62 日目には 1,096 人に上り、この結果、地域における現有の人工呼吸器の数を超えてしまうことが想定される」。なお、専門家会議の現時点(症状が出るにはタイムラグがあるから、実際は3月上旬)での基本再生指数は1.0前後と判断している。

専門家会議は記者会見の冒頭、副座長の尾身茂独立行政法人地域医療機能推進機構理事長が述べたように、こうしたオーバーシュート(ある日、突然爆発的に新型コロナウイルスに感染する患者が急増すること)が起こり得ることを想定している。オーバーシュートを想定しておきながら、今回の提言では、中国や韓国である程度成功しており、WHOのテドロス事務局長も切望しているPCR検査などの実際の検査数の増加に本格的に取り組む姿勢が感じられない。また、新型コロナウイルス拡大の長期化を予想しながら、「専門家会議としては、以下のような観点から、引き続き、全国的な大規模イベント等については、主催者がリスクを判断して慎重な対応が求められると思います」と事実上禁止措置の継続を求めているが、東京オリンピックの開催については意図して言及していないのも問題だろう。

新型コロナウイルス感染拡大の阻止には、➀PCR検査などの検査を積極的に実施する②陽性と判明した患者に対しては、症状に応じて自宅待機や専門病院への隔離など適切な医療措置を講じる③大規模なイベントは中止または延期する④これらの措置に伴う国民の経済的損失には政府や地方自治体が生活支援金の給付を含む大規模な積極財政出動を行う-などが必要だと思われる。専門家会議の現状分析と提案は約2週間ごとに更新されるが、感染防止対策の大きな柱である実際の検査体制の強化について、詳しい提言を行わなかったことで、サイト管理者は今回の報告には失望を禁じ得ないところだ。特に、東京や大阪など大都市圏で感染源が不明な感染者が拡大していることを懸念している。

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